義弟1
あれから半年が経った。
私は自分とカロル先生の人生を背負って、半年間死にものぐるいで勉学に打ち込んだ。
そして半年後、無事にカロル先生から合格をいただいた私は、馬車で王都に向かっている。
王太子とのお茶会は王宮で開催されるため、開催期間中は王都にあるタウンハウスに滞在することになったからだ。
バーンスタイン家の領地から王都までは、馬車で2日程の距離で、領地の屋敷からはミリーが一緒に付いてきてくれた。
知っている人が1人居てくれるだけでだいぶ心強い。
王都に入ると、舗装された広い道は美しく整備され、街も活気に溢れている。
一気に都会に来たような気持ちになった。
王都のタウンハウスにはイリスの父親である、バーンスタイン公爵と、その後継者として養子になった義弟のシオンが暮らしている。
タウンハウスで過ごす間はこの2人にも会うことになるのだけど……。
(バーンスタイン公爵は説明書には載ってなかったけど、シオンはイラスト付きで紹介されていたのよね)
『シオン・バーンスタイン 闇の魔力の強さを認められ、バーンスタイン公爵家の後継者として養子になった。イリス・バーンスタインの同い年の義弟』
たしか、こんな文章だった。
闇の魔力……カロル先生からこの世界の魔法についても、一般常識の授業で学んだ。
この乙女ゲームの世界では、どの人間も多かれ少なかれ
魔力を持っている。
その魔力は基本、水・土・風・火・闇・光のいずれかの属性になる。
この属性のうち、水・土・風・火に比べて闇は少なく、光はさらに希少とされている。
そしてかなり珍しいが、稀に2種類以上の多属性を持つ者や、無属性といって、どの属性の魔力も持たない代わりに『スキル』と呼ばれる、その者だけが使える特殊なオリジナル能力を持つ者なども存在しているそうだ。
全ての人が魔力を持っているが、魔力が強い者は貴族に多い。なぜなら、貴族にとって魔力の強さがステイタスになるからだ。
だから高位の貴族ほど、魔力の強い者を血族に迎え入れて、代々魔力の強さを維持している。
遠縁のシオンがバーンスタイン家の養子に迎え入れられたのも、イリスの父が再婚して次の子供を持つよりも、魔力の強いシオンを養子にして後継者にしたほうが確実で、手っ取り早いからだろう。
それにしても、魔力に目覚めるのは個人差があり、だいたい10歳頃が平均らしいが、シオンはその魔力が強大なせいで6歳には魔力が目覚めていたらしい。
ちなみにイリスも闇の魔力を持っているが、魔力の強さは並らしい。悪役令嬢なのに……。
そんなシオンは、攻略対象者には含まれていなかった。
イラストでは、銀髪にイリスと同じ紫の瞳で、イリスと同い年のはずだが、華奢な体つきに少し幼い印象を受ける顔立ち。
イケメンというより、美少年といった容姿だった。
(攻略対象者じゃないってことは、イリスの敵になる可能性は低いってことなのかな?)
それでも説明書にイラスト付きで載るということは、学園で何かしらヒロインと絡みがあるということだろう。
しかし、イリスとの関係性はさっぱりわからない。
例えば、イリスと共に姉弟で悪役なのか、それともイリスではなくヒロインを助ける存在なのか……。
(なるべくシオンと仲良くなって、学園でも味方になって欲しいんだけどなぁ)
そんなことをぐるぐる考えていると、馬車が止まり、ついにタウンハウスの前に到着した。
(この邸宅も立派ね〜、領地の屋敷と比べるとこちらのほうが新しいのね)
邸宅の中を案内され歩きながら、イリスはチラチラと観察する。
そして案内された部屋に入ると、そこに彼が居た。
「やあイリス、久しぶり」
(うわっ!かっわい!!)
輝くようなストレートの銀髪は顎のラインに沿って切り揃えられており、長い睫毛に紫の瞳、そして真っ白な肌、中性的で女の子と見間違うほどだ。
(何これ、何これ!こーんなかわいい男の子生まれて初めて見たわ!!こんなにかわいいのに攻略対象者じゃないの?)
カロル先生直伝のポーカーフェイスをしながらも、初めて自分以外のゲームキャラクターに会えた興奮で、イリスの心の中は大騒ぎだ。
「……イリス?」
(小首傾げるのもあざとーい!でもでも、それもかわいい!)
興奮する気持ちをなんとか抑えつける。
「あ、えっと、はじめまして?」
「やっぱり、僕のことも覚えてないんだ……」
シオンがシュンとした顔をする。
「ご、ごめんね。その、あなたは私のことは知ってるのよね?」
美少年の悲しげな顔に思わず謝ってしまう。
「うん。僕がバーンスタイン家の養子になってから何度か会ってるから。じゃあ、改めて挨拶したほうがいいかな?君の義弟のシオンです。よろしくね、義姉さん」
「イリスよ。こちらこそよろしくね。その、今までのシオンのことは覚えてないんだけど、姉弟としてこれから仲良くしてもらえたら嬉しいな」
私が笑顔でシオンに言うと、シオンは目を見開いて驚いた顔をする。
「……うん」
明らかに戸惑ったような、納得してないような顔のシオン。
(なにか変なこと言ったっけ?)
こうして、義弟との初対面は終わった。