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入学3

アルフレッドから箱を受け取り、かかっていた赤いリボンを解く。

中には、金の細い鎖に青い宝石の付いたブレスレットが入っていた。


「うわぁ……。かわいいです」

「喜んでもらえて良かった。入学祝いのプレゼントだよ」

「ありがとうございます!」


(あれ、私アルフレッドに入学祝いに何か渡したっけ?

……渡してないな)


「あの、私からは何も渡してなかったのに、その、すみません」

「そんなこと気にしないで」


気にする。


「それより、着けて見せてほしいな」

「は、はい」


私が左手首に着けようとすると


「ああ、ごめん。これはアンクレットなんだ」

「アンクレット?」

「そう、足首に着けるんだ。自分じゃ着けづらいよね?私が着けてもいい?」

「え?」


そう言うと、私の返事も待たずにアルフレッドは私の足元に跪く。


「右と左どっちがいい?」

「え、えっと、じゃあ左で……」


彼は跪いたまま、私の左足の靴を脱がせると、自分の右太腿の上に私の足をそっとのせる。

そして靴下もするすると脱がされてしまった。


なぜか素足にされてしまい、彼の太腿の感触を足の裏で感じ、私は恥ずかしいを通り越して、もうどうしていいかわからない。

そんな私の気持ちなどお構いなしで、アルフレッドは私の左足首に金の鎖の留め金をはめる。

カチッと音がした瞬間に、青い宝石がうっすらと光り、すぐに光は消えた。


「どうかな?きつくない?」

「は、はい。大丈夫です」

「うん。よく似合ってる」


アルフレッドは満足気に頷くと、今度は靴下を履かせ始める。


「いや、あの、自分で……」


なぜか私の言葉は聞こえていないようで、靴までしっかりアルフレッドに履かされた。

恥ずかし過ぎて、彼の顔が見られない。


「実はこれ、魔道具なんだよ」

「そ、そうなんですか?」


アルフレッドは学園に通いながら、王太子として様々な公務もこなしている。

その中の1つで、王宮の魔道具開発部門の責任者に名を連ねているのだ。

魔道具とは、魔石と呼ばれる石に魔法を込め、その魔石を取り付けた道具を使えば誰でも様々な魔法が使えるようになる代物だ。

しかし、魔石自体に取り込める魔力量は少なく、武器としてではなく、便利な生活用品として使われることがほとんどである。


「最近うちで開発させたものでね、護身用だよ」

「護身用?」

「そう。学園には様々な人間がいるからね。もし君の身に何かあったら困るから」


そして、使い方を教わる。

このアンクレットに私の魔力を流せば、数分の間だが私の周りに防御結界が張られるらしい。


「凄いですね!」

「できれば外さずにこのままずっと着けていてくれると嬉しい。学園でも目立たないようにアンクレットにしたんだ。これなら上から靴下を履いていれば気付かれないだろ?」

「わかりました」


私の返事にアルフレッドはにっこりと笑う。

そして、馬車が止まり扉がコンコンと軽くノックされる。


「もう着いちゃったね。明日の朝は迎えに行くよ」

「ありがとうございます」


なんだかいろいろとショックで、私はフラフラと馬車から降りた。

御者台から降りていたジェラルドにも挨拶をすると、彼は私が手に持っていたアルフレッドからのプレゼントの空箱を見つめる。

そしてなぜか、私を同情するような目で見た。


え?と思ったのは一瞬で、すぐにジェラルドは私に挨拶を返して、さっさと馬車の中に乗り込んでしまった。



◇◇◇◇◇◇



学園生活が始まって数日が経った。

クラスでは少しずつ皆が打ち解け始め、なんとなくグループができ始めている。

そして私はとても困っていた。


「イリス様!お昼をご一緒しましょう!」


満面の笑みをした3人の令嬢が私に声をかけてきた。

彼女達はクラスメイトで、3人共が伯爵家の令嬢だ。


「え、ええ」


勘弁してほしい。


私は入学式の翌日に彼女達から声をかけられた。

さっそく友人ができるかもと喜んだのもつかの間、彼女達は私と対等な友人関係を築きに来た訳ではなかった。


「さすが王太子殿下の婚約者様ですわ」

「イリス様の美しさに皆さん見惚れていらっしゃったわ」

「今度はいつ王宮でパーティを開かれるのですか?私達もイリス様の友人としてぜひ呼んで下さいませ」


凄い。ヨイショとおべっかが凄い。

王太子の婚約者である私と仲良くすることで、何か利益を得ようとしてるのがバレバレだ。

これは友人ではなく、手下というか、取り巻きというか……。

悪役令嬢に取り巻き達…嫌な予感しかしない組合せだ。


(これ下手したら、私が何かしなくても、彼女達がイリスの名前使っていろいろやっちゃうんじゃない?)


