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番外編 レイラとアーサー

読んでいただき、ありがとうございます。


番外編2話目はレイラとアーサーのその後になります。


※恋愛要素は薄めになります。軽い気持ちでお読み下さい。


よろしくお願い致します。

「レイラちゃん!俺のお嫁さんになって下さい!お願いしますっ!」


よく響く大きな声でそう言いながら、真っ赤な短髪に金の瞳の長身の男子生徒が、わたくしに向かって頭を下げた。

そのストレートな求婚の言葉に、わたくしの胸は高鳴った……、いや、高鳴るはずだった。


「あの、アーサー様?こんな所で突然そのようなお話は……」


そう、ここは学園のカフェテリアの一角。

時刻はもうすぐ昼休みが終わろうかという頃。

つまり、周りには大勢の生徒達が居る。


もちろん先程のアーサーの求婚のセリフも周りの生徒達には聞こえており、皆が興味津々の視線をこちらに向けている。

わたくしとテーブルを共にしているイリスとシオンも驚いた顔をしていた。


「だって、レイラちゃんがシオン君と婚約するって聞いて……。だから、居ても立っても居られなくて」


そう言って、アーサーはちらりとシオンを見る。


たしかにわたくしとシオンの縁談の噂が出ていることは知っていたが、それはあくまで噂だった。

家格が同じ公爵家の息女であるイリスと、その義弟のシオンと行動を共にすることが多かったのでそんな噂が出たのだろう。


「それはあくまで噂であって、わたくしとシオン様に縁談のお話はございませんわ」

「本当に!?」


アーサーは嬉しそうに、今度はその瞳を輝かせた。


「良かった!じゃあレイラちゃん、俺と結婚して下さい!」

「………」


話が冒頭に戻ってしまった。


アーサーとは勉強会をきっかけに知り合い、それからもお菓子を渡したり、一緒に街へ出かけたりと交流を深めてきた。

彼は頼りないところもあるが、決して誰かを貶めるような発言はしないし、わたくしのことも尊重してくれている。

それになによりも……


「レイラちゃん、お願い……」


そう言いながら、わたくしを見つめる潤んだ金の瞳。


(……もう、かわいいですわねっ)


