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20.ありふれた「残務処理」と「成長」と「宝物庫」


全身の細胞が分子原子レベルから再配列され、まったく違う物に作り変えられた気分だった。筋肉や骨格だけじゃない。脳細胞や神経系もすべてなにか違うモノになったんだろう。気絶するのも当たり前。脳が再配列されてる最中に意識があったら絶対吐く。ボクは5分で目覚め、シオンやノアたちは6分、ビビが8分、他の隊員たちは10分近くして次々と目を覚ました。負の情報体との戦いもその後の経験値獲得による肉体再配列もなんとか死なずに乗り切れたみたいだ。目が覚めて最初に感じたのは全身が1000年間天日干しにされた干物になったみたいな口渇感。口の中が砂漠みたいで唾も出ない。なんとか身体を起こしてオネエ座りになったけど、クラクラ眩暈がして手を突かないと倒れ込みそうだった。水は飲むだけじゃなく傷を洗ったりもできるのでヒップバグに水筒だけは押し込んである。取り出して1本丸ごと飲み干したけど、それでも足りない。水もまだ飲み足らなかったけどなにより飢餓感が強烈で、いまならフードファイト番組でも優勝できそうだった。残念ながらというかあたりまえだけど、戦場に朝ごはん用意して持ってくるわけがない。胃が空っぽというより全身の細胞1個1個が強烈に栄養よこせって叫んでる。なんとか立ちあがった頃シオンとノアとラウリが目を覚ました。


「水はゆっくりちょびちょび飲んだほうがいいよ」


そう声をかけながら中心の魔法陣コントロールスポットによろめき歩く。マイクロブラックホールの転移に伴っていっしょに消えた魔法陣もあったけど、まだ大部分の魔法陣は停止状態で残されていた。魔力をわずかに振りまいて浮き立たせ、さっきはいじる必要がなくスルーした魔法陣を精査した。それはここを防御するための魔法陣。この地下空間や山城をすっぽり覆ってマイクロブラックホールの爆発的輻射から保護するシールドの魔法陣を読んでいく。レイ男爵はやっぱり天才だと実感する。転移させたマイクロブラックホール輻射爆弾が爆発して聖都を蒸発させ余波でこの星の半分が丸焦げになろうと気にしていなかったのに、この場所とキイラさんの情報を保存したブラックホールを守るために最大級かつ最高級の防御を用意していた。この場所を覆うシールドだけじゃなく、3つのマイクロブラックホールを転移させたダンジョンのダンジョンコア周囲に、強力な耐爆シールドとガンマ線防御シールドを自動展開する仕掛けが用意してあった。キイラさんを復活させた後の後片付けまで考えていたわけだ。


「ミナト君」


振り返るとアチバドラフ隊長が呼んでいる。ビビやシオンたちが目覚めた隊員たちを介抱しているのも見えた。


「はい?」


「もう脅威はない、と考えていいんだろうか?」


「あー。はい。幽霊を生み出していたマイクロブラックホールは、ダンジョンのダンジョンコアを突き抜けて魔界へ送り込みました。魔界は災難だったでしょうけど、あっちの世界で超高熱の輻射を放出してマイクロブラックホールは消滅しました。ほんのわずかダンジョンコアが開けた次元の穴を抜けて輻射エネルギーが漏れて、こっちの世界ではダンジョンが蒸発しちゃいましたけど。いま確認できたんですけど男爵が安全装置を仕掛けていたおかげでボクたちも放射能被曝しないですみましたし、北の大草原も1部焼けちゃいましたけど放射能汚染は免れました」


「放射能?」


「えと。目に見えない毒性物質ですかね。土地を汚染して、汚染された土地は長い年月、えと‥‥瘴気、を放ち続けます。男爵はその毒性物質を通さないシールドを用意してくれてました」


「なるほど。ではもうこの城での怪異は収まったということだな」


「マイクロブラックホールはなくなりましたので、もうメイドや執事の幽霊は出ません。キイラさんと男爵は‥‥どこか負の宇宙で仲睦まじく暮らせてると信じます。なのでこの城にはもう幽霊もなにも出ません。それと。北の大草原のダンジョンブレイクで地上に溢れ出ていた魔物たちは、魔素を放出していたダンジョンがなくなったせいで遠からず魔素不足で全滅すると思います」


「そうか。よくやってくれた」


「いや。ボクの手柄じゃないですよ。みんなのチームワークです。皆さんが身を挺してボクに時間を作ってくれたから、男爵の行動を阻止できたんです。とにかく安全は確保されました。上に戻りましょう」


全身の細胞がエネルギー不足で悲鳴をあげているときに50階分登るのは地獄の拷問に等しかった。何人かの隊員が倒れて肩を貸さなくちゃならなかったし、腕をなくした負傷兵もいる。使ったのがグレードIIIのポーションなのでビビみたいに瞬時に腕が生えることはないけど、2週間程度で新しい腕が生えるはず。2分ちょっとで駆け降りた階段を登るのに20分かかった。亡くなった方達にはものすごく申し訳なかったが、屋敷に戻ったボクたちが最初に行ったのは飲んで食うことだった。生き残った警備隊21人とボクたちが書斎と書斎前廊下とバルコニーにまで溢れて床にへたり込む。とんでもない口渇感と飢餓感に生肉でも齧れそうだったけど、そこは文明人の矜持でグッとこらえた。2リットル近い水を飲んだあとノアとラウリ、カポディストリアス曹長とストラトス曹長が焼きまくる1枚が1kg近いステーキと狸顔のオリヴィエ1士と垂れ目のコルビエール2士が用意した温野菜にかぶりつく。なんといっても身体の再構成にはエネルギーが必要だった。いまボクたちの体脂肪率は3%を下回ってるだろう。隊員の人たちは経験値獲得によるレベルアップなんて経験がなく、精神的にも疲労困憊しているようだった。比較的疲労感の少ないボクとシオンとビビがハチミツたっぷりのホットレモネードを用意してみんなに配る。レモンもハチミツもボクの個人的物資だったけど、まさかみんなに隠れひとり作って飲むわけにもいかないしね。自分を庇ってガシェ曹長が亡くなったことでフォルミオン・ガヴラス2士はすっかりめげてしまったようだ。食事もほとんど喉を通らず同じ班のデスピナ・クセナキス1士にどやされている。


