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02.ありふれた「転生」と「美女」と「ウエットな葉」

 

泡のように意識が浮かぶ。温かい。とろけるくらい快い。熟睡した気分は何年ぶりだろう。瞼の裏が赤い。日差しを浴びている。ふわっとそよ風が吹き抜けた。濃密な草の匂い。サワサワと揺れる草の音。脇腹から尻にかけてソワソワチクチクくすぐったい。肌が露出している。なぜそんな場所が露出しているのか不審に思い目を開いた。目に染みる蒼。コバルトブルーの透過レイヤーを100枚重ねたような紺碧の空。世界の明度と鮮度に目の奥が痛む。光を遮ろうと差し伸べた腕の白さが青空にくっきりと浮かぶ。白く華奢な腕。細くしなやかな指。見慣れたボクの腕じゃない。ボクの腕は筋肉が萎え、骨だけのように衰えてしまった。自分の腕には思えないけど意のままに動く。腕をおろし脇に突いて上体を起こした。長めの髪が頸から肩へさらさらと滑り落ちる。視界の両端に映った髪はプラチナの色だった。だがもっとありえない違和感が胸に走る。たわんっと揺れる重量感。重みによる肌の攣り。思わず見おろすと桃色のチェリーを頂に付けた白い丘がふたつ。視界の下半分を遮っている。ボクの胸から迫り出してフルフルと震える肉の双球。


「なんだこれ」


つい声が出てしまう。聞いたことのないメゾソプラノの声だった。女声。驚いたけど、理由がわかった気がしてため息が出る。


「マジか」


恐る恐る手を下に伸ばす。股間を弄る指先に男の象徴は触れなかった。あるはずのない割れ目にそって指先が滑り込む。その奥に触れた小核が感じたことのない異様な感覚を生じさせ、怖くなって手を引いた。


「女になってる。んで素っ裸だ」


素っ裸という言葉が第三者の目を意識させる。そのときになって初めてボクはあたりを見回した。空の青とうねる緑。翠。みどり。ミドリ。大草原が目に映る。見渡す限りゆるやかな丘の連なりに草がそよいでいた。ボクは丘のひとつの頂に横たわっている。見える範囲に人影はない。衆目には晒されていないようだ。もう一度あたりをゆっくり見渡す。空気が澄んでいるのだろう、遥か彼方でも鮮明に見える。そのため遠近感が狂うようだ。左方向奥に森林らしき黒っぽい緑が見える。そのさらに奥には青い山肌が見えていた。道路も草の踏み分け跡すら見つからない。人工物は気配もない。川や池、湖や海もない。車も動物も人も見えない。


傍の草上にフード付きの外套が広げられ、その上に色々な防具や装具が並んでいる。剣もあった。素っ裸で武器もなく異世界を彷徨わなくていいようだ。ちょっと安心しつつも、いきどおりが湧いた。なんで道具は大事に外套の上に置かれているのにボクは裸で草の上に放り出されているのか。女神の扱いに文句をいいたくなる。けど、ちょっと考えるとわかること。ボクの身体は草に沈んでも見失うことはないけど、小物が草に埋もれたら見つけられなくなるからだ。武器・防具・装具以外にはパンパンに張り詰めたリュックがひとつとベルト付きのバッグがひとつ。その側にゲームで見知ったアンティーク風装飾品が置いてあった。『結界魔導器』っていう。携帯用香水瓶ほどの大きさ。装飾が施された銀細工のホルダーにガラス小瓶が嵌め込まれている。ガラス瓶の中には赤い結晶がひとつ。魔石と呼ばれる結晶体だ。暗いところで見るとほんのり光っているはず。魔石から流れ出す魔力をガラス瓶とホルダーに彫り込まれた魔法陣が練りあげて放出し、周囲に半径3メートルほどのドーム状結界を形成する。結界は結界に接近する生物の精神に働きかけ、結界内を意識しないように仕向けてくれる。量子コンピュータにインストールされるはずだった仮想現実ゲーム『幻夢』がこの創造された異世界のベースになったという。そのためこの世界への転生確定者に転生後のサバイバル・チュートリアルとしてゲームが開放された。そのチュートリアルでゲーム開始時にデフォルト支給される初心者保護用の魔導器と寸分違わない。作動しているから、いまのところ安全は確保されているようだ。


「女かあ。まさか女に転生するなんて。あ。そういえば、すらすら喋れてる。呂律が回るのって嬉しい。女声だけど」


生まれ変わったと思ったら女になっていて素っ裸で危険な原野のど真ん中に放り出されていたら、とりあえず開き直るしかない。嘆くのは後だ。ぶつぶつ呟くのも怪しい人みたいだからほどほどにしよう。大きく深呼吸する。酸素カニューレなしに呼吸できて、筋肉の痛みや転倒の恐れなく動けるだけでおんの字だと思える。発声や発語にイラつくこともない。自分の声と思わなければ女声も可愛いし。とにかく、いまはおっぱいをブルブルさせてヌーディストを気取っている場合じゃない。魔導器の力で結界のすぐそばに人がいても結界内のボクの裸を見ることも意識することすらできないはず。だとしても真昼間に外で裸でいるなんて、お巡りさんが飛んできそうでいたたまれない。膝立ちで警戒していた姿勢から腰を落とし、胡座をかいてリュックを引き寄せた。腿に乗せて抱え込みストラップを外して中を漁る。すぐに服が出てきた。まず下着。男として興味津々なレースのパンティなどじゃなく、実用的な綿っぽい黒ショーツ。それと運動選手が着けるような黒のスポーツブラ。ショーツを履いてブラを頭から被る。伸縮性がありフィット感が心地いい。オーダーメイドみたいにぴったりだった。元になったゲームの設定は中世文明レベルのはずだけど、下着の繊維の精緻な織りや装着感は現代的だ。長袖で立襟のブラウスは濃灰色。袖口と襟元に慎ましく刺繍が入っていた。通気性はよさそう。薄くて伸縮性の高いレギンスも地味な濃灰色。そしてショートパンツも濃灰色。女っぽさ満開でフリルひらひら露出過多過多な萌え衣装じゃないのがありがたい。女物ながら装飾的華美さや複雑さのない衣類だったから手早く身につけられた。


