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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
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最狂の超能力者・八話および本編三十六話

「深夜、今日は学校で何か良いことでもあったのか?」

 父との会話。

 僕の心は満たされない。


「深夜、あなたは白令家の跡取りなんだから。もっと自覚を持って振舞いなさい」

 母との会話。

 僕の心は満たされない。


「なあ深夜、今度俺んち遊びに来いよ、お前なら歓迎するぜ」

 友人との会話。

 僕の心は満たされない。


「あの……ごめんね、こんなところに呼び出して、深夜君」

 見知らぬ女子との会話。

 僕の心は満たされない。


「一緒に帰ろう、深夜」

 葉ちゃんとの会話。

 俺の心は――――。


「どうしたの? 怖い顔してる」

「……ごめん葉ちゃん、なんでもない」

「? ……あー。そっか、大丈夫だよ、私なら待ってるから。我慢しないで出すもの出した方がいいよ」

「うん、違うから。別にお腹壊したとかじゃないから。変な気遣いやめて」

「我慢しないで出すもの出した方がいいよ」

「違うって言った」

 というか繰り返し言わないでもらいたい。なんかこう、この子に品が無いことは言ってほしくないというか。

「大丈夫だよ、私なら待ってるから。中で」

「中で!?」

「うん。一緒に」

「一緒に!?」

 そんなことされたら出るものも出ない。そもそも出ないのだけども。

「別に誰かに見られたりしなければ、男子トイレに入るぐらいどってことないよ、私」

「僕はどってことあるの!」

「むしろ一緒に入るところを誰かに見られたい。変な噂を立てたい。既成事実からの婚約、ひゃっほう。というわけで一緒にトイレへレッツゴー」

「やめなさい。君はもう少し品性を身に着けるべきだ……あと別に何も我慢してないからね?」

「うるさい。いいから出すもん出せや。トイレだから誰にも見られないって」

「カツアゲにしか聞こえない……いやカツアゲの方がマシのような……あと別に何も我慢してないからね?」

「なんだ、出ないの? 本当? じゃあもう、深夜が私のトイレに連いてくればいいよ。それで万事解決だよ?」

「だよ? じゃなくて。何も良くない。万事無解決」

「個室だから声さえ出さなければばれない。だからとりあえずトイレデートとしゃれ込みましょう」

「しゃれ込まない。ていうか妙なデート作んないで」

「えー。狭い個室で男女が二人っきりよ? することと言えば一つよ? 憧れない? そんな状況」

「憧れないでもないけど、ほら、僕ら小学生。健全な関係を築いていきたい。あとすることは一つって何? 僕ちょっとわからない」

「原始の本能に身を任せることこそが、現代人に不足し勝ちな、人間本来の姿だと思うの、私」

「現代の理性で身を尊ぶことこそが、現代人に不足し勝ちな、人間由来の姿だと思うんだ、僕」

「御託はいいから女の子の言うことには素直に身を委ねてればいいのよ。それが人生性交の秘訣よ」

「葉ちゃん、世の中は御託を並べることで成り立つんだ。あとなんか“人生成功の秘訣”の発音がいかがわしくない?」

「あらら、そこに食いついちゃう? そこに食いついちゃう? ねえ、私、今どんな発音で“人生成功の秘訣”って言った? 深夜、りぴーとあふたみー」

「人生性交の秘訣」

「きゃー」

「何言わすの!?」

「ねえねえ、それは一体どんな秘訣?」

「知らない!」

「いいから私に教えるといいよ。身体でね!」

「ちょっと黙ろう」

「もー、顔赤くしちゃって可愛いなー。ういやつ、ういやつ」

「君はもっと貞操観念を大事にすべきだ……」

「てーそーかんねん? って何?」

「男女が過ちを犯さないようにするための理念」

「男女が犯し合わないようにするめの理念?」

「何でわざわざいかがわしい言い方するかな!? わざとだよね!?」

「だってあれよ。私からいかがわしさを取ったら、そこにはモザイクしか残らないよ?」

「モザイク!?」

「つまりね、いかがわしさを取り除いた私の本質的な姿は十八禁なの。それは十八金よりも美しく、そして眩しいの。もはや古代ローマの彫刻のごとく」

「古代ローマを引き合いに出さないで……」

 というかこの世界にローマってあるのかな? んー、……いや、あるある、西の最果てにそんな感じの小国があったような。

「あの彫刻ってさ、凄いよね。色々丸出しなのに教科書に載っても全然規制されないんだよ? まさに十八金より美しき十八禁。神々しいって得。私もそんな、何ものにも規制されない女の子になりたい。自主規制なんて毛ほどもする気はありません」

