期待
「大変! あいつ私の事探してるって!」
「久しぶりに来たと思ったら詳しく!」
「ちょっと待ってよ。マスターお酒適当にちょうだい」
「んもう こっちは気になったところで止められたんだからやきもきするじゃないの!」
「ごめんって」
「さあ、はやく」
「えっと、何だっけ?」
「ケルヴィン様があんた探してるって!」
「ああ、そうだった。マスターありがとう」
「マスターありがとうじゃゃないわよ。マスターあたしにもお酒」
「あんたも飲むんじゃない」
「いいじゃないのよ」
「そうよね。飲まなきゃやってられないわ。今日ね、休憩時間にコーヒー飲んでたら『東さん下の名前南って言うんですね』」
「やだ、キモい」
「キモいのはここからよ『実は僕の彼女も南って言うんですけどね、昔引っ越しちゃってから連絡取れなくなっちゃって探してるんです。東さんの知り合いに南って子います?』」
「やだ! ストーカーじゃないの! 通報しなさいよ」
「通報したら私だってバレちゃうじゃないの!」
「あっ、そっか……それで何て返したの?」
「知りませんし、それってもう別れてるんじゃないんですか?って言ったら僕の中では別れてませんだって」
「やだ、キモい。別れてから何年経つんだっけ? ていうか、いくら顔が良くてもあたしならパス」
「えっと、確か付き合ってたのは高2だったから、多分、7年か8年? 私だってパスよ。あんな浮気男」
「確かにね。しかも前世からだから筋金入り」
「ほんと、嫌になっちゃう……誰かいい男いないかしら?」
「あら、新しい男探すの? 引っ掛けたらあたしにも紹介しなさいよ。 ていうか、あんた引導渡してから引っ越たんじゃなかったっけ?」
「あんたなんかに紹介したらどんないい男も逃げるわよ。そうよ。そうなのよ! 前世本当は好きだったとか言われて絆された私本当に馬鹿! 付き合ってからも浮気ばっかして今世の浮気相手やらあいつの周りの女共に嫌みばっかり言われて私だって、あいつに選ばれたんだからって私なりに努力してたつもりだったのに、嫌がらせされるわ、ずっと嫌み言われるわで、限界ってところまで我慢して、母さんに離婚するからどっちについてくか決めてって言われた時に別れようって天啓のように閃いて引っ越しの当日呼び出し……は怖かったから電話で別れるって言ったのに……」
「逃げるとか失礼じゃないの! あんなの男なんか摘み食いしないわよ! ていうか、それじゃない?」
「私のじゃなかったら摘み食いするつもりじゃない! それってどれ? 私の別れ方変だった?」
「ケルヴィン様が別れてないって言ってんのよ。直接言ってたらこんなにギャーギャー言わなかもしれないでしょう」
「通じると思う? あの脳内お花畑に。ていうか、あの頃の私ならあいつに好意的だったから別れないって言われたらそのままだったかもしれないわ」
「優柔不断だったのね。今だったら?」
「深海魚からやり直してきてって言うわ」
「深海魚!」
「何、笑ってんのよ」
「だって、笑うしかないでしょ。毛糸にして丸めて捨ててやるとか言うのかと思ってたわ」
「うっさい雅志!」
「だから雅志って言わないでよ!」
「じゃあ、カロリーナ」
「それってあたしの前世の名前じゃないの。今は歩美よ歩美。ほら、言ってごらん」
「嫌よ。あんたは雅志かカロリーナ!」
「どっちももう捨てた名前よ。あんただってシュネーって言われたら嫌でしょ」
「うっ……ごめんなさい」
「分かればいいわ。マスター、カイピロスカ二人分ちょうだい」
「どういう意味?」
「あんたに新しい恋が出来ますようにって祈ってあげてんの」
「ありがとう」