下着と衣類がもう1セット入っているのを取り出すと、リュックの底に木製の水筒が2本と1本ずつ紙に包まれた棒状の塊が12本入っていた。匂いを嗅ぐと食べ物のようだ。カカオっぽい香り。この世界の携行食料なのだろう。包み紙の質の良さでこの世界には紙漉きの技術があることがわかった。匂いで空っぽの胃が刺激される。ボクの身体はさっきできたばかりでまだ空気もほとんど飲み込んでいないから腹は鳴らなかったけど、腸がくねるほどの空腹感が生じた。胃から腸から直腸まで、できたてのボクの身体にはひとかけらの食べ物も入っていない。携行食スティックを齧る前に水筒を開けてひと口喉を潤した。器となった木の香りだろうか、ミントのようなフレーバー。喉に爽やかだった。胃が動き出し空腹感が倍加する。スティックを齧るとチョコレートと黒糖パンがミックスされたような味が口いっぱいに弾けた。混ぜ込まれているフルーツの塊を噛み締めると果汁が溢れて水なしでも十分に食べられる。そして泣けるほど美味だった。味のある食事をしたのはいつぶりだろう。14歳で発症して3年ほどで咀嚼と嚥下が難しくなった。以来、栄養は経管でおこなわれたから味なんて感じられない。食事のたびにチューブを呑み込み、流動食を直接胃に流し込まれる。胃や腸が動くことで免疫が維持できたりするから、嬉しくないけどやめられなかった。スティックがあまりに美味しく、水すら美味しい。顎がガシガシ動くことが嬉しく、ごくりと嚥下した塊が食道をおりていく感覚が新鮮だった。結局スティックを一本。水筒の水も1本すべて飲み干してしまう。お腹がパンパンで苦しいという感覚が生きてる実感だった。


食べ終わって小さなゲップと満足のため息を吐き、チラリと横の装備を見る。フードマントの上に無造作に置かれた武器防具。どんな危険があるかわからない異世界だけど、結界魔導器の作用でここを動かなければほぼ危険はない。装具類をゆっくり物色する暇くらいあるだろう。防具は革鎧というタイプだ。コルセットとそれに付随した胸当て。当然女物であり、乳房を収める膨らみがついている。腹がパンパンでいまコルセットはしんどい。というのは言い訳で、乳房の扱いに戸惑っていただけ。自分の身に起きた性別変更が『調整』と呼ばれる措置なのだろうと見当はついていた。転生時の新たな身体については原則的に転生前の性別が継承される。転生前の容貌や身体的特徴は、情報として異世界に用意されたベース体に融合され新しい身体となる。融合の比率はランダム。だから黒髪だったボクがプラチナブロンドになることもあり得る。ベース体は200万パターンほど用意されているというけど、すべて美的補正や対称性補正が施されているので融合後に見目が悪くなることはないらしい。そんなふうに『転生同意書』に書いてあった。『転生同意書』は転生資格を得た者の個人端末に送られてくる長々とした異世界転生の説明文書。同意した者だけが転生できる。当然僕も同意した。ボクが思い出したのは書類の中程のページで見た性別に関する項目。曰く、転生後の性別は原則として転生前の性別を継承するが、転生者全体の男女比調整のため調整される場合がある。そういう一文だった。


女神ルキナは公明正大を旨とし、そのせいか比率やバランスにこだわる傾向がある。という話をネットで読んだ。つくばゲート創成と同時に元の世界のネット環境に顕現した女神ルキナの分身『代理ルキナ』は、普段ネットの海の深淵にただ在って必要最低限しか顕れず語らない。そのため転生後の異世界に関する情報は同意書に表記された内容のみ。極端に乏しい。ネットでまことしやかに語られている異世界話は、ほとんどが推測や憶測に過ぎない。ただ、中にはかもしれないと思わせる推測もあった。調整による性別変更はボクのように若年層優待枠の転移者がほとんどという説がそのひとつ。その論拠が80歳や90歳まで生きて自己性別認識が完全に固まった高齢者を性別変更した場合性同一性が保てず精神的な問題が生じる可能性があるけど、若年者なら精神的柔軟性が高く適応しやすいから。だそう。代理ルキナは語らず異世界からの帰還者もないため、真偽は測りようもないんだよね。


これがゲームならリセマラ、望む状態になるまで延々やり直し続けるリセットマラソンを続けるところなんだけどなあ。残念ながらリアル転生のやり直しはできないから、この身体とつきあっていくしかない。コルセットタイプの革鎧は満腹腹にはきつかったけどなんとか締め込んだ。乳房もピッタリ鎧の窪みに収まる。脇の蛇腹構造で上体の屈伸や捻りが思ったほど不自由ない。靴下があったので履いてから革のハーフブーツを履く。丈夫そうなのに柔らかい革で、ふくらはぎの中程までしっくりフィットし靴擦れも大丈夫そう。底はどう見てもグリップのいいゴム製だった。この世界にはゴムの製造技術があるようだ。オシャレなヒールなどでなく実用的靴底なのがありがたい。ブーツの上から脛当てを付ける。足首から膝下までの長さで下肢前面を保護し、上に膝ガードの革カップが付属していた。脛部分の革の中には長い帯状の金属プレートが縫い込まれ、防御が強化されている。同じようにプレートの縫い込まれた腕甲を腕に。革手袋は指なし。通気のためか手背が大きく開いている。ナックル部分に金属プレートが埋め込まれていた。殴ったら痛そうだし、斬りつけられた刀を殴り弾くこともできそう。防具はそれだけ。初期装備ってことだな。チュートリアルゲームではログイン時点で着用しているので着脱など考えたこともなかったんだけど、紐やバックルがあちこちにあり実際の装着はなかなかにたいへんだった。


リュックの横に大きめの横長革バッグがあった。バッグからベルトが横に伸びていて、そのベルトに左右ひとつずつ小物入れが付属している。とりあえずバッグの中を見てみると、隙間なくきっちり収められていたのはさまざまな道具類だった。それぞれきちんと布袋などに収められている。小さなスコップ。ひと束のロープ。銅製の小ぶりな蓋付き鍋ケトル。これは湯沸かしだけでなく鍋やフライパン替わりにも使える。鍋に嵌まり込むように塩と胡椒、醤油とオリーブオイルっぽい油の瓶が入っていた。醤油までとはありがたい。女神に祈りを捧げたくなる。四角い石は砥石だろう。風呂敷サイズの白布。敷物として使えそうだけど、これは緊急時の包帯やタオル替わりに使う方がよさそう。携行食の包み紙も布と一緒にしまっておく。さらにステンレスみたいな銀色の筒。表面に描かれた「akvopurigilo」の文字を見て自動的に意味がわかる。「浄水器」という意味だ。この世界でも生水は注意ってことか。ベルト付属の小物入れの方を開けてみると、小物入れは中仕切りで分けられていて試験管サイズのポーションがぶつからないよう4本収められていた。色からして回復薬3本、解毒剤1本というところだ。左は空。間仕切りを全部埋めるなら左右で24本のポーションを持ち運べる。


横長バッグに小物を戻し立ちあがってベルトを腰に巻く。バッグは前に構えるより後ろに回した方が収まりがいい。大きめのサイズからしてヒップバッグというやつか。前でベルトを絞めると付属したポーション入れが両太腿の脇に位置する。ポーション入れ下部から垂れるストラップを太腿に回して固定する。ヒップバッグは腰と尻のくぼみにキッチリ嵌りポーション入れの固定と相まって違和感なく動けた。装具やバッグを着けながら紐を編んだりバックルを閉めたりしていると、指先や手のしなやかで自由で軽やかな動きが楽しくてしょうがなくなる。身体が思いのままに動くことがこんなにも嬉しいことだなんて、健常な人には想像もできないだろう。装具を着け終わる頃には男だろうが女だろうが、健康な身体さえあればどっちでもいいような気になっていた。なにはともあれ、いまはサバイバルが優先。牧歌的な状況につい気が緩んでしまいがちだが、ここは危険と背中合わせの異世界なのだ。


