【103】あ。なんかやっちゃいました?
やると言ったはいいけど、さてどうしよ?
転移してるとこ見たことないし。かといってやって見せてとも言えない。危なすぎる。けど、まぁ、本人は目の前にいるし、転移自体のイメージは簡単だし。
どうしようかと考え込んでた俺だけど、ふと我に返って周りを見たらみんなが真剣な眼差しで俺のほう見ててビックリした。
しかもいつの間にやらカイロス殿下が目の前に立ってた。
[プリーステスエン……、エンヒメ? あんまり自分を追い込んじゃダメ……だよ? 無理言ってるのはわかってるから。今のままだって僕には父様と母様がいるから、大丈夫だから……]
何て言ったの? と、中村さんに通訳を急かして教えてもらった言葉に俺はまた泣きそうになった。
くぅ~。こんなの聞かされて頑張ろうと思わない奴がいるか?
いやいない!
俺は過去一で改変を絶対成功させようって思った。
「お姉ちゃんにまかせて! 絶対うまいことする! してあげる!」
殿下の手を取って両手で包み込んだ。まだ十一歳の子供のくせにちょっと冷たい手だった。そして、照れて頬を赤く染める美少年もいいものだ。
俺は改めて集中した。
転移の力を無くす。それだけのことだ。転移なんてアニメやマンガじゃ定番のネタで、ファンタジー小説なんかでもバンバン出て来る。
だからイメージするのなんて簡単簡単!
あ~、でもちょっと実際に見て見たかったかも。
めちゃ便利だろうな~。ありがちなのは一度行ったところには転移できるけど、行ってないとこは無理ってパターンだな。うんうん、マジよくあるわ。その設定。
そんな感じで改変してみたら面白いかもな~。
うん。マジ便利そう。俺も使いたいくらい。
異空間の収納は俺、すでに出来ちゃってるし、さらに転移とか自在に出来るようになったらほんとアニメや漫画のそのモノって感じでめちゃ上がるわ~!
ん?
いやいや。ダメだろ!
消してくれって頼まれたんだ。ちゃんと言われたことやらなきゃな。余計なこと考えるな俺。
よし、やる!
かいへ……ん?
んんっ?
あれれ?
ちょ、ちょっと……まって。
なにこれ?
――なんつうか、その……。
これ、もう改変されちゃってない?
「ええぇ……、なんか私……、やっちゃった?」
「どうしました? 爰姫様?」
俺の様子を訝しんだ橘川課長が声をかけてきた。
「あっ、いやその、えっと……ね。改変、なんか知らない間に終わっちゃってた……」
「はぁ? それはまた、どういうことです? 成功なされたのなら素晴らしいではないですか。流石、爰姫様です。――ですが、それにしては微妙な表情をされているようですが」
「う、うん……。それがね、えっと……」
二人でそんな会話をしていれば当然みんなも寄って来る。もちろん王族ファミリーも。
ただ、カイロス殿下はキョトンとした表情でどこか上の空。目を見開いて虚空を見上げてるって感じで、周囲のことなんて全く気にされてない様子。
まぁそりゃそうだろな。
改変された本人はきっと自然とわかってくると思うんだ。今もジワジワ実感わいてきてると思うんだ。
ちょ~っとばかり言ってたことから変わっちゃったけど。とりあえずみんなに説明しよ。
はぁ、やらかしちゃったな。
でもいいよね?
俺だったらめちゃラッキーって思うわ。つうか俺だって使いたいもん、転移。
***
「では異能力の消去ではなく修正というか改善というか、爰姫様がイメージとして持っていた転移能力に改変されてしまった――と、そういうことですか?」
「う、うん。つい、創作物みたいに自在に使えれば便利なのにな~とか思っちゃって……。そしたらそうなった!」
橘川課長がなんとも言えない表情を見せる。やめて、そんな目で見ないで。
「その~、またやり直せばちゃんと消去できると思うから。以前はやり直し無理だったけど、今の私なら出来るし! そりゃ、ちょっともったいない気もするけど……」
そんな俺たちの会話はしっかりと中村さんが王族ファミリーにもキッチリ同時通訳してるわけで。
[プリーステス エンヒメ。それはカイロスの意志で自在に異能力が使えるようになったと解釈してよいのか? カイロス! 先ほどから黙り込んでいるがどうなんだい? 何か変化を感じ取れたりして――]
アレートス王弟殿下がはやる気持ちを抑えきれない様子でカイロス殿下に声をかける。そんなさなか、唐突にそれは起こった。
「あっ!」
「ええっ?」
[アレートス様! あ、あなたっ! カイロスが消えた。目の前から急に、いきなり消えてしまいました!]
