ルールはルールですが、情けもまた自由です
「くそっ、てめえら探せ探せ! てめえらはそこ動くんじゃねえぞ!」
原因がワタシということが、どうやらわからないらしいです。賊は周りをうろうろと警戒し出しました。
はてさて、魔法がどこまでのことが出来るのか実は把握してません。少なくとも、日常で必要レベルで火をつけたり箒を飛ばしたり、近くの物体を浮遊させて操ることぐらいですね。
これ以外にも恐らく出来るのでしょうが、やり過ぎも怖いのでどうしましょうか。
どうやらさっき使った岩の他だと、気絶させられるような威力になりそうな物体はありませんし。
「ピュアラ・ラルラ。地面よへこめ!」
とりあえず、やってみます。リーダーと思われる賊ではない方に向けて魔法を使ってみると――視界から賊が消えました。
「うわぁぁぁあああ!!」
「なんだ!? どうした!? どこいった!!?」
叫び声を聞いてリーダーが様子を見に行きます。
「何でこんなとこにこんな穴があるんだ……おい! 大丈夫か!! ……くそっ、気絶してやがる」
ご丁寧に口に出してくれてありがとうございます。自然に干渉もある程度できそうですね。
「くそっ、ひとりじゃどうにもなんねえ!!」
リーダーはそう言って逃げ出そうとしてしまいます。ですが、ここで逃がすのはさすがにあれですね。
「ふぅ、よかった……大丈夫かい? 迷子だったら一緒に――」
「ピュアラ・ラルラ! 箒よ追いかけなさい!」
商人さんが話しかけてきてくれましたが、ちょっと今はこっちを優先させていただきます。
「なっ!? て、てめえはさっきの子供!! ……てめえが、魔術師だった……いや、まてそんな魔術聞いたことねえぞ!?」
「まあ、詳しいことはいいじゃないですか。おとなしくお縄につきなさい……これ、この世界で通じんでしょうか?」
「くそっ、子供ごときっ、この距離なら!」
リーダーはその手に持ったナイフで斬りかかって、いえ突くようににして攻撃してきます。
ワタシは鉄棒に足でぶら下がるように空中に浮遊した箒をつかって、かわしそのままお腹に拳をいれておきます――魔力を込めて。
「ピュアラ・マジカ!!」
「ぐふぉっ!?」
魔力を込めれば、拳は威力をまします。これは学園で知った、魔力撃と呼ばれる冒険者の拳闘士が使う技を魔法を用いて作ってみたものです。
「くそ……」
そのまま、近くにあった木にぶつかって賊は気絶してしまいました。
とりあえず、持ってた縄で縛って商人さんたちのもとへ戻りましょう。
「いやあ、ありがとう! 魔術師だったんだね」
戻ると、商人さんたちに感謝されました。
「いえ……あの、この人たちはどうすれば?」
「うぅん……正直、馬を使っても町までそれなりの距離だから一緒に搬送はできないな」
とはいえ、この辺は町の近くでないので野生動物やモンスターなどもでますよね。
そう思っていると、商人さんは近くの木に3人の賊を縄に縛り付けます。
そして、その後荷物から小さな筒のようなものを取り出して、導火線にようなものに火をつけます。
「それは?」
「発煙弾さ。賊などを捕まえたけど、搬送できない時はその場所をこれで示せば、近くの町の魔術師協会の人か自警団の人たちが回収に来てくれる。酷だけど、その間に動物とかに襲われたらご愁傷様だね」
「そうなんですか……」
「さすがに、自分たちの命を奪われる可能性が0じゃない人たちと運んで1日移動するのはね。今回は護衛もいないから……油断してたよ」
この世界は思ったよりもシビアですが、しっかりとしたルールができているとも言える世界のようです。そういうことなら、それに逆らうのもおかしな話ですよね。可哀想ですが、仕方ないです。
「君はこれからどうするんだい?」
「このまま、あちらのほうへ向かいます」
「そうか。僕たちとは反対方向のようだね。旅の健闘を祈るよ……そうだ、お礼といえるかわからないけどこれを」
商人さんはワタシにひとつの石を手渡してくれます。石というよりは宝石のようなイメージですが、なんの石でしょう?
「商売の中で手に入れたんだけど、鑑定屋にきいたら昔、とある魔術師が持っていたと言われるジュエルで、何か力を秘めているそうなんだ。邪魔だったら好きにしてくれていいから」
「いえ、ありがとうございます」
もらえるならもらっておきましょう。何があるかわかりませんが、何もなくてもアクセサリーとかにしたら綺麗そうな石ですし。
「それじゃあ、改めて気をつけて」
「そちらもお気をつけて」
商人さんたちは夜道を松明をつけて歩いて行きました。野宿とかしなくて大丈夫なのでしょうか。
さて、ワタシもなんか眠気ありませんし、もう少し進むことにしましょうか。
「…………ピュアラ・ラルラ。人ならざるものから数日守れ!」
これくらいはして上げましょう。
「ピュアラ・ラルラ! 箒よ飛べ!」




