17.ありふれた「トカゲ襲来」と「廃城」と「狂メイド」
ベルダ・ステロ城塞都市を出て馬車と騎馬の隊列が北を目指す。隊長のダムディン・アチバドラフ大尉と副隊長のダメル・ンガバ中尉が率いる総勢22名の戦闘集団。3班に分かれ1班につき8名の隊員で構成されている。前回の作戦で1班と3班の士長ふたりが大怪我をし、治療静養中で今回の遠征には間に合わなかったため22名となっている。その穴を埋めるという名目でボクたち『妖精と牙』の4人が指名クエストで参加しているわけだが、なんとノアとラウリは二角馬に乗れることが判明。負傷欠場したふたりの馬に颯爽と乗っている。で、かくいう影の実力者、別名『黒幕軍師』と『生まれながらにして渉外担当』はというと、物資や荷物といっしょに馬車に積まれてゴトンゴトンお尻に罰を受け続けるハメに。馬車は二角馬の2頭立てで、先頭1号馬車の御者は初日にシオンがお手合わせで対戦したバイオレット・ドワイヨン嬢だった。セミロングの髪を後ろで1本三つ編みにした緑目のめっちゃ綺麗なお姉さんだ。シオンが歳を聞き出して18歳だとわかったので1歳年上のお姉さん確定。最初は無口だと思ってたけど、主にシオンの遠慮容赦ない親しげお喋り攻撃に懐柔され打ち解けるとなかなか楽しい方だった。2号馬車の御者はラウリと対戦したシャルリー・コルビエール君。3号馬車の御者がノアと対戦したフォルミオン・ガヴラス君。どちらも19歳だそうだ。『黒い森』を左に見て草原道を北へ半日。『蒼い森』の林道を馬車の両脇からバシバシと枝に叩かれながら進み、『棘の森』を迂回して山道に入る。ここで本日の行程終了。平らな場所はここが最後らしい。ボクたち用にテントをふたつ立ててもらい食事は1班の面々と摂る。1班の料理担当はちょうど療養中の方だったようで、代役のバイオレットは料理が苦手。なのでボクが手を貸して1班7人分+ボクら4人の11人分の生姜焼きを作ることになった。体力商売の警備隊員だから普通の人よりは食べるだろう。20人前作れば足りるかなと見当をつける。馬車に積んで運べるため大鍋が使えるので1回に5人前分は作れる。とはいえ20人前なんて作ったこともない。大鍋を4回に分けて振ったのだが3回で手首が痛くなる。4回目をバイオレットに交代してもらって腕を休めたんだけど、バイオレットは料理がダメみたい。結構焦げてた。まあ、概ね好評。シオンはサラダとスープ担当し美味しく作れていた。日本での料理は母親任せだったようだが見るべきところは見てたみたいで、バイオレットよりは任せられる。食器洗いと薪集めとお茶の用意は他の隊員がやってくれたので、ボクたちは焚き火の周りでもらったお茶を啜りながらのんびりした。
「えー。ビビのお父さんって冒険者だったの?」
ビビとはバイオレットの愛称。結構シャイっぽいバイオレットの対人距離感にもかかわらず、あっという間に愛称を使う間柄になったシオンの愛嬌力って凄いわ。
「ええ。父は転生者、母は現世者。でも私が10歳の頃ダンジョンで命を落としたそう」
鎧を外してシャツの前を開けたビビの胸元にチラッと見えたのは冒険者タグだった。父親の唯一の形見なのだろう。
「転生って始まったのが20年前だったよねー。でー、ビビが18歳ってことは、最初期の転生者がこっちの世界の人と恋に落ちたってことだ。いやん。ロマンあるぅ」
ボクにとっては転生者と現世者のロマンより、その結果生じた生物学的状態の方が興味ある。
「えと。ボクもビビって呼んでもいいかな。ボクのことも呼び捨てでいいからね。ちょっとプライベートなこと聞きたいんだけど。あ。踏み込み過ぎなら答えなくていいんだけど。あ。聞いてもいいのかな。じゃ、聞くけど。お父さんが冒険者だと、そのお子さんのビビはステータスを開けたりするのかな?」
「ステータス?」
ビビが首を捻る。
「冒険者の人がそういう話をしてるのは聞いたことあるけど、私も隊のみんなもそんなの見えたことないよ。あ、でも魔法学院の人たちから聞いたことある。なんか高位の聖職者とか魔法使いの人の中には開ける人いるみたい。昔聞いたことがある」
「魔法か。ビビ、魔法は?」
と聞いてみる。
「え。無理無理」
ビビが苦笑いして手を振った。笑うと目が細まって急に可愛い感じになる。ビビからこちらの世界の魔法事情を聞くことができた。それによると10歳までに『慈跡』と呼ばれる能力を示した子供は教会に行き、神童と呼ばれるほど頭のよい子供は魔導院に行って選別を受けるのだそうだ。『慈跡』とは、『奇跡』ほど特異で大規模な超常現象ではないものの生命活動に関するなんらかの超常作用を意味する。小さな負傷を癒したり、植物の成長や開花を促進したりすることで発露される能力だそうだ。ステータスでいうところの生命ステータスと結びつく能力だと思われる。対して知力が高い者はストレートに頭のよさとして表れ、それをもって魔法適性が高いと見なされるらしい。『慈跡』にしても『魔法』にしても現生者にとっては稀有な能力で、1万人にひとりといわれているらしい。ビビはどちらも発露することなく10歳を過ぎたため、慈跡特性も魔法適性もないものとされたし本人もそれで納得したそうな。まあ、常識的にはそうなんだけど。こっちの世界はそもそもゲームを元にして構築されているのだから、あっちの世界よりもうちょっとシステマティックだと思うんだよなあ。ステータスは反復や修練で伸びる。つまり幼少期になんらかの動機づけがあって特定の能力を反復使用すれば伸びる能力であって、生まれつき固定された能力ではないってことのはず。ちなみにこの世界は20年前に可能性の雲から収束してできたわけだが、こちらの世界に住む現生者で自分も含めて世界が20年前に一瞬でできあがったと信じる人などいない。40歳の人は40年分の矛盾のない記憶を持っているし、3万年前に堆積したとされる地層を掘り返せばちゃんと3万年前の化石が出てくる。生物は何万年もの進化の過程を形態に残しているし、もしDNAを鑑定できたらそこにも長い年月の変化が記されているはず。
「ビビは魔素練りってやったことある?」
「聞いたことあるけど、なんだかよくわからないし難しそうだから試したことない。魔導器のオンオフだけはエイヤって念を込めてなんとかできるから」
「教えてあげるからちょっと試してみない?」
「えー。無理だと思うけどなあ」
と渋るビビさんに触って丹田の位置を示すのはシオンに任せて、ボクは言葉でコーチング。
