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04.ありふれた「迷宮」と「ステータス」と「裸体」


「なにも知らないでこっちへきたっていうけど、ルキナの異世界は知ってるよね」


「知ってるけどあんまり興味なかった。自分が転生するとかあり得ないと思ってたし。クラブ活動でいっぱいだったし。病気になってから覚えているのは断片的だし時間も飛んでる。右が麻痺しちゃうし、薬の副作用でいつも気持ち悪いし、頭は割れそうに痛いし。中学でバスケやってたんだ。全国に行けてこれからってときに身体が麻痺して、バスケ辞めなくちゃならなかったのがつらかった。いま、せっかく新しい健康な身体に戻れたのにバスケットそのものがない。ボールもゴールもチームもない。悲しいよ」


「ここにくるための条件、知ってる?」


「えーと。なんとなく、聞いたことあるような。ないような」


「つまり知らないわけね」


シオンがエヘヘと笑って誤魔化している。


「どれほど興味なかったかよくわかる。えと。ひとつ目の条件が、余命半年の宣告を受けないとエントリーできないってこと。ふたつ目の条件が抽選で選ばれるってこと。ゲートがフル稼働で1日に転生できる人数は18840人って決まってるのに、余命半年の転生希望者は世界中にいるから転生希望が多すぎるんだ。だから抽選」


「抽選なんだぁ。ウチ、クジ運ないのに。ジャンケンで勝ったことないし」


「ジャンケンとクジ運は違う種類だと思うけどまあいいか。25歳以下の若者のために設けられた若年優遇措置って枠があってね。まだ若いのに死ななきゃならないのは可哀想だから優先的に転生させようっていう措置。25歳以下で余命半年宣告を受ける患者数ってぐっと減るから世界中から希望者が集まっても当選率90%以上っていわれてた。ボクは優遇枠で転生できた。たぶんシオンも」


「ふんふん」


興味なさげ。


「普通なら半年の猶予あるからいろいろ前準備できるんだけど。たぶんシオンは病気の悪化で意識障害を起こしたんだろうな。意識がないまま余命宣告受けて、転生の承諾は親御さんが代理で行って意識がないまま転生したって感じかな」


「そうなのか。記憶がぐちゃぐちゃしてる。もっとしっかりママとパパにお別れしたかったな」


しんみりした雰囲気が苦手だったから話を継いだ。


「この世界の元になったゲームの話。知らない?」


「ウチ、ゲームってあんまり興味なかったし」


「つくば市にゲートが開くきっかけが量子コンピュータの開発実験だったんだけど。えっとー。量子コンピュータの可能性を探るため、いろいろなテストプログラムが用意されたわけ。その中に量子AI、AIって人工知能ね、の実験として『ルキナ・プロジェクト』があって。そして究極のバーチャルリアルやフルダイブ型仮想現実の実験として『幻夢』っていうロールプレイングゲームが設計されてたわけ。量子コンピュータだから表現可能な葉っぱ1枚1枚の存在から朝露の冷たさまで5感すべてで感じられる仮想世界で、モンスターと戦ったり宝探したりするってゲームのベータ版だったんだ。ところが大災害となってつくば市は壊滅。女神ルキナが生み出され、彼女が『観察』してこの異世界が創造された。そのときルキナが世界を構築するベースにしたのが『幻夢』だったっていわれてる。だから、この世界の基本システムはゲームに準じてるわけ」


「ここがゲームの中?」


シオンの目がウロウロしている。


「いや、ここはゲームの中じゃないよ。ここは現実。だから斬られたら死ぬ。元の世界とは異なる法則があるってこと。ゲーム的なシステムとか魔法とか。だから転生者がサバイバルできるよう転生前のチュートリアルとして元々の『幻夢』をベースにしたシミュレーションを体験プレイさせるようになったんだ。かなりダイジェスト版だけどね。えーと。つくば市の量子コンピュータ実験機に『ルキナ・プロジェクト』や『幻夢』などのテストプログラムを送り込むため、埼玉の理化学研究機構のスーパーコンピュータが量子もつれ状態で重ね合わされてたんだけど、こっちも同時に変容した。なんてこと当然知らないよね」