この世界に転生した末期患者は全員、最初は『冒険者』というカテゴリーに属する。冒険者とは原則的に魔物や獣など、市民の安全を脅かす対象を駆除・討伐するのが仕事。なので防具以上に重要なのは武器だ。マントの上に装飾もない無個性な革鞘に収まった長刀と短刀が並んでいる。長刀を手にしてみた。ずっしり重い。刀身を抜き出す。諸刃だった。恐る恐る刃に指を当ててみると、包丁ほどの鋭さもない感じだ。ナマクラとはいわない。殴りつけて押し切るタイプのロングソードと呼ばれる西洋剣ならこんなものなのだろう。鞘から抜いても重い。片手でまっすぐ構えるのは10秒が限度だった。刀身の長さは70センチくらいか。重さは2キロ近いんじゃないだろうか。ロングソードは片手剣としても両手剣としても取回しがいい剣のはずだけど、いまのボクの非力な筋肉では剣を振るどころではなく剣に振り回される。チュートリアルではそもそも武器の重さが半分程度にしか反映されていなかったように思う。全重量が反映されてたら剣を振ることもできずに死にまくっていただろう。現実は厳しいってことか。とりあえず鞘に戻して横に置き、次に短刀を抜いてみる。背中にギザギザのある片刃の大型ナイフ。どう見てもサバイバルナイフだ。こちらの刃は長剣より切れる。武器としてはもちろん料理の包丁として使えそうだしジャングルならナタとしても使えるだろう。鞘に戻し、抜け落ち防止の細ストラップを鍔にかけた。腰のヒップバッグにそれらしき留め具があることに気づいていたのでそこに横向きに留める。正解。しっかり留まってくれた。後ろに手を回せば柄を握って抜き払うことも可能。


ひと通り装備に目は通した。問題はこの新しい肉体の初期能力の低さだとわかった。長く厳しい鍛錬をしなければ筋力その他の能力がアップしないとしたら、ボクは詰みだ。飢えた獣に遭遇したら抵抗もできずにランチになるしかない。転生詐欺だと喚きたくなったけど、さすがにそこまで無情な設定ではないだろう。チュートリアルのゲームではここで当たり前のようにしていた行動があった。でもここはゲーム内の仮想現実じゃなく、糞リアルな現実なのだ。はたしてその行動ができるのか半信半疑で、というか恥ずかしくて後回しにしていたのだけど、ついに試すときがきてしまった。もしなにも起こらなかったら危ない人みたいだなと思い、ついあたりをうかがってしまう。


「こほん。えー。ステータスオープン」


念の為に口に出しつつ指をスライドさせる。驚くべきことに、出た。出てしまった。目の前、空中に青緑色の平面が展開した。左上の枠内に息を呑むほど可愛い美少女の上半身画像。髪をかきあげると画像も同じ動作をする。指でスワイプすれば画像は横を向く。カメラはどこにあるのだろう。いやあ。マジか。これがいまのボクなのか。第一印象は『超絶かわいい』。続いて『目が大きい」』。そして『ハーフっぽい』と続く。確かに以前の自分の面影らしきものは感じるけど、ベース体が白人系だったのか純日本人のボクと混じってハーフな印象になっていた。以前のボクならひと目見て惚れる自信がある。それがボク自身なんだから喜ぶべきなのか。くすぐったいような気色悪いような。贔屓目なしに見て、そこらのタレントやアイドルと比べても圧倒的な可愛さ。でもそれが嬉しいかといえばそうでもない。そのせいで男からちょっかいを出され、それを拒否してトラブルに発展してしまう状況が容易に想像できる。見目の悪い容貌になってたら残念だったろうけど、男女トラブルに巻き込まれる率は低かっただろう。他人に勝手に惚れられて絡まれるなんて、人間関係が苦手なボクにとってオゾマシイ以外のなにものでもない。なんて厄介で面倒臭くてうんざりする未来予想。でもいまの自分だし、用心して立ち回るしかない。


表示はアルファベットのようだけど英語じゃない。異世界共通語のようだ。脳に言語がインプリンティングされているため理解はできるけど、やはり慣れ親しんだ日本語がいい。チュートリアルゲームと同じなら右下隅のマークが表示言語切り替えのはず。マークをタップするとちゃんと柔らかな平面に触った感触があり、表記が日本語に変化した。上から『名前』『職業』『年齢』『性別』という4項目。名前欄はブランクだった。今後、この異世界で暮らすにあたって好きな名前を名乗っていいわけだ。ボクの本名は男でも女でも違和感のない名前だし、ネットと違って個人情報特定を恐れる必要もない。音声指示もできるはずだけど発声が不自由だった頃の癖でキーボードを表示させる。『ミナト』と空中をタイプした。決定ボタンに触れようとすると脳裏に『名前は決定すると変更不能。熟考の必要あり』という考えが自動的に浮かぶ。転生時、脳に色々詰め込まれることは同意書で同意してた。目の前のステータスパネルは現実ではなく、ボクの脳内に投影された幻影だろうと思う。ボタンに触れたとき指先に感じる反発も単なる擬似脳内シグナルなのだろう。


変更する必要は考えつかなかったので決定ボタンに触れた。これでボクは『ミナト』だ。平々凡々たる人生を歩めばボクの通り名は『〇〇村のミナト婆さん』とでも呼ばれるのだろうし、華々しい活躍をすれば『銀の疾風のミナト』とか『プラチナの彗星ミナト』とか呼ばれるのだろう。カッコいいのがいいなあ。年齢は17歳と固定されている。いいのか悪いのか、若返ってしまった。12歳以上で転生した者は一律17歳の肉体を与えられる。12歳未満の幼児小児が17歳ボディに転生できないのは、経験不足で生き延びられないからだとか。小児転生は記憶を持ったまま受精卵への転生となり、『祝福』と呼ばれる懐妊で市民夫婦の子として転生する。そして性別。しっかりと間違えようもなく『女』と表記されている。表記の周りに変更ボタンなどはない。つまり、固定で確定でデフォルト。今後は女として生きる羽目になったということだ。習うより慣れろ。石の上にも3年。成せばなる。レットイットビー。案ずるより産むが易し。人生万事塞翁が馬。革鎧の上から乳房を抑えてみた。巨乳でもなく貧乳でもない。ほどよい大きさと革鎧の上からもわかる圧倒的な柔らかさ。なのに脳が女性脳に置換されたのか、やましい気持ちが湧かない。口惜しい気もする。馬鹿なことしてる自分にため息をつき、性別欄の下、別枠内に表示されてるボクのステータスを見た。


