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第3話 ディスタービングサイン

 


「で、お互いの了承が取れたところで。2人には鉄の檻(コイツ)をどうにかする案があるのかな?」


 古ぼけてはいるが、まだまだ頑丈そうな鉄格子をコツンとグーで叩いてみせる俺。


 するとハドリーがデューへと顔を向けて一言。


「デュー」

「おっしゃ! 任せろ!」

「声、お静かにね……」


 密航者の自覚があるのか心配してしまうデューをよそに、彼は俺を閉じ込めている檻の鉄格子を両手で一本ずつ掴んだ。


「ぐっ………ぬぬぅ……っ!!」

「いやいや、そりゃ無理………だろ?」

「ぐぬぬぬっ! むっぐぅうう!!」


 鉄格子を掴む腕にみるみると血管が浮き出てくる。

 そして荒々しい笑みを浮かべながら、ペロリと自分の口の端を舐めたあとデューが吠えた。


「るぁぁあああっ!!」

「うっ…………そぉぉん?」


 耳障りの悪い音を立てながら、グニャリと歪んだ2本の鉄棒。

 体を斜めにした半身の姿勢なら十分に通れる隙間がそこには出来ていた。


「どんなっ……ハァ、ハァ……もんだい!」

「あ、ありがとう………デューがトモダチで良かったよ、ほんと」


 絶対に怒らせちゃいけないタイプですけど。


 得意げにニッシッシッと笑っている新しい友人(デュー)との距離感に迷いつつも、俺は格子の隙間から体を這い出すことに成功した。


 さて、ひとまず身動きが出来るようにはなったが。

 ここからどうするべきか?


「では、行きましょうか。デューは船員の方々に見つからないように先導をお願いします」

「っけーい!」


 当然のように話を進めていくハドリーとデュー。しかし俺はもっと詳しい説明なり段取りを確認したいため、慌てて2人を押しとどめた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 行きましょうって? どこに?」

「船からの脱出なんですから、海に決まってるでしょう?」

「マジすか……」

「マジですよ。実はもう陸が見えるところにはいるのです。悠長にしていて港町に近づき過ぎると、むしろ人目にも付きやすくなるため急いでるのです」


 なんで陸に近いなんて知って…………いや逆か。


 自分たちはいつでも脱出できるタイミングを見計らってから、俺に話しを持ちかけたってことか。そりゃ俺が2人を密告しないとも限らないんだから当然というか案外賢いというか。


「ち、ちなみに陸までの距離はどれくらい?」

「おおよそ四半里(1km弱)といったところです。もしかして泳ぎは苦手ですか?」


 泳ぎも体力もプールでなら自信が無いわけじゃないけど。

 海でもなんとかなるものなのか?


 いやまてよ。

 むしろ水に浸かってグッショリ濡れた美少女ハドリーが前を泳いでると考えると、短すぎるくらいの距離じゃなかろうか。


「ふっ…ふふふっ、スポーツマン舐めるなって。急な展開だったからちょっとびっくりしただけだよ」

「スポーツマン……は何か分からないですが問題はないようですね。それに、行き当たりばったりにロマンを感じるゴリョウにはお誂え向き(おあつらえむき)な展開でしょう?」

「はは……理解が早くて助かるよ」


 俺の扱い方の理解がね。。



 ……なんて事を思ったその時。




 ドゥウウウーー………ッンン……!!!




「な、なんだ!?」


 頭上すなわち船の甲板方面から、まるで砲弾でも喰らったような轟音と振動がこの部屋を襲った。



 ーーッ!!ーーーッ!!ーーーッ!!!



 さらには慌ただしく動き回る船員の足音や叫び声。


 俺はこの突然の物々しい雰囲気に戸惑いを隠せず、意味もなくキョロキョロと天井のあたりへ視線を這わす。


「いったい何が……?」


 木造物が軋むような音や、パラパラと埃や木屑が天井から降ってくるせいで、いやがおうにも本能的な恐怖が湧きおこる。


「デュー!」


 ハドリーの声はすでに扉の外へ向けて走り出していたデューには届かない。


「あ…………行っちまった、けど」

「どうやら何かしらの由々しい事態が起きたようですね」


 真剣な表情ではあるが、こんな状況になっても落ち着いて見えるハドリー。凍えるようなその美しさも相まってか、不意に少女が非人間的な存在に思えてゾクリと背筋が震える。


 そんな俺の様子に気づいているのかいないのか。


「私たちもデューを追いましょう」


 そう言った彼女はこちらの返事も待たず、デューが飛び出して行った扉へ向けて歩き出す。


「…………」


 まったく頭がついていけない状況。

 ただ心臓は痛いぐらいに早く脈打っている。


 由々しい事態なんてのは、俺にとってはこの船で気づいた瞬間からすでにそうだったはずだ。

 それがさらに重なって。


「くっそ! マジでなにが起きてんだよ! これ、ドッキリだったら絶対にソイツのこと追い詰めたるからな!! 精神的なアレの慰謝料みたいな感じで!!」


 悪態を吐きながら俺は、デューとハドリーが消えた扉へと足を向けるのであった。


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