「すんません。っていうか、リョウシモツレってなに?」


「ほとんど知られてないから謝らなくていいんだけど。量子もつれは離れたところの量子が繋がってる現象のこと。一度もつれ状態になったふたつの量子はその後離れて間が何億光年離れようと一方が変化すると対になったもう一方も同時に変わる。情報の伝達が光速を超えてしまうんだ。深く知ろうとすると脳がもつれる。そんなこんなでもつれあって繋がってたスーパーコンピュータの方が量子コンピュータになっちゃったって推測されてる。ルキナの分身がそれを基盤にして元の世界のネットに融合しちゃってるわけ。『幻夢』の体験シミュレーションはその中に展開されてて転生予定者だけがログインできる。フルダイブ型とまではいかないけどセミダイブ型っていわれる脳シグナルを読み取ってくれるスマートグラスが支給されて、没入感は半端ない。ボクみたいな筋肉疾患があって指がうまく動かせない患者にはありがたいシステムだった。脳シナプススキャン技術ってどこも開発してない技術をルキナが完成させてて。それがヘッドギアじゃなくスマートグラスに内蔵できるほどコンパクト化されて。チュートリアル内の草や石の一個までリアルに存在してて。五感が完全に‥‥あ。ごめん。またやっちゃった」


シオンの目が点になっていた。ボクのコミュ障癖が出てしまった。緊張が高まったり、逆に得意分野で嬉しくなると一方的にまくしたててしまう癖。相手との心理的距離感が定まらない。まくしたてられてシオンは引き気味だ。


「え。あ。いや。すっごい早口でアナウンサーみたいに流暢に話されたからびっくりしただけ」


こっそり深呼吸して高揚を抑える。相手がどこまで知っててどこまで知らないか測りながら話すのは苦手だ。普通は黙ってしまうところだが、いまの状況で黙り込むのもおかしいし。


「えと。そんなわけで、この世界には『幻夢』をベースにした構造が織り込まれてるわけ。そのひとつが『魔』と『気』を利用する魔法や身体強化なんかの成長システム」


「マ?」


「魔法の魔って書く。魔の元素が魔素。気は元気とか病気とかの気。気の元素が生気。生きるって字に気持ちの気。えと。『幻夢』ベータ版の設定資料の受け売りだけど、この世界はコインの表面なんだって。表面があれば裏面もあるわけで、その裏面が魔界。ボクたちの側である表面は生命エネルギーである『生気』に満ちてて、あっちの裏面は『魔素』で満ちてる。気を命の元としているのがボクたちで、魔を命の元にしてるのが魔物。ボクたち気の生命にとって『魔』は反物質並みの高ポテンシャルをもたらす。逆に魔物にとってはボクたちの持つ『気』が同じような高ポテンシャルをもたらす」


まだ距離感が測れない。説明不足で不親切な気がして話がくどくなる。それがわかると焦って早口になる。ゆっくり話すことを心がけた。


「えっと。コインの裏表で、『魔』と『気』で反物質。うう」


「サバイバルに必要な知識じゃないから無理に覚える必要ないよ。えっと。で。前説明がまわりくどかったけど、ようやく『ダンジョン』の話ができる。あくまで設定資料の知識で、現実とどこまで付合してるかわからないって思いながら聞いて。ダンジョンって『魔界の食虫植物』みたいなものなんだって。魔界の魔物が境界面の脆い部分から魔核を貫入させ、そこから放出した魔素でこっちの世界の物質や空間なんかを侵襲しながら成長したモノだそう。自己生産する魔素だけでこの世界の物質を変容させるには時間がかかるから、ある程度成長して使役する魔物を送り込めるようになるとおびき寄せた生き物を直接殺させたり罠を仕掛けさせたりして体系的に生気を集め始める。集めた生気エネルギーを使って効率的に魔素を生産放出して階層構造をより深く広く構築していく。自分は動かず虫を誘引して罠にかけて餌にする。食虫植物に似てるでしょ。それがダンジョン。こっちの世界で最も大量で良質な生気を持つ人間っていう生き物を誘引するための撒き餌として、金銀宝石や魔法装備なんかを宝物としてあちこちに置いてたりする」


長かったがゆっくり焦らず話せた。シオンも理解できたみたいだ。


「じゃあ。あそこの遺跡の入り口みたいのが魔物の口で、中が胃袋ってか。わあ。キショクワル」


「餌になる生き物をおびき寄せるために魔法的な誘引をしてるんだと思う。さっきシオンはパンの焼きあがる匂いを感じてた。けど、ボクは肉を焼く匂いに感じてた。ふたりが感じたものがまるで違う。それって精神干渉の魔法だと思う。結界魔法に似てるんだ。ボクたちが使ってるこの魔導器は危険な獣を近寄らせないように器に焼き付けられた魔法で結界を展開してるんだけど、魔導器の結界は近づく人や獣の精神に弱く干渉して結界に近づかない理由をそれぞれ自分自身で勝手にでっちあげさせるのね。急に帰らなきゃならない用事を思い出すとか、仲間が呼んでる声が聞こえた気がするとか、進行方向から危険で凶暴な獣の臭いが流れてくるとか。それぞれがそれぞれにとって最も切実な進行方向を変える理由を考えてくれるから当たり外れがなくて効果的なんだ。あそこの入り口は魔導器とは真逆の精神干渉結界を展開しているんだろうと思う。各自がそのときいちばん欲してることの幻覚を自身で生じさせてしまう。だからふたりの感じたものが違うし、いちばん欲してるものだからこそ誘引力が強い」


