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23.ありふれた「 後悔」と「手遅れ」と「愛の形」


大型目玉トカゲが長い腕に握った剣を差しあげれば、ゆうにシオンの身長の倍を超える。ロングソードから噴き出す魔力も大火事並みだった。青い大火事がふっと消える。大型目玉トカゲは半歩踏み出し、晴眼に構えた。シオンは双剣を逆手に握り、身体の後ろに回して相手の視界から隠している。シオンが空気を揺るがせて前に出た。大型目玉トカゲの踏み出した右膝と構えた剣を保持する左手指を双剣が狙う。大型目玉トカゲは左手を剣の柄から外してかわしつつ、右手で剣を回転させて膝を狙った剣を受け流した。シオンもそれでたじろぐほど初心者じゃない。受け流された剣の勢いを殺さず1歩踏み込んで大型目玉トカゲの首を狙う。すっと大型目玉トカゲの頭が引かれ、シオンの剣は空を斬った。左手指を狙ってすかされた剣が下軌道でさらに大型目玉トカゲの膝を狙う。その剣を弾いたのは大型目玉トカゲの尻尾先端の金属キャップだった。剣を振る。かわされる。いき過ぎた剣を引き戻す。そんな動作の連続に生じる一瞬の停滞。それが隙となるが、双剣の場合その合間をもう一方の剣撃で埋めることができるため隙が小さくなる。だけどそれは相手の回避行動の素早さ、自身の疲労による筋力と集中力の低下、無意識で取っているリズムの狂いなどで噛み合わなくなる瞬間が生じる。シオンの12撃目でかわされた剣がわずか0.1秒止めきれず滑った。その0.1秒の隙間に大型目玉トカゲの反撃が滑り込む。というより受けがそのまま攻撃になる攻防一致の動作だった。なにげなく突き出された剣先が、そこに鞘があるかのようにスルッとシオンの鳩尾に滑り込む。鈍器に等しい斬れない剣先が圧倒的な力だけで革鎧の革を突き破り、肉に滑り込み胸骨を割り砕き肺の下部と胃の上部と左の腎臓を突き破って背中に抜け出した。鍔元まで滑り込んだ剣に縫い止められシオンの身体がだらりと宙に浮く。


「シオン!」


大型目玉トカゲが剣を振ると、貫かれたシオンの身体が糸の切れたマリオネットのように剣から振り払われる。血の筋を引いて空中に投げ捨てられ、橋から飛び出した。シオンが貫かれた時点で走り出していたボクは、その瞬間テラスの縁から大ジャンプし、空中でシオンの身体をキャッチする。脳内で重力魔法陣の構成呪文を微修正し、重力加速度の方向を捻じ曲げた。青い魔法球体に包まれたボクとシオンの身体が、真横に「落ちて」テラスへ着地する。ふたり分の体重がボクの足に集中したけど、脚力27でなんとか持ちこたえた。着地して魔法陣操作から解放された瞬間に、ボクは用意して構えていたポーションの蓋を親指で弾き飛ばし、半分をシオンの鳩尾の傷に流し込む。残り半分を口に含みシオンの唇から送り込んだ。お互いこれがファーストキスだけど、緊急事態だから許せシオン。シオンの喉がコクリと鳴り、次の瞬間クオオオっと喉を鳴らして止まっていた呼吸が始まった。傷の修復もほぼ終わっただろう。なんてったってグレードIIだもん。40万円の効果は素晴らしい。


「なんでポーションってこんなに不味いの?」


下から聞き慣れたシオンの声。そういわれて初めてボクの口もポーション味なことに気づく。


「間にあった。よかったー。ぶん殴ってでも交代させればよかった」


「ええカッコしい‥‥しなけりゃよかったよ。身体の中をぶっとい剣が突き抜けてく感触ときたら。もう2度とごめんだよー。しかし、痛いじゃなくて、ドンって叩かれた感じなんだね。そのあと鳩尾をゲンコツで殴られたみたいっていうか。後からじゅわわわって刺された所が熱くなるけど、身体はゾゾゾゾって寒気がするのよ。息はできないし気持ち悪いし。まいったー」


「ミナト。ノア。次は自分が行く。あのボスは強い。自分たちじゃ敵わない相手なのかもしれない。でもまだ諦めるには早すぎるよな。自分が粘るだけ粘って動きを引き出すから観察して弱点を見つけてくれ」


そういい置いてラウリが橋へ登った。双剣を差しあげ、大型目玉トカゲのそれにも負けない青い魔力の炎を纏わせて消す。シオンの瞬発値は47、ラウリのは44。神速なのはどちらも変わらない。シオンは強敵との2連戦で消耗していた。ラウリはフルチャージな上、復讐心にたぎっている。普通の人なら復讐心が強すぎると頭が働かず動きが単調になりかねない。けど、ラウリは性格的に熱くならない。怒れば怒るほど逆に冷静で怜悧で冷酷になるタイプだ。1本橋の上という動きの制限がきつい場所で足先から頭頂までありとあらゆるところに連続攻撃を加え、大型目玉トカゲの反撃をかわし、いなし、流し、受け流していく。その手数124撃。その内12撃が大型目玉トカゲにヒットしたけど、8撃は鎧に阻まれダメージにならず、3撃は深く入ったけど筋肉の束に阻まれた。最後の1発は大型目玉トカゲの右脇の下を切り裂き出血させる。だけどどれも致命傷にはならなかった。大型目玉トカゲの反撃は44撃。有効打は3回。1撃はラウリの頬を切り裂き出血させ、1撃はラウリの脛当ての金属で弾かれ、そして避けきれなかった3回目の被弾はラウリの右肘関節を砕いた。負傷した瞬間、ラウリは大きく後ろに飛び間合いを取って剣を地面に置く。置いた剣を自ら回収して自分の足で戻ってきた。


