転生2
私はイリスになる前、坂下綾乃という名前で日本という国で、父・母・妹と共に平凡に暮らしていた。
見た目は地味でパッとせず、性格は良くいえば真面目、頭が固く面白みに欠ける。
「お姉ちゃんってば、ほんと真面目過ぎー。もっと適当にすればいいのに」と、要領の良い妹によく言われていた。
子供の頃はそれでも良かった。真面目ということは評価に繋がり、先生や周りからの評判も良かったから。
しかし、成長し思春期にさしかかると、周りは異性を意識した言動を始める。
綾乃はそれに上手くついて行けなかった。
制服を着崩したりメイクをしたり、オシャレすることにうとく、男子とは緊張して上手く会話もできなかった。
それでも、恋愛に対しての憧れだけはあって、地味な主人公の女の子が、学校で人気のイケメンに愛される……
そんな漫画や小説を読んでは、いつか私にもそんな相手が現れるかも!と妄想ばかりしていた。
現実には何もなかった。
クラスが一緒だったサッカー部の爽やかイケメン木元君は1つ年下のマネージャーの女子と付き合っていたし、
学年で1番人気の野田君は彼女を取っ替え引っかえしていたが、その中に綾乃が入ることはもちろんなく……。
むしろ喋ったことすらもないまま卒業した。
そして、大人になってようやく気付いた。
自分を磨かず、異性に好かれる為の努力や行動もしないで好意を持ってもらうことは難しいと。
気付いたところで綾乃にはどうすることも出来なかった。いい年齢して今さら自分がオシャレなんてしたら周りに笑われるんじゃないか……
そんなふうに考えてしまい変わることが出来なかった。
相変わらず漫画や小説で妄想するだけの日々だ。
「お姉ちゃんもいい年齢なんだし、会社に出会いがないんだったら他で見つけなよ」
「他って言っても……」
「マッチングアプリとかどう?」
「え?どんな人なのかよくわからない人と会ったりするんでしょ?そんなの怖くて無理よ」
「……じゃあ、結婚相談所はどう?それなら年齢や職業だってわかるし安心でしょ。結婚を考えてる人しか居ないんだし」
「でも、すぐ結婚したい人が多いでしょ?私はいきなり結婚じゃなくて、恋愛とかもしてみたいし……」
「もー!そんなことばっかり言ってたらずっとこのままだよ?ちょっとは新しいことにチャレンジしてみなよ」
金曜日の仕事帰り、いつものルーティンで週末に読む為の漫画を借りにレンタルショップへ向かう。
妹の言ってることもわかる。
しかし、結局いつもの現実逃避の恋愛漫画の棚に向かってしまう。
ふと、同じ店内のゲーム販売エリアに設置された巨大なポップ広告に目が行く。
そこには発売されたばかりだという、女性向け恋愛シミュレーションゲーム……通称、乙女ゲーム『君とマジカルな世界で〜魔法学園と光の乙女〜』が紹介されていた。
今まで漫画や小説ばかり読んでいて、ゲームは未経験だ。つまりずっと作品を読むだけの受け身だった。
でも乙女ゲームは自分が主人公を操作し、攻略対象と呼ばれる男性に好きになってもらうために選択肢を選ぶ。
恋愛シミュレーションというくらいだ、私の恋愛経験値を上げるためにもチャレンジしてみるべきなのかもしれない!!
帰宅して、ほくほく顔で乙女ゲームを買ったことを告げた私に「いや、新しいジャンルを開拓しろって意味で言ったんじゃないんだけど……」
妹は呆れ顔でつぶやいた。