「幻覚なのかー。パン食べたかった」


いま食べたばかりで凄い食欲。


「自分を殺して食べようとしてる巨大な胃袋の中に自分から入っていくなんてシオンのいう通り気色悪いんだけど、ダンジョンには冒険者を惹きつける現実的な利益があるから危険を冒してみんな挑戦するんだよ。貴重な採取物。魔素で変質した鉱石や宝石なんかの素材は強力な武器や防具の材料になる。魔素が結晶化した魔石は強力なエネルギー源。ダンジョンに持ち込まれて置き去りにされた物品は長い年月魔素に晒されて魔剣や魔防具に変性してたりする。古い強大なダンジョンにあったそういうお宝がダンジョンの拡散‥‥ありていにいっちゃえば繁殖によって持ち出される場合があって、新しい若いダンジョンにも強力な年代物の魔道具があったりするから侮れない。そしてなにより魔物を討伐することで得られる成長要素が大きい。覚値ってカタチで得られるパワーは、単純な反復修練の1000倍にもなって効率的な成長ができる」


「お宝。ちょっと欲しいかも。いまウチお金なしの大貧民だもん」


「入口の罠に引っ掛からなかったとしても、いまのシオンがダンジョン入ったら最初に出会う魔物に殺されると思う。最低限戦える状態になってないから。ありがたいことにこの世界はゲームベースの世界なので、力や知性といった物理的・精神的能力が数値化されてわかりやすくなってる。現状の自分の能力が一覧できるステータスっていう便利な機能があるんだ。ステータス、って単語を念じながらステータスパネルを開いてみて」


「開くって?」


「指を振ってもいいし、開くイメージを浮かべてもいい」


「んー。ステータス、開け。あ。えー。なにこれ」


空中を撫で回すそぶり。


「それがステータスパネル。自分にしか見えない。そこにいまのシオンの能力が数値化されて表示されてる。現在は初期状態だから全部が原則ゼロ。一般的な17歳女性の平均値になってるはず」


「あのトレーニング、全部なくなっちゃったの?」


バスケのことかな。全国出場といってたからそうとう努力したんだろう。


「いや。たぶんなくなってないよ。パーソナルステータスの項目にある筋力って欄に触ってみて」


「あ。小さいパネルが出た」


「いくつかは0じゃないと思うけど」


***************

名前:

職業:冒険者 

年齢:17

性別:女


【ステータス覚値:40/0】

筋力:0   敏捷:0

知力:0   精緻:0

生命:0   感覚:0


筋力0 :握力+2【2】

     腕力+3【3】

     脚力+5【5】

     投擲+5【5】

     打撃  【0】

     牽引  【0】

     跳躍+3【3】


知力0 :魔力  【0】

     思考  【0】

     集中+3【3】

     空識+1【1】

     記憶  【0】

     情報  【0】

     観察  【0】

     心象  【0】


生命0 :耐久  【0】

     免疫  【0】

     持久+3【3】

     耐撃  【0】

     抗毒  【0】

     抗老  【0】


敏捷0 :瞬発+3【3】

     神経  【0】

     反射+2【2】


精緻0 :誤差+3【3】

     筋制+2【2】

     環応  【0】


感覚0 :遠視  【0】

     微視  【0】

     動視+1【1】

     暗視  【0】

     測視+1【1】

     微音  【0】

     音析  【0】

     音域  【0】

     微臭  【0】

     臭析  【0】

     微感  【0】

     振析  【0】

     味析  【0】

     毒感  【0】

***************


「見たことない文字。英語じゃないし。でも読める。握力が+2。腕力が+3。脚力が+5。投擲が+5。跳躍が+3ってなってる」


「うわ。凄いな。真面目にハードな練習したんだね。バスケだから脚力と跳躍が5もあがってるわけか。たぶん敏捷もあがってるだろうね。あ。えと。その文字はエスペラント語がベースみたいだよ。日本語がいいならメインパネルの右下の地球マークにタッチすると日本語表記になる」


「地球マーク。これか。あ。漢字だ。ほんとだ。で。敏捷を開いて。あ。あがってる。瞬発+3で反射+2だって」


次々と反映が明らかになるので全部チェックしだしたシオンが、他にも知力で集中が+3、空識が+1、生命で持久が+3、精緻では誤差が+3、筋制+2、感覚で視覚の動体が+1と測距が+1にあがっていることを教えてくれた。ボクは羨ましさが顔に出ないようにするので精一杯。