「お臍の下、だいたい9cm。恥骨のちょっと上。身体の奥で子宮の上側って感じかな。そのあたりに腹筋とか腹横筋とかが交差してるんでその筋肉に力入れつつ姿勢を伸ばしてゆっくり息を吸う。吸った息が肺を通り越してお腹まで降りるイメージしてもいい。鼻で吸って口で吐いて、吸ってー吐いてー。横隔膜がゆるーく動くのを意識して。息といっしょに身体中を流れる血とか体温とかが流れ込んで、くるんくるんって回るイメージさせてみて。ゆっくり吸って吐いてー。目を半分瞑って意識を集中して。ゆっくーり。くるん、くるんって回るイメージがだいじ。身体中から温かいものが集まってくるイメージ。なんとなくお腹がほんわか感じてきたかな」
シオンがビビのお腹に手を置き、ゆっくり円を描いて教えている。
「あー。うん。なんとなく‥‥」
「最初はそんなもん。半信半疑だしね。そしたら今度はその円を描く流れを心臓にまで、上にフワッと押しあげる。心臓を回り込んで丹田に降りる大きな流れの円環をイメージする。イメージするだけでいいんだ。心臓でエネルギーを得る感じ。大きくグルングルン回る。身体からはみ出しても平気だから。最後は心臓からさらに頭の中心まであげて。心臓で捻れて8の字を描く方がイメージしやすいと思う。流れればいいんだ。そこまでイメージできたらその感覚を覚えておく。日常いつでもふと思い出したときに回してあげる感じ。なんとなく意識しながらやってるとだんだん無意識でいつもやってるような感じになるから」
「あー。そのイメージって難しい。雑念が」
「雑念あっても大丈夫だよ。意識の裏っていうかバックグラウンドで回ってるってイメージしちゃえばいいんだ。自己暗示みたいなものでさ」
「そんないい加減な感じでいいの?」
「ウチも最初そう思った。でもイメージだからね。アバウトでオッケーなんだよー」
シオンがまだビビの身体を撫でさすっていたけど、よく考えるととってもエロティックな光景だった。はっとしてノアとラウリを見ると、焚き火の向こうでふたりともこっちに背を向け、取ってつけたみたいな難しい話を必死でしていた。ふたりの居たたまれなさはとってもわかる。ビビに目を向け、ダメもとでいってみた。
「ビビ。『ステータス・オープン』っていってみて」
「え。あ。ステータス・オープン」
半眼でつぶやく。その目が大きく見開かれた。
「え。あ。えっ。これ、なに?」
「わあ。ダメもとだったんだけど成功しちゃった。やっぱ、魔素の循環と関係あるんだ」
「え。でたの。やったねビビ。それがステータスウインドウだよ」
と喜びながらまだ身体を撫で回すシオン。ナニゲにおっぱい揉んでるし。おいシオン。もうおっぱい揉まなくてもいいんじゃね。と撫で回す手を叩いて外すとシオンが不満げに口をとんがらせた。ビビのバストはボクより大きくボリューム感があり、男女超えて揉み甲斐がありそうではある。
「これが私。髪くしゃくしゃ」
「そだよー。鏡と違うから左右反対でもなくてさ、他の人から見た自分の姿が見られるよ。ほれ。櫛貸したげる。んでね。自分の3D画像の横に自分のアイデンティティ情報が書かれてるでしょ」
ボクが聞きたいことはシオンも聞きたいことのようで、ボクは黙って見守った。目のやり場が戻った男ふたりもこっち向いて見守ってる。
「ええ。名前と職業と年齢と性別」
「その下に『ステータス覚値』って項目が強調された枠に入ってあるよね。その数字いくつになってる?」
「20よ」
「ウチらの半分かー。それでもステータス1項目に全部乗せれば‥‥ミナト、何倍?」
「あー。2.65329771倍」
「それ。2.65なんたら倍になるんだから侮れないよね」
「どういうこと?」
ビビにとっては生まれて初めての経験で基礎知識もなにもない状態だから説明が難しい。「えーっと」とぶつぶついってたシオンが説明役を放棄してボクを見つめてくるので、しかたなくボクが説明役に回った。
「お父さんが冒険者だったっていう血がビビにもしっかり流れているっていう証拠だね。ボクたち冒険者は『地球』っていう別の世界、別の星からこの地に転生してきたわけなんだけど、こちらの世界で生き延びられるように女神がいくつか恩恵を授けてくれてるんだ。そのひとつがこの『ステータス』っていうシステムでね。身体や精神の特徴的な機能が数値化されていて、そこに覚値っていうポイントを自由に振り分けることで能力を伸ばせる仕組みになってる。転生時に与えられる身体はあちらの世界での17歳時点での平均能力値しか持たないんだけど、その中でも特に生存に関係する能力が大項目で6つに分けられているんだ。今ビビの見ているステータスパネルの下にその6項目がでてるだろ」
「あ。うん。STR、INT、VIT、AGI、DEX、SENってなってる。全部0」
あ。ビビの目にはアルファベットで映ってるのか。
「その各項目の0の横に『+』ボタンあるよね。それに触ると上の覚値ポイントが減って、その項目が1あがる。ステータスが1ポイントあがるとその能力自体とその能力に関連したサブ項目の能力が一律に5%あがるんだ。例えば『筋力』に1ポイント振れば、サブ項目の握力、腕力、脚力、投擲力、打撃力、牽引力、跳躍力が全部まとめて1ポイントアップするわけ。あ。サブ項目は、6項目のステータスに触ればサブウインドウが開いて見られるよ。やってみて」
「あ。ホントだ。なんか数字がついてるけど」
「ああ。たぶんそれはいままでの人生で得られた経験や修練による習熟補正値だよ。転生者だと転生前の職業や経験によって補正がかかる。シオンだと以前はバスケットボールっていう激しく機敏に動き回るスポーツにハマっていたので、筋力や敏捷性に補正かかってたりする。ビビの場合は剣術の修練による補正じゃないかな。こちらの世界で生まれ育った人たちはステータスを開けないから覚値の振り分けができないわけで、修練を重ねて習熟補正値を増やしていくしかない。冒険者は最初に覚値をもらえて能力をあげられるから、ちょっとズルできるんだよ。んで、ビビもボクたちと同じに覚値を振り分けて能力があげられるってわけ。覚値1ポイントにつき能力が5%あがるんだけど、これは複利式だから。つまり最初の1ポイントで5%アップした分も足して、増えた元に対して次の5%アップがかかってくるからポイントを振れば振るほど伸び率があがっていくんだ。増えた分が元に繰り込まれないで毎回元の5%増えるだけなら20ポイント全部振ると5X20で100%、つまり2倍になるだけだけど、複利式だから20ポイント全部振ると2.65329771倍になるわけ」