「すまん。これが精一杯だ」


「謝ることじゃないよ。ラウリ。物凄く参考になった。ボス目玉トカゲの動きの癖がだいぶわかったよ」


ボクの動体視力34と観察力56と集中力57をフルに発動して見ていた。あの大型目玉トカゲのレベルは、恐らくボクたちより最低60は上だ。筋力も知力も生命力も敏捷性も精緻性も感覚も軒並み10ポイントは上いってる。概算的に計算すると現状のボクのレベルは123。つまり初期獲得値の40を足して163ポイントを6つのステータスへ任意に振り分けてるんだけど、簡単にするために均等に振り分けたとしたら各ステータス値は27ポイントになる。1ポイントあまるけど概算なんで切り捨て。ステータスが27ポイントってことは17歳女子各種能力平均値の約3.7倍になってる。これが大型目玉トカゲの場合、ボクよりも全部のステータスで+10になってるとしたら各ステータス値は37ポイント。トカゲは人間じゃないから実際の基礎値は人類女子の平均値じゃないけどわかりやすくするために同じだとして、17歳女子各種能力平均値の約6.1倍になる。力もスピードも動体視力もなにもかもがボクの1.65倍になる。例えば打撃力の基礎値は60kgでボクやシオンだと222kgでぶん殴れるけど、大型目玉トカゲは366kgで殴り返せるってわけ。剣速にしても素人が剣を振りおろすスピードは平均で秒速8m。これがボクだと秒速29.6m。でもボス目玉トカゲだと秒速48.8mにもなる。このままじゃ勝てない。でも、ラウリのおかげで攻略のヒントが見つかった。ビビが栓を抜いたポーションを手渡している。グレードIIIだ。ラウリはグイッと半分飲み、残りを赤黒く内出血が始まっている肘に塗りつける。とたんにクキッ、パキッっと砕けた骨と軟骨の再生が始まった。ポーションの鎮痛効果で痛みはないものの、身体の中で勝手に骨が鳴るのは気持ちいいもんじゃないだろうな。ノアが立ちあがった。バスタマンテさんからカイトシールドを借りようとしている。


「ミナト。俺はラウリほど敏捷性はないが、耐久力はある。ボス目玉トカゲの体力を削いでくる」


「いや。待って。なんか見えた。あのボス、ボクたちよりレベル上だよ。いまのままノアがいっても無駄に怪我するだけだと思う。えーと。『断剣』の皆さんは知らないだろうからいうんだけど。えっと。あらためて言葉にするとなんか恥ずかしいんだけど。ボクのモットーって『無理なく楽して逃げもあり』なんだよね。でも。このままだと無理して痛い思いしてもあのボスに勝てない」


「ミナトって正直だねー。じゃ、逃げる?」


シオンがいちばんボクをわかってる。


「普通なら逃げるんだけど、ちょっとズルだけど勝てる手を思いついちゃったんで、それでいこーかなーって」


「え。勝てる手?」「ちょっとズル、ってなに?」「ホントかよ。あの化け物に?」「どうやって?」「勝てるならいいんじゃないか?」とか口々にどよめいたので手をあげて制した。


「えっとね。あのボスはボクたちよりレベルにして60くらい上なんだよ。だから基礎的な能力差で勝てないんだ。んでね。基礎的な能力をいまからあげてボスより『能力増し増し』にしたら勝てるでしょ」


「そうかもしれないけど、どうやってレベルあげるのかなー。これから20年くらい修行するとか?」


「チッチッチ。シオン君。君やみんなの腕でチャラチャラ光ってるのはなにかな?」


シオンが右腕をあげて眺める。


「そっちじゃないよ。左手だし」


「こっちか。ん。あ。わかった。腕輪か!」


「正解。全ステータス+5アップの腕輪。みんな着けてるから、ボクの以外に5個あるでしょ。全ステータスが+5ってことはレベルに換算したら30。それが5個ってことは150レベルあがるってことと同義ね。ボスよりざっと90レベルは上になれる。ね。勝てそうでしょ。ずるいけど」


「ずるったって、さっきまでみんな着けて戦ってたし。中型とかあのボスだって何個もつけてるよ。あれ絶対能力アップの腕輪だよ」


ビビがそういってくれてちょっと気が楽になる。


「そういうことか。よし。じゃあ。俺がみんなの腕輪を借りていく」


ノアが俺とかいうときって、優しさ発揮とかで気恥ずかしいときに多いんだよね。


「いや。ボクがいくよ。レベルが上をいくったって概算だし、戦闘はレベルだけじゃないし。それにあのボスの戦闘スタイルはノアと相性が悪いと思う。ラウリの粘りのおかげでボスの動きの癖がわかったし、なによりボスの弱点がわかった。と、思う」


「弱点?」


「じゃあ、俺に教えてくれたら俺がいく、って顔してるけど教えないよ。動きの癖なんて感覚的すぎて教えてらんないし。弱点にしてもまだ確証じゃないしさ。もし違ってたらカッチョ悪いからいわない。実際のところ、戦って試してみないと」


「うーん。参ったな。わかった。だけど絶対無茶するなよ。逃げるのもありだ」


そういいながら腕輪に指で触れ、魔力を通して直径を広げて外す。


「ほら」「ほい。持ってけ泥棒」「はい。気をつけてね」「やっぱりミナトはミナトだな」との言葉をもらいながら腕輪をもらう。ビビからは2個。シオンからは以前分配した生命の腕輪+5まで受け取る。全部を左手に通し収縮の魔力を込めるとリングがボクの腕ぴったりに収縮して嵌まり込んだ。とたんに人前で悶えさせるほどのレベルアップ快感が襲ってくる。頬がほくほくに上気してしまった。凄いぞ。世界が3倍増しでクリアになった。60m向こうのボストカゲの鱗の1枚1枚まで見える。ひとりひとりの発するアドレナリンの匂いすら感じるし、息づかいや鼓動すら感じられた。全身に魔力と気力がサイクロンみたいに渦巻く。筋繊維の1本1本が力に満ち溢れ、身体が羽のように軽くしなやかだ。脳内でイメージした通りにミリ単位の精度で身体が動く。凄い高揚感を覚えると同時に高性能コンピュータが高速演算しているような冷静沈着さも感じた。知力もあがっているわけで、レイ男爵の遺した殴り書きに書いてあって意味不明だった理論がスルッと理解できるようになってたりする。