全員にホットレモネードを配り終わったので、ボクは自分のカップを持ち書斎の長椅子に座ってとにかく気を抜いてぼんやりした。できるならこのまま眠りこけてしまいたいところだけどまだやることがある。ここまであえて開かないようにしていたステータスパネルを開き、獲得したステータス覚値を確認した。見たとたん眠気が吹っ飛ぶ。54ポイントも獲得していた。目玉トカゲ行軍を潰した時点でボクとシオンのレベルは68だった。それがなんとレベル122にアップしてた。どういうことかというと目玉トカゲ大量討伐後に総獲得経験値53万8500ポイントだったものが、791万8324〜832万2232ポイントになったってことを意味する。マイクロブラックホールによるダンジョン焼却により、最低で737万9824〜最大で773万8732の経験値を得た計算だ。


ざっと見積もってみる。ダンジョンにはその壁の中や地中に棲み、必要になると湧き出てきて修復や罠のリセットなどを行う通称「メンテ虫」が大量に生息している。虫といっても虫っぽい形はしていず、どちらかというと丸い触手だらけのイソギンチャクといった形態だ。小さくて冒険者にとってはヒルくらいの厄介さでしかないけど立派な魔物で、1匹10ポイントでしかないが経験値も稼げる。人工的に促成栽培したダンジョンだから深さは浅めで6階層くらいだと仮定する。メンテ虫は他の弱小魔物の餌にもなるので多めに見積もって1階層に1000匹いたとすると6000匹。それが全滅したのだからX10で経験値は6万ポイントにもなる。まさにチリも積もれば山となってメンテ虫が掃除しにくるってわけだ。さらに連結蟲や鎌鼠のような小動物系の魔物がいる。ワンフロアに200匹いたとして、連結蟲は経験値200だから4万。6フロアで24万。鎌鼠は経験値400だから8万。6フロアで48万になる。続いてほとんどのダンジョンで出てくる人型魔物の代表として経験値1000の目玉トカゲと経験値500の蛞蝓人間擬ナメクジひともどき。根拠のない推測ながら全階層合計で1000匹と2000匹いたと仮定する。半分はダンジョンブレイクによって外界へ出たとすればダンジョン内の居残りは500匹と1000匹。すると経験値50万ずつになる。ここまでで178万もの経験値になる。ダンジョンコアはまだ若いので10万ってところかな。他にもボクの知らない魔物なんかがいるはずで、経験値1000くらいのがワンフロアに100匹ずつで60万。全部合わせると248万ポイント。それがダンジョン3つ分だから744万ポイントになる。


2枚目のステーキにかぶりついているノアにステータスを聞くと、覚値の数字を見て肉を喉に詰まらせてた。+56ものとんでもない成長で、レベル差が縮まりボクやシオンとレベルにして1しか違わない。続いてビビに覚値を聞くとビビも2度見ならぬ3度見した上に目を擦って+65だと教えてくれた。レベルが一気に65アップしたってことだ。ノアたちと同じレベル121になっていた。ダンジョン3つ分の経験値は人間を辞めるほどの進化をもたらしている。こうなると警備隊のみんなにも支障がでる可能性がある。冒険者の半分とはいえ、普通の警備隊人生を送っていたら絶対得られない経験値を得てしまったのだ。レベルにして107。均等振り分けになるなら各ステータスが+17される。筋力や知力が常人の2.3倍。もうスーパーマンだ。このあたりの状況に関しては百戦錬磨のアチバドラフ隊長だって初めての経験だろうし、少しは知ってるボクたちが注意喚起してあげるべきだろうとか考えていたらシオンが皿を抱えて横に座ってきた。サイコロ状に切り分けた肉とほんのちょっとの温野菜が乗ってる。両頬ががっついたハムスターみたいに膨らんでた。


「ふぇえふぇえ。ふぃなほはあ。ふぃふぃにょひょほにゃんへほはー」


「ねえねえ。ミナトさあ。ビビのことなんだけどさー、っていってるわけね」


シオンが頷きもぐもぐと咀嚼する。


「んーふぉ。ふひ、ファシュフェふぇキャフフェンやっふえふぁひゃん」


「んーと。ウチ、バスケでキャプテンやってたじゃん。っていってるわけね」


もぐもぐウンウン頭を振ってる。


「ふぇんほふいふぇるふぉほににゃっふぇふぉりふぁふぁっふぇいるふぉふぉに、いひにぇんにょふいんふぁいふぇね」


「全国行けることになって盛りあがってるところに、1年生の部員がいてね。っていってるわけね」


ごっくんと口の中の肉を呑みくだす。これでまともに会話できるかと思ったら新たな肉を3個も頬張りやがった。


「ふなほないいふぉふぇ、ににぇんふぁらほしゃんにぇんふぁらほ、ふぁらいふぁられふぇいふぁんふぁふぇほ。ふぇんふぁいふぇふぃにゃふぁふへにょふぁいにょうふぁあっふぁにょ」


「素直ないい子で2年からも3年からも可愛がられてたんだけど、天才的なバスケの才能があったの。っていってるわけね」


粉砕機みたいな歯と顎で肉の塊を咀嚼してからようやくまともな言葉を発する。


「ねえねえ。ミナトって凄くない。なんでウチのいいたいこと完璧にわかるの。読唇術とかテレパシーとか?」


「この世界って世界そのものに自動翻訳機が仕込まれているようなもんだろ。ノアは英語話してるしラウリはフィンランド語とスエーデン語と英語も話してるけどちゃんと日本語話してるみたいに理解できるでしょ。シオンのモグモグ語も自動翻訳してくれる」


「えー。そうなんだー。ラウリは日本にいたし、ノアもラウリから教わって日本語喋ってるのかと思った」


「ビビはフランス語と現世語が混じって話してるから、冒険者だったお父さん元はフランス人だったんだろうね。っていうか、話の続きは?」


「あ。うん。んで。監督の鶴のひと声っていうんだっけ、抜擢されてベンチに入ることになったんだけど、必然的に2年からひとり外れることになるの。で、一生懸命頑張ってて明るくてムードメーカーだった2年の子が外れたんだ。なんていうの。色々あって。微妙なギシギシした空気になってねー。イジメとかイビリとかじゃないんだけどさ。ちょっと孤立っていうか。うちはキャプテンなりたてで、全国出場ってプレッシャーもあって。気になってたんだけど、なにとかしなきゃって思うだけでぐずぐずしてるうちにその1年の子が転校ってなってさ。ウチがもっとちゃんとやってればその子にもみんなにもイヤな思いをさせなかったんじゃないかって」


「なるほど。ビビもそういう状況に陥る可能性が高くなったかもね。目玉トカゲのときも漠然と話したことは話したんだけど、今回みたいにあからさまな成長差があったら、やっぱ浮くよなあ」


