指導とワガママ1
翌朝、目覚めた私はすぐに鏡の前に向かう。
長い黒髪に紫の瞳のかわいらしい美少女が映っている。
「やっぱり夢でした。ってことじゃないよね~」
しっかり現実だったことを再確認する。
トボトボとベッドに戻りしばらくすると、ノックの音がしてミリーさんが入って来た。
朝の身支度の手伝いをしてもらい、朝食が運ばれて来る。温かいミルク粥が用意されていた。
昨日、医師に診てもらい、他に身体の異常は見当たらなかったが、念のため今日も1日自室で安静にということだった。
ベッドの上でミルク粥を食べると身体がじんわりと温まる。
お腹もいっぱいになりぼんやりしていると、執事のオリバーさんがやって来た。
オリバーさんから昨日の話の続きを聞く。
こちらからもいろいろ質問してわかったことは、暦などは前世と一緒で四季もある。
さすが日本で作られた乙女ゲームだ。
あと、使用人に敬語はダメらしい。
前世の自分より年下のミリーはともかく、オリバーにタメ口はなかなか慣れなさそうだ。
そして、記憶喪失になる前のイリスについても聞いた。
なんせ悪役令嬢っぽく振る舞うのは初めてなのだ。
まずは見本となる本物の悪役令嬢の行動を真似してみて、それから私らしくアレンジしていこうと考えたのだ。
「ねぇミリー、以前の私はこの屋敷でどういう風に振る舞っていたのかしら?」
「と、いいますと?」
ミリーは質問の意図がわからないようで困惑した顔だ。
「その、例えば、この屋敷で働く使用人に対してどんな言動をしていたのかを知りたいの」
「そうですね…お嬢様はよく屋敷の中を歩かれて、ミスをしている使用人を見つけると罰を……いえ、その、指導されたりしておられました」
「なるほど」
ミリーがしどろもどろになりながらも教えてくれる。
「じゃあ、使用人にワガママを言ったりとかってしていた?」
「ワガママ……そうですね、よく、お食事の際に、出されたメニューについて文句……いえ、ワガママを言ってメニューを変えさせたりしておられました」
「なるほど」
(使用人への指導と食事へのワガママ……これくらいなら私にも出来るかもしれない)