「2倍って、つまり普通の人が走る速さの2倍で走れるとかってこと?」
「そういうこと。でも、例えば脚力だけ2倍に強化しても、そんなに速く動いたら目がついていかないよね。考えるスピードだって追いつかない。なんで、特化するのはかなり難しいんだ。関連する別の項目もあげていかなくちゃね」
「私は‥‥」
「6項目に触ってサブ項目を出してみて。習熟補正値がどのくらいついてるか教えてもらえるかな。もし個人情報を教えるのが嫌じゃなければ」
「え。いまでてるけど。これってみんなに見えないの?」
「うん。自分のステータスパネルは自分にしか見えないよ」
「そうなんだ‥‥教えるのは別に構わないけど」
そうして教えてくれたビビのサブステータスは習熟補正だらけだった。血が滲むほど頑張って修行をしてきたことがわかる。剣術中心の修練だったろうから筋力は軒並みアップしてた。特に脚力が+6もあがってる。シオンですら脚力の習熟補正は+5だ。随分走り込みをしてきたんだろうな。生命力の耐久力や持久力もあがっていて、持久力は+6だ。敏捷と精緻もそこそこ補正ついてる。ビビ本人の意向を聞いて、筋力と生命はほどほどに+2しそれ以外の知力、敏捷。精緻、感覚に+4した。
「あ。夜の森が前よりくっきり見える」
「暗視が+4になったからね」
「凄いわ。なにか身体も軽い感じがする」
「実際全部のステータスが底あげされたから。前より軽やかに素早く、でも剣圧は重く長時間動けるよ」
「これならクセナキス1士に勝てるかな?」
クセナキス1士といえば初日にボクと試合した人である。
「間違いなく勝てると思うけど‥‥」
「けど?」
「うーん。あのさ、ビビ。このステータスの件と能力アップのことは、そうだなぁ、隊長さんと副隊長さんにくらいは話してもいいかもしれないけど、他のみんなには大っぴらに話さないほうがいいような気がするんだ」
「どうして?」
「うーん。人によってはズルしたと思う人もいるかもだし、自分達と違う人間と感じて溝ができちゃうかもしれないし」
「それは‥‥そうか。そうかもだね。わかった。ありがとミナト」
「いや。ボク根性ひん曲がってるから、悪く考えちゃうんだけど」
「ウチもミナトがいったこと正しいと思うな」
シオンが賛同してくれたのは意外だった。ガシッと肩を抱かれた。
「ふたりともありがとね。じゃあ、私見張り当番にいってくる」
ビビが立ちあがり帯剣して大テントへ向かう。
「そいえば、ウチらの見張りの順番とか聞いてる?」
「いや。聞いたら、僕たちはゲストだから見張りは免除だっていわれたよ」
ノアが火に枝を焚べていった。
「そっか。じゃあ、食事の用意はビビに代わってボクがやるよ。みんなはテントの設営とか撤去とか積極的に手を貸して。まだ2日はあるしね」
「了解」
ようやく影の黒幕みたいなことがいえたぞ。それから2日。山間を抜け、森を抜け、絶壁の吊り橋を渡り、川床を抜け、山道に入った。隊列は進んだ。車輪とボクのお尻が擦り減った以外での出来事といえば、なんとボクとシオンは馬に乗れるようになってしまったのだ。休憩時間に馬に跨ることから始め、ウオークやトロット、3日目に開けた場所に出るとキャンターやギャロップも練習し、なんとかできるようになった。常歩と書いて「なみあし」と読むポクポクポクポク4拍子歩きがウォーク。速歩と書いて「はやあし」と読むタッタ、タッタと2拍子のジョギングレベルがトロット。駈歩と書いて「かけあし」と読むパカラッパカラッと3拍子のランニングレベル走りがキャンター。襲歩と書いて「しゅうほ」と読むドドドドっと地響き立てて全力疾走するのがギャロップである。全部馬上での揺れが違い、キチンと合わせてあげないと馬も疲れるしお尻と腿の内側も悲惨なことになる。シオンは自分で自分の身体をコントロールするバスケな女だから、馬との相互協調作用は苦手っぽい。ボクは電動車椅子を操作してウィリーもやってたくらいで、なんというか得意。馬の背で見る世界は見晴らしがよく、最高だった。そしてみんなの賞賛を受けた食事の調理。朝はパンと乾燥肉だけの朝食で調理の必要はなかったけど、昼食と夕食はボクが作って大好評だった。記憶力はいいので、日本で見た料理動画のレシピはほぼ覚えている。毎食チューブを飲み込んで、転生直前は鼻からチューブを通して否応なく流動食を流し込まれる経管栄養の身として、味も素っ気もない食事を補うために動画見まくったのが役に立った。さらに嬉しかったことに、高いお金を出して買った寝袋が最高の寝心地だった。温かく暑過ぎず固い地面の上でも柔らかく、上質な眠りを提供してくれる。そんなこんなで3日の行程もそれほど苦じゃなく過ぎていった。
森の道が登りになる。しばらく登ると木々がまばらになり、森が終わって広い草地に出る。陸上競技場を縦にふたつ繋げたほどの広大さ。正面かなたに黄色く色づき始めた背の高い木々の森があり、その向こうに思ったより近くグラボ山脈が聳え立っていた。剣という意味の『グラボ』と名づけられた山脈は、山越えなど金貨100枚でもお断りするだろうほど険しかった。平地の左は木の密集した崖。平地の右をグラボ山脈とは別の中規模な山が塞いでいて、山裾が平地に軽く食い込んでいる。平地の真ん中を走る道は山裾手前で分岐し、分岐した山道を登った先に目的の廃山城があるらしい。分岐で曲がらず道なりに進むと、山裾を回り込むように緩く右へカーブし奥の森の端を掠めてグラボ山脈に続く。その道の続く先、山脈に1箇所、1本の線のような切れ目が見える。まるで巨大な包丁で山を両断したかのような一直線の峡谷。あれがロッセン大峡谷か。どう考えても不自然な峡谷だなあ。太古の昔に巨大なビーム砲をぶっ放した奴でもいたかのようだ。目的地の廃山城は右の分岐道の先。もう1〜2時間の距離だというが時刻は間もなく日が沈もうとする午後の5時。薄暗くなって離れた人の顔を見分けられず『誰そ彼?』といったことから『タソガレ』という名称を与えられた時間。夜の山道を進むなんて命がかかるので、今日はこの平地で陣を張り夜営となる。ありがたいことに道の分岐の向こう、山の沢から平地を2分してせせらぎが流れ出していて水に困らない。
