何かプロローグと違うような気がする
今日も車輪を回す。それは慣れた一日の始まりだった。キーコキーコと軋む自転車が、長らく続く私との仲を表しているようだ。足は無意識に動く。右足、左足とペダルを踏みしめていく。橋を渡り、坂を登り、そして学校へと私を運んでいく。
駐輪場に着く頃には汗が噴き出ていた。朝は比較的涼しいが、されど夏である。額の汗をタオルで拭う。べったりと肌に張り付く制服をペリペリと剥がす。まだ、現時間が今日の始まりであると自覚すると鬱屈としてしまう。
空を見上げると今日の一日の暑さを確約するような太陽が上がり始めていた。
重たい鞄が暑さと相乗効果を生み出し、より歩き難くしてくる。教室へと歩く廊下。私より早く登校していた人たちが立ち話などで盛り上がっている。今、話題のアイドルで話に花が咲いているようだ。それを尻目に私は歩く。
教室に着く。肩にかかる嫌になるほど重い鞄をどっさりと机に置いた。肩には、まだ掛けていた紐の感覚が残っている。その不快な感触を取り除くように、肩を回す。ゆっくりと大きく。時間割を見ずに、全ての教科書を鞄に詰め込んで家を出た自分の所為である。
教室のエアコンの電源はつけられていなかった。再度、タオルで汗を拭う。お茶をガバガバと飲み込む。そのお茶が、すぐに体から噴き出しているように感じる。地球温暖化現象は深刻だなぁと世界規模の心配をしてみる。
「おはよ」
隣から聞こえた。
素っ気ないその声に彼女も暑さにやられているなと思った。ぱたぱたと下敷きで仰ぐ彼女。風の恩恵がこちらにも届く。
「おはよう」
風に吹かれながら、答えた。