「うわお。なんかすっごいよ。でも。これなら勝てる。たぶん」


脳が勝手に動き出して、対大型目玉トカゲ用戦術シミュレーションを自動演算しちゃったりした。瞬時に287パターンの戦法が検討された結果、最適なパターンだろうと思える戦術を採用する。その帰結としてロングソードは使わないことにした。みんなは驚いたけど説明すると長くなるのでシオンを真似て親指を立て、ベルト腰裏に付けた魔剣ナイフだけ持って橋に登る。ボス目玉トカゲは橋の真ん中でどっしり座り込み、文句もいわずに待っていてくれた。待たせてごめんの意を込めて優雅に一礼。魔剣ナイフを差しあげ、ちょびっとだけ魔力を込めて青く光らせすぐに魔力を抜く。俺は強いんだぞアピールで魔力を盛大に噴きあげるのは、なんというか虚仮威こけおどしにしか思えないので割愛。


「えーっと。この度は大切な仲間の、特にシオンを思いっきり痛い目に遭わせてくれて結構ムカッとしております。右の頬を打たれたらグーで頬骨を100発殴れ。がボクのモットーなんで、仕返しに痛い目に遭ってもらいます。ちょっとズルかもしれませんがルール違反じゃないんで、そこんとこよろしく」


極上の美少女スマイルを振り撒きながら口上を述べた。逆手にナイフを構え、腰を落とすのが開始の合図になる。大型目玉トカゲって対峙するとマジにでっかい。顔を見ようとすると首を寝違えそうなので漠然と全体を見てた。大型目玉トカゲはボクを女子供とは侮らない。ナイフ1本で体格1.5倍の相手に挑むからにはなにかある、と警戒して慎重になっているようだ。まあ、なにかないとナイフ1本じゃ普通立ち向かわないよね。大丈夫ですちゃんとなにかあります。すぐ見せてあげましょう。能力で優っているとわかってて、研究もして弱点を見つけていてもそれでも怖いと思っちゃうボクは根っからのチキンなんだよね。ジリっと間合いが詰まる。目が眩むから下は見ない。じわっと汗が出る。当然だけどボクの間合いより大型目玉トカゲの間合いの方が遥かに広い。ボクの爪先がその境界線を超えた。前に出した脚に力を込め体幹の筋肉を緊張させ、右肩の筋肉に一瞬だけぴくっと力を込める。大型目玉トカゲの剣先がボクの動き、動きというより動く前の予備動作に呼応して持ちあがり、ボクが右に突っ込みながらナイフを振るときに取る未来位置を横に薙いだ。けど、その位置はフェイント。クネっと身体を柔く弛緩させ、上体を落として大型目玉トカゲの初太刀しょだちをかわす。右に行くと見せかけて左に滑る。橋の幅60cmギリギリの位置でほぼ爪先立ち、バレリーナみたいに身体を半回転させ背中から大型目玉トカゲの開いた右脇に嵌まり込んだ。密着成功。ほら。思った通りだ。大型目玉トカゲって真っ正面から力任せっていう無骨さが基本性質で、小狡いフェイントは肌に合わないのだろう。巨大な目玉で戦う相手の筋肉の動きや目の動きを先読みし、ノーブルな未来予測による正攻法を好む。なもんでボクみたいな狡いヤツがフェイントを仕掛けると釣れる釣れる。フェイントに弱い。これが大型目玉トカゲの弱点。検証確定だ。


さて、密着成功。目玉トカゲさんは、感度増しのボクの鼻にはほんのわずか鉄錆臭い。それと焚きしめたのかハーブ系のいい匂いもした。意外と洒落者の魔物だ。まさか懐に潜り込まれるなんて予想していなかった大型目玉トカゲさんは、いままでの尊大な風味をなくしちょっと焦ってる。長い手脚が邪魔をして懐に入られると動きがぎこちない。ボクを斬ろうとして不用意に刃を向ければ自分を叩いちゃう可能性がある。密着した相手にはロングソードという剣の長さが邪魔にしかならないんだよね。ボクはといえば目だけじゃなく密着した部分の皮膚感覚も使えて、大型目玉トカゲが左手の鉤爪でボクを引っ掻こうとしつつ身体をぶつけて横に弾き飛ばそうとしてるとかがわかりやすい。鉤爪攻撃は身体を沈めてかわす。沈める反動で持ちあげた左足を全力で蹴り出し、大型目玉トカゲの膝を横から蹴り抜いた。大型目玉トカゲの身体を通してグキッというイヤーな音が聞こえる。膝が可動域じゃない方向にくの字に曲がった。最低でも亜脱臼か靭帯損傷は与えたはず。大型目玉トカゲの喉奥がグッと鳴って身体が前傾する。ボクの脳内シミュレーション通りに大型目玉トカゲが動いてくれ、ボクの動きもピッタリ決まった。ボクを引っ掻こうと鍵爪を自分に向けたことで脇が空いている。腹や脇の鱗は白く柔らかく、魔力を抜いたナイフでもその尖った形状だけで突き刺したりできる。そしてそこにはラウリが身を挺して作ってくれた傷跡があった。でえい。腕輪増強した筋力のおかげでナイフの柄までぐっさり刺さった。


「シオンのお返し」


右脇の激痛に耐え、嵌まり込んだボクの質量を振り払おうと大型目玉トカゲが身体をぶつけてきた。その動きも予想していたし、大型目玉トカゲの筋肉の動きでタイミングも察知もできてる。大型目玉トカゲのベルトをつかんで身体を投げ出すようにして避けた。橋から飛び出して宙ぶらりんになりつつも大型目玉トカゲの背後に着地する。丸められた背中に跨り、振り立てられた尻尾の刺突は魔剣ナイフで払った。身体を揺られても振り落とされないよう、ロデオの要領で跨った脚を絞めて身体を固定する。上体をバネのように反り返らせ、勢いに体重を乗せて大型目玉トカゲの鎖骨の隙間にナイフをぶっ刺した。


「シオンのお返し。パート2」


大型目玉トカゲは苦鳴をあげながらも背中のボクを尻尾の刺突で攻撃してくる。と同時に左手のロングソードを自分にぶつける覚悟で振り殴ってきた。この攻撃もシミュレート済み。ボクは肩に埋まって固定された杭みたいになってるナイフを手がかりにして、身体を前に投げ出す。大型目玉トカゲの肩口でオリンピック女子体操選手並のロンダートを鮮やかに決め、身体を2分の1捻った。柄を左手で握り全体重を刺さったナイフにかけて大型目玉トカゲの前にぶらさがる。自由な右手で大型目玉トカゲの頭を抱え込み、ありったけの腹筋力と背筋力を使って膝を突きあげた。脛当て付属の金属製膝カップが大型目玉トカゲの顎をかちあげる。身体が羽のように軽く、思い通りに動く快感。その一撃で大型目玉トカゲ意識を刈り取った。巨体がそのままぶっ倒れると橋から落ちてしまうので、大型目玉トカゲの膝が橋床に着いた時点で自分もろとも大型目玉トカゲを重力魔法球で包む。勝ったぞ。やったね。気を抜いた途端、急にアドレナリンの反動がきて膝がガクガクし汗が噴き出した。なんか呼吸もうまくできず、大きく深呼吸して反動を鎮める。穴の空いた風船人形になった気分で、どこかの穴から気力が盛大にダダ漏れしてく。ヘナヘナと座り込みたくなったけど痩せ我慢した。