わたくしは、図体はデカいのにすぐに潤んだ瞳で甘えてくる彼が可愛くて仕方ないのだ。

だから彼のおねだり……もとい、お願いに、わたくしはめっぽう弱い。


「仕方ありませんわね。お受け致しますわ」

「やったあ!」


わたくしの返事にアーサーは大喜びし、周りの生徒達も拍手と共に歓声を上げた。

イリスも、感激した様子で力強い拍手をしてくれた。

イリスの横に居たシオンはドン引きした様子で、形だけの拍手を送ってくれた。



◇◇◇◇◇◇



その日の夜、仕事から帰った父ルーベンの執務室を訪ね、アーサーからの婚約の申し出を受けたことを報告した。


アーサーはイワノフ侯爵家の長男だ。

イワノフ侯爵家は代々、武を重んじる家門。

公爵家である我が家と家格も釣り合うし、アーサーの父は王室騎士団長を務めている。

特に問題なく婚約は結ばれると、そう思っていたのに……。


「イワノフ侯爵家か……」


まさかの父が難色を示したのだ。


「お父様?あの、イワノフ侯爵家に何か問題が?」

「いや、イワノフ侯爵家には問題はないが、ちょっと個人的な問題が……」


父にしては珍しく、歯切れの悪い答えだった。


「それはどういう……」


わたくしが詳しく聞き出そうとしたその時、ノックの音と共に突然、執務室の扉が開いた。


「レイラ!」


わたくしの名を呼びながら、興奮した様子の母が飛び込んで来る。


母リリーは元侯爵令嬢で、礼儀や作法にはとても煩い人だった。

そんな母がこのように取り乱している姿は初めて見る。


「お、お母様?一体どうされましたか?」

「レイラ、あなたがイワノフ侯爵子息から求婚されたというのは本当なの?」

「はい、本当です」

「もちろんお受けしたのよね?」


母がギラギラした目でわたくしを見つめる。


「お受け致しました……」


母の勢いに押されながらも返事をすると、母は見たことがないくらい喜びに満ちた顔になった。


「さすが、レイラね!さすが、我が娘だわ!」


そう言って母はわたくしを抱きしめる。


「でも、まだお父様が……」

「え?」


母はわたくしを離し、父の方へと顔を向けた。


「ルーベン、どういうこと?」

「いや、リリー。それは……」

「イワノフ侯爵家なら、レイラの嫁ぎ先として何も問題はありませんでしょう?」

「だって君が……」

「これはレイラの縁談よ?」


結局、母の押しに負けた父は、わたくしとアーサーの婚約を認めてくれることとなった。



◇◇◇◇◇◇



日々は流れ、婚約の挨拶を兼ねた両家の顔合わせの日となった。

わたくしは父と母と馬車に乗り、イワノフ侯爵家へと向かっている。


わたくしはアーサーの両親と会うことに緊張していた。

特にアーサーの母であるイワノフ侯爵夫人は、アーサーの話によるととても厳しい人のようだ。

アーサーはいつも騎士団長である父親ではなく、母親に怒られることに怯えている。


(この服装で大丈夫かしら?)


あまり華美になり過ぎないよう、上品に見えるように、髪型やドレス、メイクにアクセサリーまで細やかな部分にも気を配ったつもりだ。

しかし、それよりも……


わたくしは向かいに座る母をちらりと見る。

王宮で行われる祝賀パーティに参加するような、いや、それ以上に気合いの入った出で立ちだった。


そんな母の隣に座る父は何も言わない。

ただ、諦めてしまったような表情で馬車の窓から外の景色をぼんやりと眺めている。


わたくしはそんな両親の様子に、さらに不安と緊張に包まれてしまった。





「皆様、我が家までご足労いただきありがとうございます」


そう言ってイワノフ侯爵邸の玄関ホールで出迎えてくれたのは、イワノフ侯爵その人だった。


真っ赤な髪に金の瞳、背は高く服を着ていても筋骨隆々なたくましい体付きは隠せていない。

髪や瞳の色はアーサーと同じだが、彼と違って威圧感のある面持ちだった。

そして、イワノフ侯爵の隣にはアーサーが立っている。


(あら?侯爵夫人はいらっしゃらないのかしら?)


すると、カツンッカツンッとホールに足音が響いた。


「遅れてしまったみたいだね。すまない」


そう言って現れたのは、長い艷やかな黒髪をひとつに束ね、美しいエメラルドグリーンの瞳を持つ女性。

しかしその女性はドレスではなく、騎士団の正装を身に纏っており、すらりと伸びた長身も相まって、まるで男装の麗人といった様相だった。


(まさか、この方がイワノフ侯爵夫人?)


「初めまして、ヴェセリー公爵家の皆様」


凛とした声とその堂々とした佇まい、そして美しい、いや、麗しい姿になぜか目が離せなくなる。


そんな侯爵夫人がふと、母に目を留めた。


「おや?もしや君は、リリー嬢じゃないか?」

「まあっ!まさか、覚えていて下さったのですか?」


母が顔を真っ赤にして、甲高い声で答えた。


「もちろん覚えているよ。学園での実技訓練の後に、よく差し入れを持って来てくれていたね?」


侯爵夫人は懐かしむような口調で母に話しかける。


「そんな、あれくらいのことで……他の皆様だって差し入れを持って来ていましたのに」

「リリー嬢の持って来てくれる焼き菓子はどれも絶品だったから、いつも楽しみにしていたんだよ」


そう言って侯爵夫人は母に麗しい微笑みを向けた。


「まあっ!まあっ!そんな、お姉様にそう言っていただけるなんて、恐れ多いことですわ」


母はまるで少女のように、自身の赤らめた頰を両手で押さえながら、感激している。


「お姉様……?」


つい疑問の声が口から溢れてしまった。


「ああ、君のお母上とは王立魔法学園の同窓でね。私のほうが学年が1つ上だったんだよ」

「そうだったのですね」


侯爵夫人が学生時代の母の先輩だったということは理解できたが、やはりお姉様呼びは理解できなかった。

しかし、そんなことも言えずに、とりあえず曖昧に微笑みながら返事をした。


「君がヴェセリー嬢だね?うちのアーサーにはもったいないくらいの可愛らしいお嬢さんだ」


そう言いながら侯爵夫人に見つめられると、何故だか胸が高鳴る。


「うちには息子しか居なくてね。義理とはいえ、娘が出来てとても嬉しいんだ」

「あ、ありがとうございます」


知らず知らずのうちに顔が熱くなり、声が上擦ってしまう。


(どうしてこんなにも胸がドキドキしてしまうのかしら?)


