婚約者との日々2
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
※アルフレッドの腹黒が前回に納まりきらず…。
今回も腹黒回になります。
結論から言うと、王宮で開催されたお茶会?は、大盛況に終わった。
まあ、開催するまでは予想外の出来事も多かったのだけれど…。
お茶会の準備は、王宮で開催されるからという理由で、アルフレッドが動いてくれていた。
「お茶会の場所や規模、あとは招待客なんだけど……」
ある日、そう言って渡された用紙を見ると、お茶会ではなく、なぜか王宮の庭園を使った大規模なガーデンパーティになっていた。
「一応、王家が主催になるから、小規模のものは逆に出来ないって言われて……ごめんね」
それなら仕方ない。
それに、アルフレッドに任せきりなのだから、文句も言えないし、言うつもりもなかった。
またある日、アルフレッドから渡された用紙を見ると、ガーデンパーティではなく、なぜか私とアルフレッドの婚約披露パーティになっていた。
「主催が私達2人だから、2人の関係をきちんと表明してからのほうが良いって言われて……ごめんね?」
それなら…まあ、仕方ない。
本来は、私が成人して夜会デビューの時に正式なお披露目になるはずなのだけれど…。
仲が良い友人達を招いて、軽いお茶会をするつもりだったのに、気が付けばかなり大事になってしまっていた。
私はアルフレッドから贈られた、アルフレッドと揃いの色のドレスを着て、初めて公の場で婚約者として振る舞うことになった。
そして無事にパーティ当日を迎える。
婚約披露の場で異性と話をするのは外聞が悪い、とアルフレッドに教えられ、2人で挨拶回りをした後は、私は令嬢達とお喋りを楽しむ。
元々、レイラも含めて親しい友人は皆令嬢なので、特に問題もない。
代わりに令息達の相手はアルフレッドがしていた。
アルフレッドは凄く嬉しそうだし、私も久しぶりに友人と会えた。
私がアルフレッドに紹介した令息達は、緊張のせいか、アルフレッドと話した後は皆顔色が悪かったが、きっといい出会いになったと思う。
◇◇◇◇◇◇◇
婚約披露パーティからさらに数ヶ月が経ち、もうすぐ夏季休暇の時期がやってくる。
この国の貴族は、夏季休暇には避暑地に行くことが多い。場所は、国内、国外様々だ。
王家は毎年、隣国であり友好国であるエイワード王国の保養施設に行くのが慣例だった。
両国の友好のアピールも兼ねているようだ。
「魔力枯渇症ですか?」
「ああ」
聞き慣れない病名に、私は戸惑ってしまう。
アルフレッドによると、昨年の夏にエイワード王国のとある地域で発見された病気らしい。
らしい。というのも、発症した人数があまりに少なく、しかも場所も限定されている。
そして、昨年の夏以降はその後誰も発症していないそうだ。
「初めて聞きました」
「隣国は公表していないからな」
さらりと言われた。
「あの、それって……機密情報では?」
「君も将来近いうちに王族になるんだ。知っておいたほうがいい」
王家の秘密を知りすぎたから、断罪しておこう。なんてことになったら困るから、やめてほしい。
「隣国にしてみれば、公表してしまうと確実に外交に影響が出る。観光客も大幅に減ってしまうだろう」
隣国は観光大国なのだ。
そんな恐ろしい病気が流行っていたと広まれば、観光業に大ダメージだ。
「その病気を発症したのは皆子供で、どうやら最初は平民の子供が数人発症したらしい。だから気付くのが遅れたそうだ。そのうち貴族の令息が2人発症して、やっと国は把握したそうだ」
そして、なぜかその後は誰も発症しなかった。
「発症した子供達は、皆同じ地域で暮らしてはいたが、発症した子供同士の接触はなかったそうだ。そして、魔力の属性もばらばらだった。つまり、どうやって病がうつったのかがわからない。うつるものなのかも、病と呼べるものなのかすらも、わからないんだ」
「どんな症状なのですか?」
「2〜3日高熱が続いた後に、元々あった魔力が大幅に減ってしまう。全くのゼロになるわけではないが…だいたい7〜8割程減ってしまうそうだ」
そんなに魔力が減ってしまうのかと衝撃を受ける。
魔力の強さとは、本人が持つ魔力量に比例する。
私の魔力が8割も減ってしまったら、初級魔法も使えるかどうか……。
「そしてなぜか、高熱が出る前の記憶があやふやらしい。発症したどの子供達も、昼間に高熱で外で倒れていたところを発見されている」
そして、その病を本格的に調べようとしたら、ぱたりと誰も発症しなくなったらしい。
なんとも不可解な話だ…。
「その地域と、私達が使う保養施設との距離はかなり離れてはいるが…もし万が一、王太子である私が隣国でその病に罹ってしまうことがあれば、一気に両国の国際問題になるからな。他に公にはしないことを条件に、隣国から情報がもたらされた」
「なるほど……」
「だから、今年の夏季休暇は隣国に行けないんだ。君と一緒に過ごすのを楽しみにしていたのに…。すまない」
「えっ?」
まさか、私も王家御用達の保養施設に行く予定だったのだろうか?
