王太子とお茶会4
最初のお茶会から3ヶ月経ったが、週に1度のアルフレッドとのお茶会は未だに続いている。
父によると、他の婚約者候補とのお茶会の様子は、情報が漏れないよう徹底されているらしく、誰が婚約者に選ばれるのに有利な状況なのか、全くわからないらしい。
父からは、アルフレッド殿下との関係は良好なのか?気に入られているのか?と度々聞かれるが、何と言っていいのかわからないので
「王太子殿下に気に入られるよう、精一杯振る舞っております」と笑顔で答えている。
だって本当に、何と言ったらいいのかわからない関係になっているのだから。
あの不眠改善の為の資料を渡してから、アルフレッドは会うたびに、私に相談を持ちかけるようになった。
内容は、比較的軽いものから、専門的な知識が必要なものまで様々だ。
不眠についてはたまたま前世の知識があったので詳しかったが、その他については専門家に聞いたほうが確実だ。
私は正直に、「王宮の専門家の方に相談したほうが良いのではないか?」と伝えているのだが、アルフレッドは頑なに私に調べて欲しいと頼む。
「ちょっと、王宮の者には相談しづらくてね……」
形のいい両眉を下げながら、悲しげな表情で言われると、断りづらい。
(私には言えない、何か事情があるのかもしれないし……)
結局私は断ることができず、しかし、やるからには中途半端なものを渡すわけにもいかず……。
守秘義務もあるので、誰かに手伝わせることもできない。
私は図書館に通ったり、専門家にアポを取り、直接会って話を聞いたりするという毎日を過ごしている。
(仲が悪いわけではないと思うけど……恋愛のような甘い雰囲気でもないと思う。恋愛経験ないけど)
◇◇◇◇◇◇
今日も私は、私が渡した資料を読んでいる、目の前のキラキラ王子様を見ながら紅茶を飲んでいる。
アルフレッドにはその後、不眠がどうなったかは聞いていない。
聞くことがプレッシャーになるかもしれないから。
ただ、出会った頃よりは少し隈が薄くなっている気がする。
(少しでも眠れているといいのだけど……)
アルフレッドのぱらぱらと資料を捲っていた長い指が止まり、じっとあるページを凝視している。
私はそれを無言で見つめる。
アルフレッドから資料を作るにあたって、必ずイラストを入れるように言われていた。
私は絵が苦手なので勘弁してほしいと、丁重にお断りしたのだが
「君の描いた絵は癖になるんだ」
と、褒めているのか、馬鹿にしているのか、よくわからない理由で毎回描かされている。
「今回の絵は……鳥?いや、これはヒヨコだね」
「羊です」
「……ふふっ、かわいい羊だね」
やっぱり馬鹿にされている気がする。
資料を読み終えると、アルフレッドは満足気に頷き、私に礼を伝える。
私は、気にしないように伝え、お茶会を再開する。
アルフレッドと2人きりで過ごす時間にもずいぶんと慣れた。
「ねえ、君は友人はいる?」
「友人は……残念ながらいないです」
よく話をする同年代といえば、シオンとアルフレッドくらいしかいない。
でもシオンは家族だし、アルフレッドはお見合い相手なので友人とは呼べない。
「私もいないんだ。一緒だね」
「そうなんですか?」
ものすごく意外だった。
「私は王太子だからね。自分で言うのもどうかと思うけど、この見た目と地位だけで人は集まる。だからこそ、あまり人を信用できないんだよ」
まあ、それはそうだろう。
このキラキラ王子様な見た目で、未来の国王陛下。
下心ありで寄ってくる人間は多いだろう。
だけど……
「大丈夫です」
「えっ?」
「大丈夫ですよ、殿下。あなたの見た目や地位だけでなく、あなた自身を見て、想ってくれる人が必ず現れます」
――そう、この乙女ゲームのヒロインが。
「今は殿下のおっしゃる通り、見た目や地位に惹かれて寄ってくる方ばかりかもしれません。しかし、これから私達は成長し、いろんな場所へ行き、たくさんの人達に出会うのです。いろんな価値観の方がいらっしゃいますよ」
「……」
「今は、殿下ご自身が人を見る目を養っている時期だと思えば良いのです。殿下は自分自身を客観的に見ることができているのですから、きっと大丈夫ですよ」
「……」
言い終えた私を、珍しく不機嫌な顔をしたアルフレッドが無言で見つめる。
(……失敗した)
私は乙女ゲームの設定を知っているから、アルフレッドがヒロインと出会うことを断言できる。
けれど、そんな事情を知らないアルフレッドにしたら、無責任な発言に聞こえたかもしれない……。
なんとかフォローしようとしたが、どうフォローして良いのかわからず……。
結局、気まずい空気のまま、お茶会はお開きとなった。




