プロローグ
「俺は他人が嫌いなんだ。」
俺は、目の前の名前も知らない女子に冷酷な視線を向けながらそう言うと、その子は泣きながら走り去って行った。
彼女は一般的に見て可愛い部類の女の子だとは思う。今までにも異性から告白されることは何度かあったが、交際するなんて一度も考えたことがなかったためすべて断っていた。
そもそもまともに話したこともない人間を何故好きになるのか、他人に好意を抱いたことのない俺としては理解のしようがなかった。
とりあえず用も済んだため帰路に着こうと歩き出すと今度は別の女子が前に立ちはだかった。
「どうして、唯ちゃんをあんなに酷い振り方をしたの、唯ちゃんはあんなに勇気を振り絞って凩君に告白したのに!」
と彼女は怒気を孕んだ声で俺に告げた。
一瞬、”唯ちゃん”が誰を指しているのか分からなかったが、先程の出来事を思い出し俺に告白してきた女子の名前が唯であることを初めて知った。
「どうしても何も、知りもしない女子と交際する奴がいるのか?」
「・・・っ、振るにしてももっと言い方ってものがあるでしょ!」
「簡潔に事実を述べただけなんだがな・・・」
そう告げると、目の前の彼女はこちらを強く睨んで来たがそれ以上言葉を発することはなかった。
最も、俺としても先程の言葉だけだと酷いことを言ってしまった自覚はあった。次に紡ごうとする言葉が出てくる前に彼女が走り去ってしまっただけであって、はっきりと断りの言葉を言うつもりではあったのだ。
だが、それを目の前に彼女に言う義理はない。そう思い、特に何も言葉を発しない彼女は無視して今度こそ帰路に着いた。
帰宅し、日課になっている両親の遺影に手を合わせる。
両親は俺が小学6年生の頃に亡くなった。
その後、親戚に引き取られることになったのだが、やはり親戚と言えども他人の子は他人ということで厄介者として扱われていた。当然のように、家事は一通り俺が行うことになっていたし、謂れもないことが原因で罵られることも日常だった。
そんな状況に身を置いていたら人間不信になってしまうのも自然の摂理だろう。
しかし、不幸ばかりではなかったのは幸いだろうか。てっきりこのまま家政夫みたいなことを強制され続けるのかと思っていたが高校入学のタイミングで手切れ金と言わんばかりに両親が亡くなった際の保険金の残りと共に追い出され、一人暮らしをすることになったのだ。
そのような少し変わった理由で現在一人暮らしをしている高校2年生の俺こと凩春人だが、
なんだかんだで親戚の家では一通り家事をしていたこともあり、特に生活には苦労していなかった。人間不信が原因で、絶望的なまでに人付き合いが苦手なこと以外は。
まぁ、それも自分としては諦念を抱いていたのだが。
だが、俺としては今思うと両親がとても出来た人間だったおかげなのか、曲がったことが嫌いな人間になっていた。
そのせいで今日告白を断った女子に対し、言葉足らずで酷い断り方になってしまったことをとても申し訳なく感じているのだが。
そのため、明日唯さんという人を探してきちんと謝罪することを心に決め今日は早めに就寝するのだった。