「空識ってあるのは空間認識。筋制ってあるのは筋肉制御の意味だよ。動視は動体視力だね。測視は距離把握。わからない項目は頭に疑問符を浮かべて見つめたりすると意味や内容が浮かんできたりするよ。この身体の頭に事前にインプットされてるみたいでね。それにしても凄いなあ。さすが全国にいく人だ。初期値からそれなら振り分けたらかなり強くなる。ステータス覚値の欄に40ポイントあると思うけど、その数値をステータス6項目に自由に振り分けて能力アップができるんだ。6項目に振り分けた数値の分、そのカテゴリーに含まれる全部の項目がアップするよ」


「これかな。ステータス覚値か。40ポイントある」


「ステータス振り分けはじっくり考えた方がいいから後回し。まず名前を決めないと」


「名前。あ。えーと。さっきから気になってたんだけど、この画像の人。これウチなの?」


「左上の画像ね。それがいまのキミの見た目。以前の面影あると思うけど」


「面影。うう。あー。まあ。あるけど、ウチこんなハーフタレントみたいな美人じゃない」


「転生用に用意されたプロトタイプの身体は美男美女ばかりで、そこに以前の自分の特徴が混ぜ込まれるみたい。で、自己画像の横、名前が空欄になっているはず」


「あ。これか。シオンでいい。念じればいいのかな。シオンだよ。あ。名前が出た。ウチ、冒険者で17歳なわけか」


「試しに、剣を構えてみて」


「え。この剣。抜くの?」


「ナマクラだけどそれなりに切れるから注意して」


シャリンと小気味いい金属擦過音。シオンは構えようとするが、腕があがらない。


「あ。うう。重い」


剣先が下がり地面につきそうだけど、ボクの最初の抜剣よりはマシだ。


「ステータスの筋力。1ポイント振って」


「指で押せばいいのかな?」


「そう。で、もう一回構えて」


剣の切先を地面につけ自由にした右手指で空中を押す。そして再び剣を両手で構えた。


「うーん。あまり変わらないかなあ。いや、さっきよりはマシかな」


剣先がブルブルしている。


「1ポイントで5%分、筋力があがってるはず。シオンは最初から腕力3あるからもう1ポイント割り当てれば腕力5ポイントになるはず。それでもう一度構えてみて」


「5%。5ポイントで25%アップってこと?」


シオンが再びステータスをアップする。


「単純な足し算じゃなく、福利合計みたいに増加するから28%近くアップするはず」


シオンが剣を構えて驚いた表情を浮かべる。


「あ。なんかわかる。重いけど。さっきほどじゃない。これなら扱える。うー。こんな簡単に体力あげられるなんて。練習もなんにもなしで」


上段に構えて振りおろそうとしたのでやめさせる。フラフラして危険すぎ。自分の脚を斬りかねない。


「振り分けはやり直しできないから慎重に」


「慎重にって。なにをどうすればいいのか。なんか標準みたいなのってないの?」


「チュートリアルでは、ある程度無茶な振り分けしてもなんとかなったりもしたけど。えと。ここはゲームじゃないし、現にゲームじゃ見なかった獣とかいたし、失敗したら本当に死ぬし。なにが正しくてなにが間違ってるかいえるほどボクはこの世界を知らない」


「無茶な振り分けって?」


「極振りってやつ。筋力に全部振ってバーバリアンになるとか。知力全振りで魔法のエキスパートになるとか。生命力をゴリゴリにあげるとか。そこまで極端じゃないなら筋力メインの戦士系か敏捷メインの忍者系か。魔法系はソロだとあまりに危険すぎ」


