入学1
読んでいただき、ありがとうございます。
今回から舞台は学園になります。
登場人物も増えていきますので、よろしくお願いします。
私がこの世界に転生してから5年の月日が流れた。
私は15歳になり、今日から魔法学園に通う。
そう、今日は入学式…いよいよゲームがスタートする。
私はレクサード王立魔法学園の制服を着て、姿見鏡の前に立っている。
長い艷やかな黒髪に、真っ白な肌、少し吊り目気味の紫色の瞳。手足はすらりと長く、出るとこは出て、引き締まったウエストは抜群のプロポーションだ。
そんな年齢より大人びた雰囲気の美少女がそこには映っていた。
(うん。ゲームの悪役令嬢イリスそのまま……)
わかってはいたが、制服を着るとさらに実感してしまった。
この5年間、私なりにいろいろ頑張ってはみたが、特にゲームの設定を覆すことはできなかった。
きっと学園にはヒロインや他の攻略対象者も居るのだろう。
(これからが本番よね。なんとか、なんとか無難に終えたい)
あまりにも設定を覆すことができないので、最近は『せめて断罪だけは避けよう、もしくは、酷い断罪にならないように努力しよう。』という目標に変更した。
コンコンコンッというノックの音と、入る許可を得るシオンの声がした。
「どうぞ」
「義姉さん、そろそろ準備はできた?」
そう言いながらシオンが部屋に入って来た。
シオンもイリスと同じ15歳になった。
さらさらの輝く銀の髪に、中性的な美しい顔はそのままに、声は少し低くなった。
背はイリスよりは少し高いが、全体的に華奢で色白なので、少年っぽさが抜けない。
イリスのほうが年上に見えてしまう。
「ええ、大丈夫よ」
「義姉さん。顔が大丈夫じゃないよ?」
わかっている。
緊張で昨夜は眠れなかったし、今朝も胃が朝食を受け付けなかった。
「ちょっと緊張してて……」
「そうなの?今日は入学式とクラス発表くらいだから、そんなに緊張するようなイベントはないよ」
「うん……」
力無く返事するイリスに、シオンは心配そうな視線を向ける。
「もしクラスが分かれても、時々は顔出しに行ってあげるから」
「ありがとう……」
いい義弟を持った。
学園に向かう為に、シオンと共にバーンスタイン家の馬車に乗り込んだ。
◇◇◇◇◇◇
シオンと共に学園の正門の前に立ち、建物を見上げる。
(ああ…こんな建物だったなぁ)
私は前世でのゲームの映像を思い出した。
周りは私達と同じ新入生だろう。
皆、希望と少しの不安を秘めたキラキラした顔で、楽しそうに歩いている。
(いいなぁ。私だって悪役令嬢でさえなければ、2度目の学生生活を楽しめたはずなのに!)
恨みがましい気持ちのまま、シオンに引っ張られながら、新入生が集まる講堂へと向かった。
講堂には私達新入生の他に、すでに在校生も集まって着席しており、ザワザワとしていた。
講堂に向かう途中に、シオンは友人に声を掛けられたのでそちらに行ってもらい、私は空いている席に1人座って式が始まるのを待つ。
式が始まると、ザワザワとした声は静かになった。
学園長の挨拶から始まり、各教科の教師の紹介、そして生徒代表として生徒会長の挨拶になった。
名前を呼ばれ、壇上に上がった人物を見て、周りの女子生徒は歓声を上げる。
それは、私の婚約者であるアルフレッド王太子殿下であった。
17歳になったアルフレッドは、幼さが抜けた金髪碧眼の眉目秀麗な顔立ちに、背も伸びて、細身ながらもしっかりとした筋肉が付き、すっかり男らしくなっていた。
(そうだ、ゲームでもこの場面があったな……)
入学式で生徒代表の挨拶をする場面だ。
この時がゲームのアルフレッドの初登場だった。
アルフレッドの婚約者に選ばれてしまった時はどうなることかと思ったが、今日まで良好な婚約関係が続いていたと思う。
アルフレッドがこの学園に入学してからの2年間は、以前より会う時間が減ってしまったが、アルフレッドは少しでも時間を作って私に会おうとしてくれた。
いつの間にか、彼の側に居ることが当たり前になるほどに、この5年の月日は長かった。
(できれば、彼に憎まれることなくこのゲームから退場できますように……)
そんなことを思いながら、ぼんやりと壇上のアルフレッドを見つめていた。
◇◇◇◇◇◇
(やってしまった!)