3回目の夜営。もう慣れたもの。2班がテントを貼り、テント群の周りに簡単な防護柵を設ける。本部となる大テントの裏手に男女ひとつずつトイレテントを作ってくれるのはありがたい。水洗もウォシュレットもないけどプライバシーだけはある。3班は二角馬たちの世話。馬車に積んできた水樽をおろして馬たちに水分補給。1台の馬車に満載してある飼葉キューブの圧縮魔導器を停止すると1m四方の飼葉キューブが体積16倍に膨らむので二角馬にたっぷりの食事を与えることができる。そしてボクとビビとシオンを除く1班は水汲みと水の濾過、薪拾いをしたあと防護柵設営に合流する。ボクとビビはざく切りの鼻猪肉を「茄子もどき」と「ピーマン味果実」と「舞茸みたいな香味葉っぱ」と「ししとう味の当たり外れのある辛味雌しべ」を「ニンニクみたいな木の実」と「輪切り鷹の爪風雄しべ」入りの「オリーブっぽいオイル」で炒めた具をどっさり乗せたご飯丼を作った。シオンは具沢山スープ作り。鍋振りすぎて手首が腱鞘炎になりそう。日が暮れた。「うまうま」いいながら食べて後片づけを1班のメンバーに任せ、ゆっくりとお茶を飲んで地平線近くの満月を眺めながら食休みしていると、急に風向きが変わり風にオゾンっぽい匂いが混じった。魔素の匂いだ。まだまわりの隊員たちは気づいていない。
「魔素の匂いがする。ダンジョンの溢れ出しが流れてきてるのかもしれない。魔物に注意して」
ボクが声をあげると真っ先にシオンとノアとラウリが剣を取って立ちあがり、外周防護柵西側の手前に散って周囲の警戒を始める。大型テントから出てきたアチバドラフ隊長がボクを見て頷き、声を張る。
「全員戦闘準備。外周を警戒しろ。第3班。南で馬を守れ。2班は北へ。西は妖精さんたちがいるから1班は数人残して他は東を」
ボクたちがいるのは西側。南側には馬たちがいる。アチバドラフ隊長がいる大型テントは東側。ボクの周りにはビビを含む1班のメンバーがいた。ビビと他に隊員1人を残して残り5人のメンバーが東側へ向かう。隊員の移動が始まりすぐに配置完了した。北側に向かったンガバ副隊長の声が響く。
「北側。霧だ。奥の森が濃い霧に包まれていく。風に乗って流れてくる可能性が大きい。流れてきたら視界が悪くなるぞ。同士討ちに注意しろ」
魔素が大気と反応して冷却し霧が生まれるのだろうか。ボクのいる位置からは距離があって奥の森の暗さがわずかに白っぽく薄れた感じにしか見えない。なにかが聞こえた。耳を澄ます。地面にしゃがみ込んで耳をつける。手前の音は仲間と馬たちのみじろぎ。遠くから重りあって重低音みたいになった足音の地響きが聞こえる。こりゃ相当な数だ。身を起こし目を瞑って音だけに集中する。微かに金属を打ち鳴らす音が北から流れ聞こえてくる。それ以外の方向からの音は聞こえない。
「ノアとラウリはこのままここにいて。まわりの状況に気を配っててくれるかな。たぶん北からの進軍で他の方位は大丈夫だと思うけど、なにか想定外の事態が起きたらそこを補強する遊軍になって。ボクとシオンは北へ回るね。視界が悪いのならボクたちがいくしかない。シオンかなり命懸けっぽいけど、いいかな?」
「オッケーだよ」
ノアとラウリに「気をつけろよ」との言葉をもらってボクとシオンは北へ移動した。ンガバ副隊長を探す。そうこうしているうちに、あたりの空気が微かに白っぽくなり始めていた。
「ンガバ副隊長。音からすると北側正面から多数の音が聞こえてきます。たぶん魔物の群れだと。西や東からはいまのところなんの気配も感知しません。霧もだんだん濃くなってきたみたいですので、ボクとシオンで柵の外に出ます。あ。いえ。無茶をするわけじゃなくて、ボクとシオンは遠距離攻撃できますし、音で敵を探ることができるので霧の中でも周囲の様子がわかるんです。霧に身を隠せますし、外で動いた方が仲間の巻き添えを気にせず攻撃できるので効果的なので。もちろんボクもシオンもめっちゃ臆病なので無茶なんかしません。絶対安全な状況でのみ戦闘しますので心配しないでください。取りこぼしがいっぱいでるのでそれはお任せします」
「しかし。ふたりだけなんて」
「安全なところからやるだけやってすぐ引き返してきます。あ、そうだ。弓の人たちはボクたちが戻るまで弓を射らないようお願いします。じゃ。でます」
そういってシオンといっしょに道の上に設けた柵の簡易扉から出た。しばらくゆっくり前へ進む。道の分岐点を越え川の手前に片膝ついて姿勢を低くした。このあたりまでくると霧が一段と濃くなる感じだ。川から森まで陸上競技場のトラック1個分、約120mくらい広々した草地が広がっている。その先の森まで入ってしまうと密な立木に音が遮られてエコーロケーションの死角が増える。でも境目くらいまでなら感知できそう。全神経を耳に集中した。
「どんな相手だろう。見たこともない強そうな相手だったら、怖いから逃げちゃうよ」
耳に全神経を集中しているものだから、横でシオンが発したため息みたいな声すらクリアに聞き取れてしまう。
「魔物といえど無駄な殺生はしたくないけど、今回ばかりはやらなきゃこっちがやられちゃいそうだからね。できる範囲で安全にやっつけて魔物の数が減ればいいのさ。気楽に行こう」
ボクも囁き声で答える。前方から声が聞こえた。ギャギャギャと黒板を爪で引っ掻くような不快音。あら。この声聞いたことある。
「シオンこいつら『目玉トカゲ』だ」
ザワザワがさがさカチャカチャ。急に音が増える。魔素による吸音効果で近くならないと聞こえづらい。あっちからもこっちからもギャギャギャと不快音の大合唱。数が半端ない。
「10や20じゃない。シオン、魔法で数減らししないと。最初にボクが水鉄砲で両側を狙い撃ちする。それで範囲を狭めて真ん中を火炎魔法で吹っ飛ばそう。山火事が起きたらボクが水魔法で消すようにするけど、森の木立まで燃えあがったら消せるかどうか。火炎魔法は敵が草地に出てからにしよう。そのときはドカンドカンやって」
「わかった。火炎魔法撃つとき合図して」
ギャギャギャがさらに近づいた。目ではなにも見えないけど、音では森と草地の境目にゆらゆら動く人型が感じられた。距離約120m。
「生命の源。万物の始原。流れたゆとう雫。覆い包み浮かべる青。集い満ちよ。開け点刻。穿つ極微の刺針。点への回帰。特異への歪み。内破する崩壊。狂える重力の収斂。玉響の凝縮の果てに」
目の前が川だから水魔法の弾に困ることはない。霧の一部とともに川の水が消え、空中に水球が浮かんだ。水球から伸びる1本の糸。
