王太子とお茶会1
やっと王太子の登場まで辿り着きました。
(ああ……、行きたくない。帰りたい)
王太子とのお茶会当日、私は王宮に向かう馬車の中にいる。
ミリーと侍女達の努力によって、美しく着飾った私は、緊張による胃痛と吐き気に苦しんでいた。
昨日のシオンの爆弾発言により、王太子との2人きりお茶会だったことが判明した。
(まあ、当日気付くよりはマシよね)
そんなことになったなら、頭が真っ白になって、礼儀作法すらままならない状況になっていたかもしれない。
昨夜はずっと今日のお茶会をどう乗り越えようか考えていた。
王太子の婚約者になりたくはないが、会話のない2人きりのお茶会も地獄だ。
なんとか当たり障りない会話をしつつ、平和にお見合い期間を終えて領地に帰りたい。
(12歳男子とどう会話するべきか……)
ベッドに座り、目を閉じて、自分の前世の記憶を呼び起こす。
小学校高学年の男子との会話…
(食いしん坊の山田君と隣の席になった時に、給食のデザートを『食べないなら、くれ!』と毎回強請られたな。あの時はデザート食べづらかったな)
なんの参考にもならないことしか覚えてない。
(前世であんまり男子と会話してなかったなぁ。今もだけど。あ、でもシオンとは喋れてる)
シオンはマウントが酷かった時も、落ち着いた今も、シオンから声をかけてくれる。
それに、話題もシオンから振ってくれるので、一緒に居ても苦にならない。
(私にもシオンのようなトークスキルがあれば……)
そういえば、社会人になってから、男性とちゃんと会話できるように『異性 会話』でよく検索をしていた。
ほとんど実践はできなかったが……。
(たしか、『相手の目を見て、相槌を打つ』とか書いてあったわね。あとは……ダメだ、思い出せない)
前世の記憶に、参考になりそうなものは何もなかった。
私は結局ノープランで当日を迎えた。
◇◇◇◇◇◇
王宮に到着し、馬車を降りた私は広い庭園に案内される。
緊張で心臓がバクバクと煩い。
美しい花々が咲き乱れる、その一角にガゼボがあり、そこに王子様が立っていた。
少し癖のある柔らかそうな金髪は、太陽の光を受け輝き、透き通ったブルーの瞳はまるで宝石のようだ。
まさに金髪碧眼のキラキラ王子様がそこにいた。
「よく来てくれたね。私はアルフレッド・レクサード。王宮へようこそ」
ニコッと人好きのする笑顔を浮かべる王太子。
白地に金の刺繍を施したジャケットが死ぬほど似合っている。
「お初にお目にかかります。イリス・バーンスタインと申します。本日はお招きいただき光栄です。ありがとうございます」
私もなんとか笑顔を作り、完璧なカーテシーを披露する。
カロル先生の人生は私が守る。
「バーンスタイン嬢は甘い物は好きかな?君の為にいろいろ用意したんだ」
喋りながら王太子はガゼボに歩き出す。
私は背筋を伸ばし、ラスボスに挑むような気持ちで、王太子の後に続いた。