  名前:ミナト

  職業:冒険者 

  年齢:17

  性別:女


 【ステータス覚値:40/0】

  筋力:0    敏捷:0

  知力:0    精緻:0

  生命:0    感覚:0



ステータスウインドウはぱっと見シンプル。ステータスが6項目並んでいるだけ。数値はすべて0。そしてチュートリアルでお馴染みの『覚値』という補正値が40ポイント与えられていた。覚醒レベル値の略。40/0という表記はゲームの時と同じだ。自由に配分してキャラを作れる初期ボーナスが40ポイントあって、/の後ろの0は魔物を倒すなどして獲得した覚値はまだないということを表す。それ以外にはなにもない。ヒットポイントだのマジックポイントだのアーマーポイントだのもなし。『イービル・サンダー・メガボンバースラッシュ』だの『真魔斬烈拳』だのといった、名前は勇ましいが内容のない超絶スキルや魔法の羅列もない。試しに筋力という項目に触ってみると、自動的にサブウインドウが展開した。『[握力:0]・[腕力:0]・[脚力:0]・[打撃:0]・[跳躍:0]・[投擲:0]・[牽引:0]』。すべてゼロ。試しに握力の項目に触れてみると握力基準値:28kgとの表示がポップアップした。下に説明文があって28kgは17歳の女性の平均値だという。操作感覚も数値もいまのところあちらでやり込んだチュートリアルと同じ。覚値という表記も同じだし、とりあえず違いが見つかるまでシステムは共通だと考えることにした。同じなら6種のステータスに覚値を振り分けると1ポイントにつき5%ずつ増加するはず。これは単純な足し算ではなく複利計算となる。増えた5%を元の数値に足して大きくなった数値を基に次の5%が増加するため、最初の頃は微々たる差異だけど振り分けるポイントが増すにつれあなどれない増加幅になる。握力初期値が28kgだと+1で29.4kgになるだけ。+2で約31kg。でもこれが+50とかになると握力11.5倍。華奢な女の子の握力が322kgになる。オラウータンで200kg、ゴリラで400〜500kgだから子ゴリラ並み。


転生前の身体特徴や男女差が反映するはずなんだけど、車椅子生活だったボクの身体的ステータスはすべてゼロ。17歳女性の平均値だ。最低値でなく平均値なだけでもありがたい。なにはともあれ現状では剣を構えることすらおぼつかないのだから、筋力にいくらか覚値を振り分けてみる。振り分け前に腕力の基準値を見ると16kgだった。メインパネルの筋力欄を指で強めに押すと[+]ボタンが現れる。[+]ボタンをタップするとステータス覚値の数値が39に減り、筋力の数値が1へと表示が変わる。なんとなく身体の内側がむずむずするような気がしたけどすぐ消えた。いちいち指で触らなくても意識集中して念じればできるはずだけど、意識だけでの操作は不安定な感じがする。緊急時以外では指操作が確実だ。サブパネルを見ると軒並み数値が1ポイントアップしている。[握力:1][腕力:1][脚力:1][打撃:1][跳躍:1][投擲:1][牽引:1]。16kgだった腕力は16.8kgになっていたけど、剣を持っても重い感じはさっきと変わらない。はっきり実感できるほどの上昇ではない。筋力が5になるまで振り分けると[腕力20.4kg]になってようやく重過ぎると感じることなく剣を構えられるようになった。


筋力などの1次ステータスに振り分けた覚値は同カテゴリーの2次項目すべてに適用されるため、ジャンプ力も73cmになっていた。垂直に飛んでみると手の平ひとつ分くらい高く飛べるような感じだ。壁、もしくは木でもあったらもっと正確に測れるのだけど、とにかく筋力全般に強くなっているのは間違いない。これなら生き残れる。あっちでやったチュートリアルとこちらの現実で大きな差異があったら詰むかもしれないけど、いまのところ大きな差異はない。どちらにせよ見切り発車だな。決定しなければ先へ進めない。賭けるのは己の命。ふんっと下腹に力を入れて振り分けした。『筋力』や『生命力』をあげるのが一般的なのだろうけど、ボクは『敏捷』『知力』『感覚』をあげる。車椅子生活だったボクが目指したのはゴリラのように屈強な戦士じゃなく、風のように鋭利な忍者。


【ステータス覚値:0/0】

筋力:5    敏捷:10

知力:10   精緻:2

生命:5    感覚:8


重視したのは『知力』カテゴリーにある思考速度・情報処理力。ただし思考速度や情報処理速度だけをあげても相応の情報収集力がないとガソリンのないスーパーエンジンになるだけ。情報収集力とはつまり『感覚』の鋭さだ。知力とセットで感覚をあげることで視覚・聴覚・触覚・臭覚をフルに使った戦闘機動が可能になる。動体視力や暗視能力も増す。戦闘にあまり関係ない味覚を除いた4感から得た情報を高速処理しながら戦える。副次的に魔力があがり、記憶力や観察力も増すのでありがたく享受する。知力の2次項目にボクの転生前からの特徴補正がかかっていた。といっても思考速度と情報処理速度が初期値1ポイント増。記憶力と空間認識とイメージ力が5ポイント増。それだけ。ないよりマシな程度だ。精緻性は現時点では犠牲にしたけど、これも先ゆき優先的にあげていく。その次にあげるべきは継戦能力と耐ダメージが上がる生命力だ。筋力は一番最後。敏捷に動き高速思考で相手の攻撃や動きを見切り、弱点に正確に刃を滑らすことができれば筋力は低くてもいい。最低限だけど最初の準備は終わり。あたりの安全を確認して大きく伸びをひとつ。結界魔導器にタッチして結界を解除し腿のポーチにしまった。ロングソードの持ち運び方に迷ったけど、脇に差すと重くてバランスが悪い感じがしたため背中に負った。鞘に付いている革帯を胸前で結ぶ。リュックを背負うとヒップバッグの上にしっかりと収まり一体化する感じ。その上から埃を払ってマントを羽織る。下を向いて自分自身の2本の足で立っていることを確認。


「むふ。立ててる」


草の息吹きを深呼吸して旅立ち準備完了。水筒は残り1本。栄養バーは11本残っている。栄養バーは1本を半分ずつ朝と夜に食べれば11日保つ。水は節約して2日分。ということはまず水の確保が先決。もう一度じっくりあたりを見渡す。感覚値を拡張した目でも川や池の気配はない。水の匂いもしない。水を探すなら可能性として森だろう。天を見あげて目を細める。太陽が高い。元の世界でも見慣れた太陽。これが赤色巨星とかだったら異世界を実感できるのだろうけど、色も暖かさも変わりない。高さの感じで昼過ぎだなと見当をつける。暑くも寒くもない。初春か初秋な感じ。咲いてる花などは見えないから初秋の方か。太陽の方向を南とする。森は西方向。向かうべき目標が決まる。目指すは遥か彼方の森。リュックは重いけど、ベルトやストラップをしっかり締めて身体に密着させると一体化してあまり苦にならない。頬に風を感じながらピクニック気分で歩いた。草原は緩いうねりがあり、登って降りての繰り返し。足を交互に前に出すという行為が新鮮で楽しく飽きなかった。用意された衣類は1ミリの誤差もなくボクの新しい身体の曲線にフィットしたし、靴はきつくもゆるくもなく靴擦れが起きない。道もない草地を休憩も取らず歩き続けているのに息切れどころか疲れも感じない。発病の前より高性能な身体に思えた。ステータスの筋力に最低限だけど5ポイントも振った効果なのだろうか。時計がないから不正確だけど太陽の進み具合からたぶん4時間ほど歩いたあたり、丘陵の谷間で立ち止まる。疲れたからではない。靴擦れでもない。歩くのが楽しくてまだ倍の時間でも歩き続けられそうだったけど、自然に呼ばれたのだ。ネイチャー・コールズ・ミー。つまりオシッコ。


