義弟4
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侍医の薬が効いたのだろうか、翌朝にはシオンの熱は引き、その次の日にはすっかり元気になった。
「義姉さん、時間あるなら庭でお茶でもどう?ずっと邸宅の中で着せ替えばっかりじゃ気が滅入るだろ?」
「ありがとう。じゃあ気分転換にお茶にしようかな」
そして、あんなに煽りまくりのマウントだらけだった態度は鳴りを潜め、すっかり穏やかな義弟になってしまった。
(泣いてすっきりしたのかな?)
理由はよくわからないけど、私の心の中は平和だ。
そして呼び方は『義姉さん』で統一されたようだ。
姉として認めてもらえたようでちょっと嬉しい。
「明日はいよいよ王太子殿下とのお茶会だね」
「そうね。粗相のないようにしないと」
温かい紅茶をゆっくりと味わう。
「義姉さんなら大丈夫だと思うけど。それより殿下とどんな話をするつもりなの?」
「話? 王太子殿下と盛り上がる話題なんて持ってないわよ。挨拶だけきちんとしたらあとは他のご令嬢にお任せするつもりよ」
そう、それが王太子とのお茶会から逃げられない私が考えた苦肉の策。
とりあえず、カロル先生の為に礼儀作法だけはしっかりと見せつけて、あとは他のご令嬢の話題に笑顔でひたすらに相槌を打つ。
そうすれば、王太子にも他の婚約者候補にも失礼にはならずに、たいして印象も残すことはなく、婚約者選びからフェードアウトできるはず。
目立たなければいいのだ。よし、空気になろう。
「1対1でどうやって他のご令嬢にお任せするの?」
自分の立てた作戦を、心の中で自画自賛していた私に爆弾が落とされた。
「えっ?」
「えっ?……もしかして義姉さん、知らなかったの?」
「だ、だって、お茶会って」
「うん。王太子殿下と1対1のお茶会」
声が震える。
「そんな、1対1って、お茶会じゃなくてお見合いじゃない!」
「王太子殿下の婚約者を選ぶんだから、お見合いだよ」
「そうだけど、他の婚約者候補の方もいるって聞いたから!」
『お茶会』『他の婚約者候補』のワードで、てっきり皆で集まって開催されるものだと思い込んでしまっていた。
シオンの説明によると、他の婚約者候補も皆、1対1で王太子とお茶会をする。
それを何度か繰り返し、最終的に王太子が気に入った相手を婚約者として選ぶそうだ。
婚約者候補はイリスも含めて5人。
お茶会は1日に1回のみ。
平等になるように、その5人を月曜〜金曜に割り当てて、5人それぞれが週に一度は必ずお茶会が開かれるようにする。
イリスは明日がお茶会なので、金曜日担当らしい。
「どうしよう、どうしよう!なんで誰も教えてくれなかったの!?」
「まあ、婚約者を選ぶお茶会っていう時点で、当たり前に1対1だと皆思うだろうからね」
パニックになる私に、シオンは憐れむような視線を向けてくる。
自慢じゃないけれど、私は自分から話をするのがあまり得意ではない。
それが異性ならなおさらだ。
1対1の逃げ場がない場所で何を話せというのだ。
(待って、異性って言ってもまだ子供じゃない!)
王太子はたしかイリスの2歳上だ。
「よし、12歳なんてまだ子供だ。男の子だ」
私はぶつぶつと自分で自分に言い聞かせる。
そんな私を、ゆっくりと紅茶を飲みながら、愉しげにシオンが眺めていた。