「あ。失敗した」
前方からメキメキメキズドーンと木の倒れる音。ギャギャギャが一斉に大きくなる。120mのコントロールはめっちゃムズイ。固定しようとせず鞭みたいに振り回すのがいいかもしれない。2発目は右手方向で横に振る。成功した。木が2本とトカゲ3匹が真っぷたつになる。倒壊した木が魔物2匹を追加で巻き添えに潰してくれた。3発目は左方向で縦振りになり前後に歩いていた2匹を唐竹割りにした。4発目。5発目。トカゲたちはまわりでなにが起きているのかまったく理解できていない。急に仲間が真っぷたつになり木が倒れるとしか把握できてないだろう。かなり理不尽で理解不能な事態のはずなのに騒ぐけど行進はやめない。こいつら怯えとか弱気とかないのか。6発目で草地に出てきた先頭集団の3匹をバラバラにした。7発目。脳の芯がずきんと重くなる。ここらが限界か。いまのところ21匹倒した。けど耳で捉えた正面からの音はもっと多数の足音。続々とやってくる。
「シオン。水魔法は魔力切れ間近。これ以上やるとシオンの消火ができなくなりそう。出番だよ。よろしくー」
シオンに囁きボクは背後にさがる。シオンが代わって進み出た。トカゲが草地に出てくるのを待つ。シオンがチッチっと舌打ちの音を発しエコーロケーションで大雑把な位置と動静を確認した。魔素の影響もあり舌打ちレベルの音源だと遠距離がぼける。それでも草地に40匹以上いて、森からはまだでてくるのがわかった。
「オッケ。いくよ。瞋恚の焔。顛動する赤光。灼熱の軋轢。浄化の凝縮。焦熱の拡散」
シオンの詠唱と並行して大きな水球を作る。圧縮しないぶん魔力的に楽。まず1発目の火炎魔法が飛び、先頭の数匹の間を抜けて魔物の群れの中心部で爆発した。ダンジョンの密閉空間とは違いズドオオンッと内臓を揺さぶるような爆発ではないが威力は変わらない。大きな火の玉が炸裂し霧を抉って渦を巻かせる。吹き飛ばされた霧の向こう、呆然と立ち尽くす目玉トカゲの姿が見えた。手には鉄製の手斧を持っている。以前のダンジョンの目玉トカゲより文明度が進んでいるのか、単に拾っただけなのか。どちらにせよボクらを視認してアクションを起こす前にシオンの放った第2弾の火の玉が着弾した。ギャギャギャの声が戦闘時の鬨の声らしき甲高いギャッギャーに変わり、大群が恐れる様子もなく突進してくる。シオンが超速読簡易詠唱で6発。密集していた魔物の群れが虫食いのように疎になる。ボクは水球を3発。草地の火消しに努める。火炎魔法で32匹は粉々に吹き飛ばせた。シオンの6発目が奥の森との境に着弾し5匹のトカゲを火達磨にしたが、1匹が断末魔で森の灌木に飛び込み火がついた。
「シオン。奥の木のあたりに火がついた。水魔法使って消すから、その間接近する奴頼む」
「オッケのケー」
緊張感ないなコイツ。火炎で霧が吹き飛ばされてもまたすぐ霧に埋まっちゃうし、ほとんど真っ白でなんにも見えないから緊迫感低いもんなあ。
「生命の源。万物の始原。流れたゆとう雫。覆い包み浮かべる青。集い満ちよ。繋がりの力。握り包む暗黒の渦。点への回帰。特異への歪み。内破する崩壊。狂える重力の収斂。玉響の凝縮の果てに弾けよ」
今回は圧縮魔法の最後に「弾けよ」をつける。ゆらっと発火地点まで水球が飛び、そこで爆散した。水魔法をおこなう過程で川の水をメインに使ったが、空気中の水蒸気も巻き込まれるように凝縮されてしまう。つまり霧のベールが抉り取られたみたいに消滅し、ボクとシオンの姿がトカゲたちのでっかい目玉に視認される。でもそれって、こっちも視認できちゃうってこと。近距離ならエコーロケーションもバッチリなので、ムラになった霧をカモフラージュに使える。ボクの横を突風が吹き抜け、霧を渦巻かせた。シオンだ。3匹の魔物グループに突っ込んでいく。手前の1匹だけシオンに気がついている。残り2匹はそっぽ向いてキョロキョロしてる。シオンを視認したトカゲがギャゴーっと鳴いて手斧を投げつけてきた。シオンがサイドステップでかわし霧の塊の中に消える。トカゲがシオンを見失い目の瞬膜を瞬かせたとたん、首が飛んだ。下からの斬りあげで上にあがった剣先を返して奥のもう1匹を袈裟掛けに斬る。ステップを2回。フェイントかけて残り1匹の首も飛ばした。そのまま後ろに飛んで霧の塊の中へ身を隠す。
「スッゲー。忍者だ。シオンかっけー」
つい変な口調になる。ボクも負けてらんない。走り出し、いちばん手近な2匹へ向かう。1匹は剣を持っていた。もう1匹は両手に手斧。接触する前に手斧が飛んでくる。手斧の軌道が半透明の帯として空中に見えるくらいありありとイメージできた。身体を半身に開くだけで、身体の3cm横を手斧がすっ飛んでいく。手前のトカゲが上段の構えから振りおろしてくるけど、なんか見え見え。これもステップで身体を横に飛ばし、わずかに身を捻るだけでかわせる。腕は動かさず身体の回転でトカゲを斬った。奥に1歩進み身を低くして斬りあげる。トカゲの手斧が腕ごと宙を舞い返す刀で胴体を袈裟掛けに斬った。脚を止めずに横を駆け抜け急制動をかけて向きを変える。どこか近くにいたのだろう、別の目玉トカゲが投げつけた手斧が見当違いの方向へ飛んでいった。
「シオン戻ろう」
そう声をかけ、防御柵へ駆け戻る。シオンもピッタリボクの横を走っていた。忍者だ。ボクたちが駆け戻るのを見て、ンガバ副隊長が防御柵の簡易扉を開いてくれた。陣地の中に駆け込み、ノアに声をかける。
「ノア。火炎弾1発だけ。少し引きつけて草地の真ん中あたりで炎が拡がるように」
「おうよ」
駆け寄ってきたノアがランチャーを取り出す。弾を込め、折れた銃身を戻す。少し引きつけて魔物が草地に出てきたのを見計らいランチャーを撃った。スパン。ちょっと間が抜けてる音だなあといつも思うが威力は凄まじい。残念ながら十分奥に到達する前にトカゲの1匹の足に命中し炎を噴きあげた。10匹ほどが巻き込まれて消し炭になる。残るは約32匹。身体の大きな上位種はいないようだ。
「ンガバ副隊長、弓隊を」
各班に2名ずついる弓兵が集められていた。6名が一斉に矢を放つ。放物線を描いて天から降る矢の雨に突進を始めたトカゲの群れが地面に縫い付けられるように倒れ伏していく。計6斉射。36本の矢が12匹のトカゲを打ち倒した。残るは20匹。
「全員突撃」
