表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君のために剣を取り……

作者: 宣芳まゆり
掲載日:2012/09/12

あたしは,かわいそうなお姫様.

自国が戦争で負けたために,敵国へ嫁いできた.

真っ白なベッドの上で,夫となる王子様を待つ.

婚儀は明日だけど,おそらく今夜が初夜.

本音を言えば,すっごく怖い.

名前しか知らないけれど,王子様はろくな男じゃない.

がたがたと震えながら待っていると,控えめなノックの後で,ひとりの男の子が寝室に入ってきた.

十五,六才程度かな?

くり色のふわふわした髪で,明るい緑色のくりくりした瞳.

男の子はあたしを見て,うれしそうに笑った.

「初めまして,ラウラ.」

「はぁ?」

あたしは顔をしかめた.

「あんた,誰? 王子様のお小姓?」

……の割りには,いい服を着ているけれど.

「え? ちがいます.」

男の子は,ほおを赤くして正体を明かす.

「私はジェラルドです.あなたと夫婦になる王子です.」

あたしは,じっと観察した.

中肉中背,腕力はそんなになさそう.

暴力に訴えられる心配はないわよね?

美形とは言えないまでも,顔はいい方に分類される.

「女の工面に苦労する容姿に思えないけれど.」

「工面って,」

王子様は,もごもごとしゃべる.

「敗戦国から姫を召し上げなくても,お嫁さん候補はいっぱいいるんじゃないの?」

あたしの追及に,あぅぅぅと言葉を詰まらせた.

赤面症の王子様は,いちいち動きが小動物っぽい.

かわいいと思うけれど,あたしは年下は趣味じゃない.

彼の国と,あたしの国は戦争をした.

いや,戦争をしたという表現は正しくない.

戦場に兵を配置したのみで,あまりの兵数の差に,すぐに降参したのだ.

剣を交えることも,矢を放つことも,馬を進めることもなく.

でも,賢明な判断だと思う.

戦場は,和平交渉の場になった.

兵を引く条件はひとつ.

姫をひとりちょうだい → いき遅れの十九才でよかったら,どうぞ → わーい,ありがとう.

ってなわけで,あたしは少数の部下とともに,花嫁衣裳を抱えてやって来たのだけど.

「武力でごり押ししないと結婚できないなんて,どんな不細工な面と思いきや,普通じゃない.」

王子様は,しゅんとうつむいている.

「性格が悪いとか,……変な性癖があるんじゃないでしょうね?」

妹たちを嫁がせずによかった.

ちなみにあたしは長女で,妹は四人いる.

「うちの国と姻戚関係を結んでも,利益ないわよ.」

あたしの国は,田舎の小国.

国土のほとんどが山で,農耕可能な平地は少ない.

また大陸交易路から離れた場所にあり,経済的な発展とも無縁だ.

「わ,私は!」

いきなりジェラルドが叫んだ.

「妻を迎えるにあたって利益など求め,……いや,その,」

しりすぼみに声が小さくなる.

「そんなもののために,軍を率いたわけじゃ,……あ,ああああなたのために,」

「ちょっと,待ったぁ!」

聞き捨てならない言葉があった.

「あんたが軍を率いて,うちの国に来たの?」

あの大軍を指揮して?

国境の険しい山脈を越えて?

頭の悪そうな顔をしているのに,実は有能?

王子様は,こっくりとうなずく.

あたしは頭を抱えた.

こいつが指揮官? 信じられない.

しかし,ならば問いたいことがある.

「なぜ戦いをしかけてきたの?」

今まで友好的だったのに,いきなり攻めてきたのだ.

「実は,」

ジェラルドが近づいてくる.

「私は次男なのです.」

彼の影が,ベッドに落ちる.

「でも王位をつぎたいのです.逆に兄は,玉座はほしくないと言っているのです.」

あたしは座ったままで,じりじりとベッドの奥へ逃げる.

「だから武勲を立てて,兄から継承権を奪うつもりなのです.」

背中が壁にぶつかった.

「つまり名誉を得るために,うちの国に侵入してきたんだ.」

あたしは,ジェラルドをにらみつける.

「あんた,賢いよ.うちの国なら簡単に勝てるものね.」

略奪をしない,規律正しい軍隊だったと耳にした.

よって,和平もすんなり決まったと.

「それで快勝したから,とりあえず,あたしをもらったんだ.」

誰でもいいから姫を差し出せ,という命令だった.

あたしは唇をかみしめて,下を向く.

みじめだった.

「ごめんなさい.」

謝る王子様の声が,追い討ちをかける.

「でも私は,ずっとあなたに会いたかったのです.」

戦利品として女を要求する男のもとへ,妹たちをいかせるわけにいかない.

あたしはすぐに,自分が婚姻すると決めた.

「普通に求婚しても断られそうでしたし,年下は嫌いだと聞いていましたから.」

侵略者の王子がどんな醜悪な姿をしているか確認してあげるわ,と笑って国を出た.

「おじさんの方でも,なかなか結婚しない,多少,強引なことをしてでも嫁に行かせ,」

「はぁ!?」

あたしは顔を上げる.

ジェラルドは驚いて,まばたきをした.

そして,やんわりとほほ笑む.

「ラウラ,あなたは口は悪いが,とても優しく面倒見のいい女性だと,」

「今,何て言った?」

最初から妙だと感じていた.

「ラウラって! あたしの愛称を,なんで知っているのよ?」

彼は,しまった! と目と口を大きく開ける.

「あ,あの,ララスコーヴィヤ姫.」

ひきつった笑いを漏らす.

「今さら,ごまかすな!」

あそこの国の第二王子は,どうだい?

縁組みを勧めてきた父親のにこにこ顔がよみがえる.

年下は嫌と断った,みずからの言葉とともに.

「お父様と示し合わせていたのね!?」

あたしは怒って,立ち上がる.

「ごっ,ごめんなさい!」

ジェラルドは真っ赤になって謝った.

「責めるなら,私だけを責めてください.作戦を考えたのは私ですから.」

しかも立案者はお前かよ.

「誰でもいいから姫をと請えば,あなたが自己犠牲精神を発揮して,名乗り出ると予想していました.」

最悪だ,とんでもない策士だ.

「国へ帰る!」

あたしはベッドから飛び降りる.

ずんずんと歩いて,寝室の扉へ向かった.

あぁ,ばかみたいだ.

あたしはかわいそうなお姫様,なんて自己れんびんすら,こいつの手のひらの上.

泣いて引き止めた妹たちも,涙を隠したあたしも,とんだ道化だ.

思い返せば,父と母は平然としていた.

扉の取ってに手をかけたとたん,

「待ってください!」

がばりと後ろから抱きつかれる.

「逃げないでください,お願いします.」

非力でかよわい,すがる声.

「どうしても逃げるのならば,兵士たちに号令をかけて,城の出入り口をすべて封鎖しま,」

「権力を,こんな私的なことに使うな!」

やつのわき腹に,ひじてつをくらわす.

うずくまる,無害そうで有害な王子様.

腹を抱えて,うるうるお目々で見上げてくる.

「あなたのために,剣を取り戦ったのにぃ.」

「実際には戦っていないでしょ!?」

ジェラルドは,ふっと表情をかげらせる.

「たまには軍隊を編成して動かさないといけないのですよ.今は不況で,国民に仕事がないので.」

「公共事業かよ!?」

あたしはぎゃーぎゃーとわめく.

もうこの時点で,彼にほだされていることに気づいたのは,結婚してから一年後のことだった.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも頑張ってください(*^-^*)
2012/09/12 20:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