寝不足のせいだろうか…。
式が終わり、クラス分けの貼り出しを見る為に移動したのだが、うっかり2年生の集団に付いて行ってしまい、途中で制服のタイの色が違うことに気付いて、慌てて来た道を戻っている。
(ゲームでは、行きたい場所にカーソルを合わせれば勝手に移動してくれたのに……)
現実だと、初めての場所なので道がさっぱりわからない。
この道で合ってるのだろうか?
若干パニックになりながらも、急いでいると
「あっ!あの、新入生の方……ですよね?」
向かいから走って来た男子生徒に声をかけられる。
「は、はい」
「やっぱり!良かった」
彼は安心したように息を吐く。
「さっき、2年生の集団に付いて行くあなたをたまたま見かけて。でもタイの色が1年生だったから…」
それでわざわざ追いかけて来てくれたらしい。
「ありがとうございます。途中で間違ってることに気付いて戻って来たところで……でも道がよくわからなくて……」
「1年生のクラス分けはまだ見てないよね?」
「はい」
「すぐそこだから案内するよ」
私は安堵しながら、彼に付いて行く。
1年生のクラス分けの貼り出し場所に着くと、そこにはもう私達以外誰も居なかった。
私は慌てて自分の名前が書かれているクラスを探す。
「良ければ名前を聞いてもいいかな?僕も探すよ」
「す、すみません。イリス・バーンスタインと申します」
「わかった」
彼はそう言うと、私と一緒に貼り出しの紙を見つめる。
「あ!あったよ。……しかも同じクラスだ」
彼は驚いたように言う。
「これからはクラスメイトだね。あ、僕の名前はリアム・バーナード、よろしくね」
背はシオンと同じくらいだろうか、濃い茶色の髪に、頬にはそばかす、そして黒縁のメガネの奥から榛色の優しそうな瞳が見える。
「はい。よろしくお願いします」
そう答えながらも、私はなんとなく彼に既視感を覚えていた。
どこかで見たような…。
(あ!)
私は唐突に思い出した。
そう、私は見たのだ。前世のゲーム画面で。
(チュートリアル委員長だ!)
そう、彼はゲームに登場していた。
しかし、攻略対象者としてではなく、サポートキャラとして。
ゲームを開始してすぐは、操作のやり方やシステムなどを理解するための説明……チュートリアルがあった。
その時にクラス委員長である彼が、懇切丁寧に案内したり説明したりしてくれたのだ。
(そうだ、名前もそんなだった……気がする)
私は前世でゲームをプレイしながら、勝手に彼を「チュートリアル委員長」と呼んでいたのだ。
ゲームをチュートリアル後の序盤までしかプレイしていない私にとって、攻略対象者より彼のほうが馴染みがある。
(悪役令嬢のサポートもしてくれるなんて……)
現実の彼はヒロイン以外にも面倒見が良いみたいだ。
私はリアムと共に教室まで急いだ。
リアムに改めてお礼を言い、教室に入ると、私達以外はみんな着席していた。
私達も慌てて自分の名前の席に着く。
そしてすぐに担任の先生が教室に入ってきた。
私は教室の中をそっと見回し…。
念の為、もう1度見回し、し……そして絶望した。
同じクラスにヒロインと3人の攻略対象者が揃っていたからだ。
誤字報告ありがとうございます。
写っていた→映っていた
クラスが別れても→クラスが分かれても
修正致しました。すみません。