【112】困惑の佑奈。神の一手が良策とは限らない?
『お姉ちゃん? ちょっとお姉ちゃん、ほら説明早く?』
澪奈が返事を要求してくるけどなんて返したものなのか……。どうすれば誤魔化せる?
と、とりえずスルーしとこ。俺はちょっと席外してま~す。
変に返事して余計話がややこしくなっちゃうと嫌だし。まずは瑛莉華さんと相談しなきゃ。
そうだ、さっきのネット掲示板のリンクも送っとこ。
ああ、早く連絡ちょ~だい瑛莉華さ~ん。
『お姉ちゃん、返事ない……。さては逃げたなっ! まったくもう、どうなってるの~!』
澪奈のお怒りモードも相当だ。早くなんとかしないと今度会った時マジやばい。っていうかこの話が母さんや父さんに流れたら下手したらこっち来るとか言い出しかねない。
ああもう、自業自得とはいえ……、ほんと厄介なことになった。
***
「また面倒なことになっていますね」
橘川課長が苦笑いを浮かべつつ開口一番そう言った。
瑛莉華さんってば、『今からそちらに行きます』の返事だけ返してきたと思ったら、行動素早くしっかり橘川課長を伴って仮宮までやってきた。仕事早すぎ。でも尊敬します。いや尊敬させてください!
で、以前も使った六畳ほどの小さな間の四人掛けテーブルに、顔を突き合わせて座ってるわけである。
「はいィ……、ど、どうしよう……」
俺はもうアワアワしっぱなし。自分だけで問題解決なんてもうあきらめた。
なにもかも放り投げてどこかに逃げ出したい。
それが無理ならもう金輪際何処にも出ず、何もしないで仮宮に引き籠りたい。PCもスマホも、何もかも放り出して。
あ、いや、PC、PCだけは使いたいな。うん、それさえあれば、俺、一生引き籠れる。その自信ある!
「佑奈ちゃん、思考放棄してないで戻ってきて」
「あ、あうっ、はひぃ~」
瑛莉華さんが俺のほっぺを強めにペチペチして、現実逃避しかけてた俺の思考を現実に戻してしまった。
「まだ澪奈さんには返事を返してないんですね?」
「う、うん。変に返してこじらすとやだから放置したまんま」
「あらあら。それはまた、後が怖そう……ですね。でもそれで正解です。どう対処するかみんなでしっかり考えましょう」
ほんそれ。既読スルーで放置時間が増えれば増えるほどその反動が恐ろしい。恐ろしすぎる。だからマジでいい対応策考えて欲しい!
「ともかく、話を整理しましょう。今しがた松木さんにも聞きましたが、佑奈様、また『ひえん様の祝福』を頂いたとか? まずはそこから、順を追ってお話し願えますか?」
ひえん様の祝福? あ、ああ、エクストラレベルUPのことね。もう祝福っていうより呪いじゃね? って気がして……おっと、余計なこと考えるとまた頭痛くる。自重自重。
「はぁ、わかりました……」
ってことで、ひえん様の祝福……エクストラレベルがまたUPしたことから始まる今回の顛末を、橘川課長、瑛莉華さん、それに一緒に付いて来たひっつめ髪の中村さんも含め、しどろもどろながらも話して聞かせた――。
「――なるほど。話しはだいたいわかりました。またなんとも間が悪いと言うか。SNSの情報伝達の速さには恐れ入るといいますか。これは対応が遅れれば遅れるほど取り返しがつかなくなる。事態は一刻を争いますね」
「ううっ。もう無理かも……。こうなったら、とりあえず澪奈とメグちゃんは記憶改変するしか。やりたくないけど……。でもネットに出ちゃった写真、どうしたら……」
考えれば考えるほど憂鬱だ。
「佑奈ちゃん、耳垂れさがってる。落ちこみたくなる気持ちはわかるけど、気をしっかりもって」
ええぇ、まじか。エルフ耳、先っぽ尖ってるし俺の感情でそんなことになっちまうの? 犬や猫じゃないんだからさ。
そんなん俺の気持ちがバレバレじゃん。嫌すぎる~。
俺が落ち込んでるというのに、お茶を用意して現れた側付きの二人、彩如と楓佳がたれエルフ耳かわいい、とか、尊いとか言いながらスマホを俺に向けてくるんですけど! おまえらもっと空気読んで。お願い。
「まぁ佑奈さん、少し落ち着いて。とりあえず順を追って考えていきましょう。まずご家族のほうですが。これは紡祈様にもご相談しないといけませんが、この際、佑奈様のお力のこと、お伝えしてはいかがでしょう。今後もこういうことは起こり得ます。憂いは早々に断っておくべきかと。もちろん佑奈様のお気持ち次第ではありますが」
うう、家族に俺の異能力を?
