先人のあしあと1
「はて、レン殿はなにをしているのかな?」
ダイクンが半地下にある部屋の扉を開くと、屋主が床の上でかしこまって座っていた。
一見お調子者といいたくなるレンが沈んだ様子でいるものだから、ダイクンについてきた2人の青年も言葉を失っている。
「これは“せいざ”なるものです。反省中なのです。」
不可思議な言葉に、蜂蜜のような色合いの髪をした青年があいまいにうなずいた。
「さすが、あなた方の習慣は独特ですね。」
その言葉にさらに項垂れるレン。
「違うからね、ルーカス殿下。これはサナエの国の習慣。俺たちはこんな足の血流悪くするような体勢することないから。」
「レン、殿下に失礼だろう」ルーカスの護衛の男がレンを咎めた。
「ジェイ、良いのだ。それにしてもなぜ反省を?《観察者》がこの部屋にいないことと関係があるのでしょうか?」
筆頭魔術師であるダイクンがレンの力を借りて《観察者》を喚びよせることに成功したという報告を受けた王家は、その《観察者》を迎えるべくルーカスをよこした。それが来てみれば肝心の《観察者》は姿が見えず、レンは不思議な体勢で項垂れている。これで不安を感じるなという方が無理だろう。
「サナエなら自力で目を覚まして今は外にでてるよ。すぐに戻ってくるんじゃないかな。」
「ほう。外へ出ておられるのか。ジェイ殿、すまんが様子を見てきてはくれんかね。危険はないじゃろうが、厄介な連中に見つかる前に戻っていただいた方が良い。《観察者》は長い黒髪の女性じゃ。年の頃はルーカス殿下と同じくらいかの。」
「承知しました。」
「この建物の周りにいるはずだよ」
ジェイは足早に立ち去りながらレンへ厳しい目を向けていった。
根っからの軍人で、四角ばった性格のジェイは、このダイクンの弟子と言葉を交わす度、その軽い態度に自分を馬鹿にされているように思えて苛立つことが多く彼のことを昔から嫌っていた。レンの方ではジェイを嫌う理由もなく、からかうとおもしろいとさえ思っているものだから、さらにジェイがレンを面白くなく思うのも当然と言えた。
「さて、レン殿。説明をしてもらえるかな?」
「その前にちょっとルーカス殿下、手貸して」
ちょいちょい、と招くレンへ手を差しのべると、ルーカスの腕を支えにしてゆっくり立ち上がる。どうやら窮屈だったものの、自分では立ち上がれないほど足が痺れていたらしい。
「あーきついなーこれ。もうサナエを怒らせないようにしよ」
「何をなさったのです」
「んー、想定より早く目を覚ましちゃってたからさ、混乱させないように咄嗟に嘘をついたらそれが全部ばれてた、みたいな?」
「嘘、ですか。危害を加えたわけじゃないのですね。」
「まさか!」
否定の言葉を聞きながらもルーカスの表情ははれなかった。
「しかしそれで彼女は怒って外へ出ていってしまったということですか」
できれば今度の《観察者》が男性であって欲しいとルーカスはひそかに願っていた。
この国の勝手な都合がその理由の大半を占めるが、とかく感情的になりやすい女性よりは男性の方が施政者との話もすすみやすいという願いがあったからに他ならない。
嘘をつくこと自体は褒められたことではないが、相手を気遣ってついた嘘に激情して部屋を飛び出すような女性なら、これからが思いやられるように感じた。
そんなルーカスたちの心配を感じてレンが困ったように訂正の手をあげた。
「あー多分、殿下が思ってるような女性じゃないよ。」
扱い辛いのは正しいかもしれないけど。と呟く声はどこか苦笑まじりで、《観察者》への否定の感情はなかった。
「かまかけたとは言え、俺が人じゃないってことを言い当てた人間は初めてだし。俺、思わず動揺して力を暴走させちゃって、それで反省してたってわけ。」