無重力にしても慣性は消えないんだけど、腕輪裏技で筋力もあがっていたからなんとか橋向こうへ運ぶ。橋向こうのテラスに大型目玉トカゲを横たえた。魔法の繭を消し、大型目玉トカゲの肩口からナイフを抜くと紫がかって赤黒い魔物の血がドロドロと溢れ出す。魔物といえど正々堂々と勝負した相手だし、シオンに痛い目を見せた仕返しは済んでたので出血多量とかで死なせるのは寝覚めが悪い。などと考えて手当てすることにした。とはいえどうやって手当てするんだろう。ボクらにとっては生命エネルギーの注入が怪我の修復になるんだけど。ボクらにとっての生命エネルギーは魔物にとっての魔素エネルギーにあたると設定資料集にあったのを思い出す。てことは魔物にとっては魔素エネルギー注入が治癒につながるんじゃないかな。試みにいまナイフを抜いた傷口に魔力をファイヤーボール1個分ほど注入してみた。出血が止まり傷口がジュクジュクと縮小していく。方法論は合ってるみたいだ。ファイヤーボール3発分の魔力注入で肩の傷はキレイになった。同じようにして脇の傷を治療し、最後に損傷している膝に魔力を送り込んでいたら大型目玉トカゲが意識を回復した。勝手なことして、とか怒り出したら面倒だなと思いエネルギー注入を止める。大型目玉トカゲが不思議そうに自分の肩と膝をさすっていた。


「おっはよう。勝負はボクの勝ち。なのでここを通してもらうよ」


いいながらテラスの奥に開く遺跡の口を指差す。


「ゴッ。ギャガッツング。ラッシュ。ギャシャ」


なんていってるのかわからなかったけど、敵対的な感じじゃない。大型目玉トカゲがギクシャクしながら身体を起こしあぐらをかいた。気絶しても握ってたロングソードを前に置いたのは戦闘意志の放棄を表してるのかな。後ろから遠く声が聞こえたので立ちあがって橋を振り返った。心配したビビやシオンが橋の途中まで渡ってきてる。


「おーい。こっちきてもいい感じだよー」


メンバーが移動してくる間、暇なのでボス以外の目玉トカゲの怪我も治してあげた。善行は積むものです。置いておいた荷物と全メンバーが橋のこっち側にきても目玉トカゲ族と戦闘になることはなかった。よかったよかった。そうなったら恥ずかしい人間風船爆撃機にならなきゃいけないからなあ。平和がいちばんです。剣とリュックを背負い外套を羽織って移動準備完了。移動しようとしたところにボスがやってきた。ジャラッと自分や中型目玉トカゲがしていた腕輪の束を差し出す。17個もあった。魔物相手に遠慮パフォーマンスとかしても奥ゆかしいなんて思ってもらえないだろうから、無駄なリアクションなしで素直に受け取る。触って確認してみると全ステータス+2の腕輪が12個、生命+5の腕輪が5個だった。最初の約束通りダンジョン内で見つかった物はすべて『断剣』さんの所有にするってことで渡そうとしたら断固辞退される。「最初からの約束ですから」「いえいえ。ここまでこれたのも目玉トカゲに勝てたのも、すべて『妖精と牙』の皆さんのおかげじゃないですか」「いやしかし皆さんのクエストに割り込んでるんですから」「割り込んでもらってなければ全滅してます」などなどのやりとりをしていたら、小型目玉トカゲが2匹で宝箱を運んできた。中には金貨が20枚と魔石多数が入っていた。これも辞退しようとするとさらにややこしい押し問答が始まっちゃったので妥協することにした。あくまでもボクたちは助っ人で介入者でお邪魔虫なんだから、全ステータス+2の腕輪をメンバー5人に1個ずつもらって残りは全部『断剣』さんが獲得するってことでなんとか納得してもらう。


「よし。みんな出発準備はいいか。時間が惜しい。強行軍だけど先に進むぞ」


バスタマンテさんが出発指示をする。シオンの姿が見えなかったので見渡すと、テラスの奥に固まってる目玉トカゲの集団の前で、副将を務めた中型目玉トカゲとなにやらハンドサインで会話してた。


「おーい。シオン。出発するよ」


とボクが呼びかけると、「はいー」と返事して駆け寄ってくる。


「なに話してたの?」


「やっぱ、中型は雌でボスの雄目玉トカゲとツガイになってるんだって。目玉トカゲは一夫多妻制なんで七将を勤めた中型目玉トカゲが第2夫人らしいよ。小型はみんな子供だって。まあ、それは余談なんだけど。帰り道もここを通ることになるし負傷者がいる可能性があるから、そのときは勝負とかなしで通してねってお願いしといた。賄賂も送ったし、オッケーみたいだよ」


「賄賂?」


「うん。グレードIVのポーション10本あげといた。なんかね、私たちには回復効果だけど、魔物には強精効果があるみたい」


強精効果があるってことの意味わかってるみたいだね、この女子高生。ボクたちは出発し、ダンジョン5階層の石畳通路に入った。闇に目が慣れるまで待って行軍開始。ダンジョンとダンジョンが合体したせいなのか通路内の魔素濃度は高く、豆電球程度の光を空間全体が発しているので歩きやすい。しばらくは通路を適当に進んだ。行き止まりに出くわして引き返すこと8回。『断剣』のメンバーはあまりにも行き当たりばったりに進むもんだからボクの指示に疑問が出てたようだけど、闇雲にうろうろしていたわけじゃないんだな。1時間歩いたあたりでいままで歩いた道筋のパターンが、ボクの脳内マップに記憶された5階層迷路状通路の1部分にピッタリと嵌った。


