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初めてのお友達3

私は俯いてしまったレイラの背中をそっと撫でながら、ゆっくりと声をかけた。


「あの、私はあなたとは初対面ですし、お茶会に来たのも初めてなので、カーター君や他の人達のことも知りません。だから、私から見て確実なことだけ言いますね」


彼女は俯いたまま、じっとしている。

聞いてくれていると判断し、話を続ける。


「まず、私もですが、あなたは公爵家の娘です。だからあなたは結婚相手を選ぶ立場の人間です」


この世界の貴族の序列ははっきりしている。

王族の次に家格の高い公爵家の娘が、誰からも見向きもされないなんてことは、まず有り得ない。


「もちろん、公爵家の娘でも余程の事情があれば、婚約の申し込みが来ないこともあるでしょう。しかし、その『余程の事情』の中に、『子供の頃のお見合いで王太子殿下の婚約者に選ばれなかった』ことは入りません。殿下に選ばれなかったから他の誰にも選ばれない、なんてことは有り得ません」


私はきっぱりと言い切る。

余程の事情とは、健康上の理由や酷い醜聞のことだ。


「あなたのお父様やお母様は殿下の婚約者に選ばれなかったことについて、何か言われましたか?」

「……いえ、なにも。もともと、王太子殿下とのお茶会も、嫌なら断るから、わたくしがどうするか決めていいと……父に言われました」

「いいお父様じゃないですか」


うちのと違って。


「あなたは殿下とのお見合いを断ることもできた。でも逃げずに王家の要請に応えたんです。きちんと公爵家の娘として役割を果たしたんです。周りが何と言おうと、堂々としていればいいと思います」


部外者はなんとでも言えるのだ。放っておけばいい。


彼女が顔を上げ、私を見つめたその時


「義姉さん!こんなとこに居たの?すっごい探したんだよ!」

「シオン!」


呆れた顔をしたシオンが現れた。

どうやら私を探してくれていたようだ。


「君は……ヴェセリー嬢?まさか、義姉さんが泣かしたの?」

「ち、違う違う」


慌てる私を横目に、シオンはレイラの前に跪くと、ポケットからハンカチを取り出して、優しく彼女の涙を拭った。

そしてそのハンカチを、そっとレイラの右手に握らせる。


(なんかすっごい慣れてるな……)


シオンの行動に、レイラの顔もほんのり赤らんでいる。


「シオン様、お恥ずかしい姿をお見せしました。バーンスタイン嬢はわたくしの話を聞いて下さっていただけですわ」

「何かあったのですか?」

「その、カーターにいろいろ言われまして……」

「カーター?カーター・ハサノフのこと?」

「シオン、知ってるの?」

「うん。前に出席したお茶会で、あいつがヴェセリー嬢に絡んでるのを見かけたことがあってさ。その時は近くに居た令嬢が止めてたけど……。今日もまた絡んできたの?」


私はレイラに、シオンにも軽く事情を話して良いか聞く。

彼女が頷いてくれたので、レイラから聞いた話を簡単にシオンに説明した。

ちなみにカーターのレイラへの想いも、レイラに聞こえないようにこっそり伝えた。


「うーん。僕の周りからは、ヴェセリー嬢の悪い噂は聞きませんよ?だから、カーターの言ってた『みんな言ってる』の信憑性は低いですね」

「そうなのですね……」

 

さすがはシオン。説得力がある。

レイラは少し落ち着いたのか、それとも、シオンの言葉に安心したのか、ようやく微笑んだ。


「でもこれからもまた絡んでくるかもしれないし、何か対策が必要かも」


私の言葉に、シオンは少し考えるようなそぶりをみせると、


「それじゃあ、こういうのはどう?これならカーターも黙ると思うけど」


シオンが天使の微笑みを浮かべて言った。





レイラとの出会いから1ヶ月後、私とシオンは再びピータース伯爵夫人のお茶会に揃って出席していた。


「バーンスタイン嬢!シオン様!」


明るい呼び声に振り向くと、レイラがこちらに手を振りながらやって来た。



「先日はいろいろとありがとうございました」


私達は彼女が泣いていた、例のガゼボのベンチに3人で座っていた。

3人で並んで座ると少し狭いので、私とレイラが一緒に座り、シオンは向かいのベンチに座った。


「ううん。気にしないで下さい」

「いえ、特にバーンスタイン嬢には、初対面なのに八つ当たりして、あげくに泣き出してしまうなんて……本当にご迷惑をおかけしましたわ。申し訳ありませんでした」


レイラは深々と頭を下げた。


「ヴェセリー嬢が元気になられて良かったです」


私が答えると、レイラは笑顔になって、その後の顛末を話し始めた。


レイラが別のお茶会に出席した時に、またまたカーターに絡まれた。


相変わらず、王太子の婚約者に選ばれなかったことを揶揄うカーターに、レイラは目を伏せて悲しげに


「どうやらわたくしの運命のお相手は王太子殿下ではなかったようです」

「こんなわたくしにも想いを寄せてくれる素敵な方が見つかれば良いのですが……」


そう言った後に、上目遣いでカーターをじっと見つめると、彼は耳まで真っ赤になり、何も言わずに走り去ったそうだ。


数日後、カーターから婚約の申し込みがヴェセリー家へ届く。

もちろん、レイラは即、お断りした。



「シオン様のアドバイスのおかげですわ。あれ以来、カーターはこちらを避けるようになりましたの」


友人が1人減ってしまったのは残念だけれど、ずっと謂れのないことで傷付けられるのは我慢ならなかった。だからこれで良いのだと、レイラは言った。


「それで、あの、バーンスタイン嬢に今更こんなことを言うのは、都合が良すぎるのかもしれませんが……」


レイラがもじもじしている。ちょっとかわいい。


「よろしければ、わたくしとお友達になってもらえませんか?」

「え?いいんですか?よろしくお願いします!」

「その、わたくしのことはレイラと呼んで下さい」

「はい!じゃあ私のこともイリスって呼んで下さいね」


(やった!この世界で初めての友達だ!)


「義姉さん、初めての友達ができて良かったね」


さり気なく今まで友達が居なかったことをばらされた。



レイラと友達になってから私の世界は急速に広がった。

お茶会でレイラに会うと、レイラの友達も紹介してもらい、みんなでお喋りをする。

レイラ達と過ごす時間はとても楽しい。


そして、レイラのおかげで、アルフレッドとの関係にもいい影響があった。




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― 新着の感想 ―
[一言] こういうタイプの男にこんな煽り方すると、高い確率でレイラが暴力被害に遭いそうで心配。
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