「これからは実の母だと思って、私に甘えて欲しい」

「は、はい。よろしくお願いいたします。侯爵夫人」

「これからは家族になるのだから、お義母様と呼んではくれないだろうか?」

「はい、わかりました」


その凛とした艶のある声で言われると、とても抗えそうもない。


「あの、でしたら、わたくしのこともどうか名前でお呼び下さい」

「わかった。じゃあ先に私のことを呼んでくれるかい?」


いたずらっぽい笑みを浮かべながら、そう言われてしまう。


「あの、その……お義母様」

「いい子だね。レイラ」


そう言って、見つめられながら優しく頭を撫でられた瞬間、わたくしは落ちてしまった。

何に?と言われてもわからないが、とても深く抜け出せそうもないものに……。



そんなレイラ達の様子を、父親達は遠い目で見つめている。


「やはり『婚約者キラー』は健在でしたか……」

「ヴェセリー公爵、申し訳ない」

「いえ、学生時代からわかっていましたから……。今日、こうなることは想定済みです」

「申し訳ない……」


力無く語り合う父親達。そこに泣きそうな顔のアーサーが割って入る。


「父上!レイラちゃんは俺のお嫁さんになるんだよね?そうだよね?」

「アーサー、諦めなさい。母さんには誰も敵わない……」


アーサーを慰める父親達を尻目に、レイラ達は盛り上がっていた。


「これからは家族になるんですもの!お姉様、よろしければ今度レイラも交えてお茶をご一緒にいかがですか?」

「そうですわ!ぜひ、交流を深めましょう、お義母様!」



◇◇◇◇◇◇



帰りの馬車の中、わたくしと母は隣り合って座り、イワノフ侯爵夫人の話に花を咲かせる。


「帰ったら秘蔵の姿絵を見せてあげるわ」

「そんなものがあるのですか?」

「ええ。ファンクラブの会員限定で作られた物なの」

「ファンクラブ、ですか?」


(まさか、お義母様のファンクラブが?)


「……そのファンクラブには、今から入ることは可能でしょうか?」


わたくしもお義母様の姿絵が欲しい。


「カーライル公爵夫人に連絡を取ってあげるわ」

「え?あの『知の家門』のカーライル公爵家ですか?」

「ええ、そうよ。カーライル公爵夫人がお姉様のファンクラブ会長なのよ」

「まあ!」


カーライル公爵は現在この国の宰相職に就いている。

その夫人がまさか、お義母様のファンクラブ会長だったなんて。


「会長ともお知り合いだなんて、お母様は凄いですわ」

「うふふっ。なんせ、わたくしは会員番号一桁ですからね」

「まあっ!お母様、それは素晴らしいですわ!」


母に尊敬の念を抱いた。


「そうだ!今度のお茶会の時に、お義母様の肖像画を描いてもらうのはどうですか?」

「いいわね!なんといっても、わたくし達は家族ですものね?」

「わたくし達三人一緒の肖像画なんて素敵かもしれませんわ!」


向かいの席で盛り上がるレイラ達を見つめた後、深いため息をついたルーベンは、再び諦めきった表情で窓の外の景色を眺めていた。




『婚約者キラー』……イワノフ侯爵夫人の学生時代のあだ名。当時、婚約者のハートを彼女に奪われてしまった大勢の男子生徒達がつけました。レイラの父ルーベンもその中の1人です。


これにて番外編も完結となります。

読んでいただいた皆様、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ええっ!! 最後の番外編が、めちゃくちゃ笑ったんですけど!(笑) 思わず、繰り返し読んじゃいましたーっ。 そうすると、怪訝な父親の心境も理解できる(笑) もう、最後の息子を慰める父のお言葉、重い(笑…
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