「立ちション‥‥むう。できないのか」


あたりを見回して安全確認。ショートパンツとレギンスとショーツをまとめてさげてしゃがむ。どこにどう飛ぶのかすらわからないから、大きめに足と膝を開いて解放した。シューッと、ささやかな音が聞こえる。尿道と尿道口を擦過する小水の感覚が心地よすぎて震えが出た。ここ数年、ボクは留置カテーテルで導尿されていたからオシッコする感覚を忘れかけてた。自然の呼び声は地面に染み込んで、ふとこの後どうするかわからなくなった。男ならチンチンを振るだけで終わってしまうが、女の場合は拭かなきゃいけない。たぶん。しかし大自然の真っ只中で、トイレットペーパーを売っているコンビニがない。拭かないとどうなるのか経験がない。おそらくショーツが汚れるだろう。オシッコが沁みた土の匂いを嗅ぎながら熟考すること2秒。ヒップバッグにしまった栄養バーの包み紙を使うことにした。後ろ手にヒップバッグを探り、布と包み紙が入っている袋を引っ張り出す。袋から紙を取り出し、端を指でつまんで揉んでみた。


「これワックスペーパーだよな。吸水性ないじゃん」


つい口に出た。包装紙で股間の始末は断念。水筒の水で洗うとか。いやいや、水は貴重すぎる。拭かないという選択肢は思い浮かばず、かなり迷ったけど布を使うことにした。もったいないのでサバイバルナイフを使い、3センチ四方くらいに小さく切り取って股間に当てがう。擦らないほうがいいような気がして、当てがうだけで水分を吸わせる。使用後の汚れ端布を入れておくビニール袋などないので、もったいなかったけど捨てた。膀胱がさっぱりして身体も軽く、さらに2時間程度歩き続ける。それでも脚にかけらの疲れも感じない。草をかき分けて歩き続けた感想はふたつ。「歩くのは楽しい」と「ゲームや漫画の女キャラの露出衣装ありえねー」だった。草丈が高い場所を分け歩くと、草のエッジで皮膚が切れる。実際手の甲が薄く切れた。もしゲームやら漫画やらの女性キャラ衣装なんて着てたら、全身スプラッターだ。実用衣装ありがとうとルキアに感謝しつつ丘を登り、頂に着く。世界が真っ赤だった。


「うわぁ。綺麗。すげぇ」


荘厳すぎて圧倒的な夕焼け。病室の窓は東向きだったし窓前は別棟の病理検査科の壁だったから、空なんて数センチの隙間から見える青い帯。中庭散歩は看護師さんたちが忙しい夕方にはお願いしづらかったから、夕焼けなんて見たのは何年ぶりだろう。立ち尽くして世界の移ろいに感動しているうちにも、空が藍色になり目指す森は黒い塊になった。まだまだ遥か先。澄んだ空気での距離感など、排気ガスの世界で育ったボクにわかろうはずもない。近そうに見えたんだけど、日が暮れても半分しか進んでいなかった。平地なら時速4kmの速さで歩けるはずだけど、起伏の多い丘陵で草を漕ぎながらだと時速3kmくらいか。真昼から夕暮れまで6時間歩いたとして、進めたのは18km。それほど急ぐ旅じゃないし、車椅子に乗った萎びたミイラみたいだったボクがこれほどの距離を歩けたというだけで満足だった。今日はここで野宿と決める。


途中敵対的な生き物に遭遇することなく、耳の短いウサギのような生き物と遠くを旋回する鳥らしき影を見ただけ。それでも念のため、結界魔導器にタッチして起動する。結界はハーブの匂いがする。魔導器が草に埋もれてなくならないよう、置いたリュックの留め具に嵌める。キャンプファイアーを焚くのは心理的に安心感がある。けど結界の効果が届かない遠目から炎を見られても、トラブルを招かないといい切る自信がなかった。なにより草原には枯れ枝などの燃える物が落ちてない。諦めるのが賢明だろう。夜になって気温が少しさがったけど、外套にくるまれば十分凌げる。なにかあったらすぐ剣が取れるようリュックに立てかけ、外套にくるまって寝転んだ。野宿準備をしている間にも夜が深みを増し、寝転んだ視界に壮絶な天の川が飛び込んでくる。まさに星の大河だ。栄養バーを半分に折ってぽりぽり齧りながら時折流れる流れ星に歓声をあげた。水筒の水を4分の1ほど、口を濯ぎつつ飲んだ。寝転がって光り輝く天の川の星々を眺めていると、この転生が嘘だったんじゃないかと不安になる。あまりに美しすぎ、あまりに自由で、鈍痛も疼痛も脈動痛も激痛もない。不幸の連続だった僕の人生が、こんなに幸せになるなんて信じられない。この先絶対落とし穴があるような気がして、そうなったときに生き延びられるようどんな努力でもしようと心に誓った。寝返りをうったとき地平線から昇る月が見えた。半月。大きさも明るさも元の世界と同じ。模様が違うような気がしたけど、眠りが薄幕のようにボクを包み始めてうやむやになる。


気がつくと朝日が昇りかけていた。爆睡だった。歩けることの嬉しさで気づかなかったけど、やっぱり疲れていたのだろう。でもスッキリした。活力が戻ってる。風が鳴り、地平線が壮絶な朝焼けに燃えていた。見るもの聞くものがすべて荘厳で美しい。などと座りオシッコしながら感嘆するのは不謹慎だろうか。また3センチ四方の布を捨てる。なくなったらどうするのだろう。お尻は葉っぱで拭くなんてネット小説で読んだことがある。草を折り畳んで拭けるのだろうか。知らないことだらけだ。この世界に来ると決まってから読んだサバイバル本にも書いてなかった。惜しみながら水を飲み、栄養バーを齧って朝食終了。水筒は半分になり食料は残り10本に減ったけど活力は満ちてきた。太陽が中天を過ぎる昼過ぎまで歩くと、ようやく森が近づいてくる。しかし広い。体力的な問題はないけど、同じような景色の連続にだんだん飽きてきた。歩きながら魔法の前段階となる精神集中の練習をして気分転換をする。時間をたっぷりかけられたので精神集中はそこそこ上達した。本格的な魔法練習は落ち着いてから。丘陵の頂から見る森は大樹海みたいだった。森に近づくにつれ植生も変わってくる。長い葉の草から葉の小さなシダみたいな草の絨毯になる。ところどころに盛りあがった藪状の塊があり、不用意に踏み込むと鋭利なトゲトゲに迎えられる。もちろんボクは不用意代表だ。ブーツさまさまだった。