そう。カイロス殿下が忽然と俺たちの前から消えた。一瞬の出来事だった。
もちろん一気に場が騒然となった。そりゃそうだ。他国の王族の一人がいきなり居なくなっちゃまったんだから大問題だ。
「ふぁ?」
そんな中、彩如が変な声で叫んだ。
[カイロス!]
ソフィーア王弟妃も叫んだ。そして抱きしめた。
もちろん再び現れたカイロス殿下――を、だ。
もうね、展開がジェットコースター。俺、ソレ大嫌い。吐く。
その場はますます騒然となったよね。当然。
[プリーステス エンヒメ!]
「えっ? あひゃ!」
ソフィーア王弟妃に抱きしめられてたカイロス殿下がそれを半ば振り切って俺のところに走り込んできて――、
そのまま飛びつかれた!
「ふぎゃ」
俺氏、子供の突進に持ち堪えられるような強靭な肉体なんて保持しておりませんから。当然そのまま後ろにぶっ倒れ――
「おっと!」
ることはなく、橘川課長がしっかり後ろに回って支えてくれた。なんか以前も同じようなことあった気がするけど、きっと気のせいだ。
[エンヒメ! すごい、すごいよ! 僕、僕、自分の意志で転移できた! うそみたいだ!]
カイロス殿下が興奮冷めやらぬ声で俺に抱き着いたまま、まくし立てる。俺のそこそこ大きい胸がグイグイ押されてむにゅってなってる。まぁ殿下はそんなことすら全く気付いてないけど、俺的には早く離れて欲しい。さすがにちょっと……恥ずかしい。
同時通訳の中村さんが必死に訳しながらも驚きの表情を浮かべてる。みんなもそれを聞いてだんだん状況が理解出来てきたみたい。
[カイロス……、ああ、カイロス! 君はその異能力を自分の意志でしっかり操れるようになったと言うのかい? ああ、神よ、感謝します!]
[ほんとうに? ほんとうに自分の意志で? うそ……]
[母様、本当です! ほらっ!]
殿下がそう言ったかと思うと俺の胸から忽然と姿が消える。ああ、軽くなった。胸も楽になったわ。もうここに来ないでね。
[母様~!]
会場の一番隅のほうから殿下の声が聞こえてきた。『麒麟の間』は小さめの会場らしいけど、それでも学校の教室三個分くらいの広さはあから一瞬で二十メートルくらいの距離を移動したってことになる。
みんなも今度はしっかり状況を理解できたのかさっきまでとは違う意味で騒然としてきた。
[ねっ! すごいでしょ?]
また一瞬で戻って来た。今度はお母さんのところへ行ってくれた。また胸に飛び込んできたらどうしようかと思ったわ。俺のおっぱいは何回もむにゅむにゅさせてやるほど安くないんだからね!
[僕、これならアイマスクしなくてもいいよね? すっごく便利だし、色々出来そうだし……。その、これなら消す必要なくないかなっ?]
守りたい。美少年のこの笑顔。
ちょっと前までの不安げな殿下はもういない。さすが子供。気持ちの切り替えはっやいわ~。まぁ全く自分の意志で転移できなかったのがいきなり自在に操れるようになったんだ。有頂天になるのもわかる気もするけど。
両親の前で調子にのって繰り返し転移を見せつけてる殿下。マジお子ちゃま。
「あんまり調子、乗らないほうがいいと……思うけど」
俺はボソッとそう呟いた。使い慣れてないものをそんなに使ってしまえばさ。どうなるかなんて――
[か、カイロス? 大丈夫か?]
何度目かの転移で王弟殿下の前に戻って来たと思えば、その場に崩れ落ちたカイロス殿下。
――ほらね。
言わんこっちゃない。
「使いすぎだね~」
彩如につっこまれ。
「ふふっ、困ったお方ですね」
瑛莉華さんは薄く微笑む。で、出来る人瑛莉華さんがご両親に殿下がなぜそうなったのか説明してさしあげれば、さすがにお二人とも呆れてた。
「まぁなんですか。これでカイロス殿下も落ち着くでしょう。――アレートス王弟殿下。このような状況となりましたがいかがなさいますか? 爰姫様によれば今の状況はこう言ってはなんですが手違いであるとのこと。したがって改めて異能力を消去することにお力をふるっていただくことも可能なようですが?」
橘川課長が冷静に話を進める。
面白味のない人だよね~。
ま、こんな場で面白いもくそもないか。っていうかさ、聞くまでもないと思うけどね。本人、めっちゃ喜んでるわけだし。
とりあえず、うまいこといった。と思っておいていいよね?
ちなみに俺は能力使って特段疲れたって思うことはないんだけど、とりあえず眠くなる。寝すぎちゃって困る。これも疲れた内に入るのかね?
まぁそもそも力自体あんまり使ってないけど。
あっ、もう帰っていい?