「よし。現在位置がわかりました。『黒い森の井戸』本来の5階層迷路状通路エリアの半分くらいの位置にいます。以前ここを通ったときエコーロケーションを使って感知できた範囲の通路マップを作ってあったんで、いま歩いて得られたパターンを重ね合わせて同定できました」


「マップを作ってあったって、さっきから1度もマップ広げてなかったでしょ?」


ニコレさんが目を丸くしてる。


「あ。ボク、こっちにくる前の唯一のアビリティボーナスが記憶力なんですよ。通ったところの情報を頭の中のマップに取り込んだらだいたい忘れないんで、迷子にはなりません。ボクたちはいまこの前通った通路とは100mくらい離れた比較的近い場所にいるんですけど、道が1直線じゃないのであと30〜40分くらい戻ったり曲がったりして進むと広大な碁盤の目状通路に出ます。タルハンさんはそのエリアのどこかの小部屋に避難してると思われます。もうちょっとです」


ボクたちは先を急いだ。目玉トカゲとの試合で2時間くらい足止めされたけど、普通に3階層から4階層を通って5階層にくるより半日は短縮できてると思う。先頭にビビが立ちシオンがバックアップについて先行探索する。ニコレさんが先行探索を見たいというのでシオンのすぐ後ろに位置取った。その後にボクと『断剣』メンバー。最後尾にノアとラウリ。エコーロケーションを駆使しながら、ビビが駆け足に近い速度で迷路を進んでいく。ビビも記憶力35まであがってるから、ボクの進行指示を1度聞いただけで完璧に動けている。ビビとシオンの軽快な足音を耳じゃなく足裏で感じ聞いていたけど、15分駆けたところでそれが停まった。ボクは後ろに停まれの合図を出し、ニコレさんを追い抜いてビビとシオンがなにやら這いつくばっている所まで歩く。


「どしたの?」


「うーん。なんかよくわからないんだけど、ここから先の通路がなんかモヤッと感じられるの」


ビビがそういいながら地面を前から横から角度を変えて見ていた。モヤッと?


「なんかねー。道が濡れてるときの感じなんだよね。でも目で見ると濡れてないのよ」


シオンが立ちあがって膝の埃を払う。


「‥‥標となりて導く。光灯れ」


シオンが手をかざして呟く。光球が現れた。それを松明のように差しあげて床を眺めながらゆっくり歩く。確かにシオンの足音がちょっと鈍ってるような感じがする。


「どうした?」


後ろからラウリの声が響く。


「なんか、目で見るとなんでもないんんだけど、エコーロケーションだと床がなんか薄膜で覆われてるみたいなんだよー。ま。大丈夫そう。なんかあそこに塊みたいのあるね」


そういいながらシオンがさらに1歩踏み出した。


「シオン。気をつけて」


というボクの声とラウリの声が重なった。


「それ風呂敷花だ!」


ボクとラウリの声がダブって聞こえたのだろう。


「へ?」


と振り返るシオンの周囲が、爆発したみたいに吹きあがった。ヒュパシ。っていう乾いた音が通路に響く。


「むきゅ!」


瞬発力49、反射神経48。常人の約10倍のシオンの敏捷性でも逃げられなかった。衝撃波が発生するほど、もしかしたら音速を超えているかもしれないほどの動きで風呂敷花の透明な薄膜花弁がシオンの身体に巻きつく。シオンは棺に収められたミイラというかラップで巻かれた太巻きのように頭まで全身ぐるぐる巻きにされて棒のように直立した。あまりの強力な締め付けでピクリとも動けないようだ。


「あ。これが風呂敷花か。見ると聞くとじゃ大違いだな」


知識としては前回のダンジョン潜りの際にノアたちから教えられていた。30秒以内に助け出せば大丈夫とわかっていたので慌てない。30秒を過ぎるとラップ巻きの内側で発生する触手が全身の穴という穴から体内に侵入し、酸素は供給されるものの肺や腸内に根を張られてしまう。こうなると諦めて風呂敷花の養分となるか、大都市の教会附属施術院で金貨10枚っていう法外な料金を払って治癒慈法による除去をしてもらうしかない。ラウリが双剣の1本を抜いて魔力を通し、風呂敷花の根元を切断した。倒れかかるシオンのラップ巻きを受け止め床に寝かせる。腰から普通のナイフを抜いてラップを切り開いていく。こういう作業には手応えがなくて切り過ぎてしまう魔剣ナイフより、手応えのある普通のナイフの方が加減が可能でグッド。頭を包んでいるラップを切り開いて引き剥がすと、すでに鼻の穴から数cm入り込んでいたひげ根がズルズルと引き出される。シオンが盛大にクシャミと咳を始めた。


「いい加減その考えなしに行動しちゃう癖、やめないとなあ」


そう苦言を呈したけど、クシャミに忙しくてぜんぜん聞いてないし。まったくもう。ラウリが引きちぎった破片に触っておく。


『envolvanta folio floro。風呂敷花。魔界の生物。ダンジョン内の通路や部屋の床などに4m近い透明の花弁を拡げ獲物が踏むのを待つ。獲物が触れると音速を超える速さで捲れあがり獲物を包み込んで餌にする。捕獲された獲物は全身の穴からひげ根を送り込まれ体内に根を張られる。肺に侵入したひげ根から酸素は供給されるため、ミイラ化して絶命するまで長期間生きながらにして体液を吸われ続ける』


「パーティなら誰かがこれに包まれても残ったメンバーが救出してくれるでしょうけど、ソロで潜ってたら生きたまま肥料になるしかないのね」


ビビも触って知識ベールを剥がしながら呟いてた。でへへー、すいませーんと謝りながら水葉で顔を拭き鼻をかんでいるシオンを急かして先へ進む。その後は敵対生物と遭遇することもなく、2ヶ所の罠を回避しただけで以前に通った道に入れた。広大な碁盤の目状通路だ。バスタマンテさんにタルハンさんのタグを出してもらい床にチュークで印をつけて方向と角度を調べる。さらにワンブロック移動してもう1度方向と角度を調べる。これで三角測量の原理でタルハンさんのいる場所の位置がわかる。タルハンさんは碁盤の目状エリアの奥側、ボクたちの現在位置から47ブロック北に29ブロック西方向に進んだ位置にいた。その位置が部屋なのかどうかはわからなかったけど、おそらく部屋に閉じ籠り結界魔導器を使っているだろう。延々と続く10字路。直角に交わる通路の角からいつ魔物が飛び出してくるかわからないので、急ぎながらも慎重に進む。先頭は交代してラウリ。シオンはノアのいる最後尾にさがって後方警戒役を自分から希望した。大怪我と包まれショックのせいで気力が落ちたみたいだ。北に12ブロック進んだ角でラウリが壁に張りつき後続に『停まれ』のサインを出した。


