しらべる勇者ちゃんと村人Fな俺
村人F。それが俺の名前だ。
FはなんのFだって? 深い意味はない。神様がこの村の人間を「A、B、C……」と造りたもうた順番を指し示すアルファベットである。
だからといって、村人Aが俺たちの中で一番偉いわけではない。
Aのやつは村の出入り口で「セーニョ村へようこそ!」と言い続け、夜になったら自宅のベッドで「ぐーごごー」と眠りこける日々を送っている。
俺だって同じだ。
作物の種なんて用意していないのに、畑をひたすら耕している。誰かに話しかけられても「やあ! 今日はいい天気だな!」としか返事ができないのだ。
しかも、チェック甘々の神様め、俺には夜用のセリフが用意されていなかった。いくら進行的にさほど重要ではない村だからってあんまりだろう。
おかげで、俺だけは眠っていても「やあ……今日はいい天気だな……」と寝言を喋る頓珍漢なやつになっているのだ。
そもそも、『いい天気ではないな!』なんて日が今まであっただろうか?
いいや、ない。
夜が明ければ、澄み渡る青空が広がっている。それがこの世の常だ。
ある日、いつものように思考停止状態で鍬を振っていたときだ。
背後から『布の服』の裾をちょいちょいと引っ張られた。
無意味な作業を止めて振り返ると、村の人間ではない、『旅人の服』を着た女の子が立っていた。
その可憐さに、ちょっと見惚れてしまう。
まだ若く、黒髪で、清楚な感じで、おずおずと俺を見上げている。それでいて瞳には固い決意を宿していた。
外は恐ろしい魔物が徘徊しているというのによくまあ……、と注意深く観察すれば、女の子が手にした杖はそんじょそこらの武器屋で売ってるような、ただの『樫の杖』ではない。では何かと訊かれても、辺境の村人たる俺には知る由もない。
はっと我に返った俺は、彼女にぎこちない笑みを向けた。
「やあ! 今日はいい天気だな!」
女の子はぺこりとお辞儀をして、無言で俺の反応を『しらべ』た。
なんだこの子、と怪訝に思ったのは一瞬だけで、ああ! と大きく頷く。
彼女はセリフすらも与えられていないのだ。
代わりに『しらべる』コマンドでコミュニケーションを図っているらしい。
しかし、悲しいかな、俺が話せる言葉はただ一つ。
「やあ! 今日はいい天気だな!」
これだけだ。
何度か話しかけるとセリフが変わる、神様に優遇された人間がこの世のどこかには存在しているらしいが、それは少なくとも俺のことではない。
彼女はしゅんと肩を落としながらもお辞儀だけは忘れず、畑の近くを通りかかった村人Cへ『しらべ』に向かった。
俺は畑仕事に戻りながらも、女の子のことが気になって視線で追いかける。
『しらべ』て、お辞儀して、歩き回って――
ものすごく不器用な女の子だと思う。
だけど、こうして世界の終焉を待つことしかできない俺よりも、ずっと自由だ。
女の子は村人Gから何か情報を引き出すことに成功して、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。
遠目からでも、心臓をぐっと掴まれる。
その華やかさといったら、最大級爆裂呪文の威力にも匹敵した。
それから彼女は道具屋で親父を『しらべ』た。
親父は鍛冶屋も兼業している、村で特別な存在だ。彼がなぜ、冒険者用の武器や防具を売っているのかはよく分からない。きっと、神様にしか分からない。
女の子も旅人だ。魔物と戦うための武器を買いに来たのだろう。
ところが、彼女の細腕では『鋼の剣』を持ち上げることができない。
ははあ、『力』のステータスが上がってないんだな。
