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01.ゾンビが街にやって来た!

あ、もう朝か……荷解きの途中で寝ちゃったんだ……。

ベッドから身を起こしカーテンを開けると、さわやかな朝の日差しと心地よい風が、私の頬を撫でる。

風に潮の香りが混ざるのは、海が近いから。

私達、引っ越してきたんだ……この町に!


「存美―! 何してるのー? 学校に遅れちゃうわよー!」


お母さんの声が背中から急かす。

でももうちょっと……もうちょっとで出来るから、私渾身のメイク!


「あー! ごめんお母さん、もうちょっとー!」


鏡に集中しながら空返事。今日は高校デビューの日、絶対に決めて見せる!


「もう、初日から遅刻しても知らないから……お父さんも何か言って下さい!」

「まー……存美ももう16才だ。女の子の支度には、色々あるんだろう……」


お母さんの小言が聞こえる、お父さんは……ま、マイペースだよね。

よし、準備万端! 生まれ変わった私、登場!


「じゃーん……お待たせ! お父さん、お母さん!」


ふっふーん、どうよ私のメイク、素敵でしょ?

て、あれ⁉ みんな何よ、その強張った表情は?


「あ……存美?」

「ほう、これは……」

「どうしたね……ぬお! 白粉婆⁉」


お爺ちゃん、酷い……私、妖怪じゃないよぉ……。


「どう? 変じゃないかな?」

「どうって、変よ! 早くお風呂場に行って落してきなさい!」

「えー、だって……お父さん!」


お母さん、凄い顔で怒ってる……お父さん、助けて!


「存美、お母さんの言う通りにしなさい」


お父さんも?


「お爺ちゃんも、お母さんたちに賛成じゃぞ?」


お爺ちゃんまで? もう、分かったよ!


「……わかったよ! みんなの馬鹿!」


私は泣きながらお風呂に飛び込んだ。

私の三時間が……ちくしょう、水の泡だ……お風呂だけに。


「落としてきた……」


私はしゅんとして、リビングに戻る。


「うん、やっぱり存美は、その方がええ!」


お爺ちゃんは笑いながら、頭を撫でてくれた。


「言ってごらん? 何であんな事をしたのか」


優しく問いかけるお父さん、私、その眼には弱いの……。


「色が……肌の色が嫌だったの……」

「なるほど、それで……」

「お父さんとお母さんは、嫌じゃないの? こんな薄紫色の肌で……」


お父さんとお母さんを上目遣いで見つめると、二人ともぷっと笑った。

ひどい……私、真剣に悩んでるのに!


「そうだな……お父さんはカッコ良いと思うな、デ〇ラー総統みたいで」

「お母さんも好きよ? だって父さんがくれた肌の色だもの♡」


あくまでマイペースで、お気楽な二人がのろけだす……はいはい、ごちそうさま!


「お父さんたちは良いよ、ラブラブで開き直ってるからさ……」

「存美だって、つい昨日まで平気な顔してたじゃないの」

「それは、子供だったからだよ……でも今日からは高校生なんだよ? 新しい町で、新しい学校……私、普通に見られたかったんだもん……」

「存美……」


一連のやり取りを眺めていたお爺ちゃんが、おもむろに語り出す。


「いいか? 存美……どんな嘘もいずれはバレる。そうしたら、嘘を取り繕うためにまた嘘を吐かねばならん。そんな事にいくら時間と知恵を使っても、周囲の信頼を得ることは絶対に出来ん……それならば、最初からありのままの自分を見せて、それを分かってもらう努力のために時間を使いなさい、その方がずっとええ結果になる」


自分の言葉に頷くお爺ちゃん、実にいい音で茶を啜る。


「存美は普通の女の子よ? その証拠に、生まれた時からずっと、すくすくと育ってるじゃない……お母さんたちと違って、ね?」

「お母さん……」


お母さんの表情が少し寂し気になる。


「お父さんたちの外見年齢は止まったけど、赤ちゃんだった存美は、こんなに立派な女の子になった……恥じらいを持った、お父さんとお母さんの自慢の娘にね」

「私達も早く年を取りたいわ……親より先に娘がお婆ちゃんになっちゃうなんて、嫌だもの」


ああ、私はバカだ。

お父さんもお母さんも、こんなにも私の事を想ってくれてるのに。

こんな素敵な二人がくれた素敵なお肌を、他の人と違うってだけで嫌いに思うなんて……。


「お母さん、ごめんなさい! 私やめる、育つのやめるから! そうだ、お父さんに噛んでもらおう! そうすれば年を取らなくなるかも……!」

「お馬鹿な子ね……でも嬉しいわ」

お母さんが笑った……微笑むお母さんは、やっぱり美人だ。


「もう大丈夫だね? 存美」


お父さんも微笑む……やっぱり若くて精悍なイケメンだ。


「うん! お父さんお母さん、学校行ってくるね!」

「存美、ご飯は?」

「大丈夫! 私、ゾンビだから!」


もう迷わない、私は満面の笑顔で手を振る。


「お待ち、存美……これを持って行き、お婆ちゃん特製の香り袋」

「ありがとうお婆ちゃん、私これ大好き!」


お婆ちゃんが出て来るのは、いつも最後だ。


これが家族……かけがえのない、私の素敵な家族たち!


私、鹿羽存美、16才、今日から県立盛具高校一年生!


私達が引っ越してきた盛具町は、海と山に囲まれて、綺麗な川も流れている、とっても素敵な町。


この素敵な町で、私も素敵に輝いて見せる……だって私は、ピッチピチのゾンビだから!


(第一話、完)


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