断罪に一歩近付いたようで恐怖に震える。


彼女達に纏わり付かれながら、この状況をどう打破しようかと考えながら食堂へと歩いていると


「イリス様、ちょっとよろしいでしょうか?」

「はい?」


振り向くと、そこにはレイラが立っていた。


「シオン様がお探しでしたわよ。何か急ぎの用件があるそうで。ですので、わたくしと一緒に来てくださる?」


そう言うと、レイラは私の取り巻き志望達を鋭い視線で一瞥した。

彼女達はレイラの視線に竦み上がると、「どうぞ、行ってきて下さい」と私を解放してくれた。


私はレイラと共に廊下を進む。


「レイラ久しぶり。元気だった?」

「ええ、イリス様もお元気そうで」


そう言ってレイラは微笑んだ。


私が王太子妃教育でお茶会に出席できない日々が続くと、親しかった令嬢達もどんどんと疎遠になっていった。

まあ、仕方ない。子供の友情は、頻繁に顔を合わせることが重要だったりするから。

しかし、レイラだけはお茶会に出席できない私に手紙を書いてくれるようになった。

私は嬉しくてすぐに返事を書いた。

それからはずっと手紙のやり取りで友情を育んできた。


「でもレイラとクラスが離れて寂しかった……」

「わたくしもですわ」

「あー、シオンが羨ましい!」


レイラはくすくすと笑っている。

シオンはレイラと一緒のクラスだ。

本当に羨ましい。代わってほしい。


「シオンはどこにいるの?教室?」

「いえ、シオン様が探されてるというのは嘘なんです」

「え?」

「シオン様から聞きましたわ。何やら先ほどの彼女達に困らされていると」


たしかに昨日の夜にシオンに愚痴を聞いてもらった。


「そっか、助けてくれてありがとう」

「嫌ならはっきりとお断りしたほうがよろしいですわよ」

「そうなんだけど、ぐいぐい来られると断りにくくて……」

「なら、殿下と一緒に昼食を摂るから。と言ってお断りするのはどうですか?さすがに、ご一緒しようとは思わないはずです」

「でも一緒に食べてないことすぐにバレちゃいそうだし」

「殿下に頼むのはどうですか?」

「うーん。こんなことで迷惑かけちゃうのは申し訳ないから……」


レイラの教室の前まで来ると、シオンがひょっこりと扉から顔を出す。


「あ!義姉さん!どうしたの?」

「シオン!えっと…遊びに来たよ!」


イリスが笑いながらシオンに向かって歩き出す。



「これはご報告(・・・)が必要かしら…」


立ち止まったレイラの小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。



◇◇◇◇◇◇



翌朝、迎えに来てくれたアルフレッドと共に馬車に乗り学園に向かう。

ちなみに、シオンは1人でバーンスタイン家の馬車で登校している。


「シオンもアルフレッド様の馬車に乗せてもらう?」

と、一緒に登校しないか誘ってみたことがあるのだが

「ははっ、義姉さん、笑えない冗談はやめてくれる?」

と、目の奥がちっとも笑っていない笑顔で返されてしまった。



「クラスはどう?もう慣れてきたかな?」

「そうですね、少しは……」

「イリスはお昼はどうしてるの?」

「えっと、教室から一番近い食堂で食べてます」

「東棟にあるカフェテリアには行った?」

「いえ、まだ行ったことはありません」


学園には多くの貴族の令息・令嬢が通っているので、食事を提供してくれる場所が何ヶ所もある。

中には、王都に本店がある有名レストランの支店もあるくらいだ。


「良かったら今日の昼食はそこで一緒に食べない?オススメのメニューがあるんだ」

「えっ!いいんですか?」

「イリスの教室からは少し離れているから、先に私が席を取っておくよ」


なんてタイミングの良いお誘い!

今日はあの取り巻きになりたい彼女達から、逃げる口実ができた。


「はい!ありがとうございます」


そして、翌日も、その次の日も、アルフレッドに誘われて昼食を一緒に食べる。

それを繰り返すうちに、毎日アルフレッドと昼食を食べるのが当たり前になった。



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