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ゲームの住人

攻略対象とか最悪なんだけど!!

作者: どんぐり


前作『わたくし、悪役令嬢なのですけど!?』を先にお読み頂くとわかりやすいと思います。




「おっ。可愛い子ちゃんがいる~と思ったら、セシリアちゃんじゃん。

やっほ~」


今日も今日とて、俺は彼女に声をかける。

にこやかに、キザで寒いセリフを言いながら、ウィンクも決めてやる。


「…………えっと、誰でしたっけ?」


だが、彼女……セシリア嬢はいつも他人行儀に返してくる。

もしかしたら、本気で興味が無くて覚えられてないからかも知れないけど……さすがに悲し過ぎるから嫌かも。


「やだなあ。いい加減覚えてよ。

セスだよセス。

あっ、もしかしてセシリアちゃんってツンデレ?」


「まさか。

ツンデレ属性は好きですが、私は好きな人に好きってちゃんと愛情表現をしていますよ。

はあ……今日もエリザベス様はお美しい……椅子になりたいいいぃ………」


……そう。俺がいつも通りに彼女を見かけて声をかけたように、彼女はいつもエリザベス嬢に執心だ。

嬢……つまり、正真正銘の女の子に。


実は、この子は同性でありながら、エリザベス嬢が大好きなのだ。


ま、俺は別に人のセクシャルとか否定したりしないし、良いと思うよ。うん。

椅子になりたいは本気で意味わかんないけどさ?



でも、良かった良かった!



…………“今回”は、平穏に終われそう♪



そう、内心で笑みを浮かべた。






俺の名前はセス。

少し癖毛な茶髪を持って、タレ目で、目の下にチャームポイントのホクロがあって、それなりに背も高くて痩せていて、つまりイケメンだ。


あっ、これ事実なんで僻まないでね?


で、それなりにモテて、可愛い女の子が好きな俺なわけだけど、困ったことに、嫌な使命……ってか、役職?を授かってしまった。


さて、俺の悲しい運命とか果たして何なのか。



……ズバリ、ゲームの住人。

乙女ゲームの攻略対象である。


子供の頃、唐突に熱を出して寝込んだ時に見た夢。

その夢の中で、神様っぽい人が俺に言ったんだ。


君は攻略対象だから頑張ってヒロインである……セシリア穣へのアプローチ頑張ってね、的なことを。


俺は女の子嫌いじゃないし、どうせ夢だと思ってたし、子供だからよくわかんなかったしで、わかった~と呑気に答えてしまったのだ。



これが人生で一番の失敗だった……俺のバカ!!

てか、全部神様っぽいヤツのせいだけどな!! クソが!!

ご丁寧にマニュアル『これで君もプロフェッショナルな攻略対象☆ ~各ルートですべき行動~』とか見せやがって……っ!!



……あ、ごほん。見苦しいとこを見せちゃったね。

君、良い子だろ? 忘れてくれよな!




……で、話がそれたけど、つまり、俺はセシリア嬢に好意を抱かれるように行動しなきゃいけないわけだ。

彼女を好きだろうが嫌いだろうが、俺の意志に関係無く。

決められた属性……俺の場合はチャラ男なんだけど、その属性を演じながら。


いやまあ、女の子は好きだけどさ。

普通に、一般人の感覚で好きってだけなんだけど?

俺別にところ構わず知らない女の子に声かけるのとか、普通にめんどくさくて嫌なんだけど!?


でもゲームの強制力ってやつって演じなかったら体調不良とかになるから仕方なくでもやるしか無いんだよなこれが!!

畜生っ!!


……あーマジで怠い怠い。


だが手慣れたもんだ。

ゲームがクリアされた瞬間、何度も何度もループして最初に戻るこの世界で、ずっと長い間チャラ男を演じてきたのだから。

慣れるし、諦めもつくし、今となってはウィンクも完璧である。頑張ったよ俺。


ちょっと、何その特技って言わないでくださーい。

なんなら俺が聞きたいでーす!



……で、一番嫌なのがヒロインが俺のルートを選択した時に働く強制力。

簡単に言うと、だんだん意識が朦朧としてきて、口が勝手に愛の言葉を囁いたりする。

だって、俺は乙女ゲームの攻略対象で、ヒロインに選ばれたら望まれた通りに動かなきゃいけない。

そのため、ヒロインにとって必要のない、“本来の俺の意志”は薄れるようになってるんだと思う。


人権どこいったって話だけどね。


理由はわかるけど、納得はしてない。

そんな風に、自分が自分じゃなくなるような感覚は、嫌いなんだ。気持ち悪い。吐き気がする。



だから、今回は素直に嬉しかった。

だって───



「あの様子じゃあ、ヒロインはエリザベスに夢中っぽいし、俺自由の身じゃん!