ついには親父が女の子の肩に手を置き、首を横に振るのだった。
女の子はすっかり落ち込んだ様子で村を去る。そのとき俺と目が合って、悲しげな笑顔でお辞儀をするのだった。
彼女がいなくなって、村人はルーチンワークへと戻る。しかし時折、誰もが後ろ髪を引かれるように村の出口を振り返るのだった。
俺もその一人で、苛立ち任せに鍬を振り下ろす。
会心の一撃。鍬はちょっとやそっとの『力』ではびくともしないほど深々と大地に突き立った。
だめだ、あの子を放っておけない。
俺は村人Gに半ば掴みかかるような形で何を話したか問い質した。
「やあ! 今日はいい天気だな!」
「この村から南へ向かうと、森の中に寂れた遺跡があるんだ。勇者の墓って噂だよ」
Gは迷惑そうに俺の手を振り払った。
どうして村から一歩も出たことのないお前が遺跡のことなんて知っているんだ、という疑問はもはや野暮である。
意を決し、村長の家へと突撃する。
扉を勢いよく開けると、高齢の爺さんが驚いた表情で俺を凝視した。さすが村長。何かを察し、頬をきりりと引き締めた。
「冒険者さん。こんな田舎だが、ゆっくりしていっておくれ」
部屋の隅にある宝箱を開け、中に入っていた麻袋を俺に差し出す。
中身は金貨だ。
元々鍵はかかっていなかった。あの女の子が宝箱を『しらべ』ていたなら難なく入手できていただろう。にもかかわらず、彼女はそうしなかったのだ。
俺は二重に驚いて、すぐに受け取ることができない。
村長はしかと頷き、無理矢理俺に押しつける。
重い。
それは金貨である以上に、重かった。
俺は感謝を伝えたかったが、そのための言葉を知らない。
老人の骨ばった手を握り、何度も頭を下げ、村長の家を飛び出した。
立ち寄ったのは道具屋だ。ぱくぱくと口を開閉する俺を見て、親父はすっと目を細める。
「勇者の墓に住み着いている魔物は呪文に強いって話だ。ここで装備を整えていきな!」
俺が見繕うよりも早く、親父は『鋼の剣』と『鋼の盾』、しかも『鋼の鎧』まで強引に装備させてきた。
毎日の畑仕事のおかげで、俺の『力』は重装備を可能とするほど成長していたのである。
しかし、これ、高いんじゃないのか?
麻袋から金貨を取り出そうとした手を、親父が押し留めた。
厳つい顔を綻ばせ、ぐっと親指を立てる。
その意図を理解した俺は、しっかりと頷いた。
みんな、俺が村人Fだから親切にしてくれるのではない。
あの女の子が心配なのだ。
魔物が世界を支配しつつある、というシナリオがあるとはいえ、この村にはエンカウントが設定されていない。世界滅亡イベントが発生するまでは、束の間の平和を満喫できるのだ。
だけど、彼女は違う。村を出て、旅をしている。何か特別な事情が彼女を衝き動かしているのかもしれないが、並大抵の意志では道半ばで挫折してしまうに違いない。
勇気ある者。
そうか、彼女はきっと、伝説の勇者の末裔なんだ……。
村から出ようとすると、背中を叩かれた。
「セーニョ村へようこそ!」
寂しげな表情の村人Aだ。
大丈夫だ。必ず帰ってくる。俺はAの背中を力強く叩き返してやった。
「やあ! 今日はいい天気だな!」
道中、魔物とは遭遇しなかった。
厳密に言えば、生きた魔物に襲われることがなかった。
勇者の墓に辿り着くまで俺が目にしたのは、魔法で灰と化したか、氷漬けにされたか、どちらにしてもぞっとする死体ばかりだ。
なのに、魔物のそばには必ず一輪の花が添えられている。
複雑な気持ちを抱きながら南の森の道なき道を突き進むと、すぐに『勇者の墓』は見つかった。
意を決して暗闇に飛び込むと、呪文の起動音と魔物の奇声が耳に届く。
戦闘中だ!
