階段で転んだ拍子に前世の記憶を取り戻しました。
数ある作品から選んでいただきありがとうございます。
3話からが物語補正が切れ、ヴァレンタインに対する恨みが原因でさまざまな事件が起こっていきますので、よろしくお願いします。
最初2話は、楽しい楽しい転生生活です。
ドドドドドドド!
私はたった今、階段を滑り落ちているところだった。
その時、死を悟ったのか、走馬灯が流れた。
小さな箱の中に、私の住んでいる家や、学園、さまざまな人たちとの記憶が写った。これって……?
「お嬢様!! 大丈夫ですか!? 今すぐ医者を呼びましょう」
!? 何このイケメン!! 顔を見た瞬間、さまざまな情報が頭に流れ込んできた。
そして気づいた。走馬灯で流れた景色の正体が。
この記憶、前世の私のじゃん!!
イケメンに抱えられ、私は寝室のベットに来ていた。まるで西洋のお姫様のような煌びやかな部屋だ。天井には巨大なシャンデリア。
完全に一致している。この世界は、私が前世でやっていたゲーム中だ。
そして、私の隣で心配そうに見つめているこのイケメン。
名前はレオパルド第3王子。私が最も作中で嫌いだった悪役令嬢『ウォレット・ヴァレンタイン』の夫だ。
ヴァレンタインには、殺意を抱くほど邪魔をされた。
運営元に苦情のメールを入れたほどだ。
何度も何度もこいつに邪魔をされないように、試行錯誤し、その後ようやくトゥルーエンド。
かと思いきや、エンディング後のストーリーで、なんとなんとあの性格くそったれのヴァレンタインに、求婚した男がいたらしいのだ。
それがこいつ。私を心配そうに見つめているイケメン、レオパルドだ。
「大丈夫ですわ……お尻を打っただけなので」
「大丈夫じゃありません! 安静にしてください」
この男はストーリーに直接関与してくることはなかった。
学園主催のパーティーで一度会ったくらいだ。
その時も別に話をするわけでもなく、軽く挨拶したくらい。
やたら無口でクールな、近寄り難い男って感じだったのに……
「お嬢様……」
飼い主の心配をする犬だ。
こんないい男がなんで『ヴァレンタイン』なんかに……
しかも、アプローチしたのはレオパルドだというのだ。マジで納得いかん。
……………? そんな人間が、犬?
「ちょっと待って、あんたもしかして……私のこと好きなの?」
「何を今更おっしゃいますか、あなたのことを口説き落としたのはこの私、レオパルドですよ。あなたより大切なものなど、この世に存在しません」
や、やだぁ。キュンとしちゃった……私のおててにキスなんかしちゃってさ……じゃない!!
私は布団を蹴り飛ばし、近くにあった姿見の前に走った。
「バサバサまつ毛……ルビー色の瞳……真っ白な肌……絹のような銀色の髪の毛………」
間違いない。性格最悪のくせに、なぜか作中で最も可愛い設定だったあの……
「ヴァレンタインだ……」
「お嬢様、ベットに戻りますよ」
「え……え……」
もしかして私………ウォレット・ヴァレンタインに転生しちゃったの……??