【109】飛んでみたらヤバかった。能力試しはほどほどに!
私室に戻り、一緒に居るとくいさがる彩如も追い出して一人になった俺。やっと息の抜ける時間を確保できた。
彩如と楓佳は普通に好きだし、一緒にいても嫌な気分になるってこともない……いい奴らなんだけど、それでもずっと一緒に過ごしてると、さすがに鬱陶しく感じることがあるのは仕方ないことだと思う。
一人でいる時間絶対必要!
これ大事!
それは姉妹とかでも同じだと思う。妹、澪奈とずっと一緒にいるとか苦痛でしかない。
ま、そんなことはおいといて……、今はEXレベルアップの中身について、もうちょっと続きを確認したいって思うわけだ。
さっきとりあえず転移の確認したけど……、実はもうちょっとしっかり確認したいことあるんだよね。
『異空間接続Ⅱ―識閾境界認知をもって至れり―』
頭の中に刷り込むように入ってきた使い方をじっくり熟考して思った。これ、カイロス殿下と違って、実際その場に行ったことなくても飛べるよなって。改変と同じ理屈で、要はどんな場所か自分が理解できてればいい。どう現れたいか自分が意識さえしてれば地面や物に埋まっちゃうことも無い。自分をしっかり保っていればいい。
そんなことが自然とわかってきた。
ってことで、日本人ならたぶん誰でもわかる場所。
そこに飛んでみた――。
「おお~っ! 出来た!」
飛んだ先は高~い高い山の上。
日本で一番高いところ。
そう富士山のてっぺんだ。
っていうかやっべ! めちゃ寒い。レベルアップ恩恵で存在位階レベルアップとかしてるのにそれでも寒く感じる。
それに風もヤバイ。まじやばい。体ごとぶっ飛ばされそう!
俺は慌てて周辺の環境を改変し、自分に風の影響が及ばないよう調整した。ついでに極寒すぎな気温を過ごしやすい温度にすることも忘れない。
「はぁ、やばかった。いきなり死ぬかと思った」
ぱっと思いついたのがここだったのでつい飛んじゃったけど、三月半ば過ぎとはいえ、山はまだまだ春には程遠い。そこまでまったく気が回ってなかった。
うかつすぎだろ、俺。
ちょっと能力過信しすぎた。反省しよ。
落ち着いたところで改めて周囲を確認する。空は青く、周囲は真っ白。風は強い。いや強すぎるものの、天気自体は良い。目の前に鳥居があるけど、それも半分雪に埋まってる。富士山頂にも神社あったはずだし、そこの鳥居かな?
鳥居のすぐ脇はゴツゴツした溶岩からできた山肌が覗き見えるところもあって、ここが富士の山頂だってことをわからせてくれる。
数メートル先は急な斜面で足元は心許ない。そんな前方、眼下に広がる景色はさぞや絶景だろって思いきや、残念ながらそこは雲海で覆われててまったく見ること叶わなかった。残念。
俺のかっこは私室にいた時のままだったので巫女装束のまま。しかも部屋の中だったから草履すら履いてない。しくった。部屋履きでもいいから履いとけばよかった。
富士山頂。ガチガチになった雪の上を足袋だけは履いた姿で立ってる俺。ちょっとわけわからんビジュアルだわ。でも一応鳥居の前だし、巫女姿だし。おかしくない……よね?
んなわけあるか。おかしさMAXだわ!
ってまぁ、セルフツッコミはこれくらいにしといて。どうせ誰がいるわけでもなし、問題ないか。
俺はそんなのん気なことを考えつつ、異空間収納からスマホを取り出し、せっかくのこの絶景をパシャパシャ写真に収める。出不精な俺がこんなとこに来るなんてもう二度とないかもしれんし。いっぱい撮っとこ。
いやぁ、改変空間内だと穏やかだし静かだし、めちゃ落ち着く! やっぱ一人っていいな。こんなまったりした時間、久しぶりだわ~。サイコー!
で、おかげさまで気持ちがゆるゆるになってたそんな時。
ガシャガシャ、カチャカチャと、音を立てながら何か近づいてきた。
何かって言うか、まぁ現れるのなんて人しかいないと思うけど。
まじ?
こんなとこに、こんな時期に誰が来んの?
不思議に思いつつも、それでもまだ気が緩みまくってた俺に、向こうが気付くのはホントすぐだった。
「え? うそ? 巫女……さん? な、なんでこんなところに?」
「どうした? って、うわ、うっそだろ?」
「なんだなんだ、何騒いでるんだ?」
ヘルメットとゴーグルを付け、厳つい装備に身を包まれた奴らが岩陰から次々現れ、俺の前に集まって来る。
うん、どう見ても登山してる人たちの集団だった。こんな時期によーやるわ!
