【105】最後の最後まで気が抜けない件!
カイロス殿下が気を失ったことで、ちょっとなし崩しに終わった感のあるスケーリア王国の王族との対面から一夜明けた。
昨日は大変な一日だった。一庶民に過ぎた事案すぎた。疲れすぎた。
ひえんの社の仮宮に戻ったらもうすぐにでも休みたかったけど、巫女さんズに食事だ、お風呂だ、スキンケアだと、あれやこれやと引っ張りまわされ、結局布団にもぐり込んだ時にはすでに二十三時をまわってた。
「ひめさま~、おはようございます~!」
自然と目が覚めた後もぬくぬく布団から出るのが惜しくて余韻に浸ってたら、彩如があほ丸出しのでかい声で部屋に突入してきた。っていうか『ひめさま』ってなんだよ、『ひめさま』って。もう名前隠す必要ないんだから普通に呼べっての。
とりあえず布団にもぐり込んで聞こえないふりしとこ。
はぁ~、ぬくぬく最高!
「あ~もう姫様ったら起きてるのはわかってるんですからね~! お布団に潜り込まないでさっさと出てきてくださ~い」
彩如のやつ、あろうことか足元のほうの布団をまくりあげ、顔を突っ込んででかい声でそんなことをのたまった。
「ふわっ、ちょ、ちょっと彩如! 変なとこから顔突っ込まないでよ」
「あはっ、出た出た! おはよ~ございます、ひ・め・さ・まっ!」
ったくもう。こいつほんと遠慮なくなってきたよな。だんだんウザくなってくる。
「あ~もう、別に予定あるわけじゃないんだし、もうちょっと寝かせといてよ~」
「ダメです~。残念ながら予定入っちゃってま~す。お昼はスケーリア王国のアレートス王弟殿下たっての希望で会食することになりました! ですから今から早速準備に入ります。ささっ、観念してお布団からでてくださ~い」
「はぇ? な、なにそれ……」
聞いてない、聞いてないよ~!
「うわぁ、ちょ、ちょっと彩如、やめて。起きる、起きるって。っていうかいきなり脱がそうとするな~!」
こ、こいつ。絶対俺で遊んでるだろ!
「ふふっ、このもこもこ部屋着、かわいいですね! 佑奈様にとってもお似合いです。じゃあ脱がしませんから早くお布団から出てくださいませ? まずはお風呂入って、かるく身だしなみを整えたら朝食とりましょう。その後はお出かけ準備ですからね。さあ急いで急いで~!」
朝からまったりできるかと思いきや、そううまくはいかないようだ。
ちぇ、今日も楽させてもらえそうもない。
もうマンション帰って引き籠りたい。
つらい。
***
「佑奈様、連日にわたりご足労いただきありがとうございます。急なお願いとなり申し訳ありません。これで最後になるかと思いますので今しばらくお時間いただきたく」
瑛莉華さん運転で昨日のホテルにまたやってきたら、橘川課長のお出迎えを受けた。この人もなんのかの大変そう。管理職はつらいね。
「いえ、まぁ……仕方ないです。超高級ホテルのお食事が頂けるってことで……納得しておきます」
王族を前に、料理なんてとても楽しめそうにないだろうけどさ……。
仕方ないね。
「会食は昨日同様、『麒麟の間』となります。先方はすでに会場入りされております。急ぎましょう」
俺たち一行は橘川課長につき従って再び昨日の会場へと向かう。メンバーも昨日と同じで変わり映え全くなしだ。ひっつめ髪の中村さんは通訳ってことで先に会場入りしてるらしい。お疲れ!
「んっ、ううっ」
みんなでぞろぞろ移動中、瑛莉華さんが急に頭に手をやってふらついた。
「新野見君っ、どうした?」
瑛莉華さんの挙動に前を歩いてた橘川課長がすぐに気付いて駆け寄る。もちろん俺たちだって同様だ。楓佳がふらつく瑛莉華さんの肩を抱きかかえて転倒を防いでくれた。
「す、すみません。少しばかり力を使いすぎてしまって……。私は大丈夫です。それより……ちょっとまずいことに」
力使いすぎって……瑛莉華さん。未来視使ってたの? 歩きながら? そんなことしてたらそりゃふらつきもするって!
瑛莉華さんの未来視。
以前改変でPSI能力を取り除いたとき、未来視は残ってしまったわけだけど、その残った力も時とともに段々弱まってきてるって聞いた。以前は一日一度とはいえ、一年先まで視れたものが、今となっては数時間先までが限界になるくらいまで弱くなってるらしい。たった一月と少しでそこまで弱まるだなんて。
ま、まぁ元はと言えば全部無くそうと改変したんだからそれはいいんだけど……、ここ最近も例の襲撃犯を改変するとき、助力してもらってるし……なんとも痛し痒しである。
さしずめ今日の会食前に、安全確認のため未来視をしたってとこ?