ボクはノアとラウリに意見を求め、ボクの考えも述べてみんなの了承を得た。その後アチバドラフ隊長やンガバ副隊長のいるバルコニーへ出てちょうどいた他の班長も交えて今回の経験値獲得の影響やビビの事情について話し合う。隊長も副隊長も班長たちもボクの懸念を理解してくれたのはよかったのだけど、なぜかボクが隊員のみんなに説明する役を押しつけられてしまった。10回は辞退したんだけど11回目をシオンに「頑なすぎて恥ずかしいよ」といさめられ渋々説明役を引き受けた。全員が応接セットをどかした書斎に半円形の車座で座り込む。その視線を一身に浴びて茹で蛸になりそうだ。地下でボクがやったことやその結果ダンジョンが3つ壊滅したこと、そこにいた魔物全部の経験値が逆流して戻り、全員の身体を再構成し超人レベルへ作り替えてしまったことなどを説明する。


「というわけであの場にいた全員がとんでもないダンジョン経験値を得て、身体や脳が再構築され超人レベルに引きあげられています。異常なほど喉が渇いたりお腹が減ったのはそのせいです。で。いまはまだ実感が湧かないかと思いますけど。身体がいま飲み食いした水分や栄養を細胞に送り届け、細胞が正常に働き始めると実感できると思います。身体の動きがとんでもないオーバースペックになってます。慣れないとまともに動けないかもしれないですが、それもすぐに馴染むと思います。そうなったらみなさんは超人です。身近なところでいえば第1外周警備隊の隊員さんたちと模擬戦をしたら、相手が赤ん坊のように感じるかもしれません。よほど手抜きをしない限り余裕で勝てます。力やスピードが強化され知力や感覚が鋭くなってます。それ自体は生存率を高めてくれるのでいいことなんですが、問題はその力って悪いことにも使えちゃうんですね。その力を悪いことに使おうとしたら、どんな悪いことでもやりたい放題できちゃいます。まあ。そんなことをする人なら最初から警備隊じゃなくて盗賊団に入っているでしょうし、警備隊の皆さんは正義感や使命感に溢れた真っ当な方達だって知ってます。でも真っ当な人でも陥りやすいことってあるんですよね。細かいことと思われるかもしれませんけど、力を持つ場合注意しなくてはいけないことがあります。これはボクやボクの仲間たちもつねに留意しておかなくちゃいけないことだと思うんですけど、力があるってことはその力を使いたいっていう衝動が生じるってことです。力を誇示したいとか優越感に浸りたいとか周りから称賛されたい、っていう欲求が生じちゃうんですね。でもそれを超人レベルの力でやっちゃうと、とんでもない弱い者イジメになりかねません。なのでこれからはよほど自分を律しないといけなくなるはずです。迷ったときは仲間に相談してください。隊長や副隊長に話を聞いてもらってください。ボクからは以上です」


その後、隊長や副隊長の腹を割った話もあり、隊員ひとりひとりが真剣に考える下地はできたと思った。もう安全は確保できたとは思うけど、ダンジョンブレイクで地上に出た魔物の一部はまだ徘徊している可能性もあり、見張りや立哨は継続されることになった。犠牲者が出て人員に偏りが生じたため班が再編成される。功労者特権を利用しボクから隊長さんにお願いして、ビビを1班から外し世話係としてボクたちと行動できるようしてもらった。ビビが抜けたことで隊員数が18名となり1班6名体制が組めるようになる。殉職者のいなかった2班からレベッカ・ボワヴァン士長が1班に移り、ファビアン・ボーヴォワール士長が3班へ移った。新たに編成された3班が立哨と馬の世話に就き、1班と2班が合同で屋根裏の使用人個室を清掃して負傷者や休憩の隊員たちがベッドで眠れるようにしてくれた。書斎のある東ウイング2階の奥にはプライベートリビングと隣接した主寝室がある。ボクたち冒険者は今回の騒動の功労者扱いされ、主寝室をあてがってもらえた。くたくたに疲れてはいたけど、寝所準備が終わった1班が続いて1階西ウイング奥にある大浴場を清掃するというので待っている。魔石をセットすれば十分なお湯を張れるらしい。お風呂の魅力には抗い難い。


「あ。ビビー。座って。座って」


シオンが新しいシーツを抱えて主寝室に入ろうとしたビビを呼び止める。


「え。でも。まだベッドの準備がこれからだし」


「違うて。ウチらの世話係っていうのは他の隊員に対しての方便だよー。世話なんか焼かなくてもいいの。ウチらは自分でできるし。ビビにはちょっと真面目な話があってこっちに来てもらったんだ」


「真面目な話?」


「うん。そこのソファに座って」


怪訝な表情でシーツを胸に抱えながらビビがふかふかソファに座る。


「あ。俺とラウリで寝室準備してくるよ」


そういってノアとラウリが立ちあがり、ビビからシーツを受け取るといっちゃった。


「んじゃ。ミナト。よろしくね」


すっかりシオンにお任せ気分だったボクはコーヒーを噴きそうになる。


「なんだよ、シオンが話してくれないのかよ」


「ミナトは影の黒幕なんだから、パーティに関わることの責任者でしょ」


ビビが不安そうにしてるので、くどくどゴネずに話を進める。なんか影の黒幕ってイヤなことばかり押しつけられる役な気がする。


「えっとね。ボクやシオンが興味半分で魔素練りなんか教えてステータスパネル出せるようにしちゃったせいもあって、ビビの立場を変えちゃった責任を感じてるんだ」


「え。立場って。どういうこと?」


「目玉トカゲの大群を討伐した後にいったことの繰り返しになるんだけどね。警備隊の仕事上の立場っていうか。警備隊のみんなも魔物経験値でスーパー警備隊にまでレベルアップしてるけど、ビビは冒険者の血を引くことで誰よりもレベルアップしちゃってる。まだ振り分けていないから実感ないかもしれないけど、溜まってる覚値ポイントを振り分けたらえげつないくらい強力になるよ。他の隊員との差が開きすぎて隊の中で浮くと思う。剣の技術とかじゃ敵わなくても、身体能力の差だけでンガバ副隊長にも勝てちゃうかもしれない。そうなったらいままで通りの人間関係でいられるかどうか。ビビが冒険者の血を引くことに対してやっかみを覚える人もいるかもしれない。もしかしたらビビ自身が物足りないと感じるかもしれない。こういうのってじわじわ効いてくるからね」


「そうなのかな?」


「ボクは根っからの悲観主義者で、シオンも人間関係ではそれなりに苦労したみたいだし、ラウリも軍隊経験ではいい思い出がなかったみたいなんだよね。ウチのパーティ、結構ネクラが多いんだ。ノアが明るいから助かってるけど、どうもみんな悪い方を考えちゃう。それでね。もしビビが隊に居ずらいと感じるようなら、隊を辞めたいと思うなら、ボクたちのパーティに歓迎するよ。ビビなら気心も知れてるし、他のメンバーも全員一致で賛成してくれてる」