「動体反応多数。恐らく向こうにも気づかれてる。大きさと動き回る感じから蟲系だと思う」


「こっちにきてる?」


ニコレさんがラウリの横で壁に耳を当てて囁いた。相手に気づかれてるなら声を潜める必要はないんだけど、なんとなくそうしちゃうもんだよね。


「いや。気づいてはいるだろうが押し寄せてはきてないな。こっちが感知すると同時に近くの個体のいくつかが動き回るのをやめて向きを変えた。恐らくこっちを向いて警戒している」


「なんだろう。蟲だとしたら連結蟲かしら?」


とニコレさん。


「連結蟲ならシャクトリムシみたいにもっと動きが大きい。『黒い森の井戸』でそれ以外の蟲といえば‥‥いちばん厄介なやつかもしれない。もし『鉄砲芋虫』だったなら、自分もまだ遭遇したことはないんだが、酒場で聞いた話通りなら迂回した方がいいかもしれない」


「チラッと見てみましょうか?」


とビビ。


「いや、やめた方がいい。もし『鉄砲芋虫』だったとしたら、チラッと顔を出すだけでも瞬速で顔のど真ん中を撃ち抜かれるって話だ。ライフル並みのスピードと正確さで弾を発射してくるらしい。酒場話だから大袈裟かもしれないが。普通は単独か2体ペアでうろついていると聞いたが、こんな群れでいるなんて聞いてない。この数は異常だ。一斉に撃たれたらマシンガン並みになる。危険すぎるよ」


なんていうか。さすが元軍隊経験者っていうか。銃器に関して、ラウリの言葉はプロの重みがある。


「迂回してもまた別の群れと遭遇するかもしれないし、まずは正体を確かめよう」


ボクが提案する。


「そうね。どうやって?」


と、振り返ってニコレさん。


「『鉄砲芋虫』だとしたら、なにか囮を放り投げて撃ってくるか確認すればいいんじゃないかな?」


ボクは外套を外してリュックをおろし、中を漁って水筒を手にした。ヒップバッグからロープを取り出し水筒に結ぶ。結ぼうとしたけどうまくいかない。不器用なんだよボクは。見かねてビビが代わってくれた。


「できたわ。これを放り投げればいいのよね」


「うん。落ちたら引き戻して」


「わかった。行くわよ」


クルクルと何回か回してアンダースローで放り投げる。プシッ。プシッ。プシッ。プシッ。プシッ。とほぼ同時に圧縮された空気が噴き出すような音が5回。奥の壁が石の破片を散らし、1発が見事に水筒に当たって弾き飛ばした。引き寄せてる間にも周囲の床がビシバシと抉られまた1発が命中して水筒が弾かれる。手元に戻した水筒は大きくひしゃげ、直径1cmの穴が開いて中の水がこぼれていた。


「間違いなく『鉄砲芋虫』だ。しかも宙を飛んでる小さな水筒に当ててくるなんて」


水筒ご臨終。水筒は捨て、ロープだけ回収する。


「で。迂回するか?」


「うーん。もうちょっと調べる」


ボクは角ギリギリまで進んで床に耳をつけ手が角から出ないギリギリの角度でパチンコ玉を放り投げた。プシッ。プシッ。と2発狙い撃たれたけどパチンコ玉には当たらず地面に落ちる。ブワッと音響画像が頭の中に広がった。


「ひいふうみいっと。全部で34匹。いまのパチンコ玉の音でさらに6匹が警戒狙撃態勢に入ったね。うーん。なんとかなるかな。ノア呼んで」


後ろに控えてたビビに告げる。ノアと何故かシオンまでやってきた。鉄砲芋虫について簡単に説明し、それから戦術を話す。


「えっとね。ノアとラウリで順番にこっちの角から助走をつけてあっちの角の向こうまで大ジャンプしてくれるかな。そのときに撃ってくる鉄砲芋虫の弾は魔法シールドで防御して。ボクとシオンとビビで3重の球状シールドを張ってさらにブロックすれば、全員知力ステータスの魔力値があがってるから各シールドで最低でも弾3発は防げるはず。全部で4枚12発は防げる計算。警戒してる『鉄砲芋虫』は11体だから11発なら大丈夫でしょう。水筒さんの尊い犠牲で連射できないのはわかったしね。で、空中を飛んでいる間に火炎弾ランチャー撃って。ノアに続いてラウリも飛んで、いって戻って各1発ずつ計4発撃ち込めばだいたいは焼き払えると思うんだよね。幸いここは碁盤の目状の通路が広大に広がってるから風抜けよくて酸欠にはならないだろうし」


「わかった。やろう」


ノアとラウリが装備を外し始める。リュックに括りつけてあるランチャーを外し、角から助走距離分離れて前傾姿勢を取った。


「シオンとビビは呪文詠唱。5からカウントダウンするよ」


『妖精と牙』のメンバーが全員気合のこもった返事を返す。


「5、4、3、2、1、0!」


角を中心として直径20mの球状魔法シールドが展開される。世界が薄青く輝いた。だっだっだっだ。と重い足音。ふんっと気合いの息が聞こえてノアの大きな体躯が巨大な放物線を描いた。プシッププッシシップシッププシッシッププシッ。多重発射音。魔法シールドが青い雲母の薄片状に弾け、最後にパキーンと破れ砕けて煌めき消えていく。しかし最後のボクの魔法シールドは破れなかった。シュポンと抜けた音が響きノアの体躯が向こうの角を超えて着地したとき、ドグゥオっとお腹に響く音がして通路の奥から火炎が吹き抜けた。


「5、4、3、2、1、0!」


続いてラウリが走り出す。今度は8発の応射しかなかった。2枚目のシオンのシールドが持ちこたえる。そしてシュポン、ドグゥオっと火炎が吹き抜ける。ボクは向こうの角で次のジャンプを準備するノアに声をかけた。


