レレトーレレの森の魔物⑤
「いつも思うんだけど、ミウくんって本当に無茶ばかりするよね」
「そうかな」
ルルド翁の屋敷の一室、ちょうどユクルーがミウの部屋を訪れたところだった。
ユクルーはすでに歩けるくらいに回復しているけれども、ミウはまだベッドから降りられないでいる。
先の戦いが終わった直後、緊張の糸が切れたのかユクルーも気を失ってしまい、ミウは彼女を背負って森の出口近くの宿屋まで歩いてきたのだ。
もともと全身ひどい火傷と凍傷なうえ、一日中歩き通しで完全に体力を消耗してしまい、宿屋についてちょうどユクルーが目覚めると同時くらいに、ミウは倒れ込んでしまったのだ。
宿屋からすぐにルルド翁の屋敷へ連絡がいき、その日のうちにやってきたルルド翁の使者によって二人は回収され、三日も経ってようやく今なのである。
ちなみに、後発の調査隊の報告によると、どうやらもう森の魔物‥‥霧の獣たちは全く姿を表さなくなったそうだ。
ノノの命とともに魔法が切れたのか、神殿の周囲と森を覆っていた氷は嘘のように消失したし、森には数多くの巨大なクレーターと、少し湿気の多い空気だけが残ったことになる。
「素晴らしい、さすがはユクルートリアさんの紹介です。
お約束通りの報酬をお支払いいたしましょう。
またぜひ傷が治るまでゆっくりしていってください。
なんならずっとここにいてくださってもいのですよ」
途中一度だけお見舞いに来たルルド翁は大層機嫌が良く、傷が完治するまでの間の食事や生活必需品など滞在に関わる諸費用に加え、今回の仕事でなくしたり使えなくなってしまった装備品(それすらもともとはルルド翁が用意してくれたものだったけれど)まで新調してくれることを約束してくれた。
今はもう学園に用事があるとかで出てしまったけれど、なんとも、最後まで気前のいいスポンサーだ。
「結構つぎ込んでいたらしいから、この森に。
後から他の人から聞いたんだけど、百人単位の命をこの森に注ぎ込んでたんだって
もっと早くいって欲しかったわ」
ミウの座っているベッドに腰掛けて、しゃくしゃくとリンゴの皮を剥いて、食べさせてくれるのかと思いきや自分でむしゃむしゃと食べ始める。
「よこさんのか」
「あーんする?」
「いいからよこせ」
リンゴをナイフごと奪い取って、自ら皮を剥く。
ユクルーはいつものような戦闘スーツやジャケットではなく、だいぶラフな格好(というか薄着)をしていて、どうにも目のやり場に困る。
ただ当の本人は、別に格好については特に気にしてないようだけれど、それとは全然別になんだか少しおとなしいというか、気落ちしているような感じがする。
「あのね」
「ん‥‥?」
皮を剥きながら生返事をすると、少しだけ躊躇ってから、ユクルーが口を開く。
「おごりの件、よくなったら行こうね」
「う‥‥」と手を止める。
そういえばめちゃくちゃ高いところに連れて行かれる予定だった。
まぁ、少しくらい高くついてもこの際よしとしよう。
こちらも懐はだいぶ暖かくなった。
「そうだな」
応えて、リンゴの皮むきを再開する。
しゃく、しゃくと、リンゴの皮を剥く音が部屋に響いていた。