「葉ちゃん、都条例のハードルは高いよ?」

「なら下を潜ればいいのよ。ハードルは高いほど容易なの。法の目を掻い潜って、こう、ずばずばっと」

「ハードルの下は基本的に落とし穴だよ。そんなことも知らない葉ちゃんに、法の死角を突く資格なんかない」

「死角だけに?」

「死角だけに」

「丸く収まらず四角く収まる話だね!」

「ごめん葉ちゃん、意味が分からない」

 だからそんなドヤ顔されても困る。

 困るので、とりあえず撫でておく。

「うゅー」

 なんていうんだろう、この可愛い生物。小動物みたい。持ち帰っていいかな。むしろ持ち帰られたい。

「さ。いい加減、帰ろう葉ちゃん」

 頭から離した手を、代わりに差し出す。

 入学式の時と同じように。

 僕は深夜なのだから。


「うんっ!」



◆◇◆◇


 どうしてだろう。


 どうして誰も、俺に気付かないんだろう。


 俺はここに居るのに……。


 皆、“僕”のことしか見ていない。


 僕はこんなにも幸せなのに、誰も俺のことなんか見ていない。


 両親も友人も、葉ちゃんも。


 僕のことを認め、信頼しているはずなのに。


 俺のことは否定し、無視し続けている。


 無視。

 無私。

 なんだその虫の良い話は。


 僕がいれば俺のことなんかどうでもいいのか。


 深夜がいれば深月は必要ないのか。


 でもそれでいいじゃないか。


 だって僕は幸せだ。


 “僕”は“俺”なのに、皆いいように騙されてへらへらしてる。


 誰も気付いてない。ばれてない。ばれたくない。


 誰か気付いてほしい。ばれてない。ばれてほしい。


 ばれでばいい。


 そしてばらばらになればいい。


 ばれたくない。


 まだばらばらは嫌だ。


 僕はもっと、この生活を楽しんでいたいんだ。


 でも俺はもう、こんな生活は嫌なんだ……。


 嫌だ。


 誰か俺を見て。


 深夜じゃない。


 深月だ。


 でも僕が望むのも、俺が望むのも深月じゃない。


 深月なんて人間は誰にも望まれていない。


 それは自分が一番よく分かっている。


 深夜がいなくなったから、だから深月が代わりに深夜になったのだ。


 そこに不都合な点はない。


 僕に不都合な点はない。


 だけれどじゃあ、深月はどうなる?


 兄に憧れ、嫉妬し、皆から望まれようと、自分の居場所を探し続けていた深月は、結局報われないままじゃないか。


 だってここにいるのは深夜なのだから。


 皆が見ているのは、深月じゃなくて深夜なのだから。


 ずっとずっと、誰かから認めてほしかった深月は、最期まで誰にも認められずに消えていくのか。


 そんなのは嫌だ。


 僕が嫌なのではない。


 未だ胸の奥に渦巻いている“深月”が叫んでいるのだ。


 泣いて、いるのだ。


 こんなのは寂しいと。


 気が狂ってしまいそうなほどに。


『じゃあ狂おうよ』


 ?


『消えていくのが苦しいなら狂えばいいよ。消えていくのが怖いなら壊せばいいよ。苦しく狂い、怖くて壊す。くすくすくす――――下らない駄洒落だねえ』


 お前は――――神か悪魔か?


『ん。どこぞの異無 良人とは違って察しがいいね。そうさ、僕はあくまでも神さ。悪魔でも神だよ』


 ……どっちつかず。


『どっちつかずと言うより、どっちでもない、だ。だからどっちでもある。……まあ、君にどっちつかずとか言われたくないけどね。深夜にも深月にも成りきれない、君には』


 !


『改めまして、僕の名は現。世界より偉く、世界より下等な、ただのゲテモノさ。キワモノでも可』


 何の、用?


『用? いやだから最初に言ったじゃん。苦しいなら狂え、怖いなら壊せって』


 意味が、わからない。


『意味はわからなくていいんだよ。意味なんて無いんだから』


 は?


