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独白3(sideニーナ)

本日2回目の投稿です。

※今回もニーナ視点の話になります。

リアム・バーナード。彼は特に目立つような特徴のないクラスメイトだった。

クラス委員長をやっているので、クラスの皆からは『委員長』というあだ名で呼ばれている。


「そっかぁ、ニーナさんも大変だったんだね」


私は、偶然裏庭に現れたリアムに愚痴を聞いてもらっていた。


「良ければ僕が力になろうか?」

「え?」


リアムはバーナード辺境伯の三男だ。

申し訳ないが、そんなに影響力のある立場ではない。


「いや、力になるって言っても、アドバイスするぐらいしかできないけど」

「どうして協力してくれるの?」


私の周りからは人がどんどん離れている状況なのに。

まさか……私のことが好きなのだろうか?


「実は僕、イリスさんのことが好きなんだ」

「……」

「だから、ニーナさんが殿下と上手くいってくれたほうが、僕としては助かるんだよね」


(なるほど、そういうことね)


「でも、今更どうすればいいの?」

「ニーナさんの味方になっていたのは下位貴族の生徒ばかりだったろ?それよりは、高位貴族を味方につけたほうがいい」

「言ってることは、わかるけど……。私、高位貴族の知り合いなんていないわよ?」


今まで学園で付き合っていた友人達は皆、下位貴族や新興貴族ばかりだった。


「味方を今から作るんだ。ちょうど年末のパーティに行くんだろ?あのパーティに参加しているのは高位貴族ばかりだ」

「でも……」

「とりあえず、パーティではいろんな人に積極的に挨拶してみて。君の味方になってくれそうな人なら、君を邪険にはしないはずだよ」

「うーん」

「それと、高位貴族の生徒の顔や関係性を知るいい機会にもなるんじゃない?」


たしかに、リアムの言うことも一理ある。


私はリアムのアドバイス通りに、年末のパーティではたくさんの令息・令嬢に声をかけた。

すると、たしかにわかりやすく拒否の姿勢をする人も居れば、まともな対応をしてくれる人も居る。

レイラとその周りに居る令嬢達は近付くこともできないくらいの拒否の姿勢だったが……。


そんな時、イリスの義弟であるシオンを見かけた。

まあ、どうせイリスの味方だろうと思いながらも、一応挨拶をしてみる。

すると意外なことに、シオンは溢れんばかりの笑顔を浮かべて、熱心に私に話しかけてくる。


それはパーティが終わり、再び学園生活が始まってからも続いた。


◇◇◇◇◇◇


私はまた放課後の裏庭でリアムに愚痴を聞かせている。


年末のパーティで、リアムのアドバイス通りに高位貴族の顔や関係性を探った私は、さっそくイリスの評判を下げるために動いた。


ソフィア・カーライル公爵令嬢。

彼女は以前、アルフレッドの婚約者候補だったが、イリスが選ばれたことで候補から外れている。

年末のパーティでも、イリスと親しげな様子は全く見られなかった。


(きっと私の味方になってくれると思ったのに……)


当てが外れてしまった。

もう他にいい方法が思い付かない。


「もうアルフレッド殿下のことは諦めようかしら……」

「えー!そんなの困るよ」


リアムが口を尖らせている。

彼は時々、年齢にそぐわない子供っぽい仕草をする。


(しかもここ最近はシオン様が頻繁に会いに来るから、殿下に会いに行くこともできないのよね……)


会えなければアピールもできない。

そして、シオンは会うたびに「かわいい」とか、「君と会うのを楽しみに学園に来てる」とか、甘い言葉をたくさんくれる。


いっそのこと、このままシオンと婚約するのもいいかもしれない。

あんな美少年に熱心に口説かれている今の状況も、なかなか悪くない。

イリスが義姉になるのは嫌だが、どうせ彼女は結婚して公爵家を出る。

そうすれば、私はバーンスタイン公爵夫人だ。

王太子妃には劣るけど、男爵令嬢の私にすれば有り得ないくらい素晴らしい良縁だ。


(委員長には悪いけど、私は抜けさせてもらうわ)


しかしその数日後、状況が一変する。


◇◇◇◇◇◇


その日は放課後ではなく昼休みに、裏庭に向かう途中にある空き教室でリアムと会うことになった。


「本当に?」

「うん。どうやらイリスさんは殿下と上手くいってないみたい」


(え?今更?)


