勉強会4
一学期の後期試験が昨日で全て終わった。
今日は試験の結果が発表される。
試験は実技はやはりイマイチだったが、座学はなかなか手応えがあったように思う。
私は朝からそわそわしていた。
試験結果よりも、今日からまたアルフレッドと一緒の登下校を再開するからだ。
先日、テスト勉強期間の最終日に、自主学習スペースまで来てくれたアルフレッドに自宅まで馬車で送ってもらった。
その時に、疲れて眠ってしまったアルフレッドに寄りかかられて、つい私もアルフレッドに頭を傾けて目を閉じてしまった。
そして次に目を開けると、なぜかアルフレッドが満面の笑みで私を見下ろしていた。
「おはようイリス。よく眠れた?」
今の自分の状況がわからなくて固まってしまう。
「……え?」
「もうバーンスタイン邸には着いていたんだけどね。あまりにもぐっすり眠っていたから、起こせなくて」
徐々に頭がはっきりとしてくる。
私は馬車の中で、アルフレッドに膝枕をされていた。
しかもアルフレッドの上着が、横たわる私の体の上に掛けられている。
状況を把握した私は慌てて、膝枕から飛び起きる。
「あ、あの、すみません!私気付かないうちに寝てしまってたみたいで、アルフレッド様にもご迷惑を!重かったですよね?」
「大丈夫だよ」
「あ、あ、これ、上着まで、本当にすみません」
「ふふ、気にしないで。イリスは普段は大人っぽいけど、寝顔は子供みたいだね」
「えっと、その……」
(寝顔見られた!)
もう私は恥ずかしさでいっぱいになり、アルフレッドに謝り倒し、馬車から降りたあとは、待たせてしまった御者とジェラルドにも謝り倒した。
「いえ、殿下の機嫌が戻られたので良かったです。では、失礼致します」
相変わらずの無表情でそう言うと、ジェラルドはさっさと馬車に乗ってしまった。
意味がわからない。
普通はテスト前日に居眠りのせいで時間を浪費されたら、機嫌が悪くなると思う。
私は自室に戻ってからも、しばらくは寝顔を見られてしまったショックから抜け出せなかったが、思い出せば思い出すほどに恥ずかしくなるので、試験勉強に打ち込むことで頭からこの出来事を追いやった。
◇◇◇◇◇◇
そして私は、あの日以来初めてアルフレッドに顔を合わせるので、朝からそわそわしていた。
(あの後、帰ってすぐに鏡でチェックしたけど、よだれの跡はなかったから、それは大丈夫なはず……。もしかしたら、イビキとか、寝言とか……)
また思い出してしまう。
(それに、テスト前日の大事な時間を……。アルフレッド様だけじゃなく、ジェラルド様にまで迷惑を……。なんのために今まで送り迎え断ってたのよ〜!)
一度思い出すと、恥ずかしさと情けなさの無限ループに陥る。
バーンスタイン邸に着いてから眠っていたのは20分程度だったらしいが、その間ずっと見られていたかと思うと…。
(寝顔なんて見ずに、着いたなら叩き起こしてくれたら良かったのに!)
しかし、アルフレッドが眠っていた時は、こっそり寝顔を盗み見した自覚はあったので、なんとなく後ろめたくてそんなことは言えない。
気を抜けば、恥ずかしさで叫び出したくなる気持ちを抑えながら、アルフレッドの到着を待っていた。
◇◇◇◇◇◇
今朝の馬車では、私は気まずい思いだったが、アルフレッドは普段と特に変わらず、私の居眠りの話題にも触れることはなかった。
そんなアルフレッドの大人な対応に、私もなんとかいつも通り振る舞うことができた。
そして私は、貼り出された試験結果を見る為に廊下を歩いている。
試験の結果は、教師から生徒全員に自分の結果の用紙を配られた後に、実技と座学それぞれ学年上位10名までが廊下に貼り出される。
皆、誰が10位以内に入っているのか見ようと、結果が貼り出された廊下に集まっていた。
なんと今回イリスは座学が10位になったのだ。
前回は12位だったので、凄いランクアップだと思う。
きっとノアと一緒に勉強したことが良かったのだろう。
そして、座学の1位は今回もノア。2位はシオン。
ここの順位は前回と変わらず、だがレイラが4位になっていた。
レイラのランクアップもあの勉強会のおかげかもしれない。
前回の実技1位はこれまたノアだったのだが、今回は1位がシオン。ノアは2位だった。
そして、驚くべきことにヒロインが7位に入っていた。
さすがはヒロイン。
光の属性持ちというだけでも凄いのに、魔力量も多そうだ。
「イリスちゃーん!」
生徒の人混みをかき分けて、皆より頭1つ分背の高い赤い髪がこちらへ向かって来た。
「アーサー君、結果はどうでしたか?」
「それがね、今回は赤点1つも無しだったんだ!」
「それは良かったです」
「イリスちゃんのおかげだよ!本当にありがとう!」
そう言いながら、アーサーは私の両手をとり、ブンブンと上下に振った。
「他のみんなにも報告して来る!あ!次の試験も勉強会よろしくね〜!」
そう言いながら、アーサーはまた生徒の人混みをかき分けて去って行った。
しばらくすると、「きゃあああ!」という女生徒のなぜか嬉しそうな悲鳴が聞こえた。
悲鳴が聞こえたほうを見ると、アーサーがノアに全力でハグをしていた。
きっと赤点が無かった喜びの報告をしているのだろう。
ノアは死ぬほど嫌そうな顔でハグから抜け出そうとしていたが、アーサーのほうが力が強いのか、なかなか難しそうだった。
(これでアーサーもお母さんに怒られなくて済むわ。良かった)
そう思いながら、私はアーサーとノアの攻防を眺めていた。