「ミナトはどういう振り分けにしたの?」


ゲームだと他人のステータスをずけずけ聞くのはかなりなマナー違反なんだけど、隠すほどのものでもないか。どうせ初期振り分けだし。


「ボクは敏捷メイン」


「ふーん。ニンジャ的なのね。カッコいいかも。ウチ、もともとバスケだし。敏捷系にしよう。敏捷に40ポイント振り分ければいいのか?」


「ま、待てい。それじゃメチャクチャ早く動けるけど目が自分の速さについてけなくて壁とかに激突して死ねるよ。敏捷系なら知力と感覚も一緒にあげないと」


「感覚は眼の良さってことか。動体視力とかよね。でも知力って?」


「魔法使いじゃなくても必要なんだ。特に知力のサブ項目中の思考速度と情報処理」


「思考速度。思考速度が遅いと身体の速さに意識がついてこれないってこと?」


「そ。それ以外でいうと、ボクの場合は精緻を後回しにしちゃったんだけど失敗だった。素早く動いて攻撃できるけど思った位置に当たらない」


「え。失敗しちゃったの?」


「いや。まあ。習熟補正っていってね、修錬すれば追っかけで数値はあげられるし。魔物とか倒せば覚値も手に入るからリカバリーできるよ」


ふむふむとかいいながら結局あまりわかっていないようで、ほとんどボクが決めたみたいな振り分けになった。でもまあバランスは取れたと思う。


***************

名前:シオン

職業:冒険者 

年齢:17

性別:女


【ステータス覚値:0/0】

筋力:3   敏捷:9

知力:8   精緻:6

生命:5   感覚:9


筋力3 :握力+2【5】

     腕力+3【6】

     脚力+5【8】

     投擲+5【8】

     打撃  【3】

     牽引  【3】

     跳躍+3【6】


知力8 :魔力  【8】

     思考  【8】

     集中+3【11】

     空識+1【9】

     記憶  【8】

     情報  【8】

     観察  【8】

     心象  【8】


生命5 :耐久  【5】

     免疫  【5】

     持久+3【8】

     耐撃  【5】

     抗毒  【5】

     抗老  【5】


敏捷9 :瞬発+3【12】

     神経  【9】

     反射+2【11】


精緻6 :誤差+3【9】

     筋制+2【8】

     環応  【6】


感覚9 :遠視  【9】

     微視  【9】

     動視+1【10】

     暗視  【9】

     測視+1【10】

     微音  【9】

     音析  【9】

     音域  【9】

     微臭  【9】

     臭析  【9】

     微感  【9】

     振析  【9】

     味析  【9】

     毒感  【9】

***************


***************

名前:ミナト

職業:冒険者 

年齢:17

性別:女


【ステータス覚値:0/0】

筋力:5   敏捷:10

知力:10  精緻:2

生命:5   感覚:8


筋力5 :握力+2【7】

     腕力+2【7】

     脚力  【5】

     投擲  【5】

     打撃+2【7】

     牽引  【5】

     跳躍  【5】


知力10:魔力  【10】

     思考+3【13】

     集中  【10】

     空識  【10】

     記憶+5【15】

     情報+1【11】

     観察  【10】

     心象  【10】


生命5 :耐久  【5】

     免疫  【5】

     持久+2【7】

     耐撃  【5】

     抗毒  【5】

     抗老  【5】


敏捷10:瞬発  【10】

     神経  【10】

     反射  【10】


精緻2 :誤差+2【4】

     筋制+2【4】

     環応+2【4】


感覚8 :遠視  【8】

     微視  【8】

     動視  【8】

     暗視  【8】

     測視  【8】

     微音  【8】

     音析  【8】

     音域  【8】

     微臭  【8】

     臭析  【8】

     微感  【8】

     振析  【8】

     味析  【8】

     毒感  【8】

***************


「ボクもシオンも筋力と持久力が少ないから短時間しか剣を振り回せないと思う。すぐ腕が疲れて剣があがらなくなる。シオンの場合は初期値のパーソナルアビリティボーナスがあって持久力が8になってるからボクよりは長く保つだろうけど、それでも長時間戦闘は無理。だからいまは多数の魔物や獣を相手しない。遭遇したら隠れてやり過ごすか逃げる」


「パーソナルって個人のって意味だよね。ボーナスはボーナス。アビリティってナニ?」


「能力って意味だね。要するにその人がこっちの世界に来る前に持ってた独自の能力がこっちの身体に反映するってこと」


「そっか。このプラスされてる数字がパーソナルアビなんとかボーナスってことか。さらにこっちで練習すれば習熟補正ってのがついて、この数値が増えていくってことね。ウチ、脚には自信あるんだ。投擲って投げることだよね。やっぱバスケ関連の能力があがってるみたい。ウチはバスケやってたから敏捷系だけど、ミナトはどうして敏捷系なの?」


一瞬言葉に詰まる。一般のゲームでもチュートリアルでも深く考えず敏捷系を選んでいた。


「うーん。あまり考えたことなかったな。うーん。まあ、その。たぶん。ボクは全身の筋肉が弱まっていく病気で腕も脚も不自由だったから、羽根のように飛び回れる敏捷系に憧れたんだと思う」


ずいぶんプライベートなことをペラペラしゃべってしまう自分に驚いたところで、匂いをとらえた。シオンも感じたようでスンと鼻を鳴らす。風上は滝の方向。かすかな獣の匂いが風に乗って流れてくる。次いで耳が葉擦れの音を捉えた。シオンと一瞬だけ目を合わせ風上を見る。結界の中ではあるけど用心は怠らず剣に手を伸ばす。シオンはサバイバルナイフを手にしていた。滝の水は遺跡の横に落ち、小さな滝壺を作っている。そこから幅の狭い自然の水路を通って池に水を供給している。水路の向こうは土手で生い茂った木々と藪。しばらくすると藪を掻き分け1匹の獣が姿を見せた。これも見たことのない獣。馬のような4本足に肉付きよく丸みのある毛の生えた樽みたいな胴体が乗っている。樽の側面に大きく複眼みたいな目があり、前面から象のような長い鼻が垂れていた。首があるようには見えない。