急いで駆けつけると、不気味な光を放つ甲冑の戦士が誰かに迫っている。
壁際に追い込まれているのは勇者だ。
一生懸命に杖を振りかざし、火炎呪文、氷結呪文と持てる攻撃呪文を試す。
しかし、特殊な甲冑に魔力を吸われ、ダメージになっていない。
道具屋の親父の言う通りだ。住み着いている魔物は呪文に強い。『力』の弱い勇者にとっては天敵である。
戦士は抵抗をものともせず、錆びた斧を高々と振り上げる。
勇者がびくりと肩を震わせ、その光輝く目を閉ざしかけた。
させるか!
俺は『鋼の盾』を構え、無防備な戦士に体ごとぶつかっていった。
鎧を着ているにしては異様な軽さだ。
戦士の吹っ飛ぶ音に、勇者は大きく目を見開いた。
涙で濡れた瞳が俺の意志を『しらべる』。
答えは一つだ。
「やあ! 今日はいい天気だな!」
俺は倒れた戦士に猛然と駆け寄り、『鋼の剣』を振り下ろした。
分厚い刃による一撃は甲冑をいとも容易くへこませる。
それで、手応えの軽い理由が分かった。
鎧には誰も入っていない。不思議な力で動いているのだろう。
胸に刻まれた紋章が怪しいと踏んで、剣の切っ先を真上から突き下ろす。すると、不気味な光が失われた甲冑はばらばらになって転がった。
なんだ、うちの畑に鍬を入れるよりも容易いじゃないか。
初めての戦闘にほっと一息つくと、勇者が後ろからしがみつくように『しらべ』てきた。
よっぽど怖かったのだろう。
無理もない。得意とする魔法も通じず、かなり危ないところだったのだから。
俺は彼女が落ち着くのをじっと待つ。
うむ、役得。惜しむべきは、『鋼の鎧』が彼女の柔らかさすらも防御していたことか。
はてさて、彼女がジェスチャーで教えてくれたところによれば、勇者の墓を訪れた目的は封印された呪文を習得するためだとか。
勇者が最深部でそれらしい祭壇に跪いて『しらべる』と、ご先祖様らしき老人が幽霊となって現れた。ありがたいお話は長ったらしいので割愛。
やがて颯爽と立ち上がった勇者は、杖にはめられた宝石の輝きを俺に見せて、深々と頭を下げた。
本当、生真面目な子である。
以後、俺は勇者の旅に同行した。
彼女の大目的は魔物の王を倒し、平和な世界を取り戻すことだ。
……なのだが、困っている他者を見過ごせないタイプらしく、頑固にも『しらべる』コマンドを連打するのである。
そういうわけで、長い旅になった。
元々『力』だけ高い俺だったが、経験値を積んだことで他のステータスもぐんぐんと成長していった。
今となっては名実共に勇者の仲間として一目置かれている。
まあ、どんなに活躍しようと、持たない名前を広めることはできないのだが。
勇者とはどうなのかって?
もちろんトラブルは起きる。何しろ男と女の二人旅だ。
水浴びしているところを覗いてしまったり、宿の風呂でばったり出くわしてしまったり――
顔を真っ赤にして俯く勇者に身振り手振りで謝っていると、ああ、どうして弁解の言葉を喋れないんだろう、と神様を恨んでしまう俺だった。
ある夜、奇妙な街を見つけた。
先日立ち寄った街の住民によれば、「この先にはもう何もないよ」という話だが――
俺と勇者は互いに困惑顔を向け合って、恐る恐る街に近づいていった。
遠く離れていても分かるほどの賑わいだ。
入口に立っていたお下げの女の子が、それはもう嬉しそうに飛び跳ねて出迎えてくれた。
「ようこそ、アラルガンドへ!」
どこの街にでも村人Aみたいな気さくなやつがいるものだ、と俺が笑みを返そうとしたときだった。
「旅人さんですね? グッドタイミングですよ! アラルガンドはお祭りの真っ最中なんです! さあさ、中へどうぞ!」
女の子は俺たちの案内役を買って出たのだ。
