勉強会2
読んでいただき、ありがとうございます。
今日は更新がいつもより遅くなり、申し訳ありません。
「ねえ、シオン。明日の放課後って空いてる?」
「急に何?」
アーサーに勉強を教えると約束してしまった後、私は帰宅する馬車の中で1人考えていた。
攻略対象者であるアーサーと放課後に2人で勉強って何かのイベントなのだろうか?
(悪役令嬢とアーサーで?組み合わせがおかしくない?)
ヒロインとアーサーのほうがしっくりくるような……。
いや、でもヒロインが教える側っていうのも……。
そしてもう1つは、私がアーサーに勉強を教えてあげられるのか?という問題だ。
アーサーは1教科だけでいいと言っていたが、あの後詳しく聞いたところ、座学全教科が赤点だった。
1教科だけ教えればどうにかなるレベルじゃない。
そこで私は、他に一緒に教えてくれる人を探すことを思いついた。
それならアーサーと2人にならないし、アーサーが留年を免れる可能性も上がる。
そして、さっそく先に帰宅していたシオンを捕まえたのだ。
「あのね、今日クラスメイトに放課後勉強を教えてほしいって頼まれちゃって。でも私は誰かに教えたことがないから、シオンにも手伝って貰えないかなぁ?と思って」
「……誰に教えるの?」
「えっとね、アーサー・イワノフ君っていうんだけど」
「……それ、アルフレッド殿下に言った?」
「言ってないよ」
「……」
なぜかシオンはげんなりとした顔をしている。
何かまずいことでも言ってしまっただろうか?
「なんか面倒なことに巻き込まれそうだから嫌だ」
「えーっ!」
困る。ぼっちだから頼れる人が少ないのに。
「でも、他の人にも手伝ってもらうことには賛成。僕じゃなくてレイラ嬢に頼んでみたら?」
「うーん」
「明日僕からレイラ嬢に頼んであげるよ」
「ほんと?ありがとう!じゃあお願いね!」
放課後に図書館の自主学習スペースに来てもらうように伝言をお願いした。
レイラも成績が良かったし、凄い戦力になってくれそうだ。
私は明日の目処が立ち、シオンと別れてご機嫌で自室に向かった。
「義姉さんが他の男と2人きりなんて、バレたら後が怖すぎるよ……」
シオンはひっそりと溜め息をついた。
◇◇◇◇◇◇
翌朝、一緒に登校したシオンから、アルフレッドに勉強会のことを報告するようにしつこく念押しされた。
そんなことまで言わないとダメなものなの?と思いながらも、昼食時にアルフレッドに勉強会のことを話した。
「そうなんだ…。イリスは面倒見がいいんだね」
笑顔でそう言われただけだった。
(これ、アルフレッドに言う必要あった?)
まあ、よくわからないが、シオンに言われた通りちゃんと報告したから大丈夫だろう。
そして放課後、私とアーサーは図書館の自主学習スペースに向かう。
そこにはレイラがすでに待っていた。
「はじめましてアーサー・イワノフ様。レイラ・ヴェセリーと申します」
「はじめまして!アーサー・イワノフです。レイラちゃん今日はありがとう!」
「い、いえ」
アーサーの、いきなり名前ちゃん付け呼びにレイラも動揺しているようだ。
「俺のことはアーサーって呼んでね!イリスちゃんも!」
「は、はい」
自主学習スペースは、1人で集中したい人用と、グループ学習用とで場所が分かれている。
私達はグループ学習用のスペースに向かう。
「あ!」
アーサーが1人用の学習スペースの方を見て声をあげた。
「ね、イリスちゃんあいつ!あのメガネ!あれってうちの学年で1番賢いやつだよね?」
アーサーの指差す方を見ると、そこには1人で問題集に目を落としているノア・フェルナンデスが居た。
(こんなところにも攻略対象者!!)
「そ、そうですね」
動揺を隠しつつ、返事をする。
一学期の前期試験の座学でシオンを抑えて1位を取ったのが、ノアだった。
さすが攻略対象者でメガネ。
「よし!あいつにも頼んでみよう!」
「え?何をですか?」
「勉強教えてもらえるように」
いやいや、ちょっと待ってほしい。
「アーサー様はフェルナンデス様と仲がよろしいのですか?」
「ううん。喋ったことないけど、同じクラスだから大丈夫!」
レイラの質問にきっぱりと答えると、アーサーは止める間もなくノアに向かって行った。
私とレイラが呆気にとられつつも見守っていると、アーサーはノアに声をかけた。
離れているので声はあまり聞こえないが、どうやらノアは嫌がっているようだ。
(そう!そのまま断って!)
私は必死に心の中でノアに声援を送る。
しかし、アーサーは全く諦める気配がなく、あのうるうるした瞳でノアに縋り付く。
そのうち、自主学習スペースの監督をしていた教師がアーサーとノアに近付き声をかけた。
ついに、煩いと怒られてしまったようだ…。
アーサーはこれ幸いと、そのままノアの手を引っ張りこちらに連れて来てしまった。
「ノア・フェルナンデスだ……」
明らかに不機嫌な声で自己紹介をされる。
「レイラ・ヴェセリーですわ。よろしくお願いします」
「イリス・バーンスタインです。よろしくお願いします……」
結局、アーサーが無理矢理連れて来たノアを含めた4人で机を囲む。
「君達もこいつに巻き込まれたのか?」
ノアがアーサーを睨みながら言う。
「ええ」
「はい」
なんでこんなことになったのか……。
ここ数ヶ月は関わらなかったのに、たった2日で状況が一変してしまった。
「だって、俺ほんとにヤバくて!もし留年なんてことになったら、家で殺されちゃうよ!」
「アーサー様のお父様は王室騎士団長様ですわよね?やはりお厳しいのですね」
「いや、母上に」
「……」
(そっちかぁ)
「で、では、お父様にフォローしてもらえるように頼んでみてはいかがでしょう?」
「そんなの先生に留年になるかもって言われてすぐに父上に泣きついたよ!」
(泣きついたんだ)
「でも、『すまない。俺も母さんが怖いんだ』って父上に断られて……」
「……」
「俺、母上に怒られないためなら、なんだってやるから!お願い協力してくれ!」
結局、アーサーに押し切られる形で4人の勉強会が始まった。




