0.「全ての始まり」
俺、「椿大河」は、階段をどこか焦ったように昇る同じ部活に所属する女子、「天野棗」を視認する。
天野さんは部活だけではなく、学校中で有名なハイスペック少女である。
何をやっても優秀。見た目もいい。そして人当たりがよく、優しい。
という、三拍子そろった人間だ。
勿論、そんな人間である天野さんと平凡人間である俺は同じ部活に所属している、という事しか関係がない。
前、話かけられた時も
「なななななな何かにゃ?」
と、どもりながら噛んでしまった。
……コミュ障で悪かったな!
普通ならば、俺は自分から天野さんに話しかけるなどという危険な行為はしない。
だが、その時の俺はどうかしていたのだろう。
どうしても、あることが気になって声をかけてしまった。
「なんで、履いてないの?」
普通、履いてなくてはいけないスリッパを天野さんは何故か履いていなかった。
だから、俺は気になって声をかけたのだ。
だが、その問いに返ってきた答えは意外なものだった。
「いいいいいいい、いや。これにはちょっっっと事情がありましてってか!忘れてお願い!」
話しかけたこっちの方が驚くほどに天野さんは焦っていた。
教師などに見られるのを恐れているのだろうか?
「そんなに、焦らなくても誰にも言わないよ」
俺は彼女を安心させるように声をかける。
「ふぅー、見られたのがで大河君でよかったよ。というか、気にしないでね!むしろ、パンツじゃないから恥ずかしくないもん!的な?」
その瞬間、場の空気が凍りつく音が聞こえた。
「え……どういう事……?」
本来なら、天野さんに名前覚えてもらえていた!と喜ぶ場面である……が、少しおかしな言葉が聞こえた気がする。
パンツじゃないから恥ずかしくないもん!だ、と?
「……え、大河君見たんじゃない、の?」
「俺は、なんでスリッパを履いてないか聞いただけなんだけど……?」
「……」
……先ほどの返答から導き出される答えは一つしかないだろう
俺は彼女の下の方を覗きこむ。
見える肌色。本来みえるべきそれ以外の色彩はそこには存在しない。
本来の用法ではないが、確かに見えたのはパンツではなかった。
「……大変ありがとうございました」
「こっの変態いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
俺は殴られ昇天した。
まさか、天野さんが履いていない事が、あんな事に繋がるなんて……この時の俺はまだ知らなかったのである。
担当:yoshitaka