それが私の正直な気持ちだ。

だって私はもう見込みの薄い殿下には見切りをつけて、今はシオンに集中している。


「それでどうするの?」

「この機会に僕がイリスさんを口説こうと思ってる」

「そ、そう……」


リアムはいい人だとは思うが、アルフレッドと比べると……言うまでもない。

しかし、リアムに言われて放課後にこっそり裏庭を覗いてみると、意外にもイリスとリアムは仲良さげに過ごしていた。


そしてさらに数日後、私はリアムから衝撃の発言を聞かされる。


「2人で逃げる?」

「うん。僕とイリスさんの想いが通じ合ったんだ。だから2人で逃げようって」

「それは良かったわね……」


想い合う2人が逃げる……それは駆け落ちというやつだろうか?

有り得ない。

まさかアルフレッドを捨ててリアムを選ぶなんて……。


「でも、どうして?普通に婚約破棄じゃ駄目なの?」

「王家との婚約だから、普通に婚約破棄するのが難しいらしいんだ。だから2人で逃げ出して、その話が広まれば、殿下も婚約を破棄せざるを得ない」


たしかに他の男と逃げた婚約者なんて、もし連れ戻されても、その醜聞からは逃げられないだろう。

そんな醜聞まみれの女性が王太子妃になんてなれるはずもない。


「まあ、本気で逃げるっていうより、一種のパフォーマンスだよ」

「そうなのね」

「それで、ニーナさんにも少し手伝ってもらいたいんだ」

「え?駆け落ちの手伝いなんて嫌よ」

「いや、手紙を届けてほしいだけ」

「どういうこと?」


リアムの話では、駆け落ちの信憑性を高めるために、当日にイリスが書いたアルフレッドへの別れの手紙を届けてほしいそうだ。

そして、愛し合う2人が逃げ出した話を広めてほしいと。


「まあ、それくらいなら……」

「ありがとう。僕達が去った後は殿下はフリーになるから、ニーナさんも頑張ってね」

「ええ……」

「じゃあ明日の放課後にこの空き教室で待ってるよ」


なぜイリスがリアムを選んだのかは理解できないが、彼女が自ら姿を消してくれることは大歓迎だ。

シオンと婚約するにしても、アルフレッドにもう1度近付くにしても、イリスの存在は邪魔でしかない。


そして翌日の放課後、私はリアムに言われた通り、いつもの空き教室へとやって来た。


教室に入ると甘い匂いがする。


「やあ、来てくれてありがとう」

「イリス様はまだ来ていないの?」

「彼女は準備があって、少し遅れているみたい」

「そう」


教室に漂う甘い匂いがきつくなっている気がする。


「ねえ、この甘い匂いは何かしら?」

「どこかのクラスが薬品実験でもしたんじゃない?」

「……」


なんだか頭がクラクラする。

私は手近にあった椅子に座る。


「イリス様はまだ?」

「もうすぐだよ」

「ねえ、なんだか変よ?」

「何も変じゃないよ?僕は今日やっと欲しいものが全部手に入るんだから」


――欲しいもの?


頭に靄がかかったようだ。

リアムの声がなぜか遠くから聞こえる。


「ニーナさんの光の魔力、ほんとに凄いよね」


――当たり前でしょ、私は『特別』なんだから。


なぜか上手く言葉が出てこない。


「ほんとに羨ましいよ。ねえニーナさん、僕に君の光の魔力をくれない?」


――何を言ってるの?


リアムの言葉が聞こえているはずなのに、ちっとも頭に入ってこない。


「ねえ、お願いだよ。ほら、君は『いいよ』って言うだけでいいから」


――何を言えばいいの?


「ほら、『いいよ』って言って?」


今度は耳元で優しげな声がする。


「い、いいよ?」

「うん。ありがとう。じゃあ遠慮なく『貰う』ね?」


そして誰かの手が額に触れた感触がした。

途端に身体中から力が抜けて行く。

そのまま私の意識は深く深く落ちて行った。


◇◇◇◇◇◇


目を覚ますと見知らぬ部屋のベッドの中に居た。

身体が熱く、ひどく寝苦しい。

そんな状態がしばらく続いた。


少しずつ身体の熱が落ち着くと、今度は妙な喪失感を覚える。

今まで身体に満ち溢れていたものが、すっかり無くなってしまったような、不思議な感覚……。

嫌な予感がした。


熱が完全に落ち着くと、王宮から派遣されたという魔術師の人達がやって来て、様々な検査をされる。

その時初めて、私はこの妙な喪失感の理由を知った。


――魔法が使えない。


今まで難なく使えていたはずの魔法が使えない。

何度も試してみると、全く使えないわけではなく、初級魔法がギリギリ使える程度だということがわかった。


なんで?どうして?