「2発で充分だったかも。念のためにできるだけ奥にもう1発撃ち込んで様子見よう」


「了解だ」


「5、4、3、2、1、0!」


シュポン、ドグゥオ。撃ち返してくる弾はなかった。


「バスタマンテさん。盾を構えてゆっくり進んでもらえますか。シオンとビビはバスタマンテさんの後ろについて撃たれたら次弾の装填前に接近して斬り刻んで。生き残ってるのが1匹だけじゃないかもしれないから、斬ったらすぐに盾の陰に隠れること」


「了解です」


とビビは敬礼。シオンは鼻息フンスでサムズアップ。3人が先行して結局最奥の1体が瀕死状態で生き残っていただけで、撃ってきたけど鼻水を飛ばす程度の勢いだったのでシオンに瞬殺されてた。あっちこっちに黒焦げの蟲の残骸。ひえーと内心思いながら触って確かめる。


『pafilo raupo。鉄砲芋虫。魔界の生物。魔法生物。体長は約40cm。白と黒のまだら模様で美しい。普段は体節を波打つように動かし短い歩脚で動き回って草や葉を食する。動物などに遭遇すると頭部と尾部に2対ある触覚を地面に突き刺し直線に伸ばした体を浮かせて固定する。口吻を開いて消化液を圧縮した粘液弾を発射する。この弾は一直線に伸ばされた食道内を魔法により初速800m/毎秒、マッハ2以上で撃ち出される。食道には施条しじょうと呼ばれる螺旋状の溝まである。圧縮消化液で開けた穴から獲物の体内へ潜り込み内側から食い荒らすと同時に産卵する』


魔法生物か。そうだろうな。圧縮空気程度じゃあんな貫通力と弾速出せないだろう。すると経験値は他の魔法生物と同じで4000か。34匹いたから獲得経験値合計は13万6000だ。シオンがラップ巻きされた風呂敷花は魔力もなんにもないから1000くらいだろう。なのでここまで13万7000ゲットだな。分解が始まり断剣のメンバーが全員膝をついて悶えた。あ。そっか。魔法生物の集団討伐なんてとんでもない経験値獲得できちゃうからなあ。ノーマル目玉トカゲの群れ討伐なんか比じゃないくらいにレベルアップしちゃう。ざっとこんな感じ。


バスタマ(283320)

     LV43→55

ニコレ (269450)

     LV35→54

セナ  (252300)

     LV39→53

ジユン (238410)

     LV36→52


ボクたちのパーティではノアとラウリがレベルアップして、ボクやシオンと同じレベル123になった。ノアは感覚に、ラウリは筋力に振ったようだ。


ミナト(8460300)LV123

シオン(8460300)LV123

ビビ (8221800)LV122

ノア (8329300)LV123

ラウリ(8329300)LV123


『断剣』のみんながステータスを振り分ける間にボクたちは魔石を回収した。出発準備を整えて残り北に35ブロック、西に29ブロックを進もうと歩き始めたとたんバスタマンテさんが声をあげた。


「いかん。タグの反応が消えてる」


タグはタルハンさんの生命反応と共鳴している。つまりタルハンさんが死亡したということだ。ここまできて、なんてことだ。いや、まだ間に合うかもしれない。タグが身体から離れたのかもしれないし仮死状態かもしれない。タグの量子もつれペア状態の不具合だってないとはいえない。


「まだ間に合うかもしれない。シオン、ノア、ラウリ。後から『断剣』さんを護衛してゆっくりきて。ビビ、ボクと走ってくれる?」


「いいわよ。全速ね」


外套とリュックを外している。ボクも外套を脱ぎリュックを外して床に置く。ヒップバッグと付属のベルトおよびポーションポーチのストラップを締め直し、ガチャガチャ動かないよう身体に密着させる。魔剣ナイフの固定を確認し、背負った剣の剣帯をギシギシに締めあげた。


「ビビ?」


「準備オッケーです」


「じゃ、ノアよろしく。ビビ、いこう」


ジャリっとブーツが石畳を削り、ボクとビビは旋風になった。走りながらポーションポーチからパチンコ玉を取り出し、アンダースローで前に投げる。ほんとはもっとカッコよく人差し指を丸めてパチンコ玉を挟み親指で弾丸のように弾きたくて遠征の合間にずいぶん練習したんだけど、親指が攣っただけでした。指弾というテクニックなんだけど、これで拳銃弾みたいに人を撃ち抜くとかどうもフィクションだったみたい。撃ち出さなくてもボクが投げれば大リーグの投手並みには飛ぶ。落下地点で床石に跳ね、半径100m近くの音響画像がブワッと花開く。


ボクの脚力27で女子高生平均の3.7倍、ビビの脚力32で女子高生平均の4.8倍。もちろん走るという行為は脚力だけを使うわけじゃないから100m走の女子高生平均17.3秒が4秒台で走れるわけじゃない。跳躍力、情報処理能力、耐久力、瞬発力、神経伝達力、反射能力、筋肉制御力、フィードバックループ能力などが複雑に影響しあって結局ボクの全速力は100mを5秒。時速にすると72kmで車並みには走れる。オリンピックなら金メダル確定だけどね。


「ビビ。落とし穴。飛び越す」


「了解」


ふたりして大ジャンプ。着地で勢いを殺さず走り続ける。北方向へ35ブロックってことは1ブロック20m、通路幅10mなので1050m。西に29ブロックってことは870m。合計1920m走らなければならない。でも100mを5秒で走れば96秒で到着する。


「ビビ。たぶん人モドキ。壁を走る。ボク右。ビビ左」


「了解」


通路にたむろしていた人モドキの集団に真っ正面からぶつかるんじゃなく壁走りで抜ける。何体か気がついてミニ弓矢を射かけてきたけど、シールドが阻む。ボクより1秒遅れて反対側の壁を駆け抜けたビビには反応しきれず、1矢も射かけられなかった。飛び越えてからビビが圧縮の弱めな火炎弾を後方に発射し人モドキを焼き尽くす。追撃の矢を撃たせないためと後に続くノアたちのためだ。魔石や経験値を拾ってる場合じゃないのでスルー。