「なにあれ?」


シオンが声を顰めていった。


「牙や爪は見えないから肉食獣じゃなさそう。1匹だけなら戦えそうだ。戦闘訓練になるし食糧になるかもしれない」


「え。殺しちゃうの?」


「チャンスがあれば」


「うう。殺す覚悟かあ。こういうことか」


可哀想という気持ちはボクにもある。この獣が子連れででもあったら見逃していたと思う。でもいまは獲物だ。獣は鼻を立てあたりを嗅ぎ回っていた。敵の気配を探っているのだろう。そろっと薮を出て水路を飛び越し、テラス階段の上から3段目に降りた。水を飲みにきたようだ。警戒しながら下の水辺へ降りようとして、立ちすくみ鼻を後ろへ向けた。鼻先が遺跡の入り口に向いている。向きを変え階段を登り始めた。ボクたちの位置からは距離があり、結界を出て迫ろうとしても逃げられるだろう。成り行きを見るしかなかった。


「あれ、ダンジョンの誘いに反応してるってこと?」


シオンが囁く。


「たぶん」


獣が警戒しながら入り口を入った。身体が入口の闇に呑まれた瞬間、金属擦過音が響き鈍い肉音と同時に獣の悲鳴があがる。シオンが引っかかりそうになった罠。いつの間にかリセットされていたようだ。数十秒、獣の足掻く蹄音と荒い鼻息が聞こえていた。貫いた鉄杭から逃れようとしているのだけど叶わない様子だ。そのとき別の喚声が闇の奥から溢れ出た。ギャギャギャと黒板を爪で引っ掻くような不快音混じりの奇声。獣の声が威嚇を含んだ声になる。ひときわ高まる奇声。肉を打つ打撃の音が幾重にも響き、獣が甲高い苦鳴をあげた。奇声が歓声に変わる。その瞬間。断末魔の獣の声と同時にボグっと鈍い肉音が響き、闇から蹴り出された赤茶色の小人と蹴りあげた獣の後脚が見えた。


「なにあれ?」


そう聞かれてもボクだって知らない。ゲームやコミックならゴブリンなのだろうが、地面でジタバタ悶絶する生き物はゴブリンじゃなかった。人型ではある。体型的にはチンパンジーだけど毛はなく赤茶色の鱗に覆われていた。大きな目が特徴でメガネザルに似てる。手に棍棒を持ち毛皮を腰巻きにしていた。足を引きずって立ちあがり、憎しみを露わに闇の中の獣へ向かっていく。ひとしきり殴打音が響き、息絶える獣のいななきが聞こえて静かになった。奇声のトーンは低くなったもののあいかわらずギャーギャーうるさい。そのうち奥に向かったのか声が小さくなりすぐに聞こえなくなった。


「殺されちゃったね」


頷いておく。数分聞き耳を立てたけどもう声も音もしなかった。


「ちょっと見てくる」


そういって剣を構えたまま結界を出ようとするとシオンも立ちあがった。現代日本の女子高生なら「やだー。怖いー」とか依存心丸出しで人任せにしそうな場面だけど、シオンは自分から立って同行した。殺し殺される世界だと最初に釘を刺したことが効いたのか。


「バスケ部ではキャプテンだった?」


「うん。あれ。ウチいったっけ?」


自主的に考えて動ける。この世界での生存率が大幅にあがるだろう。ダンジョンの入り口に達したが日はまだ高くて差し込まない。奥からコーヒーの匂いが流れてくる。いうまでもなく誘引の精神操作だ。お腹も満腹ないまは切実な欲求が生じないようだ。わかっていればどうということはない。横でシオンがカラオケで歌ってるみたいな大勢の声がすると呟いたが、剣はしっかり構えていた。彼女もわかっている。頷きを返してボクは剣を左手で構え、右手を自由にした。


「燦然たる軌条。太陽の雫。白陽の波動。闇を祓い標となりて導く。光灯れ」


手の平の中にピンポン玉ほどの光球が現れる。それをゆっくり前へ押し出した。上から落ちる仕掛けの鉄杭は、自動なのかあの魔物がリセットしたのか天井の穴に引きあげられている。床に大量の血溜まりがあり、獣の骸を引きずった血の筋が奥へ続いていた。魔物たちが血を踏んだ足で歩き回り、血の足跡を無数にスタンプしている。放った光球がふわふわと20メートル近く漂ってあたりを照らしたけど、通路は一本道で血の跡以外はなにも見えなかった。