ンガバ副隊長が号令を発した。ンガバ副隊長を先頭に2班と1班の半分を合わせた13名、中にはビビもいる、さらにノアとラウリを合わせた計15名が防御柵を出て突撃する。ギョギャーという魔物の怒声、うおおおという隊員の気合い。ガインと刃が噛み合う音。チュインと剣の滑る音。そしてドズッと肉を断つ音が木霊する。ボクとシオンが息を整えて加勢しようと立つ頃にはすべて終わっていた。ノアとラウリは無傷。隊員では3名が浅くもない怪我を負った。1班のダフネ・パパンドレウ士長が腕に投げ斧が刺さる重傷。2班のアルキダモス・カサヴェテス1士が背中をざっくり切り裂かれたが、防具のおかげで浅い傷。同じ2班のフォルミオン・ガヴラス2士はいちばん重症で口から頬を抜けて耳まで斬り裂かれた。ボクもシオンもノアも互いに意思疎通なしで躊躇せず自分達のグレードIVのポーションを使う。3人の怪我は10分で完治した。こっちはよし。結局何匹倒したのだろう。脳内記憶を早回しリプレイして数えた。ジャスト100匹倒してた。トカゲを斬ったときに触ってトカゲが強化状態なのは確かめてあった。この世界に這い出て森の生き物たちを食ったのだろう。最初に倒したトカゲたちの分解が始まっていた。目玉トカゲの経験値ポイントは強化状態で3000。100匹って30万ポイントになるぞ。ステータスパネルを開いてみた。覚値が16ポイントも得られていた。レベルが52から68になっている。警備隊との修練と日課の素振りででサブステータスがちょこちょこあがっていたのだが、そんな上昇分など端数みたいに思える。ノアたちはもっと凄くて、レベル37から65に大昇進。いっきに28ポイントもえげつなくゲットしてた。さらにさらに。とんでもないことに、ビビは一瞬でレベル56に大成長してしまった。つまり覚値を56ポイントも大量ゲットしていた。倒した順にゆっくりめで経験値が蓄積していくため、覚値を得られたときの身体のムズムズが重複し合いエロ悶えに等しい状態のビビを引っ張ってテントの陰に連れ込む。ビビほどじゃないけど他の隊員たちも魔物討伐時の経験獲得によるレベルアップ酔いに襲われている最中だったから、目立たず引っ張り込めた。
「ちょ。ちょっとビビ。こっちきて。ちょっと話がある。あのさ、魔物の大群をやっつけたおかげで経験値がとんでもなく稼げちゃったからビビはとんでもなくレベルアップしちゃうことになるんだ。これからは隊の仲間と稽古するときもわざと手抜きしないと問題視されるくらいにさ。なので隊長さんや副隊長さんとよーく話してみんなの理解を得ていくように考えないと、やっかみや妬み嫉みなんかで嫌な思いになっちゃうかもしれない。ボクはちょっと考え方がネガティブすぎるっていわれてたから考え過ぎかもしれないけど、慎重に考えてね」
「ウチもさ、1年のとき2年の先輩のポジション取っちゃって凄く恨まれたことあるからわかるな。覚値の振り分けは、1度振り分けちゃったら戻せないから少しずつやったほうがいいかも」
シオンも無責任に大丈夫だろう発言はしない。ビビが真剣な顔で頷いた。
「副隊長に相談してみる。でも、ふたりもアドバイスして。ふたり見てるとこれが物凄い力だってよくわかるわ。私ひとりじゃ持て余す」
ボクとシオンは責任重大になってしまった。
「わかった。今晩にでも相談しましょ。見張り番が終わったらウチらのテントにきて。相談しよ」
偵察部隊が送り出され近隣に他の魔物はいないことが確かめられた。これでゆっくり眠れる。夜の10時過ぎ。ビビをテントに迎えて狭いテントにぎゅう詰めとなりながらひそひそ話で相談する。ビビは以前パワータイプに憧れていた時期があって、アマゾネス化目指してウエイトトレーニングを重ねたこともあったらしい。ただ筋肉の質がムキムキになるタイプじゃなく、引き締まりかえってスレンダーになっちゃうことがわかって諦めたらしい。そんな経緯もあってボクたちのようなスピードタイプを目指すと決めたようだ。
*************
名前:バイオレット・ドワイヨン
職業:警備隊隊員
年齢:18歳
性別:女
【ステータス覚値:0/56】
筋力:10 敏捷:14
知力:14 精緻:14
生命:10 感覚:14
筋力10:握力+4【14】
腕力+5【15】
脚力+6【16】
投擲+4【14】
打撃+2【12】
牽引+3【13】
跳躍+4【14】
知力14:魔力 【14】
思考 【14】
集中+4【18】
空識+2【16】
記憶 【14】
情報 【14】
観察+2【16】
心象 【14】
生命10:耐久+4【14】
免疫+2【12】
持久+6【16】
耐撃+2【12】
抗毒 【10】
抗老 【10】
敏捷14:瞬発+4【18】
神経+1【15】
反射+2【16】
精緻14:誤差+4【18】
筋制+1【15】
環応+1【15】
感覚14:遠視+2【16】
微視 【14】
動視+3【17】
暗視 【14】
測視 【14】
微音 【14】
音析 【14】
音域 【14】
微臭 【14】
臭析 【14】
微感 【14】
振析 【14】
味析 【14】
毒感 【14】
*************
たぶん警備隊のベテラン曹長クラスでも、いまのビビには勝てないんじゃないかな。ビビに魔素練りなんか教えたせいでとんでもないことになった。ビビの人生を捻じ曲げちゃったかもしれない。
「なんか‥‥冒険者の血を掻き立てちゃったせいで、ビビのいままで築いてきた人間関係に影響が出るようなことになっちゃったかもしれない。ごめんね」
「いえ。感謝してるよミナト、シオン。強くなりたかったんだ。剣で身を立てるって思ったし、パパの血を意識させてもらえて嬉しかったよ。謝らないで。ね」
