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女友達  作者: 早川由香
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沙希の章

読んでくださると嬉しいです。感想もお待ちしております。

<沙希の章>



 部活のテニスを終え、疲れた体を引きずって家に急ぐ。大学の部活とはいえ、練習はハードで、上下関係も厳しいが体を動かすのは嫌いではないし同級生も多いので楽しかった。ジャージにビーチサンダル、テニスバックのまま電車に揺られること2時間。家に付く頃には外はすっかり暗くなっていた。

「ただいま〜。」

「お帰り。御飯できてるよ。」

テレビを点ける。この時間は確か音楽番組があったはず。御飯を食べながらテレビから流れる流行のポップスに耳を傾ける。大学生になっても最新の音楽情報を入手する癖は抜けずチェックしてしまう。カラオケで最新曲を歌えるのは沙希くらいのものだ。そういえば、大学生になると皆どうして最新曲を追い求めなくなるのだろう、と沙希は不思議に思う。高校生の頃は乗り遅れないように競うようにして最新曲を覚えていたのに。

 風呂に入って、毎週欠かさず見ているドラマを見て早めに寝る。大学の授業の後はクラブやバイトがほぼ毎日入る。7時まで予定が入るとさすがに疲れる。大学生にしては珍しく11時には布団に入る。



「おはよ〜。」

「今日も講義、長いからしんどいね。」と、奈津子。

「途中で抜けてケーキでも食べに行こうよ!」 と、美紀。

「行く行く〜。」 と、奈津子。

沙希の左隣でアイラインを真剣に引いている女の子が奈津子、右隣の眠たそうにしている女の子が美紀。沙希、奈津子、美紀、大学にいる間ほぼこの三人は一緒にいる。講義を横一列に並んで受け、昼食を一緒に食べ、ダラダラお喋りをする。三人一組のグループだ。三人共、マイペースのためグループというほど結束力は固くないが。


二限目が始まって10分後、座っているのに飽きたのか奈津子が、

「出席取ったし抜けない?」

小声でさぼりの計画を立てる。

「ノート取るからこの時間は止めとく。ノート取っとくから二人で行って来てくれていいよ。」と、沙希。

「そんなの悪いよ。私もノート取るから一限はやめとく。」と、美紀。

気を遣ってくれてるのかな。

「そっか〜。じゃあ暇だし散歩でも行ってくる。」

微笑みながら奈津子が教室をさりげなく出る。

「ノート、面倒だね。プリントで欲しいよ。」と、美紀の愚痴がぼそっと聞こえる。

「三限目はプリントくれる先生だよ。」

「マジ?ラッキー。じゃ私もお茶でもしに行こうかな。」

「いいね、プリントもらって抜けよっか。」

プリント貰えるなら、まあいいっか。真面目すぎて付き合いが悪いと思われたくないし。沙希のノートはテスト前、二人に重宝される。他にすることもないので授業に出てノートを取ることくらい苦痛でも何でもない。しかし、沙希だけに授業を受けさせることを美紀は気にしているらしく教室で美紀もノートを取ったりウトウトしたり本を読んでいる。奈津子はお構いなしに出て行くが。


そういう訳で、三限を抜けることにして長い昼休みにした。大学は午前中三限、午後三限の六限までである。大体、午前中は教室で講義、午後は実験や実習が多い。

「昨日のドラマ見た?」 と沙希。

「ううん、連ドラ毎週見るの面倒だし。」

「それそれ。毎週欠かさず見るのしんどいよね〜。最近ずっとニュース見てるかも。」

「うん、ニュースだね。テレビ付けても即、ニュースに変える感じ。」

と、奈津子と美紀。ニュースに興味の無い沙希は政治や経済の話になると付いていけなくなる。

「二人共、偉いね。ニュース見ないなあ。それより聞いて!○○が超かっこいいの!」

と、沙希がドラマの内容を面白おかしく語りだす。二人は沙希の話に耳を傾ける。沙希は話し上手で、興味のないドラマの内容でも聞いていて飽きない。1時間もあるドラマを沙希は5分で面白くまとめてくれるのでテレビを見るよりも沙希から話を聞くことの方が二人は気に入っている。

奈津子と美紀の芸能情報は主に沙希からと言っても過言ではない。ドラマだけでなく新人や新曲等の芸能情報についての知識はまず沙希から入手する。


「そういえば、皆、大学院行くの?」

研究者に憧れる沙希は大学院に行く予定だ。将来は大学に残って研究を続けて生きたい。

「行かないかな。研究したいテーマとかないし。」と、奈津子。

「製薬会社にでも就職して働こうかな。」と、続ける。

 授業態度は不真面目極まりないが実習や実験は奈津子は得意だった。もともと器用なので失敗もなくソツなくこなし、とっととノルマを終わらせ誰よりも先に帰っていく。将来は男に貢がせながらキャリアウーマンとしてバリバリ働く様子が目に浮かぶ。まさしく『デキル女』である。他人に合わせることない我が道を行く姿勢は誤解されやすいが格好いい。ただ、化粧はもう少し薄めでもいいのではないだろうか。

「美紀ちゃんは?」

「私?!誰に聞いてるの?!行くわけないじゃん!早くこんなトコ、さよならして結婚して専業主婦として生きていくの!ていうか、何で薬学部になんか来ちゃったのか自分でも謎。文型タイプなのに〜。」

美紀がつまらなさそうに言う。もともと不器用な彼女は実験でも失敗を繰り返し、この薬学部にとっくに愛想を尽かしている。不器用な彼女が実習中、有り得ない大失敗をして不貞腐れている姿は有名だ。もともと、おっとりしている彼女に実験、実習ばかりの薬学部は似つかわしくないように沙希は思う。彼女はとっくに薬学部に背を向け、もっぱらピアノや料理、華道等の花嫁修業に精を出している。その情熱を少し大学にも注げばいいのに。今付き合っている彼氏とおそらく結婚するのであろう。大学に入るとすぐに同級生の彼氏をちゃっかりゲットして羨ましい限りだ。