森まであと20分程度か。風向きが変わり森方向から風が流れてきた。フィトンチッドの香り。ほのかに土の匂いと木の葉の匂い。そしてそこはかとなく水の匂いが混じっていた。そこここに増えた棘の茂みを通り過ぎようとしたとき、かすかな生臭さと湿った土の臭いが鼻を突いた。感度をあげていなければ聞こえないほど小さな葉ずれの音を耳が捉える。違和感。足を止め、やり込んだゲームの癖で背負った剣の柄に手をかける。左手を後ろに回して鞘を掴み、柄が右肩から出るように傾けながら持ちあげ押し出す。こうすると抜きやすい。音を立てないようゆっくり抜きながら身体を捻る。振り返った視野の片隅、草の合間に肉色のなにかが見えた。ぐしゅっと粘液の圧縮される音。肉色のチクワみたいな棒状の物が草を割って飛び出し、ボクの脛に飛んできた。


「あ。うあ」


情けないことに腰が引け、尻餅をつきそうになったけどかろうじて堪える。ブーツに当たったチクワ状の物は跳ね返って地面に落ちた。ボクの目はまん丸だったろう。地面でのたうち身を捩ったそいつが再び体を縮めて飛びついてくる。


「こ。のぉ」


抜いていた剣を両手で構えて振ったけど、放物線を描くチクワの飛跡と交差するはずだった剣は30センチも離れて空を切った。チクワは膝ガードに当たり再び落下する。もう一度剣を振ったけど、今度も外れて切先が手前の地面に刺さった。


「くそぉ」


再三飛びつこうとのたうつソイツを睨み、僕は剣から手を放して後ろ手にナイフを抜いた。抜きざまに振る。切先がチクワをとらえた。頭かどうかもわからないけど、先端の3センチほどを断ち切る。ボトっと別々に落ちた頭と体がビクビクとばたつき、切り口が半分ほど地面に潜ったあたりで動かなくなった。ボクは片膝をついた姿勢で辺りの警戒を怠らず息を整える。いまになってアドレナリンが噴き出し、身震いが出た。暑くもないのに汗が滴る。チクワは1匹だけのようだ。歯の間からシィーっと息を吸い、動悸が収まるのを待つ。立ちあがり、地面に横たわるチクワの胴体の側まで進んだ。


「なんだこれ。蛇か。どう見てもチクワだよな。穴空いてるし」


ナイフの先で突いてみる。動かない。死んでるようだ。ボクが生き物を殺したなんて。あまりいい気分ではない。ナイフをしまい、指先でチクワにごくごく軽く触れる。まだそこはかとなく暖かい感じがした。切り口からタラタラ血が流れている。思ったほどチクワの表皮は湿っておらず、柔らかく弾力に富んでいた。触った途端、頭の中に説明が浮かぶ。道中の暇つぶしで発見した脳内ライブラリー起動法だった。頭の中に疑問符を浮かべて対象物に触るだけで、ざっくりした説明が浮かぶ。どこか外から知識を送り込まれるようではなく、僕の脳内に最初から用意されていた項目のベールがペリッと剥がれる感じ。


『sangolumbriko。血蚯蚓。吸血するミミズ。通常は地中に暮らし土の微生物や小昆虫類を食べて暮らすが、巣を作ると産卵のために動物の血液を求める。地面の振動で獲物を感知し地中から飛び出して取りつく。食用』


最後の単語が胃をむかつかせた。食用だと。この不気味な皺チクワを喰う‥‥。かなり気持ち悪い。でも初期装備で支給された糧食を食べ尽くしたら、この世界の食事をしないと生きていけない。


「うへぇ」


軽くえづきながら胴体をしごいて血抜きと内臓内の泥の押し出しを終わらせ、栄養バーを包んでいた油紙に包み袋にしまった。料理は今夜のキャンプで。どっこらしょとおじいさんのように声を出して立ちあがり、剣を鞘に戻す。ひどい剣筋だった。筋力も足りないしなにより精緻性がぜんぜん足りてない。修練しなくちゃ。森に入るまでもう一匹の血蚯蚓をなんとか切り伏せた。これも一緒に袋へしまう。ようやく森の縁に着いたけど、踏み分け道も獣道もなく樹木と下生えが密集していて入るのは難しそうだった。横へ回り込んでしばらく進むと苔むした倒木があり、樹木の間隔もやや広がって入りやすそうな場所を見つける。下生えもシダっぽい背の低い植生になり踏み分けられそうだ。なにが飛び出してくるかわからない見通しの悪い森に入るのは躊躇いもあったけど、水の確保は切実な問題。意を決して森へ入る。入り組んで盛りあがる根。滑る苔。湿った腐葉土と雑草。木漏れ日の陽だまり。土と石と岩。障害物競走かってくらい錯綜して歩きにくい。ただ新しい身体は高性能で、リュックを背負っていても身軽に動けた。生命力に5ポイントしか割り当てていないからスタミナはそこそこのため休み休み進む。頭上遥かに大きめの鳥を見たし、木々の枝にリスのような小動物も見えた。6枚羽根の蝶みたいな虫が飛んでいた。血蚯蚓や他の敵対的な動物の襲撃もなく、登って降りて滑って躓きながら水の匂いを探って奥へ入る。そろそろ日が傾いてきた頃、大きな楕円形の空き地に出た。ボクが4人ほど手を繋がなければ抱え切れないほどの巨大な倒木があり、その周りがぽっかり草地になっている。倒木が獣の巣になっている様子はないし、安全そうだ。これ以上無理して奥に入り日が暮れると困ったことになりそうだし、ここで野営することにした。近くに枯れ枝が豊富にあったので今夜は焚き火をしてみようと思う。倒木を背にして背後の安全を確保し、結界魔導器を作動させた。草の上に外套を敷きリュックをおろす。腰ベルト一式を外してリュック前に置く。ナイフで前の地面の草を払った。砂利混じりの黒い湿った土が現れる。ヒップバッグからスコップを取り出し地面を浅く掘りさげた。掘りさげた穴の周囲に丸く石を並べ簡単なファイヤースポットを作る。枯れ枝を拾いに空き地を回ろうとして丸腰で結界の外に出てしまうことに気がつき、平和ボケしている自分に喝を入れた。剣を背負って枝を集める。倒木沿いに拾い歩いていくと、風向きが変わってふと水の匂いを感じた。倒木の陰から伸びあがった植物から匂っているようだ。ボクの腰まである長茎の先に広葉を1枚つけた植物が群生している。触ってみた。


