賊のイメージを改めます
「遠い……」
駄目ですね。どうにも大きな移動は初めてだったりしますが、車とかの時代の記憶があるせいか、とても遠いです。
でも、箒で車の速度でも出そうものなら今のワタシでは耐え切れないんですよね。いきおいとかに。
「それにしても……空飛んじゃってますけど、目的地まで公道続いてる気がするのは気のせいですかね」
ワタシは空から下の大地を見ながらそう呟いてしまいます。地図を確認して、その方向にしっかりいけてるはずなのですが……踏みならされて固まった道が見えるんですよね。恐らく、商人の馬とかが何度も往復することで踏みならされたんだと思うのですが。
「公道にバグがでる? いえ、人の住んでる場所の近くに脅威度が高いものが現れたら騒ぎになるということは、魔術師がいない町ならC級でも騒ぎになって緊急依頼とか来るでしょうし、逆に魔術師がいるならすぐ対処しますよね……」
念の為にもう一度地図を見てみます。でも、目撃情報があったとされる印の近くに町はないんですよね。
もう少し奥に行けば、あるんでしょうか。それで港町と流通が盛んとかで道ができてるとか?
いえ、こんなこと考える必要ないんでしょうけど、ひとりで空飛んで旅してる現状だと、無心でいるのは、それはそれで退屈なんですよね。
神様に退屈な人だって言われましたけど、この退屈は恐らく誰でもなってしまう退屈でしょう。だから、ワタシは悪く無い。
しばらくして、夕日がのぼっています。片道1日で依頼の達成を考えれば合計3日の肯定予定だったので、空からよさ気な場所を見つけて野宿をしたい所ですが……おや?
何やら、揉め事を発見してしまいました。しかも、片方の集団は武器をお持ちのようですね。
さて、どうしましょうか。
あんまり血が流れるのを放っておくのもあれなので、どうにかしたいですが……果たして、ワタシは人間相手に戦えるのかどうか。
まあ、行ってみますかね。
ワタシはゆっくりと、その近くに降り立ちます。
あ、降りたところは見られない程度の距離はありますよ。そして歩いて近づくわけです。
「あの~。ちょっと、よろしいですか?」
「あん? なんだ、この子供!!」
うわ、荒々しい。テンプレみたいな山賊? 盗賊? ですね。
「あ、危ないから、逃げるんだお嬢ちゃん!」
服装が魔術師っぽくはないせいで、ただの箒もった迷子のお嬢さんと思われてる気がします。まさか、襲われてる人に心配されてしまうとは……いえ、至極当然ではあるのでしょうが。
「けけっ、子供やお前らの命にゃ興味ねえ! オレたちが興味があるのはその荷物だからな!」
そういって、賊はその手にもったナイフで近くにある馬のつながった荷車をさします。
まあ、命は奪わないといって、それを許してしまっていいわけではないんですが……想像上の賊よりはマシなのかもしれませんね。
ワタシの知ってる物語の賊は基本的に、命と荷物どっちも奪う気まんまんなのが多いですし。
「ピュアラ・ラルラ。岩よ飛べ」
ワタシがそう唱えると、近くにあった岩が浮かび3人いる賊のひとりの腹に直撃します。
「がはっ!?」
「な、なにが起きたっ!?」
「い、いやわかんねえよ! 魔術師が近くにいるか、こいつらに混ざってるとかか!?」
「でもあの長ったらしい詠唱なんざ聞こえなかったじゃねえか! 詠唱破棄できるレベルの魔術師なんて、今のこの大陸じゃそうはいないって聞いてんだぞ」
勝手に混乱してますね。というか、やっぱりワタシの魔法は異質みたいです。魔術じゃなくて魔法だから。
でも、命を奪う気がなかったことに免じて、事故がない限り命をこちらも奪わない方法で懲らしめるとしましょう。