『でも人間は、意味の無いことに意味を見出すことが出来る。見出すと言うより、それはただの錯覚なんだけど』


 意味が、


『分からない。意味が分からない。だから勝手に見出して勝手に錯覚しろって言ってんの。ぶっちゃけ僕にとっては君のことなんかどうでもいいんだ。さっさと話し進めたいんだけど、いい?』


 ……俺には、どうでもよくない。


『あっそう。まあ君の意見はどっかゴミ箱にでも置いといて。話は簡単だ。僕が君に意味を錯覚させてあげよう』


 俺の、意味?


『うん。君は何を望む? 白令 深月が生きた意味。それを問う』


 深月の、意味。それは、


『はい駄目! 三秒ルールでアウト! よし、優柔不断な君の代わりに僕が決めてあげる』


 はあ!?


『君の意味はね、種を覚醒させることだ。種を鍵へと覚醒させることだ』


 種を、鍵へ?


『そのために、君には少し狂ってもらう。いや既に君は十分狂っているんだけれど、その本性を抑制出来なくしてあげる』


 狂う?


『狂う』


 狂う。


『狂え』


 狂え。


『狂った』


 狂った。


『くるくる回る『狂狂回れ『全て壊そう『親も友も、『大好きな葉ちゃんも――――

『そうすれば楽になる『保つより壊した方が楽でしょう?『辛いんでしょう? ――――

『楽になろうよ『楽になれ『楽になる『楽に『楽しく『解き放とう――――

『壊そうよ『壊せ『壊れろ『壊れる『壊れた『こわれた――――

『狂え『狂う『狂った『何も『かも『君の『想い『通り『だ――――

『さあ、やりたいようにやればいい』


 おれは、


『最狂の超能力者』



◆◇◆◇



 僕の頭はおかしい。

 いつからかは分からない。

 ただ僕には好きな人がいる。

 葉ちゃんだ。

 僕はこの子を壊そうと思う。

 理由?

 理由なんているの?

 人を好きになることに理由はいらないんだぜ?

 人を壊すことにも理由なんかいらないんだぜ?

 強いて言うなら満たされないからかな。

 強いて言うなら満たされたいからかな。

 心の底にある、どうやっても満たされない黒い点。この黒い点がなんなのかは、もうよく分からない。だけれど埋めなければ気がすまない。気が狂うほどに気が気じゃない。

 そんな頭のおかしい僕も六年生になる。

 六年生の卒業式。

 そこで全て終わらせようと思う。

 全て壊そうと思う。

 僕の全ては葉ちゃん。

 だから壊せ。

 終止符とピリオドを打ちまくろう。

 だっていらないんだ。

 結局、どうやっても深月を認めてくれないのだから、いらないんだ。

 深月が誰のことだったかは忘れたけれど。

 けれどきっと、深月もそれを望んでいる。


 ――――本当か?


 ――――本当に俺はそんなことを望んでいるのか?


 望んでいるのだ。

 僕がそうと言えばそうなのだ。

 アッはァあは、アハはははハは、アハハはハハハははははは、


 シナリオはこうだ。


 僕が作った、


 最高に最低な茶番劇。


 まず、葉ちゃんをいじめていた黒幕は僕ということにする。

 一年の初めから、僕は葉ちゃんをいじめていた。十五組の生徒を影で脅して。

 そしてそんな哀れな葉ちゃんを救い、ヒーローとなるために、僕は四年生に進級すると同時に十五組に転落する。

 全ては僕が仕込んだことにする。

 だってそっちの方が、葉ちゃんは傷付くのだから。

 黒幕など元からいないのに。

 滑稽だァ。


 ああ、それとあいつも茶番劇のモブキャラとして活躍してもらう。

 異無ナントカだ。

 実にイライラする虫虫しいクソだ。

 あのクソ虫には一つ勘違いをしてもらう。僕が葉ちゃんをずっと騙してきた、と。

 そしてクラスメイトを操り、僕の元へおびき寄せる。

 寄って来たところをぶち殺す。

 気の済むまで。

 気の済むまで!


 何故かって?


 あひゃひゃひゃひゃハハハ、


 何が不思議なものか。

 異無だよ、異無。

 僕が天才医幼女――――今は医少女なんだっけか?―――異無 美唯に何をされたのか、覚えていないとは言わせない。

 あの気違いへの見せしめだ。


 あっっはハはハッはははははっははははははっははっははハハッはハハハhハはハッはhあっはっははははっははっはははははははははははははははハ!!