『akvofolio terpomo。水葉芋。湿地や水辺に群生。常緑性多年草。葉に水を貯留する性質を持ち、乾季の干魃に耐える。葉の水分は飲用。地下茎は食用』


葉はボクの手の平ほどの大きさ。上面は鮮やかな緑だけど葉裏は無数の白いキャビアみたいな粒々が密集して連なっている。水を貯めているというからこの小さな粒々に貯まっているのだろう。集めた枝をいったんファイヤースポット横に運んでから戻り、ナイフで葉を一枚切り取ってみた。茎の切り口から水が流れ出す様子はない。握って潰してみた。プチプチっと無数の粒々が弾ける感触があり、思ったより多くの水が溢れる。口を近づけおそるおそる舐めてみた。感じるか感じないか程度にハーブの香りがあるけど、おかしな刺激や味もなく飲めそうだ。試さなければわからない。意を決して飲んでみる。美味しい水だった。葉を何枚か切り取って満足するまで飲んだ。この植物が特別なものではなく、どこにでもある草だとしたら水の心配はなくなる。空き地をざっと見回せば、あちこちに水葉芋の群生が茂っていた。葉を切り取った茎を掴んで引っ張ってみる。なかなかに抵抗があったけど、踏ん張るとズボッと抜けた。地面に埋まっていた根の部分が太くなっていてそこが食用になるようだ。見た目は芋というより巨大なワサビ。追加で数枚の葉を切り取り水を絞って根を洗う。髭根を毟って生のまま先端を少量齧ってみた。


「あ。うま」


ワサビの味はせず、芋に似た甘みのある味がした。6本ほど引き抜いて洗った。芋と絞った後の水葉を十数枚ほど結界に持ち込み、油紙を広げて上に置いた。絞った水葉を持ってきたのは食べられないかと思ったからだけど、齧ってみると草っぽくておいしくない。こりゃダメだと放り出しかけてふと裏面に目がいく。白い粒々が破れて繊維状にもこもこしている。ピンときたのは知力を10あげたおかげかもしれない。


「これって、ウエットティッシュにならないかな」


試しに手を拭いてみた。芋の引き抜きで泥がついた手がさっぱり綺麗になる。丸一日以上風呂にも入らず歩き続けた身体がベタついていた。下着姿になり、全身を拭き清める。足の指の間までサッパリした。どうせ誰も見ていないし結界の中だし、思い切ってブラもショーツも脱ぎ捨て乳房と股間も清拭する。生き返った気分。ちょっと草の味がするのを我慢して歯も拭き磨く。


「これでトイレットペーパー問題も解消じゃん。ウォシュレット並みだ」


まだもよおしてないけどウンチの後だって最初に葉を軽く絞って水が垂れる状態で洗浄し、ついで水を絞り切った葉で拭けば完璧だ。夕闇が迫っていたから水葉収集は明日の朝にして、今夜の華麗なる晩餐会の準備に入ることにした。なんといっても食用吸血ミミズを試食しなければならない。今後の食糧事情に大きく関わってくるから重要だ。まずは火を起こす。大きな石をコの字に組み、地面には小石を20センチほどの円状に敷き詰め地面の湿気から離す。枯れ草を丸めて石の上に置き着火剤にする。細い枝を立てかけるように組み置き、さらに太い枝を円錐状に組む。これでキャンプファイヤーの準備はオッケー。異世界の冒険者は100円ライターなど持ち歩かないみたいだし、着火が問題になる。サバイバルなら板と棒で摩擦火起こしにトライしなければならないところだけど、ありがたいことにこの世界には魔法があった。


魔法の基本となる体内の魔素循環は歩きながらの暇つぶしに練習したのでそこそこ感覚はつかんでる。チュートリアルでは説明に従って数回練習しただけでできるようになったけど、現実はバーチャルほど単純じゃない。よそ見でもして集中にムラができると魔素循環が詰まってしまう。目を瞑った方が集中できるだろうけど、そんな癖がついてしまったら戦闘中に目を瞑る羽目になる。石組みカマドの前に胡座をかいて座り、組んだ枝の両側に手をかざして魔素を練る。お腹の奥、丹田と呼ばれる部位を意識する。そこに発生させた魔素の流れが鳩尾あたりまでクルクル回るイメージ。さらに回転により勢いをつけ、溢れた魔素が心臓に向かって流れあがるイメージを作る。心臓を通って丹田に戻る循環イメージができたら流れの幅を狭めていく。ホースの口を潰すと流れ出す水の勢いが増す原理で循環のスピードをあげていく。体内の通り道がぽうっと温かくなるような気がしたら成功。


知力をあげたことで連動する心象力、つまりイメージ力があがってなければ難しい準備。魔法は魔素の循環とイメージ力が重要。練れば練るほど威力があがるけど、ライター替わりくらいならおおまかなイメージでも充分。ただ実戦ならもっと早くもっと鮮明にイメージしなければ使い物にならないだろうけど。循環させるたびに魔素が濃く強く速くなっていく。そのサイクルが意識せずできるくらいになりたいものだけど、現状ではまったく修練が足りてない。いまはステップを意識しながら確実に練るのみ。魔素を放出する用意ができたら魔法の発動だ。体内を循環している魔素の流れを両腕へと通し、両の手の平から出て中間点で交わるようにイメージする。


瞋恚しんいの焔。顛動てんどうする赤光。灼熱の軋轢あつれき。浄化の凝縮。焦熱の拡散」


口に出して呟く。呪文のようだけど、じつは単なるイメージの方向づけ。火を想起させる言葉ならなんでもいい。僕が呟いたのはチュートリアルでデフォルトだった定型台詞だ。イメージ力があがれば言葉も不要になるけど、なんたってボクは異世界初心者。知力への振り分けもまだ10ポイントしかない。手の平の間で空中の一点が眩く赤熱し小枝に触れて燃えあがった。着火完了。軽くあおいでいるうちに太い枯れ枝に燃え移る。鍋ケトルに油を敷いて水葉芋の根を削ぎ切りして炒めた。塩胡椒してつまみ食い。


「美味ぁい」


つい声が出た。栄養バーも美味いけど温かい料理はまた格別だ。ホクホクしながら芋を食べ終わり、いよいよ問題のミミズだ。ナイフで縦に切り開く。内蔵っぽい部分をこそげ、水葉を一枚絞ってよく洗った。賽の目に切り、油で炒める。塩と胡椒は多めに振った。焼くと縮む。ナイフの先にひと切れ突き刺し、恐る恐る口に持ってくる。匂いは悪くない。よく焼けて微かに焦げ目もついている。ちょっと度胸が必要だったけど、ふうふうしてからひとカケラ齧り取った。噛み締める。カケラなのに肉汁が溢れた。