警護してる人とか当然いっぱいいるんだろうし、いざとなったら俺だって頑張るし。瑛莉華さん、そんなに無理しなくてもいいのに。
「瑛莉華さん、大丈夫?」
早々弱みをみせない瑛莉華さんにそんなこと言ったってどうせ聞いてくれない。だからせめて、俺は気遣いの言葉をかけるだけだ。
そう遠くないうちに未来視の力も消滅していくんだろう、きっと。正直ちょっともったいない気がするけど……。
「ありがとう佑奈ちゃ……、いえ、佑奈様。それより、橘川課長。また面倒なことに……なってます」
「んっ? そ、そう……ですか。では……ひとまずホテルの保安管理部に行きましょう。佑奈様、大変申し訳ありませんがご同行願いませんか? 状況次第では再びご協力いただくことになるかもしれません」
ですよねぇ。
ま、瑛莉華さんがふらつきながらも見た未来だろうし。無駄にはしたくない。
「わ、わかった! あ、でも王族の方々はどうしますか? 待たせちゃいますよ?」
「とりあえず側付きのお二人に伝言と場を繋いでおいてもらいましょう。いいですね? 彩如さん、楓佳さん」
ふえぇ~、すんげぇめちゃぶり。お二人さん、ガンバレ!
ってことでそういうことになった。
***
「時限式の爆発物……ですか? そ、それはちょっと、本当にマズイですね」
ホテルの保安管理部の会議室を借り、瑛莉華さんの話をある程度聞いた橘川課長が鼻白んだ。スケーリア王国の王族との会食をするはずが、一転、爆弾食らうかも知れない事態ともなれば、そうなってしまうのも仕方ない。
瑛莉華さん自身は話し途中で意識を失ってしまった。もうね、無理しすぎだって。
話しとしては、以前襲撃をたくらんだ同じ組織なのかどうかは知らないけど、今度はホテルに爆弾しかけられたらしい。ただそれがどのあたりなのかがわからない。瑛莉華さんがわかってたかもしれないけど……今は聞きようがない。ちなみに、ムカつくことに仕掛けたやつはもうホテルから逃げ出してるらしい。
「実行犯の方は公安に任せましょう。新野見君の情報である程度絞れます。問題は爆発物です。目的はスケーリア王族にあるとみて間違いないでしょう。とすれば上階の各種宴会場のあるフロアが怪しいのでしょうが……」
橘川課長が思い悩んだ表情で唸ってる。ここはやっぱ、俺の出番ってとこなんだろうなぁ。めんどくさいけど。
可愛らしい年下の王族、カイロス殿下も守ってやらなきゃだし。ここは頑張るしかないか。
「まかせて。出し惜しみ無しで私の能力でなんとかする!」
「えっ? どこにあるかもわからない爆発物を処理できるのですか?」
「ううっ、それ言われるとちょっと……。えっとですね、例えば、ホテルまるごと発火物を改変しちゃうとか?」
なにしろ火のないところに煙はたたない。でもイマイチうまくいくかどうか自信ない。やっぱどんなものかのイメージが欲しいのが正直なところ。
「ええっ、それはちょっと待ってください。ホテル各所への影響が大きすぎます! いやしかし、人命を思えばそれも仕方ないのか……。悠長なことを言っているうちに爆発してしまえば元も子もない……」
即断即決の橘川課長が珍しく思い悩んでる。ま、さもありなんだわ。火を使う所なんて至る所にあるし。きっと大迷惑必至!
うう~ん。いやマジどうしたら?
「ゆ、佑奈ちゃん……私の額に佑奈ちゃんのおでこ、重ねて……」
「あ、瑛莉華さん! 気が付いた?」
橘川課長とウンウン唸ってたら、瑛莉華さんが復活したのか話しかけてきた。でも、おでこ同士を重ねてどうするの?
ま、言っててもしゃ~ないし、ちょっと恥ずかしいけど言われた通りにしよ。俺は瑛莉華さんのおでこに自分のおでこをごっつんこした。
「あっ、なんか浮かんできた!」
俺の頭の中に瑛莉華さんが持ってたイメージが浮かび上がってきた。なにコレすごい。こんなこと出来るのならもっと早くからやってれば色々楽だったのに!
ああいや、今はそんなこと言ってる場合か。
おおっ、爆弾見えっ!
つうか、これ『麒麟の間』なんだけど! やっば。
「瑛莉華さんすごい。これでいける!」
俺、喜び勇んで改変した。
粘土ぽい奴、ほんとの粘土にしたった!
「はぁ、お腹……空いた」
もうおしまいだよね?




