先人のあしあと4
サナエはしばらくの間、観察者が現れたことを世間には伏せておいて欲しいと言い、国賓として王宮に滞在することも断った。
王宮での暮らしを避けたいというサナエの要望に対し、警護を理由に難色を示すルーカスとダイクンへサナエが提案したのは、ここ、レンの部屋を間借りするというものだった。
「絶っっ対ダメ!」
「レンは筆頭魔術師のダイクン様が力を借りるほど力があるんでしょう?それなら警備も問題ないですよね?」
「確かにレン殿が護衛となるなら警護としてはそれに勝るものはないかもしれませんが…」
「ルーカス殿下までなにいってるの!だいたいサナエは女の子でしょ!」
「女の子って年齢でもないんだけど。27才だよ、私」
ルーカスが小さく驚いた声をあげたが、サナエは気づかない振りをしておいた。 東洋人と西洋人ほどの違いがある顔立ちでは、彼らからしてサナエの年齢は読み取り辛いのだろう。
「なおさらダメ!大人の女性が男と一緒に暮らすなんて」
「男って。ねぇそれなら、姿変えたりできないの?鳥とか、小さなはつかねずみとか」
「…なんで?まさか駕篭に入れようとか思ってないよね」
「自分が信用できないならそうしたらいいんじゃないかと思って。」
「そういうことを言ってるんじゃないの!」
扱いがひどい!と騒ぐレンをよそに、ルーカスとダイクンはサナエがレンの部屋で暮らすことについて相談をしていた。
この建物は、魔術師の塔という国が管理する建物なのだという。ダイクンもこの塔の上層階に住んでいるそうだ。この半地下階にはレンの部屋しかなく、外階段も建物の正面玄関の視界からは外れているらしい。どうりで、外へ星を見に行ったとき、誰にも会わなかったのだと思った。
「ふむ。ここは人の気配が多いわりに人目は遠い。地下の精霊の間に張られた結界をこの部屋まで伸ばすことも容易じゃ。存外、良い案かも知れんのう」
「ダイクン様まで!」
「精霊の間?」
「本来の姿に戻ったレン殿のための空間ですよ。精霊の眷属である竜の体を休められるような広さに作ってあるのです。レン殿はヒト形を好まれるので普段は使われていませんが。召喚の儀もそこで行われるので、気を失っていたサナエ殿を一番近いこちらの部屋へ運んだのでしょう」
「レンは竜だったのね」
へえ、と感心するように頷いたサナエに、動揺したのはルーカスだった。
「え?サナエ殿はご存知だったんじゃ…」
「人間じゃないってことは言い当てられたけどね」
「彼が動揺して竜巻を起こしたのでそれ以上は聞かなかったんです」
それにしても竜かぁ、とサナエは呟いた。
「魔術があるなら竜がいてもおかしくはないわよね。でもレン、これで問題も解決したじゃない」
「やだ。地下は寒いし暗いし嫌いだし」
「わがまま言わないの」
「どっちがだよ!!」
「ちょっと待ってください。そもそもどうやってレン殿が人ではないと?私はてっきり観察者ならではの能力で見破られたのだと思っていたのですが…」
「やだなあ、殿下。観察者に特殊な能力があるわけじゃないってさっきもサナエに言ったでしょ」
動揺するルーカスにレンがあきれたように、けれど面白がるように言うものの、ルーカスは驚きを隠せなかった。
「まさか、それでは」
「えぇ、あれはただの偶然です。」
平然と言い切ってみせるサナエに、ルーカスはその王子様らしい蜂蜜色の頭のつむじをみせながら深い深いため息をついた。




