初めてのお友達1
イリスは自室で1人うなだれていた。
アルフレッドの無駄にある行動力のせいで、イリスが王太子の婚約者に決定したことは瞬く間に知れ渡り、今更婚約を辞めることなどできなくなってしまった。
(誓約書にもサイン書いちゃったし……もう、どうにもならないよね)
そしてその後に、ちゃっかり名前呼びも約束させられてしまった。
さすがに王太子を呼び捨てにはできないので、「アルフレッド様」と呼ぶことになったのだが……。
(今思い出したけど、ゲームのイリスも王太子を「アルフレッド様」って呼んでた……)
ゲームの強制力はどこまでも恐ろしい。
断罪から逃れるために、自分にできることはあるのだろうか?
ただひたすら、ベッドに座って悶々としていた。
コンコンコンッという軽いノックの後に、シオンが部屋に入って来た。
「義姉さん……相変わらず、鬱々としてるね」
ベッドに座りこんだままの私を見て、シオンは苦笑いを浮かべている。
「シオン……」
「良かったら気分転換にお茶会に行かない?ピータース伯爵夫人から招待状が来てるよ」
「お茶会……」
昼に行われるお茶会は、主にご婦人方の社交の場なのだが、中には親と一緒に子供達が参加できるものもある。
ちなみに、夜の社交場である夜会には、成人してからしか参加できない。
イリスは母親を早くに亡くしているのと、王都に来てからはお見合いで忙しかったので、今まで参加したことがなかった。
「義姉さんは初めてだっけ?」
「うん」
「義姉さんは王太子殿下の婚約者になったんだから、これからたくさん招待状が届くと思うよ」
「そっか……」
「だから、練習だと思ってさ。僕も一緒に行ってあげるから。ピータース伯爵夫人のお茶会なら僕も何度か行ったことがあるんだけど、庭もキレイだし、美味しいお菓子もたくさんあったよ」
優しい……。
シオンの優しさが身に染みる。
「じゃあ行ってみよっかな……」
「やった!いつも1人だったから、義姉さんと一緒だと嬉しいよ」
(ん?いつも1人?)
「シオンはいつも1人で参加してたの?」
「そうだよ。」
「お父様は?」
「仕事が忙しいから無理だって。でも、後継者として社交は大切だから行きなさいって」
「はぁ?信じられない!」
(なにそれ?そんなとこに子供を1人で放り込むなんて!後継者として他所様の子供を預かってるんだから、ちゃんとしなさいよ!)
「お父様には気遣いってものがないのよ!」
私の激昂にシオンは目をぱちくりさせている。
「でも、僕平気だよ。慣れてるし、友達もできたし」
「あの人の気遣いの無さは異常よ!ああ、責任感も無いわね!」
父への怒りでシオンの声は聞こえていない。
「大丈夫よ、シオン!今度のお茶会は義姉さんが側にいるからね。任せて」
「う、うん。でも義姉さん、お茶会初めてだよね?」
シオンが心配そうに私を見つめていた。
◇◇◇◇◇◇
私とシオンは共に、ピータース伯爵夫人のお茶会にやって来た。
ピータース伯爵夫人は40代後半の上品な方だった。
ご子息はもう成人しているが、夫人は子供好きらしく、定期的に子供達も参加できるお茶会を開催している。
「お初にお目にかかります。イリス・バーンスタインです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「お久しぶりです、ピータース伯爵夫人。本日はお招きありがとうございます」
私とシオンは主催者のピータース伯爵夫人に揃って挨拶をする。
「まあ、初めまして、バーンスタイン嬢。シオン君もお久しぶりね。2人共、今日は来てくれて嬉しいわ。ぜひ楽しんで下さいね」
にっこりと優し気な微笑みを返される。
たしかに子供好きそうな方だ。
「今日はシオン君が好きなベリーのタルトも用意してありますよ。他にもたくさんお菓子を用意してありますからね」
「わあ、嬉しいです。ありがとうございます」
シオンの天使の微笑みに、他のご婦人方も皆、にこにこ微笑んでいる。
(すごいわシオン。大人の女性に人気なのね)
それに比べて、大人達のイリスへの視線は値踏みのように感じる。
(たぶん、王太子の婚約者だって知ってるからよね……)
「義姉さん、先にお菓子を食べに行く?」
「そうね、行きましょう」
大人達の視線から逃れるように、イリスは急ぎ足でその場を離れた。