マジ嬉しいんだけど!!」


「あー、うん……嬉しいのはわかったけど、もう少し声を小さくしなよ。

誰が聞いてるかわかんないし」


「何だよ~乗ってくれよお~仲間だろ~?

本当はお前も嬉しいんだろ~?

あ、なんなら祝福のハグでもする?」


「あははー。死んでも嫌。生理的に無理」


「うわっ! 言葉きっつ!!

いくらなんでもひどいと思いまーす!」


……ちなみに、今俺は生徒会室でとある人物と昼食を食べている。

とある人物というのは、俺と同じ攻略対象のクレイだ。


偶然、お互いが攻略対象であることを知り、こうして愚痴や雑談、報告などをしている。

結構頼りになるヤツだ。

誰にも言えなかったことを言える相手がいるだけで、心が少し楽になるしな。


「はあ……今日の君、いつもにましてテンションおかしいけど大丈夫?

頭は大丈夫じゃ無さそうだけど」


「……さすが腹黒属性。

さりげなく罵倒を挟むのすごいと思う」


「その腹黒属性って言い方やめて。好きじゃ無いんだ。

だいたい、勝手に決められた役目にいつまで縛られなきゃいけないんだか。

そろそろ死にたいのに」


「物騒なことを言うなあ……まあ、わかるけどさ。

いい加減にしてほしいよな」


「全くね。

……で、本当なの? ヒロインがエリザベス嬢にご執心っていうのは」


「マジだよマジ。

今日も『エリザベス様……美しい、椅子になりたいぃ……』って頬赤らめながら見つめてたし」


「…………」


「あれは恋する女の子の顔だった! 間違いない!」


「間違いであった方が良いような気がするし、色々ツッコミたいんだけど……とりあえず椅子になりたいって何」


「俺が聞きたい♪」


「…………」


「そうそう……後は、尊い!とか神!とかきゃあきゃあ騒いでたりするよ」


「……へぇ、そう。

なんかすごい子だね……今回のヒロインは」


クレイは頬ずえをしたまま、遠い目をした。


気持ちはわかる。意味わかんないよね、うん。


「でも、エリザベス嬢って悪役令嬢じゃなかったっけ?」


ふと思いあたったように、クレイはそんなことを口にした。


「そう……だと思うけど。

優しいくせにヒロイン虐めようとして、空回りしてるの見るし」


「ふぅん。

…………。

悪役令嬢好きになるヒロインってどうなんだろうね?」


「……聞いたことないなあ」


「まあ普通ないよね。

でも、一回くらいこんな変なことがあっても良いか。

いつまでも枠組みに囚われるのもつまんないし。

……さすがに、エリザベス嬢も不憫だしね」


「……ああ。

俺達と違って、俺達以上に不遇な役目背負ってるからなあ」


……そう。エリザベス嬢は、所謂悪役令嬢なのだ。


嫌われ者な悪役を演じて、好きな人に嫌われて、好きな人に断罪される……絶対に、好きな人と結ばれることが許されない、可哀想な女の子。

本来の彼女の優しい性格を圧し殺して、高圧的な令嬢を演じるのは、どれほど辛いことなのか俺にはわからないけど。

本人が悲しそうにしてるの、あんまり見たことないしね。


……辛くないわけないのに。


「でもさ! よくよく考えるとクレイ、俺よりマシじゃん!!」


「え、どこが?」


「だって俺、選ばれたら強制力働くし、選ばれなかったら選ばれなかったらで、“チャラチャラしてたけど、ヒロインと出会いそんなクズな性格を変え、だが初めて本気で好きになったヒロインにフラれてしまって、悲しみに浸りながらそれでもいつまでも彼女を好きで幸せを願い続ける”……みたいなクソ面倒な設定のせいで、一生独り身だかんな!?

俺女の子普通に好きなのに!!

あんまりだああ!!!」


「……予想以上にくっだらない話でびっくりした」


「ひっど!! くだらなく無いでーす!!