「ビビ。前方、かなり大きな爆発罠地雷原。全力で飛び越すね」


「了解」


直前で身体のギアを全速巡行モードから完全瞬発トップギアに切り替え、罠直前で大ジャンプ。さすがに着地では前転して受身した。きれいに回れば痛みなど感じない。くるっと回って起きあがり走り出しながらギョッとして硬直している目玉トカゲ3体を魔剣ナイフで斬り倒す。これも魔石と経験値はスルー。そしてついに三角測量で測定したタルハンさんの位置に到着する。部屋だった。ドアが壊れて倒れている。光球を中に飛ばす。10m四方の四角い部屋が真っ赤だった。血の海だ。動きはない。タルハンさんの姿もない。部屋から外へぼたぼたと滴った血の痕が続いていたが、次の角のあたりでそれもなくなってた。


「ビビ。部屋にいて」


なにかいいかけたビビを置いて、ボクはひとりで部屋のあるブロックの周りを探索した。パチンコ玉を投げ尽くすくらいエコーロケーションを使って周囲を探りまくったけど、タルハンさんらしき存在も感じない。魔物の気配すらなかった。血痕を追うこともできない。間に合わなかった。タルハンさんは迷宮の闇に呑み込まれて消えた。がっくりして部屋に戻るとビビが部屋の奥、壁が崩れて岩が堆積した場所の手前に立っていた。


「ミナト。見て」


積み重なった岩の手前、結界魔導器が横倒しになって血溜まりに浸っていた。作動していない。魔石切れだろう。そしてビビが指差した先には巨大な岩と岩の重なった隙間に根元近くまで打ち込まれた冒険者ナイフ。そのナイフも岩も血に塗れている。横に血の手形がついた石が転がっていた。これだけの出血をもたらした致命傷を受けながらも最後の力を振り絞ってナイフを打ちつけたのだろう。そのナイフにはこれでもかというほどチェーンをよじって一体化させた2枚の冒険者タグが、ゴルディアスの結び目みたいになって括りつけられていた。血でくっついた2枚のタグを引き剥がして名前を読む。タルハンさんの冒険者タグ。もう1枚は、驚いたことにアルアラビさんの冒険者タグだった。アルアラビさんのタグは魔物に襲われ迷宮の奥に引き摺り込まれたとき一緒に喪失したはず。タルハンさんはどれほどの執念か、そのタグを見つけ出していた。


「ミナト。魔石が散らばってる。大きいよ。ここで戦ったんだね」


「そうか。生きて帰るつもりだったんだな。殉ずるつもりじゃなかったってことか」


「このタグのもうひとりの方。タルハンさんの恋人ね。でなきゃこんな絡ませ方‥‥」


「恋人か。そっか。そうだね。少なくとも恋人の遺品は見つけられたんだ」


まるでタルハンさんの思いが込められているかのようにナイフは抜けなかった。まわりの岩を魔剣で切り取って取り出すしかなかった。ナイフごと取り出し、油紙に包んで布袋に納めた頃みんなが到着した。『断剣』のみなさんにあらましを説明し、遺品と血とタグは発見したので『断剣』さんのクエストには成功評価がつくことを伝える。でもなんとなく、みんな意気消沈した帰り道になった。



断剣ステータス「blade of eradication 断剣」


***********5年目

名前:マキシモ・バスタマンテ

転生:45歳

国籍:チリ

年齢:22歳

性別:男

経験:108320+38000+137000=283320

LV:43→55

【ステータス覚値:12/55】

筋力+4:21(25)

知力  :10    +4

生命+2:12(14)

敏捷+2:19(21)+2

精緻+2:12(14)+2

感覚  :4     +4

◎身長182。痩せ型。太眉。黒髪。鋭い目。笑うと垂れ目。鼻筋。短く刈り込まれた口髭と顎髭。右目の下に縦に傷跡。最初に結成したパーティをダンジョン遭難から脱出させたときの勲章。2名死亡でパーティは解散。途中参加のニコレ・バチスタと共に新パーティを組み行動。その後、セナとイムが参加。リーダー。元国際線パイロット。

◎真面目で、勤勉。ルーズさは少ない。教育レベルが高くジェントルマン。陽気な性格で、小さい時から女の子には優しくするよう教育されているため紳士的。


***********4年目

名前:ニコレ・バチスタ

転生:29歳

国籍:ブラジル

年齢:21歳

性別:女

経験:94450+38000+137000=269450

LV:35→54

【ステータス覚値:13/54】

筋力+2:12(14)

知力+2: 6( 8)+4

生命+1:10(11)

敏捷+4:19(23)+1

精緻+4:20(24)+3

感覚+3: 8(11)+5

◎身長168。Fカップ。顔立ちは白人傾向。黒髪。肌のみブラウン。ひいおばあちゃんが日本人。ドイツとポルトガルとインドの血も。元ブラジル海軍フリゲート艦CIC要員、レーダー技師。

◎ブラジルは世界で2番目に白人が多い国。明るく、話好き。食べるのが好き。大雑把な性格だけど罠解除のときだけは緻密。

◎「午前8時集合と言えば日本人は7時50分に来て、イギリス人は8時ジャストに来る。アルゼンチン人は5分遅れで、ブラジル人は30分遅れてくる」なんていわれてるけど海軍ではさすがに時間厳守。


***********3年目

名前:セナ・ヒロト

転生:30歳

国籍:日本

年齢:21歳

性別:男

経験:77300+38000+137000=252300

LV:39→53

【ステータス覚値:14/53】

筋力+2:16(18)

知力  :2     +4

生命  :16    +2

敏捷+1:18(19)+2

精緻+1:18(19)+2

感覚  :2     +4

◎身長178。痩せ型。やや垂れ目がちのハーフ顔。紫髪。元ゲームプログラマー。双剣使い。根暗だが真面目。


***********2年目

名前:イム・ジユン

転生:25歳

国籍:韓国

年齢:19歳

性別:女

経験:63410+38000+137000=238410

LV:36→52

【ステータス覚値:16/52】

筋力+2: 9(11)+2

知力  : 5    +4

生命+1:20(21)

敏捷+1:15(16)+4

精緻+1:14(15)+2

感覚  : 6    +4

◎身長172。スレンダー体型。ロングの茶髪を後ろで1本編みにしている。嫌なものは嫌、好きなものは好き。女優・アイドル・歌手。ロングソード。韓国では新進気鋭で売り出し中のバトルアイドルのメンバー。


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