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義弟2

(うーん、モヤモヤする)


私は今、着せ替え人形になっている。

王太子とのお茶会に向けての打ち合わせ、どのドレスを着るのか?アクセサリーの組み合わせは?髪型は?

周りでミリーと邸宅の侍女達が、「あれが良い、やっぱりこっちのほうが……」とあれこれ意見を出し合っている。


最初は私に、どのようなドレスが着たいか意見を聞かれたけれど、「皆にお任せするわ」と答えたら、なぜか邸宅の侍女達は驚いている様子だった。

だって無理なものは無理だよ。

前世でもファッションには疎く、センスもなかったのだから。

そんな私が選ぶより、プロである侍女達に任せたほうが確実だ。

その代わりに、私は邪魔にならないように黙って着せ替え人形に徹している。



王都に到着した日の夜に、邸宅の執務室でイリスの父と対面した。

カロル先生の株を上げようと、完璧な所作で挨拶をした私を見た父は


「礼儀作法はなんとか習得したようだな」


そして、ジロジロと私の顔を見てから


「見た目には傷が付かなくて良かった。王太子殿下との茶会ではきちんと役目を果たすように」


とだけ言って、私は執務室から出された。


これが記憶喪失の、久しぶりに会った娘にかける言葉なのか……。

なんというか、自分の為の道具とか、駒のようにイリスを扱っているのがよくわかる。

思ってた通りの残念な父親だった。


たしかにこんな父親にもモヤモヤしたけど、一番の問題は義弟のシオンだ。

挨拶の時は普通だったのに、あれから会うたびに、なんというか、微妙な発言が目立つ。


「あっ、イリス!もうドレス選びは終わったの?」


部屋から出た私に、待ってましたと云わんばかりにシオンが寄ってくる。


「うん、今日のところはね。明日は髪型を何通りか試すんだって」

「へぇ、大変だね。外見ばかり着飾っても意味ないと思うけどね」

「……うん、そうなんだけどね。殿下に失礼があったら困るから」

「それなら義姉さん……ああ、ごめん。イリスの態度のほうが殿下の失礼にあたらないか心配だよ」

「……うん、そうだね。気を付けるね」


見た目天使が、ものすごく煽ってくる。


この邸宅で会うたびにずっとこんな調子だ。

あとは、「お義父様に遠乗りに連れて行ってもらったんだよ。イリスはある?」とか、「僕の魔法操作の成績を見たお義父様に凄く褒められてね。イリスは?えっ?まだ魔法操作の授業受けてないの?」

等など。

お義父様エピソードに魔力自慢を絡めたマウント発言も目立つ。


(前のイリスとは仲悪かったのかな?イリスが嫌いならわざわざ絡みに来なくてもいいのに……)


何をしたいのかがよくわからない。


「義姉さん……あっ、ごめんね。イリス。」


これも多い。


「義姉さん」と言った後に「イリス」と言い直す。

最初は言い間違いかな?と思ったがあまりに頻度が多い。


(なんかわざとっぽいんだよね……)


「ねえ、前から気になってたんだけど、前は私のこと『義姉さん』って呼んでたの?」

「……ううん。僕が『義姉さん』って呼んだら、君は『あなたに義姉さんなんて呼ばれたくない!』ってひどく怒ったんだよ」

「そうなの?」

「うん。初対面なのにすごい怒られたんだよ」


シオンは少し俯いている。


(やっぱり仲悪かったのか……)


「あの、覚えてないけど、そんなことで怒っちゃってごめんね。今はもう『義姉さん』って呼んでも怒ったりしないから」

「……そっか」


やっぱり納得してないような顔をしているシオンに、私はどうしたものかと内心ため息をつく。



その日の夜、ミリーからシオンが熱を出したと聞かされた。


「シオンは大丈夫なの?」

「はい。侍医に診てもらい、軽い風邪のようなので薬を飲んで安静にするようにとのことです」

「そう、ちょっと心配ね。明日お見舞いに行こうかな」

「いけません。お嬢様はもうすぐ王太子殿下に会われる身ですので。旦那様からは、うつらないように、シオン様には近づかないようにと」

「そうなの?じゃあミリー、代わりにシオンの様子見てきてくれる?」

「申し訳ございません。私を含め、使用人もシオン様に近づかないようにと……。使用人から広まって、お嬢様にうつらないとも限りませんので」

「は?じゃあ誰が今シオンの側にいるの?」

「今はお1人で部屋で安静にされております。薬は侍医が飲ませたそうなので大丈夫ですよ」


いや、薬飲んでも子供が熱出てる時は誰かが看病するもんじゃないの?

そして、シオンが看病されない理由がイリスに感染させないため、ということに罪悪感を感じる。



(眠れない……)


シオンが気になって眠れない。

熱出した子供を放って置いて大丈夫なんだろうか?


(吐いたりしてないかな?)


ベッドで1人悶々と考える……。


よしっ!と、ベッドから起きた私は、引き出しから大判のスカーフを取り出すと、それを口元を覆うようにして頭の後ろで結んでマスク代わりにする。

音をたてないようにそっと部屋から出て、シオンの部屋に向かった。

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