「あの魔物が戻る気配はない‥‥かな。ベースに戻ろう」


ベースに戻り結界の中に入るまでふたりとも無言だった。剣を鞘に戻し傍に置いて腰をおろしたとき、ガチガチに緊張していた全身の力が抜けてえずきそうになる。胃袋まで収縮してたみたいだ。


「あんなのが中にいるんだ。あの血。真っ暗闇の中に続く血の跡。夢に見そう」


シオンがボソボソ独り言のように呟く。ボクは手汗でべったりな手の平を見つめていた。


「あんなのとも‥‥いつか戦うのかも」


つい口に出てしまった。絞って乾燥させた水葉を1枚取り出して、手の平と剣の柄を拭う。


「え。戦うって。あんなのと。マジ。殺されちゃうよ。なんで?」


「ステータスの名前の下にある職業。なんて書いてある?」


シオンが指を振った。


「冒険者?」


「うん。ボクたちは冒険者。この世界に転生後の職業は冒険者って決まってる。ボクらみたいな元学生とかただのサラリーマンとか、この世界で日々の糧を得るための技量をなにも持っていない者でもとりあえずの日銭を稼げる仕組みが冒険者と冒険者ギルドとして確立してる。救済措置だね。冒険者ギルドは転生承諾書に明記されてたから間違いないはず。専門技能を持っている人は比較的早く転職できるだろうけど、転職にだって金銭的余裕は必要だからしばらくは冒険者として稼がなくちゃならない。そうやって冒険者を続ける以上、ダンジョンに潜る依頼を受けるだろう。チュートリアルと同じなら一攫千金も狙えるし、ステータス強化の覚値稼ぎもできるから」


「そうかあ。それも戦う覚悟かあ」


「でもまだダンジョンは時期尚早だから、いつかそうなってもいいようにステータスアップの鍛錬でもやろうか。汗かくからその後で水浴びしよう」


時期尚早という自分の言葉が喉に引っかかるような気がした。


「水浴び。やる」


シオンには素振りの心得を教える。反復回数でステータスの該当項目があがるんだけど、レベルがあがるにつれ必要回数が増えていくことを具体的な回数を計算しつつ教えた。シオンは計算に心理的な苦手意識があるようだ。たっぷり1時間近くふたりで素振りを繰り返し、関連項目を1ポイントあげる。その後、それぞれ腰に結界魔導器をぶらさげテラス階段の中段から木立の中に入って立木を使った斬りつけ訓練を行なった。立木の間を駆け抜けざまに斬りつけていくんだけど、毎回同じ位置を正確に斬りつける訓練だ。最初はゆっくり駆け足で、慣れてきたら全力で駆ける。シオンはバスケのボーナスで精緻性が高く、ボクより遥かに誤差の少ない斬りつけができていた。でも、剣そのものの扱いに慣れない分まだぎこちない。