つうかやっべ。どうしよ。
「ちょっと、君! 富士山頂でそんな無防備なかっこう、死ぬ気か?」
「いったいどうやってここに?」
「ええ、その子靴すら履いてなくない? うそでしょ」
なんかどんどん騒ぎ、デカくなってきた。こりゃまずい。ここはとっとと退散しよう。
「おい、君? 連れは? もちろん連れがいるんだよな? 君みたいな女の子をそんな姿で外に出すなんて非常識にもほどがある! どこかでビバークしてるのか? 案内してくれ。一言注意しないと気がすまん!」
集団の中の男が一人、ちょっとお怒りモードで俺に話しかけてきた。いや、おっしゃることはごもっとも。でも俺一人なんだよなぁ、すまない。気遣い感謝。
「その……、心配してくれてありがと。……えっと、じゃあね!」
「はあ? じゃあねって、君。何を――」
俺、速攻その場から転移した。何か言いかけてたけどもうしらん。
再転移先はもちろん仮宮の私室。ちなみに戻り際、目撃者さんの頭の中はソッコー改変させてもらった。悪いけど。
ほんとゴメンだけど。赦してね。
「はぁ……。まさかあんなとこで人と出会うなんて……」
富士山の山頂に転移してまさかの登山者集団との遭遇。三月だぞ。山はまだ雪でバンバンに覆われてるのに登山してるだなんて俺には到底理解できん。ヤバすぎだろ。慌てて改変したけど……ちゃんと俺のこと忘れてくれてるといいんだけど。
確認しようもないし。今考えてもしかたないし……。
ま、どうとでもなるだろ。
とりあえず転移の方は確認できた。予想通りの結果に終わったな。実際に行ったことのないところでも行けちゃったわ。飛ぶ条件、けっこうアバウトでもなんとかなるわ、これ。
それと、ついでに気付いたんだけど。転移が実際行ったことがない場所でも飛べるように……、異空間収納も直接触らなくても収納できるようになったみたい。もっと言えば一個だけって個数制限あったのも無くなった。無くなってしまった。
さりげなくヤバイ。めちゃヤバイ。
これも『異空間接続Ⅱ』がらみ……、いや、EXレベルアップの効果……ってことかね?
ああもう、どうでもいい。俺があれこれ考えても仕方ない。
転移の確認はひとまずこんなとこか。で、次はあれだ、額に生えてきた宝石っぽいやつ? それを確認しなきゃだな。
俺はドレッサーの椅子に腰かけ、鏡を覗き込んで自分の額をガン見する。
「うん。まだちゃんと付いてるわ。ったくさぁ、なんだよこれ? こんなの付いてたらまた色々メンドクサイんだって。面倒なのはエルフ耳だけで間に合ってるのに」
耳とかさ、いい加減誤魔化すの限界なんだけど。今はまだ寒いからいいけど、暑くなってきたらニット帽とか被るのいやだし、髪で隠すのも限界あるし……。
澪奈とか、そのうち絶対ばれるわ。あいつ風呂とか乱入してくるときあるし、旅行とかも引っぱり出されるし。
それに加えて今度は額の宝石だって?
まじ勘弁だわ。俺はぶつくさ愚痴を垂れながら湧いて出てきた額の宝石をグリグリ触ってみる。
「やっぱ硬い。まじ宝石っぽい感触。でも体にひっついてるからか冷たくないな。あと、爪でツンツンするとちょっと頭に響く感じするな」
ちょっと冷たいかき氷イキナリ食べた感じのキーンとくる感覚に似たものがくる。まああれほど強烈なやつじゃないから全然苦ではないけど。好んでツンツンしたいとは思わないな。
額に出来た、ロゼ色したすごく小粒な宝石のように見える何か。一体これは何なのだろうと鏡を見ながらこねこねしてたらまたいつもの奴が始まった。
そう。ジワジワ理解が進んでくやつだ。
俺がイジイジしだしたタイミングで始まったみたいだ。きっかけがよくわからんね。俺が真剣に知りたいって思うことがトリガーなのかね?
「ふむふむ……、えっ、まじこれ」
またやばいのキタコレ。
ちょっとひえん様?
俺、能力のデパートじゃないんですけど?
こんなのもらっても扱いに困るって言うか……。いや、そりゃ便利なんだとは思う。思うけどさ。
なんでもかんでも俺に押し付けんのやめてくれませんかね~!