そういって首にさげた冒険者タグを摩りながら笑ってくれた。大波乱の一夜が明ける。野営地の撤収は実に素早くおこなわれた。料理クズや残飯も捨てられた簡易トイレの穴は跡もなく埋め立てられ、防護柵はバラしてまとめて馬車に積まれる。目的地到着後は薪になるようだ。隊列が進み、道の分岐を山側に折れる。木立を抜けると山肌に刻まれた石ころだらけの坂道になる。勾配はときに厳しく荒れた山道は二角馬にも難儀だったようだ。数回の長い休憩を挟みながら黙々と登っていく。途中2号馬車が脱輪し、サスペンションの部品が折れてしまった。その修理に4時間もかかるとのことで、早めの昼食となった。修理が完了したのが午後2時。行軍が再開される。坂道を自分で登っているわけじゃないのに、苦しそうな二角馬の息遣いを聞いているとかわいそうで気持ちが疲れてくる。次第に肌寒い感じがするようになり、木々の葉も赤みがかってきた。標高が高いと秋の進行が早くなる。デコボコ山道が苔むした石畳に変わり、木々のトンネルを抜けると崖といってもよさそうな山肌の中腹に食い込むように築かれた山城が現れた。『Nigra Miraklo。ニグラミラクロ。黒の奇跡』城。なんだか名前からしてチグハグで陰鬱だ。城の横には滝もあり、井戸が枯れている心配はなさそうだ。城前に隊列が収まるほど広い石畳の広場があった。隊列はそこでいったん集合する。2台の馬車から二角馬を外し、飼葉を積んだ馬車1台と馬たちは3班のメンバーが裏手の厩舎スペースへ連れていった。2班は外周警戒に回る。ボクたちと1班のメンバーが山城に向かった。
「荒れてはいるが、魔物が侵入しているように見えないな。ざっと見て窓の鎧戸もきっちり閉まっているし破られている様子はない」
先頭でエントランスアプローチの石段を登りながらジョエル・ブリエン士長が上を見あげていった。目が大きく鼻も大きく口も大きいのにハンサムに見える。アンバランスが微妙なバランスで保たれた転生人にはない顔立ちだ。直後をダフネ・パパンドレウ士長。その横を階段2段ほど遅れてビビが抜剣して続く。その後ろにラウリとシオン、さらに後ろをノアとボク、そして1班の残りの隊員が続く。
「魔物なんて斬れるんだから怖くないけど、幽霊は斬れないじゃないか。そっちの方が怖いよ」
ブリエン士長の後ろに続くパパンドレウ士長が、寒いのか肩をすくめて落ち着きなくあたりを見回していった。ブリエン士長が豪快に笑い飛ばす。
「ちょっといわくつきで荒れた城にはいつだって幽霊話があるもんさ。ここも城主が狂って使用人たちを惨殺しただの、訪れた者で戻ってきた者がいないだの、そんな怪談話ばかりがひとり歩きしてるんだろうな。まあ、まだ昼の3時だ。幽霊さんたちはおねんねしてるさ。さっさと内部を確認して設営しちまおうぜ」
そういって巨大な両開きの玄関扉に取り付く。右にブリエン士長、左がビビ。目で合図して押し開ける。ホラー映画の効果音みたいにおどろおどろしい軋みを立てて扉が開く。曇り空ながらそれなりの外光が流れ込み、荘厳なエントランスホールが目に入る。吹き抜けの広大なホールの両側に美しく弧を描くサーキュラー階段が特徴的だった。さすがに内部に灯りはなく窓も鎧戸が閉まっているので中は暗い。
「やっぱり中は暗いな。コンスタン1士、壁面照明用の魔石粒は持ってきてるよな?」
ボクの後ろで「はい!」とキレのいい声。カミーユ・コンスタン1士が革袋を持ちあげている。ブリエン士長が足を踏み入れビビとパパンドレウ士長が続いた。シオンが入り口で立ち止まり光魔法をぶつぶつ詠唱し始めたので、ラウリも立ち止まる。ボクとノアが追いついて横に並ぶ。
「手分けして照明器具にセッ‥‥なんだ。おい。貴様。そこでなにをしている。何者だ?」
右手のカーブした階段の向こうから黒っぽい服装のメイドがひとり現れた。手になにかを持って、左の方へ動いている。薄暗いのもあるがどうにも目の焦点が合わない感じ。シオンが光魔法を唱え終え、そこそこ明るい光の球がシャボン玉のように飛んでいく。その光でメイドがこちらに気がついたのだろう。立ち止まり顔を横向けた。ボクはその顔を見て腰が抜けそうになる。顔が溶け動いていた。老婆の顔が溶け若い娘の顔になったかと思えば、下から赤子の顔が押し分けて浮上してくる。あらゆるパーツが歪み、昆虫のように目玉が大きくなったり小さくなったり。まるで顔面が沸騰しているみたいだった。顔も髪も服装すら、ぐにゃぐにゃ溶けて変貌する。手に持つのは花瓶だったり本だったりハタキだったりする。その溶け流れ続ける顔の目がボクたちを見つけた。横でシオンの声。
「この人、浮いてる」
そして透けていた。かぱっとメイドの口が開き、なにか声を発しているように動く。が、なにひとつ聞こえない。メイドは身体の向きをボクたちに向け、両手を伸ばして突進してきた。
「止まれ。斬るぞ」
制止するブリエン士長の構えた剣など恐れる様子もなく、メイドが真っ過ぐ滑るように接近した。ブリエン士長が振りかぶった剣をメイドの頭に叩きつける。反対側に抜けた剣と手が一瞬で真っ黒になった。メイドがブルっとブレながらブリエン士長に突っ込んだ。ブリエン士長とメイドが交錯する。メイドはブリエン士長の身体を通り抜け、雑音が入った通信画像のように荒いモザイク状に砕けかけた。だが、すべて通り抜けると元の目まぐるしく変貌するメイドの複合体に戻る。ブリエン士長は戻れなかった。腕と剣だけでなく、全身が黒い膜に包まれ動きを止める。外からの風が吹きつけたのかもしれない。煤の塊が吹き飛ばされるかのように、ブリエン士長がフワッと粉になって消えた。
「この!」
ビビが叫んでメイドに切り掛かる。この事態に曲がりなりにも反応できたのは、強化しているボクたちとビビだけだった。
「ビビ。ダメだ。触るな」
ボクの声も間に合わなかった。ビビの剣が沸騰するメイドの頭を切り裂いた。はずだった。が、剣と腕がメイドの中を通り抜けただけ。ぐっ。ぎっしっ。とビビの歯を食いしばる音が聞こえる。伸ばしたボクの指先がビビのベルトにかかった。全力で引くとビビがボクの腕の中に倒れ込んでくる。
「さがれ。みんなさがれ!」
ラウリの声。ビビの身体を抱えたボクが後ろに尻餅をつく。そのときになってようやくメイドがボクたちに気がついたようで、両手を前に突き出してつかみかかってくる。あれに身体を通り抜けられたら、ボクたちは終わりだ。でも、ビビの身体の半ば下敷きになっていて動けない。死を覚悟したそのとき、僕達の前に大きな身体がしゃがみ込み、曲げた腕を上に掲げた。ブンと青い光が円形に拡がりボクたち全員をカバーする。メイドが光のシールドに衝突した。光のシールドとメイドの身体が無数の砕片になって飛び散る。ノアが呻いて頭を抱えた。シールドの展開に全力以上を出したのだろう。それでもボクをつかみ、ビビを抱いたボクごと玄関の外へ引きずってくれた。誰かが扉を閉めろと喚いている。そんなことよりボクの目はビビの腕に注がれていた。剣の先は既に溶け崩れている。ビビの腕が上腕の中頃まで真っ黒に染まり、見ているうちにもジワジワと腕を這い登っていた。触れない。触ったら触った指が黒に侵されるだろう。止められない。どうする?