「隊を辞める‥‥私、冒険者になるってこと?」


「いますぐは考えられないと思うから、時間を置いてゆっくり考えて。街に戻って日常業務に戻ったあと、警備隊の中でのビビの立場が見えてきたときでもいいと思うよ。そのときに選択肢となるよう、いま話しておくってだけ。頭のどっかに置いといてくれればオッケー。それとお風呂に入ったら全員でお昼過ぎまで仮眠しようっていってるんだけど、そのときはビビも身体を休めて。腕1本再生したばかりなんだからね。お昼ごはんを食べたら、それぞれ今回得た覚値をどう振り分けるのか考える時間をとろうって話してる。そんときはビビもいっしょに。オッケー?」


「うん。わかった」


ビビが考え込む。しばらくしてノアたちが戻り、さらにしばらくして大浴場が使えるようになったと連絡がきた。当然レディファーストだ。シオンといっしょに温泉入るのは慣れたけど、大人数の女性たちと裸のおつきあいするのは元男の道徳意識がNGを出していた。けどシオンはそんなボクの複雑な心情などお構いなしに強引に引っ立ててくれるし、ボクの良識なんていやよいやよといいつつも大浴場でゆったり湯に浸かる誘惑には勝てなかった。何度か目のやり場には困ったけど、みんなで背中の流しっこしたり、アマゾネス3姉妹のボワヴァン士長、フォレ士長、クセナキス1士の筋肉美を鑑賞したりしてるうちにだんだん慣れてきた。9時から12時までの3時間、ボクとシオンとビビは主寝室のトリプルキングベッドで、ノアとラウリはリビングの長椅子とカウチで爆睡した。昼食は厚切りベーコンとアスパラのパスタ。全員が2杯以上お代わりする。その後は全員でリビングに戻りなんとなくコソコソ話しながら覚値の振り分けに勤しむ。なんていうかステータスの振り分けって食事や排泄みたいにとってもプライベートな感じがして、大声で議論するものじゃないように感じるんだよね。ボクは知力に大振りし、敏捷性を多めに。他も4〜6ポイント振った。


*************

ミナト

【ステータス覚値:0/122】

筋力:11+4  敏捷:22+10

知力:24+24 精緻:18+6

生命:13+6  感覚:20+4

*************


シオンは敏捷性をメインに精緻と生命力を大きく、筋力も多めにあげて感覚はちょっとだけ、知力は現状維持でいくようだ。


*************

シオン

【ステータス覚値:0/122】

筋力:13+10 敏捷:20+16

知力:20    精緻:18+12

生命:17+12 感覚:20+4

*************


ビビはずいぶん迷っていたけど結局、筋力は少なめの6ポイント、知力と生命力を多めに10ポイント、敏捷性と精緻性と感覚に等しく13ポイント振った。


*************    

バイオレット・ドワイヨン

【ステータス覚値:0/121】

筋力:10+6  敏捷:14+13

知力:14+10 精緻:14+13

生命:10+10 感覚:14+13

*************


ノアは戦士系を貫くようだけど敏捷性と精緻性をも多めにあげている。


*************

ノア・ロビンソン

【ステータス覚値:0/121】

筋力:22+12 敏捷:20+10

知力:10+8  精緻:17+10

生命:20+10 感覚:16+6

*************


ラウリは魔法戦士を目指すのか。筋力ややあげ、他を均等に10ポイントあげてた。


*************

ラウリ・ムトゥカ  

【ステータス覚値:0/121】

筋力:17+6  敏捷:22+10

知力:16+10 精緻:15+10

生命:16+10 感覚:19+10

*************


振り分けも終わって、みんなに分け与えちゃってあっという間になくなった最後のホットレモネードを飲み干す頃には体調もマシになった。で、ここまでずっと保留にしてきたキイラさんからもらったクリスタルに取り掛かることにする。太腿に縛りつけてあるポーションポーチからクリスタルを取り出した。ぞんざいに扱ってるわけじゃなく、冒険者装備の難点は収納でポーションポーチかヒップバッグくらいしかしまい場所がないんだよね。窓の光に翳して見るとかすかに虹色が光り、とっても綺麗だ。表面には傷もなければ彫られた紋様もない。不純物も見えず透明度が高い。大・中・小の3段階で魔力を流してみるが、なにも起きなかった。光を吸収する様子もないし、手で覆っても発光したりしない。爪で弾くとキンて涼やかな音色が鳴る。


「なんなんだろうな。記録媒体かと思ったが」


とラウリ。


「ウチもそう思った。でも光をあてて映像が投影される風じゃないし」


「魔力を流しても反応ないよ」


これはボク。後ろから覗き込むようにしてビビがいう。


「そのクリスタル自体がダイアモンドみたいに高価なものだとか?」


「うん。希少性はあるかもしれないね。ただ宝石ってだけじゃないと思う。やっぱ鍵かな?」


「鍵だとしたら、よほど重要なものだな」


とノア。


「うーん。なんとなく思い当たるような、思い当たらないような。ダメもとでいってみるかな。一応、隊長さんに声かけていこう」


ボクたちは全員でゾロゾロと書斎へ向かった。いまではそこが作戦司令部みたいになってる。作戦といってもお城を拠点化する準備で、清掃がメインなんだけどね。いまは厨房の清掃が始まってるらしい。あの臭いをなんとかしなくちゃいけないのか。ご愁傷様です。レイ男爵の書き殴りは、今後の研究のために束ねて本棚の空きスペースに積みあげてもらってる。アチバドラフ隊長とンガバ副隊長が書斎机の椅子とスツールに座って談笑していた。


「すいません。お話中。ちょっとお時間いただけますか」


「おお。ミナトくん。単なる雑談だったから構わんよ。なにかね?」


「ありがとうございます。えと。このクリスタルのことなんですけど」


キイラさんからもらったクリスタルを見せる。


「ふむ。彼らが消える前に渡してきた物だな。なにかわかったのかな?」


「えと。これやっぱり特殊な記録媒体だと思うんですよね。んで。確証はないんですけど気になる場所があって。もしお時間あったらいっしょにきてもらえませんか。なにか記録が見られるかもしれないし」


「いいとも。で。どこへ?」


「厨房の下の倉庫です」


ボクたちパーティの4人にアチバドラフ隊長とンガバ副隊長、名目が世話係のビビも加えてぞろぞろと厨房を抜け地下へ降りる。腐敗物の缶詰化していた魔導冷蔵庫の臭いはずいぶん抜けたけど、感覚値とともに臭覚が動物並みになってるボクたちの鼻にはまだ臭う。清掃作業をしている隊員たちに見られながら階段を降り、貯蔵庫に入る。天井の人型の穴から光は入るけど、窓がない倉庫の中は薄暗い。呪文を唱えて光魔法を発動しようとしたシオンを制する。クリスタルを手の平に乗せて持ちあげるとぼんやり発光してるのがわかった。


