入学2
読んでいただき、ありがとうございます。
今話は登場人物が一気に増えてしまいました。
こんなキャラが今後出てくるんだなぁ。とさらっとお読み下さい。
(イリスとヒロインって同じクラスだっけ?)
ゲームでは、魔法の実技授業でヒロインが光の属性持ちだと周りに発覚。その時に、イリスがヒロインに上から目線で自己紹介する場面があったのは覚えている。
そして、自分は王太子の婚約者なんだと自慢していた。
(そっかぁ、同じクラスだから同じ授業受けてたんだぁ……)
見落としていた当たり前の事実に茫然とする。
「よし、じゃあとりあえず1人ずつ自己紹介をしようか」
担任の声に我に返る。
教室の窓際の列から順番に1人ずつ自己紹介をすることになった。
◇◇◇◇◇◇
「ノア・フェルナンデス。よろしく」
愛想もなく、無表情でさらりと言ってのけたのは、濃紺色の髪を後ろで1つに束ね、切れ長の水色の瞳に、銀縁のメガネをかけた男子生徒だ。
(あ、ドSの人……)
彼は攻略対象者の1人で、王室魔術師団長の息子だ。
頭脳明晰で、魔力も高い。
そして、説明書にはドSだと書いてあった。
「アーサー・イワノフです!えっと、剣術が得意です。みんなよろしく!」
笑顔で元気よく挨拶した攻略対象者の彼は、真っ赤な短髪に金の瞳、背が高く、制服を着ていても筋肉質なのがよくわかる。
彼は王室騎士団長の息子だ。
説明書には、人懐っこいワンコ系だと書かれていた。
どんどん自己紹介は進んで行く。
私の番が来たが、名前と、よろしくお願いします。とだけ言って座った。
愛想がなくて申し訳ないが、今は余裕がない。
そして、ついにヒロインの番が来た。
「ニーナ・チェルニーです」
肩まで伸びたふわふわのピンクの髪、大きなエメラルドグリーンの瞳、小柄で華奢な身体は思わず守ってあげたくなる。
(かわいい…やっぱりヒロインはかわいい。名前はニーナなんだ……)
ゲームではヒロインを操作して進んで行くので、自分で名前を付けることができる。
私は自分の名前「アヤノ」でプレイしていたので、ヒロインの名前を知らなかった。
「えっと、前の人が属性を言っていたので、私も……。あの、私は光属性です」
その瞬間、教室中がざわめいた。
「すごい、初めて見た!」「珍しいね〜」
そんな声があちこちから聞こえる。
(え?自分で言っちゃうの?今?)
ゲームとの違いに驚いてしまう。
ニーナは照れたように笑うと、そのまま椅子に座った。
全ての生徒の自己紹介が終わる。
「はい、これで全員の自己紹介は終わったね。じゃあ最後に、僕はこのクラスの担任になりました、ウィリアム・クルスです。担当教科は魔法薬学。1年間よろしくね」
年齢は20代前半くらい、少しウェーブのかかった薄茶色の髪に、黒の瞳、右下顎にあるホクロがやけに色っぽく見える。
彼も攻略対象者で、大人の魅力担当だ。
(ゲームではなんとも思わなかったけど、担任の先生が攻略対象って…)
なんだか微妙な気持ちになってしまう。
その後はクラス委員を決め、明日以降の説明を受けて、本日は解散となった。
そして、やっぱりリアムがクラス委員長に選ばれていた。
◇◇◇◇◇◇
私はトボトボと正門に向かって歩いていた。
ヒロインと攻略対象者が3人も同じクラスだなんて……。
ちょっと偏り過ぎてるんじゃないだろうか?
(ヒロインが攻略しやすくする為?それとも悪役令嬢がどのルートでも邪魔できるように?)
なんだかどっちの理由も有り得そうでげんなりする。
「バーンスタイン嬢!」
呼ばれた声に振り向く。
「あ!ジェラルド様!」
「こちらです」
そこには、イリスと同じ黒髪に、黒い瞳の男子生徒が立っていた。
ジェラルド・モーガン
モーガン伯爵家の次男である彼は、学園でアルフレッドが声をかけた、学友であり従者候補だ。
彼を紹介された時は、「ついにアルフレッドに友達が!」と心の中で感激してしまった。
私は彼に案内されるまま、馬車の乗り場に向かった。
そこには、王家の紋章が彫られた、豪華な馬車が1台停まっていた。
「殿下が中でお待ちです」
「はい。お待たせしてしまい、すみません」
「いえ」
そう言うと、ジェラルドは御者台の方へさっさと歩いて行ってしまう。
馬車の横で待っていた御者が、うやうやしく扉を開けると、中からアルフレッドが降りてくる。
「お疲れ様、イリス」
そう言いながら差し出された彼の手にそっと手を乗せると、馬車の中へエスコートされる。
「ありがとうございます。アルフレッド様」
彼は私を見て柔らかく微笑んでいる。
慣れたとはいえ、距離が近いとドキドキしてしまう。
向かい合わせで座ると、扉が閉まり馬車が動き出す。
「ふふっ、制服姿良く似合ってるよ。かわいい」
「あ、ありがとうございます」
恥ずかしい。
アルフレッドはいつもさらりと褒めてくれる。
イリスの外見が美少女なのは、頭ではわかっているが、
実際に自分が言われるといつも照れてしまう。
熱い顔のまま、ちらりとアルフレッドに視線を向ける。
すっかり大人びた美しい顔がそこにある。
この5年の間に目の下の隈もすっかりなくなり、キラキラ王子様に磨きがかかっている。
「今朝は迎えに行けなくてごめんね。入学式の準備でどうしても時間が合わなくて」
「いえ、大丈夫です。あの、帰りも送っていただいて本当によろしかったのですか?」
「もちろん。やっと一緒に通えるようになったんだ。これからも時間が合う時は送り迎えさせて」
優しい。
「今日はどうだった?誰か知り合いには会えたかな?」
「いえ、クラスはシオンともレイラとも離れてしまって…」
代わりにヒロインと攻略対象者と一緒です。
「それは残念だったね。でも君のことだから、すぐに友人ができるさ」
「はい。親切な方はいらっしゃったので!」
「……もう友人ができたの?」
「いえ、実は入学式の後にうっかり上級生に付いて行ってしまいまして……。戻る道がわからなくて困っていたところを助けていただいたんです」
「そうなんだ」
「はい。たまたま同じクラスで、彼のおかげで無事に教室に時間内に着くことができました」
「彼?」
「えっと、たしか、リアム……リアム・バーナード君です」
「ああ、バーナード辺境伯の令息か…」
相変わらず、名前を言えばすぐにどの家門かわかるのが凄い。
「リアム君とは仲良くなれそう?」
「まだわかりませんが……クラスメイトとして仲良くなれたらいいなとは思います」
アルフレッドと話していると、あっという間にバーンスタイン家の近くまで来ていた。
「忘れるところだった。これを君に渡したかったんだ」
そう言って、彼は鞄からラッピングされた綺麗な箱を取り出した。