大丈夫なん、それ?
いや、きっとなんのかの受け入れてくれるだろううけど。なんか怖い。
「ご友人に関しては残念ながら佑奈様に対処していただくしかないかと。現状対象者は一名のようですが、これも早く動かないと対象者が増えてしまうでしょう」
ですよねぇ。
メグちゃん、ごめんよ。痛くないから。何があったかすらわからないから。
「ネット上の噂話はもう放置しておくしかないですが、写真に関しては……、多少強引な手段を講じることになるでしょうが……まぁなんとか対処してみましょう」
強引なって、いったい? 裏から手を回すんだろうけど。橘川課長、コワイわぁ。
「何はともあれ。一度紡祈様にも話を通し、そのうえでご意見も伺っておきたいと考えます。すでにお話は通してあります。早速今から向かいましょう」
紡祈様かぁ。確かに、まずは相談するべき人だよな。さすが橘川課長。仕事がそつないわ!
ってことで、みんなしてぞろぞろ紡祈様の宮まで足を運ぼうとした、そんな時。
「それにはおよばぬ。ほかならぬ爰姫の困りごと。もう足を運んできたゆえに」
「紡祈様! わざわざご足労いただかずともこちらから参りましたのに」
橘川課長が驚いて立ち上がり、うやうやしい態度で席を勧めながらもそう言った。
「よいよい。爰姫……嬢にはまだまだ返さねばならぬ借りが多くあるからの。今はそれを少しでも返す良い機会と思うたまで。借りを返すのに嬢に足を運ばさせるのは違うであろ? だが驚いたかや? くははっ」
結局ひっつめ髪中村さんが席を立ち、そこに紡祈様が座った。俺と瑛莉華さん、紡祈様と橘川課長の並びで、俺の向かいは当然のごとく紡祈様である。
紡祈様、見た目は俺よりもう少し若く見えるくらいなのにしゃべると残念感でいっぱいだ。ま、百二十近くのやべぇばあさんだからな。しかたないね。
「む、嬢や。そなたいらぬ考えを抱いておろう? 失礼なやつよ。まぁよい。事情はおおよそ把握しておる。暖かきお方……、いや、ひえん様も存外せっかちでいかんよの。もう少し時をかけてじっくり……おっと、この話は今するべきものではないか。こほん、取り急ぎは嬢の写り込んでしもうた写真と、それを見たものの扱いをどうするかだの」
「紡祈様? もうご存知なのですか? それは、また。いやはや、驚きました……」
橘川課長が珍しく驚きの表情を浮かべてる。なかなか貴重だけど今はそれで遊ぶ余裕は俺には無い。思わせぶりな物言いされてもわけわからんだけだし。
で紡祈様、なんかしてくれるの? どうなの?
「うむ。神託をいただいた。爰姫、嬢が困ったことを仕出かしたゆえ助けてやれと。ひえん様も相当のお力添えをしてくれるとのこと。だから安心するがよい」
「と言いますと? 具体的にはどのような? それによってこちらの動きも考えねばなりませんので」
そうそう、安心するがよいって言われてもね。さすが橘川課長! ナイスなつっこみ。
「恒志。そなた最近なかなか言うようになったの。我が元気になってからというもの、ちくと扱い厳しくないかの? 禍根溜で苦しんでおったころはもう少し優しゅうしてくれていたと思うたが……」
「ははっ、そのようなことはございません。私はその時その時において、相応しい対応をさせていただいているだけです。――さあ、あまり悠長な会話をしていては佑奈様が機嫌を損ねてしまわれます。そろそろ具体的なお話をお願いいたします」
うん、機嫌損ねちゃう!
はよはよ!
「ぐぬぅ。わかった、わかったゆえそんな困った子供を見るような顔をしてくれるな。では話すとしよう。ひえん様からの神託は――――」
ええぇ……。
そんな力技?
マジで? ありなの?
っていうかそれ、俺余計にメンドクサイことになるんじゃ?
ゆっくりできなくなるんじゃ?
ひえん様、俺がいつもグチグチ言ってるからってわざと困らせてきてない?
今の問題がそれで解決したって、こんなん俺の先行き、不安しかない。
そもそも……、解決っていえるの? コレ!