***************

名前:シオン

職業:冒険者 

年齢:17

性別:女


【ステータス覚値:0/0】

筋力:3   敏捷:9

知力:8   精緻:6

生命:5   感覚:9


筋力3 :握力+3【6】

     腕力+4【7】

     脚力+5【8】

     投擲+5【8】

     打撃+1【4】

     牽引  【3】

     跳躍+3【6】


知力8 :魔力  【8】

     思考  【8】

     集中+3【11】

     空識+1【9】

     記憶  【8】

     情報  【8】

     観察  【8】

     心象  【8】


生命5 :耐久  【5】

     免疫  【5】

     持久+4【9】

     耐撃  【5】

     抗毒  【5】

     抗老  【5】


敏捷9 :瞬発+3【12】

     神経  【9】

     反射+2【11】


精緻6 :誤差+4【10】

     筋制+3【9】

     環応+1【7】


感覚9 :遠視  【9】

     微視  【9】

     動視+1【10】

     暗視  【9】

     測視+1【10】

     微音  【9】

     音析  【9】

     音域  【9】

     微臭  【9】

     臭析  【9】

     微感  【9】

     振析  【9】

     味析  【9】

     毒感  【9】

***************


***************

名前:ミナト

職業:冒険者 

年齢:17

性別:女


【ステータス覚値:0】

筋力:5   敏捷:10

知力:10  精緻:4

生命:5   感覚:8


筋力5 :握力+3【8】

     腕力+3【8】

     脚力  【5】

     投擲  【5】

     打撃+3【8】

     牽引  【5】

     跳躍  【5】


知力10:魔力  【10】

     思考+3【13】

     集中  【10】

     空識  【10】

     記憶+5【15】

     情報+1【11】

     観察  【10】

     心象  【10】


生命5 :耐久  【5】

     免疫  【5】

     持久+3【8】

     耐撃  【5】

     抗毒  【5】

     抗老  【5】


敏捷10:瞬発  【10】

     神経  【10】

     反射  【10】


精緻2 :誤差+3【5】

     筋制+3【5】

     環応+3【5】


感覚8 :遠視  【8】

     微視  【8】

     動視  【8】

     暗視  【8】

     測視  【8】

     微音  【8】

     音析  【8】

     音域  【8】

     微臭  【8】

     臭析  【8】

     微感  【8】

     振析  【8】

     味析  【8】

     毒感  【8】

***************


陽が傾いてきたので、今日の訓練は終了し水浴びの準備に入る。結界魔導器を使い続けるのはもったいないのでオフにし、まずシオンがレギンスとブーツを脱いだ素足で水に入りジャブジャブバシャバシャ水音を立ててもらった。ボクは剣を手にして水際に倒れた石柱の上に座り、水中の崩落穴を注視する。水が澄み切っているので見通しやすい。なにか危険な大型水棲生物が音に釣られて出てくるかどうかを監視していたんだけど、気配はなかった。


「オッケー。危ない生き物はいないか昼寝してるか。とりあえず大丈夫そうだから水浴びしていいよ。でも泳ぐのはなしね。浅いところで静かめで」


「わかったー」


シオンがいったん水から出てポイポイと服を脱ぎ始める。素っ裸だ。ボクは正視できない。とはいえ目を離したりつぶったりしていて獰猛な水棲種の這いあがりを見逃したら命に関わるので、視界の端にシオンの裸を捉えながらも崩落穴を見つめてた。ときどきダンジョン入り口も眺めたけど魔物が溢れ出す気配もない。風もほとんど吹かず、日差しはあまりに快い。無事シオンが水浴びを終えた後、ボクも裸になり四角く切って折りたたんだ布地を手に水に入った。さっきまでボクがいた位置にシオンが剣を抱えて座り、ボクの裸に同性として比べる視線をチラチラ送ってくる。元男のボクの方が胸が大きいのはなにかの皮肉か。布地で身体を擦り3日分の垢と汚れを落とす。乳首に触れたときだけは気持ちよさを感じたけど、それ以外は意外と性的な感覚は生じず乳房も股間も事務的に洗えた。顔も髪も歯までしっかり洗う。石鹸もシャンプーもないけど生き返るほどさっぱりした。奥の壁際で倒れた石柱を利用して蔦を張り、水洗いした衣類を干す。食事のための薪集めしたり全天の夕焼けに感動したりしながら、そこらの雑草を触って調べる。シオンの火起こし魔法初挑戦は7回めに成功して燃えあがった。遺跡の崩れた石垣の隙間に生えていたキノコとシダ植物のキメラみたいな菌類が食用であることがわかり、煮てみるととんでもなく濃厚な出汁を出した。濃厚キノコ鍋を堪能する。


『filiko fungo。羊歯茸。低地にはあまり生えず、やや高地の日陰の土壌に菌糸によって群落を作る。羊歯に似た葉を持ち光合成も行う。食用』


夕食はそれと血ミミズの丸焼き。最後の1匹をふたりで分け合う。やや足りないので携行食スティックを4分の1齧った。後片づけが終わり、水辺の対岸で水葉芋と水葉を採取しているうちに日が暮れてきた。キャンプ場所に戻り、乾いた衣服を取り込み火のそばに座ってシオンに剣の研ぎ方を教える。といってもボクも正確な知識があるわけじゃなく、なんとなく研いで切れ味があがったやり方を伝えただけ。シオンは最初だけ真剣に研いでいたものの、ふと見やるとコックリコックリ船を漕ぎ始めていた。今日転生したばかり。訳もわからないうちに獣に襲われたり怪我したり、かなりな森の道を強行軍で歩いたり、ボクに拒絶されたり仲間になったりと目まぐるしく肉体的にも精神的にも疲れ果てたのだろう。


「疲れたみたいだから眠ったほうがいいよ。剣は鞘に戻しておいてあげるからブーツは脱いで寝なよ」


「うん」


やけに素直にいまにもくっつきそうな目をしばたかせ、シオンはブーツを脱いで外套の上に横になった。お節介だったけどシオンのヒップバッグを枕の代わりに頭の下にあてがい、外套の端を身体にかける。もうシオンは深く寝入っていた。結界魔導器があれば見張りは必要ないしボクもほどよく疲れていたから眠ってもよかったのだけど、ぼんやり考え事しているうちに目が冴えてしまった。満点の星空と半分の月。何度見ても見飽きない。胸の奥にあるシコリのような違和感を掘り起こそうと試みた。さっき喉に詰まった「時期尚早」という単語を舌先で転がす。喉の詰まりの理由はわかった。かたわらで眠るシオンを見やる。寝返りを打って外套をはだけ、大の字になっている。


「朝になったら謝らなくちゃな」


呟いて寝転がる。そのうちにボクも寝入ってしまった。


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