ステータス
*********遠征時
名前:ミナト
職業:冒険者
年齢:17歳
性別:女
【ステータス覚値:0/68】
筋力:11 敏捷:22
知力:24 精緻:18
生命:13 感覚:20
筋力16:握力+7【23】
腕力+7【23】
脚力+2【18】
投擲 【16】
打撃+7【23】
牽引 【16】
跳躍+2【18】
【力の腕輪+5装備中】
知力24:魔力+2【26】
思考+5【29】
集中+4【28】
空識+3【27】
記憶+6【30】
情報+3【27】
観察+3【27】
心象+1【25】
生命13 耐久+2【15】
免疫 【13】
持久+6【19】
耐撃+1【14】
抗毒 【13】
抗老 【13】
敏捷22:瞬発+2【24】
神経+2【24】
反射+2【24】
精緻18:誤差+7【25】
筋制+6【24】
環応+8【26】
感覚20:遠視 【20】
微視 【20】
動視+4【24】
暗視 【20】
測視+4【24】
微音+2【22】
音析+2【22】
音域+2【22】
微臭 【20】
臭析 【20】
微感+2【22】
振析+2【22】
味析 【20】
毒感 【20】
*************
**********遠征時
名前:シオン
職業:冒険者
年齢:17歳
性別:女
【ステータス覚値:0/68】
筋力:13 敏捷:20
知力:20 精緻:18
生命:17 感覚:20
筋力13:握力+5【18】
腕力+6【19】
脚力+6【19】
投擲+5【18】
打撃+4【17】
牽引 【13】
跳躍+4【17】
知力20:魔力+1【21】
思考+2【22】
集中+6【26】
空識+3【23】
記憶 【20】
情報+1【21】
観察+3【23】
心象 【20】
生命22:耐久+1【23】
免疫 【22】
持久+6【28】
耐撃+1【23】
抗毒 【22】
抗老 【22】
【生命の腕輪+5装備中】
敏捷20:瞬発+5【25】
神経+2【22】
反射+4【24】
精緻18:誤差+6【24】
筋制+4【22】
環応+2【20】
感覚20:遠視 【20】
微視 【20】
動視+4【24】
暗視 【20】
測視+4【24】
微音+2【22】
音析+2【22】
音域+2【22】
微臭 【20】
臭析 【20】
微感+1【21】
振析+1【21】
味析 【20】
毒感 【20】
*************
*************
名前:バイオレット(ビビ)
・ドワイヨン
職業:警備隊隊員
年齢:18歳
性別:女
【ステータス覚値:0/56】
筋力:10 敏捷:14
知力:14 精緻:14
生命:10 感覚:14
筋力10:握力+4【14】
腕力+5【15】
脚力+6【16】
投擲+4【14】
打撃+2【12】
牽引+3【13】
跳躍+4【14】
知力14:魔力 【14】
思考 【14】
集中+4【18】
空識+2【16】
記憶 【14】
情報 【14】
観察+2【16】
心象 【14】
生命10:耐久+4【14】
免疫+2【12】
持久+6【16】
耐撃+2【12】
抗毒 【10】
抗老 【10】
敏捷14:瞬発+4【18】
神経+1【15】
反射+2【16】
精緻14:誤差+4【18】
筋制+1【15】
環応+1【15】
感覚14:遠視+2【16】
微視 【14】
動視+3【17】
暗視 【14】
測視 【14】
微音 【14】
音析 【14】
音域 【14】
微臭 【14】
臭析 【14】
微感 【14】
振析 【14】
味析 【14】
毒感 【14】
*************
**********遠征時
名前:ノア・ロビンソン
職業:冒険者
年齢:19歳
性別:男
【ステータス覚値:0/65】
筋力:22 敏捷:20
知力:10 精緻:17
生命:20 感覚:16
筋力22:握力+7【29】
腕力+8【30】
脚力+8【30】
投擲+3【25】
打撃+7【29】
牽引+5【27】
跳躍+6【28】
知力10:魔力 【10】
思考 【10】
集中+7【17】
空識+4【14】
記憶 【10】
情報+4【14】
観察 【10】
心象 【10】
生命20:耐久 【20】
免疫 【20】
持久+6【26】
耐撃 【20】
抗毒 【20】
抗老 【20】
敏捷20:瞬発+6【26】
神経+2【22】
反射+5【25】
精緻17:誤差 【17】
筋制+4【21】
環応 【17】
感覚16:遠視 【16】
微視 【16】
動視+3【19】
暗視 【16】
測視+5【21】
微音 【16】
音析 【16】
音域 【16】
微臭 【16】
臭析 【16】
微感 【16】
振析 【16】
味析 【16】
毒感 【16】
*************
**********遠征時
名前:ラウリ・ムトゥカ
職業:冒険者
年齢:19歳
性別:男
【ステータス覚値:0/65】
筋力:17 敏捷:22
知力:16 精緻:15
生命:16 感覚:19
筋力17:握力+6【23】
腕力+8【25】
脚力+9【26】
投擲+4【21】
打撃+7【24】
牽引+5【22】
跳躍+7【24】
知力16:魔力 【16】
思考 【16】
集中+7【23】
空識+5【21】
記憶 【16】
情報+5【21】
観察 【16】
心象 【16】
生命16:耐久+3【19】
免疫 【16】
持久+7【23】
耐撃+3【19】
抗毒 【16】
抗老 【16】
敏捷22:瞬発+7【29】
神経+3【25】
反射+6【28】
精緻15:誤差+3【18】
筋制+4【19】
環応+2【17】
感覚19:遠視+3【22】
微視 【19】
動視+5【24】
暗視+3【22】
測視+4【23】
微音 【19】
音析 【19】
音域 【19】
微臭 【19】
臭析 【19】
微感 【19】
振析 【19】
味析 【19】
毒感 【19】
*************