私は魔術師に食って掛かるが、彼等は何も答えてはくれなかった。



「やあ、チェルニー嬢。久しぶりだね」


魔法が使えなくなってしまい、茫然としていた私のもとにアルフレッドが黒髪黒目の従者と共にやって来た。


「殿下……」

「熱はもう下がったそうだね。体調はどう?」

「あの、私、なぜか魔法が使えなくなってしまって、それで……」

「ああ、そうみたいだね」


アルフレッドはやけにあっさりと言う。


「な、殿下はなんでそんな簡単に……」

「じゃあ、私のほうから説明するよ」


私の言葉を遮って、アルフレッドは淡々と話し出す。

こんな人だっただろうか?


「リアム・バーナードは知ってるね?彼は無属性であることを隠して学園に通っていた。そして彼のスキルは人から魔力属性を『貰う』ものだったんだ」

「え?」


リアムが無属性?

彼が授業で使っていた魔力は土属性のはずだ。


「以前、誰かから貰った(・・・)土属性の魔力でカムフラージュしてたそうだよ。そして先日、彼は君から光の魔力を貰った」

「そんな、私は委員長に魔力なんてあげていません」

「薬で意識を朦朧とさせたところを狙ったそうだ。心当たりはあるんじゃない?」

「あ……」


あの教室の甘い匂いを思い出す。


「委員長はどうしてるんですか?早く私の魔力を返してもらわないと!」

「彼の身柄はこちらで確保している」

「じゃあ!」

「残念だけど、彼のスキルは『貰う』だけで、相手に魔力を返すことはできないそうだ」

「そんな、そんなことって……」


なら、私の魔力はずっとこのまま?


「どうして私がこんな目に……」

「君の光属性は珍しいからね。それに目をつけていたようだよ」


それじゃあ、最初から私の魔力を奪うために教室に呼ばれた?

あの駆け落ち話は嘘だったの?


「あの、イリス様はどうなったんですか?」

「イリス?」


アルフレッドの声のトーンが下がる。


「あの……?」

「どうしてリアムの話にイリスの名前が出るの?」

「え?」

「ねえ、チェルニー嬢、君はどこまで知っていた?」


部屋の空気が一気に冷えたような錯覚を覚える。


「あ、あの、私は委員長から話を聞いただけで……」

「どんな話?」

「その、委員長はイリス様と想い合っていて、でも婚約破棄が簡単にはできないから、2人で逃げるって……」

「へぇ?それはいつの話?」

「私が魔力を奪われた前日に聞いて……」

「それで、リアムに協力したんだね?」


アルフレッドの瞳がすっと細められる。


「ち、違います!協力なんてしてません!私は委員長に騙されたんです!」

「じゃあなぜ、リアムから話を聞いてすぐに王家に報告をしなかったの?イリスは王太子である私の婚約者だ。そんな彼女が別の男と逃げるなんて、王家の醜聞になることは明らかだろう?」

「そ、それは……」

「イリスがリアムと共に逃げたほうが、君には都合が良かった?違うかい?」

「……」


私は何も言えなかった。


「とりあえず君には領地での謹慎を言い渡すよ。処分の沙汰は追って知らせるから」


それは困る。

魔力をほとんど失い、アルフレッドを敵に回して、そのまま領地になんて帰れない。


「あ、あの、その前にシオン様に会わせていただけませんか?」

「シオン君に?」


そうだ、シオンはバーンスタイン公爵家の次期後継者だ。

王家から私を庇う盾になってくれるはず。


「ああ、そうだ。ジェラルド?」


アルフレッドが何かを思い出したかのように、後ろに控えていた従者に声をかける。

従者は無言で、手紙を取り出すと、それを私に差し出した。


「これは……?」

「シオン君からの手紙だよ。君に渡してほしいって頼まれたんだ」


従者からペーパーナイフを渡され、私は封を開けて手紙の文章を読み始めた。 


『僕の役目は終わりました。これで二度と会うことは無いでしょう。新天地での活躍を願っています。お元気で』



「そんな……なんで?」


(私のことが好きだったんじゃないの?私の魔力が無くなったから、もう用はないの?)


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「だって、シオン様は私のことを……」

「どうして?婚約の約束でもした?」

「え?」

「チェルニー嬢はシオン君と何か具体的な将来の話はしていたの?」

「………」

「それじゃあ、私はこれで失礼するよ」


部屋に1人残された私は、手紙を握りしめたまま動くことができなかった。






いつも読んでいただき、ありがとうございます。

これでニーナ視点終わりました。

残り2話で完結する予定です。

明日はお休みします。よろしくお願いします。

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