大事なことでーす!!」


「煩いなあ。

……あ、もうすぐチャイム鳴りそうだし、とっとと教室戻ろ」


「なんかいい具合に逃げられたような気がするけど……戻るよ、ちぇっ」


「……あー、そうそう。

王子様も、エリザベス嬢のこと好きみたいだよね」


「!」


クレイは生徒会室の扉に手をかけながら、思い出したようにそう言った。


その一言で、心臓がドクドクと震え出す。


………お、落ち着け。落ち着け。別に知ってたじゃん。



ヒロインの言動を気にかけていると、エリザベス嬢のことはもちろん……その近くにいつも居る、エリザベス嬢の婚約者である、王子様属性……アレクシスのこともよく聞く。

だから、アレクシスがエリザベス嬢をちゃんと好きだということは、耳に入ってくる。

仲睦まじい……ってことも。


「随分溺愛してるって噂だけど」


てかこいつ、俺が話題にされたくないことを、なんで今する!?


「へ、へー! そうなんだ!?

と、とにかく、早く教室行こ! な!?」


話を切り上げようとすると、クレイがため息をついた。


「あのさ……動揺し過ぎ。わかりやすいなあ」


「な、何が!?」



だらだらと汗が流れてくる。

う、嘘だ。そんな。まさか。バレてるはずは……っ。



「セス、エリザベス嬢のこと好きでしょ」



「っ……!!!!!????」


急に顔が熱くなっていくのを感じる。

多分、めちゃくちゃ赤くなってる。


「ち、違っ、違っ!!!!」


「……いや、どう見ても合ってるよ。

顔めちゃくちゃ赤いし」


「うわあああ!!!

うるさいうるさいうるさいっ!!!!」


「煩いのは君の方なんだけど」


「てか!! な、な、なっ、何で知ってんだよ!!!!」


「んー、強いて言うなら視線? ヒロイン観察するふりして、いっつも見てるじゃん。

バカでも気づくって」


「そ、そんな見てないもん!!!」


「女子みたいな言い方普通に気持ち悪い」


「ひどいっ!!!!

てか冷静に分析してんじゃねーよお!!!!」


「はあ……で、良いの?」


「……何がだよ」


「ずっと好きだったんだろ?

……いつもあの子を蔑ろにしてた王子様に、盗られちゃっても良いの?」


…………。


クレイの言う通りだ。

俺は何度も見てきた。

アレクシスが、エリザベス嬢を断罪する姿。

泣き叫ぶエリザベス嬢。


……でも。



「……良いよ」


「………」


「エリザベス嬢が、幸せなら良いよ。

そもそも、あの子の一番は、いつだって王子様だ。

俺の入る余地無い」


どれだけ傷つけられても。

ゲームのせいとはいえ何度も自分を断罪して、自分を見てくれなかった人でも。

……そんな王子様が、エリザベス嬢は好きだから。




何度も繰り返す中、彼女はどれだけ絶望を味わったんだろう。

涙を流したんだろう。


それでも──そんな目に遭っても、可哀想で、綺麗で、強いあの子の恋心は、いつだって純粋なまま。


だからせめて、何にも出来なかった俺は、あの子の恋の邪魔だけはしない。

あの子の恋を、誰にも汚させない。


「なあクレイ。

俺、攻略対象だからさ、悪役令嬢と結ばれるなんて、あり得ないだろ。

無理じゃん、そんなの」


「……それは……そうかもしれないけど」


「そうだよ。きっとそうだ。

……でも、チャラ男属性で良かったって思うんだ」


「……どういう意味?」


「王子様だったらさ、きっと悪役令嬢への恋心なんて消される。

今回は、バグみたいなもんだろうし」


「…………」


「でも……女好きな俺が、女の子を……エリザベス穣を好きなことは、何もおかしくない。

設定に基づいてるから。

だから、良かったよ。俺、チャラ男で」




そう……それだけは、感謝してるんだ。





「エリザベス嬢を好きでいることだけは、出来るからさ」





伝えることも、叶うことも、この先きっとない。




でも……俺はずっと、君が好きだよ、エリザベス嬢。





『俺の婚約者に手を出すな……とおっしゃっていましたが、セス様は何もしていませんわ。

勘違いされやすいのですが、この方、女性と見れば声をかけますが、それだけで、不埒な真似はしませんし、女癖だって悪くありませんもの』





……演じていた俺じゃなくて、俺自信を見てくれた、君が好きなんだ。






「だから、良い!

今のままで充分なんだ!!」







そして、あの日、君を好きなった瞬間から──俺はずっと、君の幸せを願ってる。







ヒロインをずっと好きでいて独身とか嫌と言いつつ、エリザベスをずっと好きでいる気満々のセナくんでした。


お読み頂きありがとうございます!



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[気になる点] 出てくる全ての女性への敬称が、嬢⇒穣になってます [一言] どうしても気になってしまって…
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