勇者が俺の腕をそっと『しらべ』た。その指先は微かに震えている。
ああ、分かっている。
こんなに長い台詞を喋るということは、すでにイベントが始まっている証拠だ。
頷き返し、女の子の後をついて街に入った。
なるほど、祭りというように、家や柵には植物を使った飾りつけをしている。でも、この辺では見かけない形の葉だ。
俺がその葉に手を伸ばそうとすると――
「可愛い飾りつけでしょう!」
女の子が強引に割って入ってきた。
「私たちが作ったんですよ。さあさ、広場はこっちです。もうすぐダンスパーティーが始まりますよ!」
あ、ああ……。
俺は伸ばしかけた手を引っ込めた。
おかしい。女の子の動きが全く予測できなかった。と言うか、まるで一流の剣士を相手取ったかのように気配が感じられなかったのだ……。
強まる不安と対照的に、どんちゃん騒ぎは激しさを増していた。
広場では楽器を演奏する住民と自由気ままに踊る住民に分かれて、思い思いに祭りを楽しんでいた。
空には花火が上がり、夜空を明るく照らしている。
「失礼ですけど、お二人は恋人なんですか?」
女の子に顔を覗き込まれた勇者は、どきりと肩を竦ませた。
その反応に、女の子はにっこりと笑う。
「いいなあ。私も旅に出て、素敵な人を見つけたいなあ。両親に話したら、猛反対されちゃって……ひどいと思いませんか? 世界はこんなにも平和なのに、街から一歩も出ちゃいけないなんて」
どん、という打楽器の音と同時に、家屋が木端微塵になって宙を舞った。
いいや、音が建物を吹っ飛ばすだなんて、魔法のドラムでもない限りありえない。
街を蹂躙したのは、なんの前触れもなく現れたレッドドラゴンだった。
山のような大きさの巨体が尻尾を振るって、家や人を薙ぎ払ったのである。
馬鹿な! あいつは俺たちがアジタート火山で倒したはずだ!
咄嗟に剣を構えようとしたときにはもう、ドラゴンは業火の吐息を繰り出す予備動作に入っていた。呪文の起動も間に合わないだろう。
せめて勇者だけでも守ろうと、盾を構えて前に出る。
なのに、彼女は俺にぴったりと体を『しらべ』させてきた。
何をやっているんだ、きみも死ぬぞ!
押し寄せる炎の波に、なす術はない。
楽器を演奏する人、踊る人、そして隣で笑っていた女の子の姿が蒸発して消えた。
しかし、灼熱は二人を焦がすことなく通り過ぎる。
恐る恐る仰げば、レッドドラゴンの姿はどこにもなかった。
アラルガンドの街もない。
……そうか。
この先には『もう』何もないよ、と先日立ち寄った街の住民は言っていた。
俺たちは幻を見ていたらしい。
草木の生えない荒地には、塀の残骸か何か、崩れた積み石だけが残っていた。
ここには確かに街があったのだとしても、ずっと昔のことだろう。
震えている勇者に向き直ると、彼女は顔をくしゃくしゃに歪めて泣いていた。
俺は無言でかぶりを振り、そっと彼女を抱き締める。
今日はいい天気、ではない。
魔物の王の居城は、踏破不可能とされる険しい山に囲まれている。
抜け道の洞窟を知っている者がいる、という噂を聞いた俺たちは最後の街、リゾルートを訪れていた。
幸い、情報提供者はすぐに見つかった。なんでも、勇者の祖父と共に冒険した賢者らしい。そりゃ、抜け道を知っているはずだ。
賢者と会ってから、俺たちは早くに宿屋入りすることにした。
長旅の疲れを十分に癒してから洞窟へ向かう。そういう計画だ。
だが、アラルガンドの幻影を見て以来、俺は迷っていた。
このまま勇者と共に死地へ赴いていいのだろうか。
骨も残さないような死に方は彼女にしてほしくない。何せ、すごくいい子だ。生き残って幸せになってほしい。
