2.だますのも、たまには仕事で必要です?
まだ暗い内から夜勤の仕事は動き出す。
宵明けのオレンジとブルーの対照的な色合いが、交差しグラデーションを作り始める頃に…ゴソゴソ…ガサガサ…。
「あっ!また〜こんな早朝から起き出して〜。どこに行きますか?」
「主人がね、仕事に行きますでしょ?朝食を作って送り出さないとね」と、やや認知症が出ている入所者が、活動開始する時間。
「そーですかー…それは、ごもっとも」…さて、どうしたものか?
「では、私が変わりにご飯炊いておきますから、もう少し寝ていて良いですよ?ご主人も、まだ休んでいますし」と、応えて相手の反応を待ってみた。
「そう〜?でも悪いわねぇ〜三合よ?間違えずに炊ける?」と、心配そうな表情が母の顔になっている。「大丈夫!この間も間違えずに炊けたからっ!」にっこり、任せて!と胸を張って言うと安心したのか、ベッドで横になってくれた。
「…ふぅ。やれやれ…」ピンポーン、ピンポーン。
ナースコールが鳴り出した。「おっと…慌ただしくなってきたきたっ!さあっ!闘いだっ」と、ナースコールに応えるべく、足音を極力抑えつつバタバタと戦場へ駆けていく。
「……ということで、302号室の…さんが朝4時起きして、ご主人に朝食作ると言われていました。…と言う説明で、納得されたのか、その後は7時に起こしに行くまで、よく休まれています」と、夜勤者と日勤者の申し送りを済ますと
「やっと終わった〜お疲れさまでした〜…」
今から仕事始まりの皆さんを横目に、先に帰るという、この何とも言えない爽快感?達成感?に浸りながら施設を脱出。
「結果、だましちゃったな…あたし女優になれるかな〜。いや、詐欺師か?」相手にバレてない分、詐欺に近いかもな〜。
と、とりとめのないひとり脳内会話を楽しんでいた。
ふっ…と、ブルーに晴れた空をフロントガラス越しに眺めて、信号待ちをしていたら、昨晩一緒の夜勤だった人が言っていた美術展を思い出した。
「このまま帰るのもったいないから、行ってみよーかな…」美術展といってもショッピングセンター内にある、美術館分館での展示なので、買い物もついでに出来るし。
よしっ!行ってみよー。
…と、思い立ったのが
運のつき。
そして、「…なんだって、こんなことになったんだ…」に繋がるわけである。
読了ありがとうございます。今までと書き方を変えてみたら、意外と大変だったりして。手探りです。拙い文章でゴメンなさいです。