「あ。光ってるねミナト。ここに反応してるんだ。すご。なんでわかったの、ミナト」


「んー。上の厨房はいろいろ残されて腐ってたり干涸びてたりしてたけど、ここ略奪された風でもないのに綺麗になにもないからさ。最初っから倉庫として使われてないんじゃないかなって。なにか別の目的で使われてたのかなーと」


左右に動かしてみると正面向きのときがいちばん光り方が強い。空っぽの棚の隙間を歩いて奥へ進むと壁一面の棚に行き当たった。クリスタルの発光が増す。


「ここなのか。うーん。クリスタルを嵌め込めるようなへこみはないぞ」


ノアが棚や壁を叩いて検分したけど、エコーロケーションでも壁の向こうの空間や隠し部屋を感知できない。


「ここで魔力流し込みかな?」


ごく軽く魔力を流し込んでみる。クリスタルから波紋のように魔法陣が拡がった。


「わあ。壁が消えちゃった。あー。部屋あるよ」


エコーロケーションでも感知できないように遮蔽がかけられていたようだ。壁が消え、短い通路の奥に巨大な部屋が出現した。自動的に部屋の照明が点灯する。


「わあ。白い部屋だ。ここ宝物庫だね、ミナト。大発見!」


この後におよんで罠なんかないだろうけどボクたちは慎重に、っていうか恐る恐る部屋に入った。右手の発光する白壁には2本のロングソード、2対の双剣、2本のバスタードソード、1本の大剣が金具に保持されて展示されていた。奥へ進むと10個の腕装着式魔法シールド盾発生機が吊るされている。その横には黒い腕輪が20個と白い腕輪が6個、発光壁面にディスプレイされていた。ノアが手を伸ばしてバスタードソードを外し、構えて魔力を注ぐ。刀身がボッと青く光り始めた。


「魔剣だ。この壁の剣は全部魔剣なのか」


シオンがひとりで先に進んでいて、腕輪をちょんちょん突きながら報告してきた。


「黒い腕輪は筋力+10だって。魔装具だ。ねねねねね。すっごい。白い腕輪は全ステータス+5だって。全ステータス爆あがりじゃん。激レア魔装具だよ。これ」


発光壁面の反対側、左手の壁に造り付けの白い棚にはずっしり重そうな革袋が100袋以上山積みになっていた。そこにはビビが向かい、袋をひとつ手に取って開ける。ゴトンジャリンと重い金貨独特の音が響く。


「金貨が入ってます。ひと袋‥‥20枚入ってますね。あと、奥に並んでる深皿には魔石が入ってます。どれも粒が大きい。これだけでひと財産です」


ここにある金貨だけで日本円にしたら億の単位だ。魔石も同じくらいの価値があるだろう。といってもボクの財産じゃないから凄いとは思うけどあまり興味ない。それよりボクの目を惹きつけるのが部屋の中央、床から伸びる白い支柱とそれが支える椀状の白磁の器。器の中にはなみなみと赤い透明な砂が。


「この砂っぽいの、砂状の魔石だ。ミナト。クリスタルがひときわ光りだしてる。ここに入れるんじゃないか?」


ラウリにいわれるまでもなく、ボクもなんとなくそんな気がしてた。縦に突き刺すように魔石砂にクリスタルを立てる。凛と高く涼やかな音が鳴り、頭の中に映像が浮かんだ。地下のブラックホール生成空間の映像だった。中心で魔法陣に囲まれながらレイ男爵がせわしなく新たな魔法陣の組み立てをおこなっている。背後の扉が開き白金のローブや鎧に身を包んだ集団が溢れだした。魔法紋様風な金刺繍のある白ローブを着た魔法使いが20人。祭服らしき十字と放射模様が重なった金刺繍マークが多用された白装束を身に纏い、ストラっていう肩巾ひれを垂らした神官が20人。白い革鎧の弓兵が30人。白金の鎧に身を包んだ槍兵が20人。同じく白金の鎧に剣を構えた騎士風が40人。先頭のひときわ巨躯の騎士が大声を放った。


『黎憂炎男爵。汝、女神に仇なす神敵としてここに成敗いたす。お覚悟召されよ』


『神敵か。女神の正体を暴いてしまうからか。くだらん。邪魔をするな虫ケラども』


弓手の一斉射撃から攻撃が始まった。30の倍数の矢の雨が降り注ぐ。すべて男爵を包む薄紫の光の球体に溶け込むように消えていった。矢の飛ぶ音に神官の詠唱が混じる。妨害の詠唱効果があるのか、男爵を包む薄紫の球体がフルフルと波打ち始める。そこへ魔法使いの放つ火魔法が突き立つ。男爵を包む防御球にうっすらグリッドが浮かびあがる。そのうちのいくつかが割れる。槍兵が取り囲み、いっせいに槍を突きだすがことごとく弾かれた。兵士たちの連携は見事に尽きる。槍が弾かれると槍兵が引き、次の瞬間弓矢と火魔法が突き刺さった。それが終わると再び槍が突き出される。さらに球体の何ヶ所かが割れ砕けた。男爵の放つ魔法によって数人の槍兵が火に包まれるが、人海戦術の前に焼け石に水。ついにシールドが割れ、槍兵の槍が突き立てられる。薄紫の球体の下に薄青い球体が現れる。ほとんどの槍が蒸発して消えたが、中の1本が男爵の肩に突き刺さった。男爵の詠唱が一瞬途切れる。それだけで表情も変えず男爵は詠唱を再開し、同時に大きく右手を振る。男爵の前にいた10人ほどの僧兵が胴体を真っぷたつにされ、血と内臓をぶちまけて床に崩れた。だが僧兵たちに怯みは見られない。後ろから前から何人もの騎士僧兵が肉の塊にされながらも男爵の身体に2本の剣を突き刺す。まるで不死身のゴーレムのように仁王立ちする男爵だったがさすがに血を吐いた。