「そういえば、なっちゃんは結婚しないの?今の彼と長くない?」

と、美紀。奈津子には一回り、いや二回りだろうか年上の彼氏がいる。彼女から詳しいことを聞いたことがないのではっきりしたことは分からないが、どこかの会社の社長でお小遣いも貰っているらしい。新作が出るたびに彼女のバッグが変わることが何よりの証拠であろう。羨ましいというより、すごい。「パパ」と呼ばれる存在がいることは噂で聞いていたがまさか自分の身近な友達に「パパ」がいるとは思っていなかった。沙希には絶対に真似できない。以前、奈津子が水商売をしている時期があったがその時のお客さんかな、と推測するが本人に確かめられずにいる。

「別に結婚してもいいけど・・・。働く方が楽しいかも。あ〜あ。本気の恋は中高で終わりだったなあ。」

と、ため息をつきながら奈津子。

「沙希は大学院に行くの?」

「うん、行くつもり。」

と、沙希。

「あ〜分かる!沙希、真面目だもんね。研究とか得意そう!」

「うんうん、似合ってる!将来は女教授?!」

と、二人。


「そういば沙希は今いい人いないの?前、紹介してもらったとか言ってなかった?」

来た!恋話! 美紀が投げ込んだ恋話に身構える。

「実はまだ会ってないんだよね。メールしかしてないよ。」

「え〜何で!」

「会わなきゃ分からないじゃん!」

二人から同時に非難の声が…。

「メールの絵文字が何か腹立って…。」と、沙希。

「えっ!絵文字?!何それ?!絵文字とかただの記号じゃん!」

「絵文字とか気にしたことないよ!」

「ていうか腹立つ絵文字とかあったっけ?!」

「絵文字を言い訳にするかな。無理があるよ」

またまた二人から呆れた声と笑い声が。

「本当は会うつもりないんでしょ!恥ずかしいとか?」

と、美紀。

「そんなことはないけど…。会ってもいいけど…。クラブとか忙しいし…。好みじゃないかもしれないし…。」

小声でもじもじ答える。

「どんな人がいいの?」

と、聞かれて少し考える。

できたらスポーツ万能で、真面目で男友達が多く、顔も並以上そんな期待を抱く。そんな人いる訳もないし、いても振り向いてくれるとは思わないが。

「アイドルみたいな人、現実にはいないんだからね!」

沙希の考えを覗いていたかのように奈津子から厳しいお言葉が。

クラブも楽しいし、友達も多く大学生活は充実している。敢えて今の生活に彼氏が必要とは思わない。彼氏がいないとやっていけない!という美紀の気持ちは未だに理解不可能である。

「頑張ります…。」

小声で答えこの場を濁す。

「そういえば、見たよ!昨日ジャージとビーサンで帰ってなかった?女失格だよ〜。」

と、美紀。

「えっ、それで電車乗ったの?有り得ないよ〜。それが許されるのは高校生までだよ。」

呆れながら奈津子。

「花の女子大生が何やってんだか。」

ククっと美紀に笑われる。

「面倒くさいし、お洒落ジャージとビーサンだったから…。」

全く余計なお世話だ。普段からお洒落な二人には有り得ないだろうな、と思いながら小声で言い訳する。奈津子は出来る女スタイル、美紀はお嬢様スタイルと、毎日気合が入っている。それに比べて沙希はといえばジーンズ、ジャージの毎日…。だから彼氏ができないのだろうか。このまま一生、彼氏ができなかったらどうしよう、そんな辛い想像が頭によぎる。でも、告白も二回くらいされたことあるし大丈夫よね、と自分を励ます。とりあえずジャージ下校を自重しようかな…。

「沙希、面白いし、話しやすいし沙希さえ受け入れ態勢だったらすぐ彼氏できると思うけどなあ。」

「うん、もったいないよ。沙希いい子だし。一緒にいると楽しいし。」

「もう少し色気があればね〜。」

二人からフォロー(?)が入る。

「大学院で新しい出会いもあると思うしそれに期待だね!」

と奈津子が締める。


二人共、結構毒舌だが三人でいると笑い話になるので楽しい時間になる。

 

沙希は三人の中で自分が一番大学生として正しい生活を送っているように感じる。授業もさぼったことがなく成績も常にトップクラスの沙希から見ると、二人はクラブもしていないし、授業態度も真面目とは言えない。奈津子に至っては隙あらば、さぼろうとするし美紀は美紀で薬学部にそっぽを向いている。いわば不真面目代表のようなものだ。もっとも二人共、要領はいいので成績は平均よりも上なのだが。

二人はクラブもせず、授業が終わると同級生と馴れ合うこともなくさっさと帰ってしまうので同級生との交流は深くなく、やる気のない二人は異質な者とみなされている。反対に沙希はクラブの仲間と青春の汗を流し、放課後も残って勉強することも多いので自然と他の同級生と話す機会も多くなり交友関係は広い。周りに愛想を振りまくこともなく積極的には交わろうとしない姿勢は潔いが沙希にとってはさっぱりし過ぎているようにも感じる。

しかし、模範的大学生である沙希と共通する点がほとんどなく個性的な二人だが意外にもウマが合う。毒舌と言っても言い過ぎることはなく、三人共争いを避ける性格のためだろうか意見をぶつけ合うこともない。高校生の頃と違って自分とは異なる相手を認めることができるようになった。

変わった友人ができたなと思いつつ、三人でのたわいも無い生活が沙希は気に入っている。



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