とはいえ、魔王討伐を簡単に中止してくれるほど、彼女の意志は脆くない。
じゃあ、これならどうだ。
俺一人で魔王城に乗り込んで、ケリをつける。
それでうまくいけば万々歳だし、うまくいかなかったとしても――賢者に後のことを頼めばいい。
満月が空に昇った頃、俺はベッドから抜け出し、装備へと手を伸ばした。
そのときである。
こんこん、と控えめなノックが部屋に響いた。
ぎょっとして動きを止めると、扉が軋みを上げてゆっくりと開く。
げ。
そっと室内を『しらべる』ネグリジェ姿の勇者と目が合った。
俺の浅はかな企みなど、『賢さ』カンストの勇者はあっさりと看破していたのだ。
彼女は大股に歩み寄ると、大層お怒りである、爪先立ちで俺の胸倉を掴んだ。
張り倒される。
俺は目を閉じた。
『力』のか弱い彼女の一撃など、大したことはない。
でも、きっと痛いのだろう。
そう覚悟して今か今かと待っているのに、衝撃はいつまでも訪れなかった。
ふっと預けられる体と首に回される腕の感触に、俺は驚いて目を開く。
勇者の顔がすぐ近くにある、と思った次の瞬間には、しっとりとした唇が俺の口に押し『しらべ』られていた。
俺もたまらなく愛しくなって、彼女をしっかりと抱き締める。
身勝手だとお思いだろうか。
だが、本当は俺だって勇者とは離れたくない。生き残って幸せになってほしい? いいや、彼女を幸せにするのは俺以外の誰でもないんだ!
勇者はぷはっと息継ぎをした。
顔がのぼせているのは決して息苦しさのせいだけではないだろう。
澄んだ瞳がこれ以上を求めて大きく揺れていた。
男になるときだ。
こうなったらもう、夜の『ガンガンいこうぜ』である。
勇者を抱き上げてベッドに横たえる。窓から差し込む月明かりに照らされて、彼女の肢体はいつになく艶めかしかった。
俺はごくりと喉を鳴らして囁く。
「やあ、今日はいい天気だな」
彼女はこくりと頷き、自らネグリジェを『しらべ』て――
朝の陽射しにもぞもぞと動くと、俺の胸板を枕にしていた勇者もぼんやりと目を開けた。
あ、すまん。
頭をぼりぼりと掻いた俺は彼女の背中に腕を回し、その温もりを思う存分堪能する。
長旅の疲れを癒すはずが、ちょっとした長期戦になってしまったなあ。
彼女もまた気恥ずかしげにはにかんで、俺を『しらべ』た。ええい、甘えん坊め。
……とまあ、なんやかんやあって。
早くに宿を引き上げた俺たちは、妙ににこやかな宿の主人と賢者に見送られてリゾルートの街を発った。
向かう先は魔王の居城。必ず二人で生きて帰る、と誓い合って。
――え? 肝心の決戦はどうなったか、って?
そのことについてはあまり語りたくないな。
とにかく後味が悪かった。
向こうには向こうの正義があったというだけの話だ。それが俺たち人間にとって善か悪かはさておきとして、な。
傷だらけの鎧が埃を被ってしばらく経つ。
俺は今日もセーニョ村の畑をひたすら耕していた。
相変わらず作物の種を蒔く予定はない。
しかも旅の成果で、力加減を間違えると土を吹っ飛ばしてしまう。
それをいかに抑えるかが、密かな修行となっていた。
そうそう、村は旅に出る前よりも少しだけ賑やかになった。
ほら、広場で追いかけっこをしている男の子と女の子がいるだろう。あの二人は村で新しく生まれた子供である。
そしてもうすぐ、三人目も生まれる予定だった。
背後から『布の服』の裾をちょいちょいと引っ張られた。
そこに立っていたのは、『ゆったりとした布の服』を着た女性だ。
かつて勇者だった彼女は俺の手を『しらべ』、走り回る子供たちを穏やかな笑顔で見守る。
俺は彼女の手をそっと握り返した。
「やあ! 今日はいい天気だな!」