『うるさい蠅どもが。もう少しで完成したものを。まあいい。情報体になったとしてもシステムの構築はできる。この世界の害虫どもと女神の寿命がわずかに伸びるだけだ』


そういって指揮僧兵の頭を握りつぶす。ブラックホールが生成される魔法球の前に立ち、血まみれの手を伸ばした。手が触れた瞬間魔法球が軟体動物のようにうねっと歪み男爵の身体を呑み込む。半ば呑み込まれた男爵の背にひと太刀浴びせようと突っ込んだ騎士僧兵が、剣と身体の前面を消失した。床に雑巾のようにベチャベチャと落ちる。男爵を呑み込んだ魔法球がブリンっと揺れて最初の大きさに戻るや、取り囲む僧兵の輪の外側に男爵の半透明な情報体が現れた。それがいっきに100体にも分裂する。すべての兵と僧侶と魔法使いが黒い霞となって消え去るのに1分もかからない。阿鼻叫喚の大混乱。人体と対消滅して大部分の分裂情報体は消えたが人間も消えた。残った何体かの情報体が床にぶちまけられた人間のパーツに重なり、惨劇の痕跡を消してしまう。そこでハッと自分の意識が戻ってきた。あたりを見回すと他のメンバーも同じものを見たのだろう、目を揉んだり頭を振ったりしてイメージの残滓を振り払おうとしてる。ボクは魔石砂のずいぶん減ってしまった鉢を覗き見る。クリスタルは砂が減ったせいで横倒しになっていた。さっきまでなにもなかった透明な内面に、いまは紋様が浮きあがっている。よく見ると日本語のカタカナで書かれたボクの名前だった。


「いまの映像。あれ、実際の記録なのかしら」


ビビが声に出す。全員がカメラの記録映像とは違うと感じているようだ。なんというかもっと主観的なフィルターがかかっていたかのような。


「なんかさあ。レイ男爵の後ろに浮いてる守護霊からの視野って感じ。それでその守護霊がキイラさんってことは?」


これはシオン。


「あの時点でまだ、キイラさんを封じ込めたブラックホールから情報体を反射投影させる準備はできてなかったはずなんだよね。魔法による記録映像ってことにしとくしかないな」


「そっかー。で。なんだろうね。あの人たち。神敵って神の敵って意味でしょ。同音意義もいっぱいあるのにスルッと意味が入ってきた。どこの誰なんだろう、襲ってきた人たち」


「うむ。おそらくルキナ教会総本山の僧兵だと思う」


アチバドラフ隊長が髭をいじりながらいった。


「教会って武力を持ってるんですか。物騒だなあ。集団の戦術や剣や槍の捌きを見るとかなり訓練されてるし、もしかしてステータス操作もしてるくらいに思える動きでしたよ。さすがにシールド魔法での対抗手段を知らないで分裂情報体と戦ってたから、一方的な虐殺になっちゃってたけど」


ボクは呟きながらクリスタルを摘みあげ光に透かしてみた。上から見ても裏から見てもボクの名前が裏返ったりせず見える。魔法紋様の一種だ。


「私も話にしか知らん。なんでも悪魔と戦うために組織された軍隊だとかいうがな」


「この話や男爵の経緯について正直に報告したら、ベルダ・ステロの教会とか魔法ギルドとかに目をつけられるとかないですか?」


「教会の総本山直轄の派兵だろうから、辺境の城塞都市などには通達すらないはず。だが、まあ。報告には調整が必要かもしれないな。総本山僧兵のことはぼかして報告しておこう」


髭を扱きながらアチバドラフ隊長が答えてくれた。面倒ごとは極力避けたいボクとしてはありがたいお言葉だ。隊長が手をひとつ叩いた。


「さて。それでは今回のクエストの完了を宣言しよう。上でクエスト完了書にサインすれば達成だ。そして今回の任務の指揮官として、今回発見されたレイ男爵の財産はミナト君およびミナト君率いる『妖精と牙』パーティへ帰属することを確認した。また、鍵となるクリスタルを譲り受けたのはミナト君であり、さらにそのクリスタルにミナト君の名が刻まれたことから正統継承者と認定できる」


「え。いや。どういうことでしょう?」


ボクの困惑の問いに答えたのはラウリだった。


「そうか。『冒険者協働協定』だ」


「なにそれ?」


「15年かそこら前にできた冒険者ギルドと各国との取り決めだよ。冒険者は集団性はないけど個々の実力は高いものがあるから傭兵的なクエストもある。そんなクエスト遂行時に降伏した敵の財産や偶然発見した財宝なんかの分配を巡ってかなりシビアないさかいがあったらしい。話に聞いただけだから詳しい経緯はわからないが、冒険者の有用性が顕著だったんだろうね。最終的に冒険者に有利な割り振りになった。それが『冒険者協働協定』で、国の機関や軍といっしょにクエストをおこなうときはいまでも適用される。略奪や窃盗を誘発しないよう犯罪行為に対しては死刑レベルの厳罰規定があったりするが」


「有利な割り振りって?」


「発見した物品に対する帰属はすべて冒険者。ただし売買するときは必ずギルドを通さなくてはならない。そこで税金が徴収される仕組み。現金と魔石に関しては、現場指揮官の見積りでざっくり2割を税金として収めなくてはならない。また正統継承者が判明している場合はそちらにも3割渡さなくちゃならないが、ミナト自身が正統継承者なんで問題ない。そのへんの面倒な代行事務もギルドでやってくれる」


「えええええ。びっくり。8割ももらえるの。もしかしてウチら超セレブ?」


「いや。そんな大金もらうわけには。だって警備隊のみんなだって命懸けで」


「権利を放棄することもできる。その場合は後から乗り込んでくる役人なんかに着服されたり横流しされたりされるんだろうけどね」


「ううう。あと、正統継承者って?」


「指揮官である不祥ダムディン・アチバドラフの現場裁量権とクリスタルという証拠をもって、冒険者ミナトをレイ男爵所有私財の正統継承者として認定する。よし。宣言はなされた。つまり所有者不在のこの山城を含む動産不動産の所有権は正統継承者の宣言をもってミナト君個人に帰属することになる」


「えー。ミナトだけずるい」


ずるいとかずるくないとか、そういう問題じゃないと思うけどなあ。日本人特有の遠慮とか織り交ぜながらも結局ボクは男爵夫婦の遺産を引き継ぐことになった。手続きなどは城塞都市に戻ってからギルドに一任することにする。財産相続の税務事務手続きなんて、この世界の超絶便利な自動翻訳システムですら読めないような専門用語だらけだろうし。ビビとシオンとノアが現金と魔石を数えてくれた。現金は金貨20枚入りの砂色の革袋が147袋あって2940枚。日本円にしたら2億9400万円。税金が2割で金貨588枚。5880万円。魔石は16カラットの大魔石、金貨3枚相当が260個。24カラットの特大魔石、白金貨1枚相当が74個。金貨換算で1520枚。税金分が304枚。ボクの取り分が1216枚。金貨と魔石分合わせて金貨3568枚がボクのものだそうだ。大金持ちなんだけど実感皆無。とにかくボクは、貰った分の革袋を警備隊の全員にひとり1袋贈与した。負傷欠場で今回の遠征に参加できなかったふたり、ラファエラ・アブレイユ士長とダゴベルト・アベジャネーダ士長にもひと袋ずつ預ける。そして殉職したエウフロシネ・ラリス1士、ジョエル・ブリエン士長、バスティアン・ガシェ曹長の家族には各4袋ずつ預けることにした。総額で金貨700枚、7000万円の大盤振る舞いだったけど棚からぼたもち金だしなあ。ていうかボクの庶民脳では100万円以上はすべて「たくさん」としか感じられない。そんだけ散財しても、まだ金貨袋が112袋も残ってる。メンバーで28袋ずつ、5600万円相当を分けることにし、魔石分をパーティ用貯金に充てることにした。


