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趣味嗜好

後期試験も終わり、あと数日で夏季休暇だ。

学園でも、夏季休暇はどう過ごそうかという話題が良く聞こえてくる。


私の夏季休暇の予定は、ほぼ全て王太子妃教育だ。

まるで受験生のようだ。

アーサーが、勉強会のお礼に4人で王都の人気のカフェに行こう!と誘ってくれたが、泣く泣く断った。



今日はアルフレッドが生徒会の集まりがあるので、帰りは1人だった。

特に予定もないので、帰ってゆっくりしようと馬車乗り場に向かっていた。


「あの、バーンスタイン嬢、お急ぎでしょうか?」


振り向くと、5人の女生徒がいた。


「えっと……?」

「急に声をかけてしまい申し訳ありません。あの、少しご相談したいことがございまして……」

「私にですか?」

「はい。その、できれば内密に……」


なにかのイベント?

5対1でいじめられたりするのだろうか?


(いや、私が悪役令嬢でいじめる側だった……)


それに、この人達からは特に敵意みたいなものは感じられない。


「……」

「あの、話を聞いていただくだけでも結構ですので」

「わかりました」

「ありがとうございます!」


それから話をするために場所を移動することになった。

部室棟にある、美術部の教室に連れて来られる。

今日は美術部は活動日ではないので、ここなら誰にも聞かれずにゆっくり話せると言われた。


しかし、それなのに5人共が皆もじもじとするばかりで誰も話し出そうとはしない。

ここは、前世合わせて最年長の私から話を切り出すことにした。


「あの、皆さんお話というのは?」

「あ、すみません。えっと……」

「たしか同じクラスのミレーヌ・シベリア嬢ですよね?」

「はい。そういえば自己紹介もまだでしたね」


そのまま5人が自己紹介を始めた。

5人の内2人は同じクラスで、ミレーヌともう1人はサラ・ビアンコ嬢。2人は伯爵令嬢だ。

残りの3人は別のクラスで、伯爵令嬢と子爵令嬢だった。

皆、同じ1年生だ。

自己紹介が終わり、いよいよ本題に入る。

ミレーヌが代表で話し始めた。


「実は、先日の試験結果が貼り出された廊下で、バーンスタイン嬢がアーサー・イワノフ様と話をしているのが聞こえてしまいまして」


あの、赤点なかったよ報告のことだろうか?


「それで、あの、勉強会を開いていたとお聞きしたのですが…それには、ノア・フェルナンデス様もご一緒だったとか?」

「はい」

「やっぱり!」


5人の瞳がキラキラと輝きだした。


「あの、できればその勉強会の時のイワノフ様とフェルナンデス様のご様子を、お聞かせいただけないでしょうか?」


(ん?)


「2人の様子ですか?」

「はい。なんでも良いのです。どんな会話をされていたかとか、些細なことでも構いませんので」


(おや?)


「あの、皆様はアーサー君やノア様のどちらかのファンということでしょうか?」

「そうですね……。どちらかのファンではなく、お2人共のファンと言いましょうか……」


(これは……)


「もしや皆様は、自分があの2人の恋愛対象になりたいのではなく、あの2人のやり取りをそっと見守りたい……そうお考えなのでしょうか?」

「そうです!まさにその通りです!」


なるほど。察した。

アーサーがノアに抱きついた時の嬉しそうな悲鳴は彼女達なのだろう。


実は前世で、綾乃が高校生の時に、彼女達と同じように男性同士の恋愛が好きな友人が居たのだ。

その友人はとても発想力が豊かで、いつもいろんな漫画やアニメの登場人物を勝手に恋人同士に設定しては、様々な話を聞かせてくれた。

私はあまりそういった発想力がなく、物語をそのまま読むことしかできなかったので、その友人の話を聞くのが新鮮で楽しかった。


(まさかこの世界にもいらっしゃったとは……)


この世界は前世と違って、アニメや漫画、インターネットもない。

貴族令嬢が大っぴらにできる趣味でもなさそうだ。

だからこっそりと、同じ趣味を持つ者同士で集まって楽しんでいるのだろう。

それに、好きな物があると頑張れる気持ちはよくわかる。

私も週末に恋愛漫画や小説を読むのを楽しみに、仕事を頑張れた。


ならば、私は自分に求められた役割を果たそう。


「わかりました。先日の勉強会の時のお話でよろしいですか?」

「はい!」


サラがノートとペンを取り出した。

他の皆も前のめりになって聞く体勢だ。


「アーサー君はすぐに勉強のやる気をなくされるのですが、その時にノア様がアーサー君の頭に手で触れて……」

「まあ!」

「それは、ヨシヨシと撫でられたのでしょうか?」

「いえ、もしかしたらポンポンかもしれませんわ!」


皆、生き生きと話し出す。


「そうですね、ポンポンが近いかもしれません」

「きゃあ!それは素敵です!」


本当は、もう勉強したくないと駄々をこねるアーサーの頭をノアが(はた)いただけだ。


「あとは、ちょうど私が部屋に入ろうとした時に、壁際にアーサー君を追い詰めたノア様が、何か真剣な顔でお話しされていました」

「まあ!」

「それは、ドキドキしますね」

「何の話をされていたのでしょうか?」


サラは一心不乱にメモを取っている。


「それが、私が部屋に入るのに気付くと、2人はすぐに離れてしまって……」

「きゃあ!秘密のお話ですのね!」


本当は、すぐにサボろうとするアーサーにノアが説教をしていて、私が部屋に入るとアーサーが助けを求めて私に走り寄って来ただけだ。

ちなみに、お説教中はレイラがすぐ側に居た。


そんなふうに、全くの嘘ではない2人のやり取りを話した。



「あの、バーンスタイン嬢」

「イリスと呼んで下さい」

「じゃあ、私達のことも名前で」

「はい」

「それで、実はアーサー様とノア様だけではなく、他にも話を聞きたい方がいるのです」

「そうなのですね。誰でしょうか?」

「あの、不敬になってしまうかもしれませんが……」


(まさか……)


「アルフレッド殿下と、従者候補のジェラルド・モーガン様のお話もお聞きしたいのです」


たしかに、主従関係という設定はいい!と前世の友人も力説していた。


「もちろん、王族の方のお話ですので、話せる範囲で構いません」

「うーん」

「実は、これは私達の先輩からの希望でして……。名前は明かせませんが、とある高貴な身分の方で、私達も大変お世話になっているんです」

「なるほど」


(どうしよっかなぁ。軽くなら大丈夫かな?)


「では、不敬にならない程度で……。殿下とジェラルド様はお互いとても信頼なさっている、という話で……」

「はい!それで大丈夫です。ありがとうございます!」


その後は他の皆の話も聞かせてもらい、とても楽しい時間を過ごした。

彼女達はその熱い想いを、絵や物語に書き起こしたりもしているそうだ。

素晴らしい活動だと思う。

文才も絵心もない私にとっては羨ましい限りだ。


「その、イリス様は私達と同じ同志なのでしょうか?」

「いえ、残念ながら同志ではないのです。ただ、皆様のお話を聞くのはとても楽しいので、ぜひ今度は作品も見せて下さいね」

「はい!」


読んでいただき、ありがとうございます。

明日の更新が難しいかもしれません。

すみません。


誤字報告ありがとうございました。

話出そう→話し出そう

お話されて→お話しされて


修正致しました。すみません。



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― 新着の感想 ―
[良い点] そっちかー(笑) そのCPもいいね! 勉強会の様子をイリスの言葉だけで聞くと ちょっと萌えた♡ イリスの言葉選び最高ჱ̒ ー̀֊ー́ )
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