3.対決! 初めての不良。
「いいぞ、転校生!」
「ナイスゾンビ!」
「ナイスゾンビ! ナイスゾンビ!」
「あは、あははは……どもども、どもありがとござます!」
クラスのみんなが口々に囃し立てます。私はぎごちないニセ外人の様なたどたどしさでそれに応え、小さく手を振りました。
「それじゃあ、鹿羽さんは窓際の最後列の席に着いてね」
「はい!」
やった、最後列の窓際……特等席だ。
上機嫌で席に向かうと、行く手に現れたのは……足。
通路を塞ぐように、足がどっかりと投げ出されている。
「あの……」
足の主は女の子だ。いや、女の人? いや……何と呼ぶべきなんだろう?
「あの、足……」
恐る恐る声をかける。
彼女は、こちらを見ながら意地悪そうにニヤニヤと笑っている。
私の反応を明らかに楽しんでいる。意地悪な視線に舐めまわされ、正直気味が悪い。
間違いない、先生が言ってた質の悪い生徒……この人がそれだ。
「あの、足をどけてくれませんか?」
とは言え私は新入りだ。状況が分からないので、お願いしてみる。
「聞こえねー」
彼女はそう言って、一際意地悪な笑いを見せた。
な……! この人……いや、こいつ完全に私をバカにしている。
「聞こえないって……そんな訳ないじゃないですか、足をどけて下さい」
「聞こえねー」
彼女笑いに意地悪さが増していく。
だめだ、おそらく何回やってもこの繰り返しだ。
『存美、相手に軽く見られるな』
うん、分かったよお爺ちゃん……。
「もう一度だけ言います、お願いします、足をどけて下さい」
「聞こえねーって言ってんだろ?」
あくまでそう来るか、ならば……!
「分かりまし……た!」
私は彼女の足を両手で掴むと、思いっきり持ち上げた。
見たか、ゾンビの馬鹿力! 足は高々と跳ね上がり、バランスを崩した彼女は腰を起点にひっくり返り、椅子から転げ落ちる。
「テメェ! 何しやがる!」
たちの悪い人は起き上がるやいなや、猛然と掴みかかってきた。
私は逆にニヤリと笑い、一言。
「聞こえません」
私の口元が意地悪に歪む……本来はそんなキャラじゃないんだけど。
「腐れゾンビがなめやがって!」
たちの悪い人の拳が降り上がる。
眼をつむっちゃダメだ。相手の目を見て睨み付けないと……負ける!
「テメェ……!」
振り下ろされる拳。私は目を開いたまま歯を食いしばった。
「藤井さん! 授業が始まるわよ、やるなら後にしなさい」
小森先生の一喝が、藤井と呼ばれた彼女を硬直させる。
「ち……!」
舌打ちして、拳を下げる藤井さん。椅子を蹴り飛ばすと、背中を向けて教室の出口に向かう。
「どこ行くの!」
「…っせぇんだよ、ババァ!」
藤井さんは吐き捨てると、教室を出て行った。
私は、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまう……怖かったよー!
「鹿羽さん、大丈夫?」
先生の手を借り、よろよろと立ち上がる私。すると……。
うおおおおおおおおおおおおお!
クラス中から喝采の声が上がった。何? 何? どうしたの⁉
「すげーぞ鹿羽さん、あの藤井に勝つなんて!」
「勇気あるねー、尊敬しちゃう!」
「あいつ調子に乗り過ぎなんだよ、いい気味さ」
「ニューホープ誕生! これからはゾンビちゃんの時代だ!」
みんなも少なからず藤井さんを煙たがっていたのか、口々に彼女の悪口を吐く。
それはそれで違う様な気もするんですが……ま、いいか。
ざわつく教室内の空気を、小森先生がパンパンと手を叩いて締める。
「みんな騒がない! 一限目は現国だから、このまま授業に突入するわよ!」
さすがは先生だ。生徒間のアクシデントにも凛として動じない。憧れちゃうなぁ……。
「鹿羽さんも早く席に着いて」
「あの、藤井さんは……」
「放っておきなさい、頭が冷えたら帰って来るわよ」
そんなものなのか……みんなも順応しちゃってるんだなァ……私も早く慣れないと。
こうして授業が始まった頃、体育館裏では……。
「ち、あのゾンビ女……面白くねぇ」
「どーしたの、藤井ちゃあん……一限目から黄昏ちゃってぇ」
「後藤センパイ……チッス」
「心配だなぁ……君は期待の新人なんだから、元気がないとセンパイ心配しちゃう」
「いや、なんでもねーっす。ちょっと調子が狂っただけっすよ」
「いいから、話してみ?」
「いや、本当になんでもねーっすから……」
「……話せって言ってるんだよ」
「す、すんません、実は……」
何てやり取りがされているとは、露とも知らない私なのでした。
(第三話:完)