転生3
『君とマジカルな世界で〜魔法学園と光の乙女〜』はタイトルでわかる通り、魔法が使える世界の学園で、主人公が攻略対象者であるイケメン達と恋愛していく王道のファンタジー乙女ゲームだ。
ゲームソフトを買って帰った私はさっそく妹にゲーム機を借り、パッケージに同封されていた説明書をじっくり読んでから始めた。
初めての乙女ゲームは、音声のセリフや攻略対象者の登場にドキドキしながらもとても楽しかった。
チュートリアルが終わり本格的にゲームが始まり、システムに慣れた頃に週末が終わった。
これで毎週末の楽しみが増えたなぁ……なんて思いながら会社へ向かっていた月曜日の朝、信号待ちをしていた私の目に映る、すごいスピードで近付くトラックの車体、突然の身体への衝撃、遠くで聞こえる誰かの悲鳴……
そこで私の……綾乃の記憶は途絶えている。
「これは転生ってやつなんだろうなぁ……でも悪役令嬢って……もう、どうしよう!」
現状を理解はしたが、泣き言しか出てこない。
「悪役令嬢ってことは断罪とかされるのかしら?
うー、どうしよう」
残念なことに綾乃は乙女ゲームをクリアする前に死んでしまった。むしろ序盤しかプレイしていない。
ストーリーのネタバレになるかもとネットも見ていなかった。
だから、悪役令嬢の結末もわからない。
「わかっているのは説明書に書いてあったことだけかぁ……」
ゲームは魔法学園の入学式から始まる。
プレイヤーは珍しい光魔法を持つヒロインを操作し、攻略対象者と交流しながら様々なイベントをこなしていく。
私、イリス・バーンスタインは攻略対象者のうちの1人である、アルフレッド王太子の婚約者として登場する。
悪役令嬢であるイリスはヒロインに嫉妬し、様々なシーンで邪魔をするようだ。
ようだ。というのも、プレイしていた序盤にはイリスはまだ自己紹介ぐらいのシーンしかなく、どのような邪魔をするのかわからない。
説明書の主要キャラ紹介には『プライドが高く傲慢でワガママ放題』と書いてあった。
「私とは正反対かも……」
前世では周りに遠慮してしまい、自分を主張したり優先させることが出来なかった。ルールからはみ出すことも苦手だった。
だから真面目にしか生きられなかった。
そんな自分が嫌だった。
でも、私は生まれ変わった。
これはチャンスでもあるんじゃないだろうか?
前世とはもっと違う生き方が出来るかもしれない。
イリスは悪役令嬢らしく少しキツめの顔立ちだが美人だ。なによりスタイル抜群だった。巨乳だった。
前世微乳の幼児体型だった私は少し気持ちが上向いた。
私は悪役令嬢だけどまだ10歳。
たしか、魔法学園は15歳で入学だった。ストーリー開始までまだ5年もある。
違う新しい人生を楽しんでみよう!
自分で自分に言い聞かせる。
「せっかくだから悪役令嬢っぽいこともやってみようかな」
10歳ならまだ断罪されることもないだろう。
ちょっとハイな気分になりながら、次第に眠りに落ちて行った。