「君はこの国を出たことがないんだろう?いろいろ案内してやりたかったんだが……」
申し訳なさそうなアルフレッドの表情を見て、私を喜ばせようとしてくれたんだと思うと、心がじんわりと温かくなった。
「いえ、お気になさらないで下さい。私は今年の夏季休暇は久しぶりにシオンと領地に帰ろうかと考えていましたし」
「…シオン君と?」
「はい」
私は夏季休暇はミリーを連れて領地に帰るつもりだった。
王都まで付いて来てくれたミリーの家族は領地に住んで居る。
私が婚約者に選ばれてしまい、王都に住むことになってしまったせいで、長らく家族と会えていない。
だから、ミリーにはこの機会に実家でゆっくりして貰いたかった。
その話をシオンにしたら、「僕も義姉さんと一緒に行こうかな」と言い出したのだ。
「話には聞いていたけど、君たちは本当に仲が良いんだね」
「そうですね。仲が良いほうだとは思います」
「……そう」
誰に聞いたのだろう?
噂になる程に姉弟仲が良く見えたのだろうか?
それなら嬉しい。
「はぁ……。そんな姉弟水入らずの仲に割って入ってしまうようで心苦しいな」
「?」
(どういうこと?)
「実は、さっきの話の続きなんだけどね。私達が隣国の保養施設に行くのは両国友好のアピールでもあることは君も知っているだろう?」
「はい」
「それなのに、今年は隣国に行けない。しかし、隣国の事情は公には出来ない。このままだと両国の関係に何か問題があったのでは?と勘繰られるかもしれなくてね……」
「なるほど」
「それで、隣国に行けない表向きの理由が欲しくて……」
王族は休暇の使い方にも気を遣わなければいけないのか…
大変だな。
「だから私は、『婚約者と一緒に過ごしたいから』というのを表向きの理由にしようと思っているんだ」
「は?」
「それなら、婚約者との関係も良好だと周知されるから、一石二鳥だと思うし」
凄くいい笑顔で、凄いことを言い出した。
「いや、あの……」
「国の事情に巻き込んでしまってすまない」
「いえ、でも……」
「本当はイリスと国内を旅行しようと思っていたんだけどね。バーンスタイン領にも行ってみたかったんだ」
「それは……」
「シオン君ともじっくり話してみたかったし、楽しみだよ」
「……」
全然話を聞いてくれない。
「私は同年代の子達と旅行なんて行く機会がなかったから……」
ああ……。ついに両眉を下げて、哀しそうにこっちを見てくる。
これは断れないやつだ。とこれまでの経験で悟った私は、しぶしぶアルフレッドとバーンスタイン領へ行くことを了承した。
アルフレッドの同行を聞いたシオンは、なんとも言えない苦笑いを浮かべながら遠い目をしていたし、急に王太子が訪れることになったバーンスタイン領の屋敷は準備で大わらわになった。
ちなみに、だいぶ後になってから、国王夫妻の隣国に行けない表向きの理由は『国王の急な夏風邪』だと聞いて、じゃあアルフレッドも病欠にすれば良かったんじゃ…と思ってしまったのはナイショだ。
そんな風にアルフレッドの婚約者としての日々が慌ただしく過ぎて行った。
今回で子供時代は終わり、次回からは学園でのお話になります。
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