【106】佑奈、つかの間? の穏やかな日々を満喫する
[今回の件も含め、こちらとしても大変心苦しく思っています。そしてテロ行為を未然に防いでいただいたことに関しては深く感謝の意を表したい]
結局会食は中止になってしまった。ただ、橘川課長と通訳の中村さんの二人は現地居残りで頑張ってる。せいぜい後で危険手当をたくさんもらってほしい。
『ひえんの社』の仮宮に戻った俺たちは、その代わりとして用意されたビデオ会議の要領での、アレートス王弟殿下の挨拶を受けている。
こっちのネット環境を急遽用意してくれたのは瑛莉華さんだけど、俺としては休んでいて欲しいところなんだけどな。ちょっと責任感強すぎだと思う。
[プリーステス エン! もう一度会いたかった……です。本当に残念です……。けれど……僕、いえ、私は一生今回受けた御恩を忘れないと誓います! 落ち着いたらぜひまたお会いしたいです!]
カイロス殿下がやたら熱のこもった言葉と目でこっちに挨拶を送ってくれてる。いや、外国の人って感情表現が豊かでちょっと引いちゃうわ。殿下ってまだ十一のガキだぞ。
俺は正直もう関わりたくないわ。あの人たち、物騒が過ぎるもん。なんだよテロ行為って。王族とかあっちの国のもめごとをこっちまで持ってこないでと言いたい。
王族の人が入れ替わりで挨拶をしてくれてるし、橘川課長も一生懸命その対応してくれてるけど……、俺の頭の中ではそれがスルスル右から左へと流れていって、正直まったく記憶に留まってない自信ある。
[今回制御できるようになった転移の力、頑張って慣れて日本まで飛んで来れるようになりたいと思います! プリーステスのところまで直接いければいいのだけど場所がわからな……]
[カイロス。そのような無茶を許すわけにはいかないよ? そもそも手続きもぜず違法に入国するなど王族として……]
[え? あっ、と、父様、わかっています。そ、そんな無茶はしません。しませんから! ――こ、こほん。とにかく自分の力を頑張って磨きます。プリーステス……エンヒメもお体に気を付けて。……あの、またぜひ私の国にも遊びにきてください。その時は絶対、私が精一杯案内します!]
これ同時通訳してる中村さん、ホント優秀!
「あ、はい。その……ご無理なさらないで、くださいね? あははっ」
いやこっち直接転移とかマジ勘弁して。いやぁココ知られてなくて良かった。知ってたらほんとに転移してきそうでコワイ。子供って自重しろって言ってもそうそう言うこと聞かないし。
マジ飛んでこないよね?
そんなこんなで終始ごたごたしっぱなしだったものの、スケーリア王国の王族様御一行は若干一名とてつもなく別れを惜しんでたものの、無事帰国の途についたのだった。よかった。
今回、俺めちゃ頑張ったわ。うん。
***
やたら濃かった二月がやっと過ぎ去り、すでに三月も半ば。本格的な春ももうすぐだ。
春はいいよね。桜が咲いて緑が芽吹いてきて……、ぽかぽかしてとても気持ちいい。
『ひえんの社』は山奥にある関係で、雪こそ降らないもののやたら冷え込むし、めちゃ寒かったんだよね。EXレベルUPの代謝機能向上の恩恵か、それ以前より寒さには多少の耐性がついていたものの、だからって寒くないことは絶対にないわけで。
あの王族来訪事件からしばらくは落ち着かない日々が続いて大変だった。たまに外に出掛けると不審な車が付いてくることがあって警護の人たちが何度か裏で動く事態も起こったりしてたみたい。マジで何それ恐い……である。
俺なんてただの引きこもりな元男ってだけなのに。……いや、この期に及んでそれはちょっと、もう言えないってわかってるけど。何度でもそう思ってしまう俺は絶対悪くない。マンションに帰るのだって日帰りから、三日おき、そして今や週末の二日だけである。かなしい。まぁ部屋の装備はこっちのがいいんだけど……自由が。俺に自由をくれ~!