◆◇◆◇



 ……。

 …………。

 ………………。



◆◇◆◇


 白い。

 一面、真っ白。


 僕は走馬灯を見ていた。


 ずっと前の記憶。

 どこぞの誰かによって、世界が繰り返される前、本当にずっと前、僕が辿った、一番初めの記憶。始まりの世界の記憶。

 どうして、その時間軸での記憶が思い出されたのかは分からない。

 走馬灯として見るのなら、他の時間軸での記憶でも良かったはずだ。繰り返され続けて来た世界の、一周目以降の記憶、それでもよかったはずだ。葉ちゃんの能力発動範囲内に存在する、今の僕には、それら全てが把握出来るのだから。

 まあ、そのどれでも、結局僕の頭は狂うのだけど。

 何度世界が繰り返されても、僕の人生は大差無かった。

 ただ配役やイベントの時期が異なるだけで、終局は同じ。

 深月は間違え続け、誰にも認められず、やがて頭がおかしくなる。

 どうしてだろう。

 誰の陰謀かは知らないし、どうでもいいけれど。

 僕は――――俺は、いつだって間違えていた。


 今も。

 俺は人生の選択を間違え続け、そして現在、どこぞの無能力者に敗れ、絶賛死に掛けてるところだ。

 何がどうなったんだっけな。

 

 俺が異無の野郎に再戦を挑み。

 勝つ一歩手前で魔眼が暴走。

 向こうは向こうで、何やらわけのわからん特殊能力を使い、

 そして相打ちに至る。


 茶番だ。

 この上なく。

 最低に最低。


 だけれど、それも悪くない。

 こんな死に際も悪くない。

 俺らしい、下らない散り際だ。



『なあ、兄ちゃん』


『ん?』


『ごめん』


『うん。許す』


『本当?』


『嘘』


『そう』


『僕はお前を永遠に許さない』


『そうだよな』


『そうだね。勝手に人の名前使って、何やらかしてんの。頭おかしいんじゃないの? おかげで僕の株価はウナギ下がりじゃないか』


『あんた、そういうこと気にしてたんだ』


『当たり前じゃん。だから僕は偽善者なんだって。人の目が気になって仕方なかったんだ、昔っから。僕はそういうやつさ』


『ああ、……そっか。だからか』


『だから自殺した。四年生の後期後半に焼身自殺。耐えられなくなったんだ、皆の期待に応え続けることに。簡単な動機だろ? 僕はね、弱かったんだ。だからずっと深月が羨ましかった』


『俺が羨ましかった?』


『うん。誰からも認められてなかったのに、あんなにみじめだったのに、一人で生きていける自己の強さがね、羨ましかったよ。僕が深月と同じ境遇にいたら、すぐに自殺してただろうね。なにせ僕は、あんなにも大勢の人に支えられながら、それでも自重に耐えられないほど弱かったんだから』


『何だ嫌味か』


『嫌味だよ。僕は元来、こういう嫌味なやつなんだ。内緒だからね?』


『大丈夫、俺の口は風船よりも軽い』


『頭も、でしょ?』


『本当に嫌味なやつだったんだな……』


『あっはははは』


『――――はは。……じゃあ、俺はもう逝くよ』


『そう。じゃあね、深月』


『じゃあな、深夜』


『あ、最期に一つ』


『ん?』


『深月』


『なんだよ』


『ぶっちゃけ僕、お前のことあんま好きじゃなかったけど』


『おい』



『それでもお前は、僕の弟だ』



『……相変わらず、兄ちゃんは凄いね』



◆◇◆◇


 やっと本編に戻ります。

 盛大な寄り道に付き合って頂きウルトラ感謝&分かり難い描写と構成で申し訳なく思います。なんか私、後書きで謝ってばかりのような……気のせいですか。


 で、本編にさして問題は無いので、本当はこの過去編、全カットでも良かったような気もするんですけれど、でも深夜が一体どういう人間だったのかということをどうしても知ってもらいたく、思わず書いてしまった次第です。

 悪人に成りたくて成る人間はいない、やつらにはやつらの事情がある。だから深夜に悪印象だけが残ってしまうのが憚られ、なんとか払拭しようとしたのがこれ。

 ……え? 余計印象悪くなった?

 ああ、はい、実は私もそう思ってしまいました。どうして私は頭のわいてるキャラしか書けないのでしょうか。私の頭がわいてるからですね。なるほど。

 無駄に長かった、というか冗長だったこのシリーズもいよいよ大団円。まだ一章目なんですけれどね。これ以上続くのかどうかは謎です。

 では次回の『最終話』にて会えることを祈ってます。

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