2本の魔剣ロングソードはボクが1本もらい、もう1本はシオンと思ったらシオンがラウリと同じ双剣がいいといいだしたのでビビが持つことになった。シオンとラウリが双剣を取り、シオンが動きとか教えてねとかなんとかいっている。ノアはバスタードソード、もう一本のバスタードソードはンガバ副隊長に贈る。残った大剣はアチバドラフ隊長に贈与した。10個の腕装着式魔法シールド盾はすべて警備隊に寄付。黒い腕輪はちょうど20個あってビビを抜いた警備隊全員が1個ずつ装備できるのでこれも一括贈与した。ビビにはボクたちと同じ白い腕輪を着けさせる。1個余るのでビビには重複して2個つけてもらう。これで初期覚値が20ポイント少なかったハンデが解消される。で、最後にこの山城を警備隊の拠点としてサノンカリタト公国・城塞都市ベルダ・ステロの外周警備隊に長期賃貸する契約を結ぶことになった。これでボクたちに毎月金貨10枚の定期収入が発生する。なんだか拾った物で金儲けするみたい。キイラさんと男爵に悪い気がする。


すったもんだの末、周辺の脅威度低下が確実と判断できるまで後3日は様子を見ようというアチバドラフ隊長の粋な計らいにより、ボクたちは警備隊名物ボリューム重視・味軽視食をギャハハと笑い合いながら朝昼晩と食べまくった。外周警備と称して城まわりの散歩をしたり、水泳鍛錬と称して昼間から大浴場で湯に浸かるなどと怠惰な生活を2日続ける。ところがボクもシオンもノアもラウリも全員貧乏性なため、ぐうたら生活は2日で飽きてしまう。暇すぎるのも時間が経たずにツラいとわかり、ノアの提案により剣術の稽古を始めることになった。魔剣はじつに稽古の使い勝手がよかった。なにせ魔力を流さずに使うとミスリルやアダマンタイトより硬く、どんなに打ちつけても折れず曲がらず刃こぼれすらしない。そもそも刃がない。ステータス爆あがりで観察もレベルアップして、触ったときに開示される情報がより詳しくなった。それによると刀身には物質の結合でいちばん強固な『共有結合』という状態の物質が使われており、しかも魔力によって結合力が通常物質の100倍になっているのだそうだ。なので剣を横たえ上にシオンが乗った状態で持ちあげてもしなりすらしない。ガッツンガッツンぶつけても剣が損傷する心配がないため受け流しの練習にもってこいだった。魔力を通せば刃の部分に原子1個よりも薄い空間の断層が生じるのだそうだ。普通の剣の刃先を超拡大すると原子1万個が並んでいるとしたら、切る力は1万個の原子に均等分配されるため原子1個にすべての力が集中する場合と比べ1万分の1になってしまう。それが切れ味の差なんだそうで、しかも接触するのは刃の原子ではなく空間の断層という力場のため、刃こぼれも起きないのだそうだ。


ンガバ副隊長の超絶剣技指導により全員が全身青あざだらけになった翌日、枯舞月2日の木曜日、ボクたちはベルダ・ステロへ帰還することになった。隊長は隊を分け、2班と3班を城の整備や警戒のために残しンガバ副隊を残留部隊の指揮官に任命する。隊長自身は報告と後続部隊の編成のため1班と共に帰還することとなった。物資を消費して1台の馬車が空いたのでそれに金貨と魔石と男爵の書き殴りメモを積み、世話係のビビが御者となって帰路につく。2頭の二角馬も貸してもらえたので荷台よりは乗り心地のいい二角馬の背でうたた寝とかもできる。1度だけ鎧熊の群れの襲撃があったけど、子連れだったので魔剣でぶっ叩いて殺さずに追い払った。途中にあった川でボクの電気魔法を使って魚を気絶させて漁をしたり、ジャイアント棘撃ち蜂の巨大蜂の巣を見つけてシールド魔法を展開しながら蜂蜜採取したりとじつに気楽な旅だった。荷も少なく軽くくだりの多い道程だったこともあり、3日後の枯舞月4日土曜日16時にはベルダ・ステロに到着する。真っ直ぐギルドへ向かい、台車を借りて金貨革袋と魔石革袋と男爵メモのカーテン布包みを積み替えた。ビビと隊長たちとはそこで別れ、ボクたちは台車4台をガラゴロ押してギルドに入る。まわり中から物凄い注目を浴びていたけど気づかないフリ。ていうか持ったこともない大金を衆目の中で運ぶなんて現金輸送仕事に緊張してたんだけどね。まずは貸金庫室へ直行し、各自が個人貸金庫へ大金を納めて巨大ため息をついた。ようやくホッとできる。すれ違う人が全部強盗に見えるなんて、あまりに肝っ玉が小さいよな。男爵メモは日記帳をボクの個人貸金庫へ、書き殴りの紙束をパーティ共有倉庫へ収める。台車のうち3台を返却し、残り1台に魔石革袋を山盛りにしてカウンター前の総合案内へ声をかけた。しばらくして奥からオーラさんが駆け出してくる。


「ミナトさんシオンさん。『妖精と牙』のみなさん。ご無事で」


「お久しぶりです。オーラさん。えと。クエスト完了手続きと魔石の買取りと税務手続きと正統継承者の手続きその他諸々まとめてお願いします」


なんかオーラさんが呆気に取られていたけど、気にせずボクたちは買取りカウンターに魔石革袋を積みあげた。別の係員が2名ほど呼ばれ個数計算と警備隊への納税手続きが任される。身軽になったボクたちは2階の会議室に案内された。アチバドラフ隊長にサインしてもらったクエスト完了の羊皮紙を手渡し査定してもらう。クエスト難易度変更の書き込みがあり、難易度Aランクに指定されていたおかげで報酬が跳ねあがった。クエスト完了報酬が金貨10枚だったのが5倍の50枚になる。さらに遠征報酬としてひとり1日銀貨2枚だったのが銀貨4枚に値あがりした。10日かける銀貨4枚かける4人で銀貨160枚。金貨換算して16枚。クエスト報酬と合計で金貨66枚になったんだけど、個人金庫に金貨560枚入っているもんで感激が薄い。その後、警備隊に使いの者が走りレイ男爵財産の正統継承者認定が確認される。手続いっさいをお願いしたりしているところに魔石の買取り査定が終わって報告があがってきた。金貨換算で1520枚。警備隊への税金分が304枚。残りがボクたちの取り分で1216枚。最初からわかっていたのでこれもびっくりしない。警備隊への税の支払い手続きをお願いし、残りはノアとラウリが受け取ってパーティの共有財産金庫に収めてきた。