瑛莉華さんの未来予知の異能力。
あれもとうとう完全に消えてしまった。一時は紡祈様と持ちつ持たれつでうまい事やれるんじゃないかな? と、思ったりもした。ちょっと前の王族との対面前の襲撃を防げたのもそれのおかけだった訳だし。
けど、物事そう都合よくはいかない。
ま、瑛莉華さんの気持ちが一番大事だ。仕方ないね。
「ちょっと庭を散歩してくる」
春だし、引きこもりな俺だってそんな気分になることはある。たまには外に出て自然を満喫しよう。もち庭の中限定だけど。
「あっ、佑奈様。待ってください、私も一緒にまいりますから~」
私室から出て今日の俺付き巫女、彩如に声をかけたら付いて来た。べつに付いてこなくていいのに。
最近は二人ベッタリじゃなく、交代で俺についてる巫女さんズである。もう一人の楓佳が宮周りの維持管理の仕事で、それを日替わりでこなしてる感じだ。そもそも俺にベッタリでついてなくていいんだけどな。そうもいかないらしい。めんどくさいね。
ま、弱小の新設宮だからまだ二人でまわしてるけど、紡祈様のとこなんて十人以上いるのは確実。社のこととか色々教えてくれた侍従長さんもいるし、あれを思えばこっちは二人。もちろんこっちだって裏方で動いてる人は他にいるんだろうけど……俺は知らんし。
せいぜいこれ以上大げさなことにならないことを祈っておこう。
『暖かき存在』……いや、ひえん様以外に。
「いったっ」
速攻頭痛きた。俺にこんなこと出来るのならもっと色々手を貸してくれてもいいと思う。ひえん様こっすい。けちくさい。
「あっ、いたい、いたい~」
や、やめれ~。もう余計なこと考えんとこ。
「佑奈様、お加減悪いのです? お散歩やめて戻られた方がいいのでは?」
「あ、いや、これは別に……何でもないから! あはは」
彩如でもちゃんと気遣いは出来るようだ。うむ。でもこの頭痛は病気じゃないから心配は全く無用。散歩続けるべし。
『ひえんの社』は深い山の中にひっそりと作られた社ではあるもののその規模は案外大きい。某地図アプリでよくバレないものだと思うし実際疑問に思って橘川課長に聞いたことまである。まぁニヤリと笑って誤魔化されたけど。一緒にいた瑛莉華さんも薄く微笑んでた。
絶対裏でなんか細工されてる。そう確信したね。
あのアプリの会社のあるでかい国とは絶対国ぐるみで繋がりあるわ。間違いない。じゃなきゃスケーリア王国の王族が俺のこと知ってること自体ありえないもん。
いやだわ~、大人って。
って、そんなことはどうでもいいや。
要は社の中の庭はそれなりにでかい。紡祈様の宮には綺麗に造成された日本庭園まである。石や砂で作られたわけわからん庭は俺には理解不能だ。
俺の仮宮周りはその点まだまだこれからで、日差しがよく届く雑木林に池や小川まであるものの雑な整備具合でしかない。でも俺にはこれくらいのほうが自然っぽくていい。
「ちちちっ」
俺が適当にそう口にすれば周りにいたらしい小鳥たちがどこからともなく現れて、あっという間に俺は囲まれてしまった。頭や肩、差し出した手とか、至る所に止まって来てめちゃかわいい。めちゃ癒される。止まれなかった小鳥たちは足元をツンツンしたり、周囲を飛び回ってピイピイ、チイチイ鳴いててそれはそれでめちゃかわいい。
もちろんこの子たちも俺が少しずつ地道に改変で交友を深めた成果である。中にはマンション近くの公園で親睦深めた子も混じってるみたいで、小鳥の移動距離もバカにできないし、よく俺に気付けるよなとも思う。
「いつ見てもすごいです。さすが私の姫様です! こうしてみてるとホント、ファンタジーに出てくる自然に愛されるエルフのお姫様って感じでエモすぎです! 写真撮って飾っておきたいです。あ、でも私の方に一羽も止まってくれないのがちょっと寂しいです」
「もう彩如、いいかげん姫様っていうのやめて。そんな大そうな存在じゃないから、私。写真はまぁ私は別にいいけど……外に漏らして怒られても知らないからね」
誰が彩如の姫様か? っていうか、いいかげん姫様呼び勘弁して。ガラじゃないし、マジただの一般人だから。あと、鳥たちが止まらないのはまぁ仕方ないだろ。野鳥なんだし。
しばらくそんな感じで、庭というにはまだまだ大ざっぱな仮宮周りのいずれは綺麗な庭になるだろう場所を散策する。時折タヌキとか野ウサギといった小動物も現れるけど、さすがに病気が怖いのであまりお近づきにはなりたくない。だから改変もしない。まぁ俺は変な病気にも感染しないだろうけど。
それでも余り警戒されないのはきっと俺の可愛さと人徳のなせる業に違いないわ。
そうやってのんびり散策をしてる中。
「あっ」
「どうしました? 佑奈様」
「ん、いや、スマホ鳴ったなって思って」
スマホはここにいる時は異空間に収納しておくことがほとんどだ。置き忘れも無く誰かに覗かれたりイタズラされることもない。完璧だ。しかもなぜか着信もすれば、それに気付くことすら出来るという不思議。
サイコーか!
もちろん俺付きの巫女さんズはそんなことはとうに承知してるから隠れて使うこともない。ってことで異空間からスマホを取り出して早速確認する。
「やっぱ便利ですよねソレ! 羨ましいです。私だったら持ってるコスメとかお気に入りの服とか全部しまっておきたいです」
あ、そう。俺なんも入れてないわ。いつもスマホだけだ。う~ん、『黄色ちゃん』しまっといたらどうだろ? いつでも好きな時に出して乗れる。
サイコーか?
いや、なんか……ヤダな。やめとこう。いや、今はそんなことはどうでもいい。スマホ確認しなきゃ。
スマホを見た。
例のアプリへの着信だった。
【Congratulations! 祝福により改変レベルを更新しました!】
うん、知ってた。




