表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2.ぴちぴちゾンビ、初登校!

「うおおおおおお! 急がないと、ち・こ・くっだぁぁぁぁぁ!」


せっかくなら町の景色を楽しみながら歩きたかったけど、そうも言っていられません。

登校初日は早めに来るように言われていたの、忘れてた!


「うおお……今日ばかりはゾンビのこの身が恨めしい……」


そう、私ゾンビだから走るの遅いんです……え? 元々運痴なだけじゃないかって?

痛いところ突くなー……運動は好きなんですよ? でも、結果が付いてこないんです。


「見えた、盛具高校!」


校門に人影が見える、男の人と女の人……多分先生だ。

私が遅いから出てきちゃったのね……あ、こっち見た……手を振った!

私は校門に向け手を振りながら、最後の全力疾走を……遅いけどがんばった。


「すみませーん! 遅れましたぁー……」

「いいえ、ギリギリセーフよ……鹿羽存美さんね?」

「はい、鹿羽です!」

「私は小森早苗、あなたの担任よ。そしてこちらは校長の飯妻先生」


小森先生も飯妻先生もにっこりと笑う。良かった、いい人そうだ。

私は二人の後について校舎に向かう。朝練の生徒しかいない校庭はとても広く感じた。


「それじゃあ、ホームルームの時間になったら呼びに来るから、それまではここでくつろいでいてね?」


小森先生は私を応接室に招き入れると、そう言い残して職員室に消えた。

私は応接室のソファーにちょこんと腰掛ける。はっきり言って落ち着かない。

もじもじ、そわそわ。壁に掛けられた写真や賞状、ガラス棚のトロフィーなんかを眺めながら、背中をくねくねと揺らせていると、目の前にティーカップがコトンと置かれる。

見上げると、ティーポットを持った校長先生が温和な笑みを湛えていた。


「紅茶は私の趣味でね……あまり上手ではありませんが、良かったら召し上がって下さい」

「あ、いえ、そんな……有り難うございます」


慌てふためく私を見て、校長先生はにっこりと笑った。

温かい紅茶を口に含むと、なんだかゆったりとした気分になる。


「新しい出会いに緊張するのは誰にでもある事です。しかしあまり臆病になってもいけません。リラックスして、家族に挨拶するような気持ちで臨むと良いですよ?」

「……はい!」


さすが校長先生、私の心配などお見通しだ。というか、私の方が顔に出ていたんだろうなー。


「お待たせ鹿羽さん、クラスに案内するわ」


小森先生の言葉を聞いて私は勢いよくソファーから立ち上がり、そのまま硬直する。

いよいよ始まるんだ、私の新生活……高校デビューが!


「緊張してる?」


廊下を歩く小森先生が、振り返らずに問いかける。


「はい……でも大丈夫です、お爺ちゃんの助言もありますし」

「へえ、どんな助言?」


私は昨夜のお爺ちゃんの言葉を改めて思い返した。


『存美、相手を軽く見るな、相手に軽く見られるな』


お爺ちゃんの言葉を伝えると、先生はくすっと笑った。


「素敵なお爺様ね、間違いじゃないわ。じゃあ先生からも一言」


先生は、そう言って真顔になる。


「初めの自己紹介ですべてが決まるから、精一杯明るく元気にやりなさい。暗くて気の弱い、大人しい子だと思われると、何かと厄介だからね」

「厄介……ですか」

「この学校の生徒は大人しい方だけど、全部がいい子って訳じゃないの。たちの悪い子に付け入られると、後々厄介って事」

「私の入るクラスにも、たちの悪い人が?」

「まあ……ね」


先生が溜息をつく。そんな、先生⁉ ああ、いよいよ緊張してきた……。


「じゃ、先生が呼んだら入って来てね?」


先生のウィンクは妙に可愛い。いやいや今は自分の事だ、明るく元気に、明るく元気に……。


「いいわよ、入って来て!」

「は、はい!」


ガラガラ……ビシャン!


開いた引き戸が壁に当たって大きな音を立てる。


妙に空気が張り詰めた教室の先頭を、教壇に向かってギクシャクと歩く……右手と右足を同時に出しながら。

先生が、私の名前を黒板に大きく書く。


「はい、自己紹介!」


先生の笑顔。私は頷くと、胸いっぱいに息を吸い込む。


『最初からありのままの自分を見せて、分かってもらうんじゃ……』


お爺ちゃんの言葉が脳裏をよぎる。


そうだ、私は、私は……。


「皆さん初めまして! 私、鹿羽存美……ゾンビです!! よろしくお願いします!!!」


精一杯の大声で叫ぶと、ばっと頭を下げる。


教室がざわつき始めました。や、やっぱり、いきなりゾンビは不味かったでしょうか?

恐る恐る、ゆっくりと頭を上げると……。


パチ……パチ……パチ……パチパチ、パチパチ、パチパチパチ!!!


私は、拍手喝采に包まれました!

やった、受け入れられた、高校デビュー成功! ……なのかな?


私の胸は吐き出した空気の何倍も、嬉しさで膨れ上がったのです!


(第二話、完)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