「うわ。肉だ。美味いじゃん」


もっと泥臭い味かと思ったけど、しっかり肉の味がした。歯応えはホルモンっぽい。でも淡白ではなく濃厚な肉の味。鶏肉豚肉より牛肉に近い感じ。ちょっとだけ臭みがある気がするけど、感覚値を増した味覚で微かに感じる程度だからほとんど気にならない。香草とかと一緒に炒めたらもっと美味しいか、ぐらいなもの。たいへん美味しく一匹分を平らげ大満足して初の異世界産物試食会を終えた。はしたなくゲップなど漏らして、鍋ケトルを水葉でしっかり洗浄清拭する。動画サイトでサバイバル教習動画を見まくり、大自然でのキャンプでは匂いが獣を呼び寄せると教わった。匂いに敏感な熊など、テントに持ち込んだ飴一個や化粧品の香料でさえ嗅ぎつけて漁りに来るという。地球だったらおもに野犬や熊だけど、異世界では熊以上に危険な猛獣がいるはず。魔導器の結界はあるけど、腹ペコ猛獣の臭覚をあざむくくらいの効力があるかわからないから念入りに洗った。片づけも終わり、残り火を見ながらぼーっとする。っていうかぼーっとするしかなかった。もの凄く暇だった。転生前は夕食が終わるやいなやネットを立ちあげてゲーム三昧。息抜きにネット漫画を読み動画を鑑賞して休む暇もなかった。パソコンもスマホもない夜なんて。ましてや電気も照明もない夜の野宿なんて。なんにもすることがない。せっかく健康な身体を手にいれたっていうのに退屈で死にそうだ。しばらくして火は燃え尽きた。半月と星明かりだけでもぼんやり景色は見えたけど夜の森の闇は濃く気味が悪い。もう一度枯れ枝を探すのは面倒だし、危険もある。暇潰しに魔法の練習をすることにした。魔素の練りはずいぶん慣れてきた。丹田という臓器があるわけじゃないけど、臍下の奥に塊があるようなイメージを作る。女になってしまったボクの身体では子宮があるだろう位置なのだけど、深く考えたくないので曖昧にしておく。網の目に走る血管や腸間膜に魔素を滲出させる感じ。その魔素を呼吸とともに太陽神経叢を経由して心臓へあげ、そこから丹田に戻す。時計回りの回転。このイメージを2サイクル。イメージ強化のための呪文も口にする。


「燦然たる軌条。太陽の雫。白陽の波動。闇を祓い標となりて導く。光灯れ」


左手を差し出し手の平を上向かせる。手の平から10センチほど上、空中にパチンコ玉ほどの光の玉が浮く。直視しても眩しくない光が柔らかく拡がる。懐中電灯ほどの光量もないけど、あたりを照らすには十分だった。手を外しても光の玉はそこに留まり、ゆらゆらと揺れながら光り続ける。光球の持続時間を知りたかったけど時計がない。


「時間を計るには。うー。大雑把だけど、剣の修練にもなるからいいか」


剣を手に立つ。剣帯で背に括り、ゆっくり剣を抜いた。半身に構えてしっかり立つ。なんといっても真剣だ。気を抜いたら怪我する。息を整え素振りを始めた。素早く振るより正確に振ることを優先して、振りおろしたとき同じ位置で止まるよう意識した。それ以外は無心で振りの回数を数えながら素振りを続ける。感覚として1秒にひと振りのペースを維持して、308振りしたところで光球が消散した。ふうっと息を吐いて剣を鞘に戻す。


「308振り。誤差はこの際置いといて約5分ってとこか」


次に魔素練りは同じ2サイクルだけど放出時に「うんぐっ」っと力をこめてみた。さっきよりも明るい光球が出て、311振りで消える。放出時の力のこめ具合は継続時間ではなく明るさに関係するようだ。続いて魔素練りを3サイクルで試すと459振りまで灯り続けた。腕がだるくなってきてたので腕をマッサージしながらしばし休む。いままでの合計素振り回数1078回。予想通りならあと362回でポイントアップするはずなんだけど。腕の乳酸を散らして最後に4サイクルの持続時間を測る。ちょうど362回振って総回数1440回になったとき、身体の芯であのむずむずを感じた。ステータスパネルを開きっぱなしにしてあったので、精緻が1ポイント増えて3になるのが見える。この世界でもチュートリアルと同じ成長システムが適用されているとわかった。基本値が1000で、倍率は「1.2」だ。元の世界でも反復練習は筋力やさまざまな技術を成長させる基本修練だったけど、こちらの世界ではもっとシステマチックだ。ポイント獲得に必要な反復回数はポイントに応じて1.2倍ずつ増えていく。ポイント0から1へ上げるためには1000回。1から2へ上げるためには1200回。2から3へは1440回。3から4へは1728回の反復が必要となる。


そのまま素振りを続けて246回降ったとき光球が消えた。約10分。こちらもシステマチック。間違いなく1サイクルの魔素練りで2分半の計算だ。魔法の持続時間を調べるために素振りを時計替りに使ったが魔法の持続時間に関してはわかったので、それからはステータスアップのための反復練習に切り替える。どうせ寝られないし暇だし、素振りを続けた。少し休んでから今度は大きく踏み込んで大上段から全力で振りおろすパワー重視反復を始める。切っ先位置が地面スレスレで止まるよう剣の止め位置の精緻性も意識した。筋力は5まであげてあるからこれを6にするには2488の反復が必要だ。単純作業を続けると脳から快楽物質が分泌されるらしい。休み休み1時間くらい。最初の1440回の素振りがあったためパワー素振り合計1048回行ったとき、身体の芯であのムズムズを感じた。筋力のサブウインドウを開くと握力と腕力が6になっていた。そのまま根性出して累積2488回まで振り続ける。ムズムズしたあと打撃力が6になっていた。反復修練の難点はポイントがあがるたびに必要回数が増えていくこと。反復だけでポイント10にしようとしたら、累積で約2万6千回も素振りをしなければならない。休まず続けたとして7時間以上。大変だけどそれでも意識して素振りすることで握力や腕力だけでなく精緻や生命カテゴリー内の持久力など関連したステイタスが複数あがるのだからやりがいはある。眠くないのをいいことにけっこう深夜まで素振りをしてしまう。握力と腕力と打撃と持久力に+2の補正がついて7になり精緻の項目に+2の補正がついた。腕が鉛みたいになり、ダルダルのへとへとになってもまだ眠くならないので剣の研ぎで時間を潰した。書道家が墨をすって明鏡止水の境地に至るが如く、ボクも一心に砥石を滑らせることで哲学書熟読の境地に至りようやく眠れる。翌朝ひどい筋肉痛に後悔する羽目になったものの、無理のきく身体が嬉しかった。


***************

名前:ミナト

職業:冒険者 

年齢:17

性別:女


【ステータス覚値:0/0】

筋力:5   敏捷:10

知力:10  精緻:2

生命:5   感覚:8


筋力5 :握力+2【7】

     腕力+2【7】

     脚力  【5】

     投擲  【5】

     打撃+2【7】

     牽引  【5】

     跳躍  【5】


知力10:魔力  【10】

     思考+3【13】

     集中  【10】

     空識  【10】

     記憶+5【15】

     情報+1【11】

     観察  【10】

     心象  【10】


生命5 :耐久  【5】

     免疫  【5】

     持久+2【7】

     耐撃  【5】

     抗毒  【5】

     抗老  【5】


敏捷10:瞬発  【10】

     神経  【10】

     反射  【10】


精緻2: 誤差+2【4】

     筋制+2【4】

     環応+2【4】


感覚8 :遠視  【8】

     微視  【8】

     動視  【8】

     暗視  【8】

     測視  【8】

     微音  【8】

     音析  【8】

     音域  【8】

     微臭  【8】

     臭析  【8】

     微感  【8】

     振析  【8】

     味析  【8】

     毒感  【8】

***************


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