サインするものにはサインしたり、小難しい説明はまた今度にしてもらって面倒な手続きが全部終わり、ボクたちはギルドのイートインになだれ込んだ。時刻は18時過ぎ。レベルアップしてから全員大食いになってすぐ腹が減るのだ。シオンはチャーシューメン大盛り&タレぶっかけチャーシューライス大盛り&シェフのおまかせサラダ大盛り。ボクはカツ丼大盛り&ステーキ丼大盛り&味噌汁3杯。ノアはステーキ丼大盛り3杯にミネストローネ巨大ボウル1杯。ラウリは魚の燻製ハーブ料理をプレートに山盛り&お芋のサラダみたいなの&ライ麦パンとチーズの盛り合わせ。金貨袋ジャラジャラいわせてギルドに入ってきたときとは別の意味で衆目を集めまくった。ネットの大食い対決コンテンツを見ている感じだろう。ステータスアップのせいで胃腸も丈夫になったみたいで、大食いしてもお腹ぽっこり膨らむこともなく消化されちゃうみたいだから気にせず食える。いまのところ太る気配はまったくないし、ありがたいステータスアップといえる。食費は稼いでるから気にしない。全員、心ゆくまで食べたい物を食べ、お茶を飲みながら次は温泉だねーとかキャッキャしながら寛いでいると‥‥なんというか思い詰めたみたいな顔をしたオーラさんがやってきた。書類に不備でもあったのかなと手をあげてテーブルへ呼ぶ。テーブルまできたオーラさんはなにか迷ってる様子ですぐには用件を切りださなかった。


「どしたの、オーラさん?」


シオンが下から顔を覗き込むように聞く。オーラさんもなにかを決断したみたいだった。


「あの。クレストから帰ってきたばかりのみなさんにこんな話をしていいものかずいぶん迷いましたが、やはりいちおう耳に入れておいた方がよいかと」


「はい。どうしましたか?」


「『神の鉄槌』のタルハンさんが8日ほど前、単身『黒い森の井戸』ダンジョンに潜りました。3日前に救難信号が発せられてます。すでに同日、Cランク4人パーティ『断剣』が向かっていますが、苦戦している様子です」


「タルハンさんが?」


「たったひとりで『黒い森の井戸』って無茶じゃん」


なんか、温泉が遠のいていく予感。







【第2外周警備隊・再配置】

[隊 長]

ダムディン・アチバドラフ大尉。

男性。34歳。髭大男。


[副隊長]

ダメル・ンガバ中尉。

男性。30歳。黒人。剣の達人。


[冒険者付き]

バイオレット・ドワイヨン2士。

女性。18歳。身長174cm。濃いめの栗色の髪、緑の瞳、瓜実顔の美人。冒険者との混血。【盾球】



[1班・1]

リュシエンヌ・オリヴィエ1士。

女性。22歳。母と二人暮らし。狸顔。おっとり型。


[1班・2]

カミーユ・コンスタン1士。

男性。22歳。陽気でお調子者。やや融通が効かない。


[1班・3]

レベッカ・ボワヴァン士長。

女性。24歳。身長180cm。アマゾネス。濃い栗色の髪。青い目。優しい目鼻立ちだが筋肉がミシミシ。


[1班・4]

ダフネ・パパンドレウ士長。

女性。26歳。金髪、均整美。【弓手】


[1班・5・副班長]

ニケ・ミツォタキ曹長。

女性。27歳。切長の目と薄い唇。笑わない女で有名。なのだが酒に酔うと泣き上戸になるというかわいいギャップを持ち合わせている。酔ってない間は鬼の副班長。【弓手】


[1班・6・班長]

ファウロス・ストラトス曹長。

男性。27歳。アポロ像に似てる。格闘技のプロ。

                   


[2班・1]

シャルリー・コルビエール2士。

男性。19歳。身長186cm。明るめの栗色の髪、やや四角い顔立ち。垂れ目。


[2班・2]

アルキダモス・カサヴェテス1士。

男性。21歳。超絶ハンサムでモテまくるがゲイ。【分身体との接触で腕消失】


[2班・3]

ミハイル・カヴラス1士。

男性。21歳。3班のフォルミオン・ガヴラスの兄。頭脳派。チェスの名人。


[2班・4]

ヴァランティール・フォレ士長。

女性。24歳。身長184cm。アマゾネス。明るい栗色の髪。翠の目。男性陣と変わらない体格。鋼鉄筋肉。【弓手】


[2班・5・副班長]

トリュファイナ・デュカキス曹長。

女性。26歳。体脂肪率ひと桁じゃないかと思う細身で筋肉美。腹筋割れてる褐色肌の女性兵士。【弓手】


[2班・6・班長]

ピリッポス・カラマンリス曹長。

男性。27歳。テルモピュライの戦いで圧倒的多数のペルシャ軍と戦ったスパルタ兵似の鋼の肉体と顎髭のギリシャ風偉丈夫(いじょうぶ)



[3班・1]

フォルミオン・ガヴラス2士。

男性。19歳。身長182cm。オリーブ色の肌、黒髪、面長の顔、鷲鼻。ゴツい体型。2班のミハイル・カヴラスの弟。おっちょこちょい。


[3班・2]

デスピナ・クセナキス1士。

女性。20歳。身長174cm。アマゾネス。濃いめのオリーブ肌。女豹の印象のシャープな眉と目。


[3班・3]

ニコラ・ギャバン士長。

男性。23歳。身長190cm。物静かで落ち着いている。体格はノアの方がいい、しなやかな筋肉。


[3班・4]

ファビアン・ボーヴォワール士長。

男性。25歳。かなりな醜男だけど豪放磊落な性格が功を奏して女性にモテまくる。酒豪。【弓手】


[3班・5・副班長]

ロジェ・ドパルデュー士長。

男性。24歳。184cm。口髭の紳士。大人の雰囲気。長い脚。【弓手】


[3班・6・班長]

セレイコス・カポディストリアス曹長。

男性。28歳。顔も身体もゴリラ。隊員の中では最年長。頭頂部が薄くなりつつあり、髪を伸ばして後ろ手ポニーテールに結っている。

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