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最強の無能力者  作者: まさかさかさま
第一章・動き出す指針
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最狂の超能力者・三話

「白令 深月と言います、よろしくお願いしまちゅ」


 しまった、噛んだ! 自己紹介で噛んじゃった! しかも物凄い真剣な顔で! 馬鹿みたい俺!

 ていうかどうしよう、何この空気。何で皆、無言でプレッシャーかけてくんの? ただ単に笑われた方がよっぽど楽だよ、超気まずい。

「……。……」

 ……ん、あれ? なぜに先生無言なの? 次の人に進めないの? 自己紹介。……まさか、こっからまだ続けなきゃいけなかったり? えええ、いやこれ以上何も考えてないから。これ以上続けてもただの晒し首だから。ていうかだったら、俺に自己紹介続けさせたいんだったら、先生も先生で何か質問したり続きを促したりしてくれよ。だから何なの、その無言のプレッシャー。いや睨まないでよ。何か言ってよ、お願いだから。

「……ええと、あの、その、いい天気ですね?」

 知るか! 本物の馬鹿か俺は! 窓見てみろよ、ザーザー降りじゃねえか!

「あ、いえ、いい天気だったら良かったですね? でも俺、いや僕、雨も好きですよ? 春なのに」

 だから知らないよ、誰もお前の季候トークに興味なんか無いんだよ! だからもう奇行を積み重ねるな……。ていうか“春なのに”ってどういうこと? 春だと雨好きになっちゃいけないの?

「……」

 ……。

 え? もしかしてまだ続けなくちゃいけないの? もう終わりでよくない? 何とか言って下さい先生、着席がしたいです先生、諦めてそこで試合終了がいいです。

 他の皆も何でずっと黙ってるんだよ、ていうかおい、そこの兄、目を背けるな、助けて下さいお願いします。

「あはは、こんな季候トークに興味なんかないですよね、奇行なやつでごめんなさ――――」「白令 深月、制限時間は一分と言ったはずだが? 既に三分経過している。授業進行の邪魔だから早く消えてくれ」


 死にたくなった。


◆◇◆◇


「どんまい深月」

「……」

「いや、ごめん……僕も流石にあの空気で助け舟は出せなかったんだ」

「もう帰る。お家帰る」

「ちょ、待っ、落ち着いて落ち着いてっ」

 伏せた顔を上げ、席を立とうとする俺を止める兄。止めないでくれ、俺はもうここにはいられないんだ。

「大丈夫だって、これから頑張ればいいって」

「うん、いや何をどう頑張って何をどうしろと? 具体的に言われないと分からない、俺、兄ちゃんと違って馬鹿だから。……あのさ兄ちゃん、そんな誰でも誰にでも言える月並みな励ましに意味なんか無いんだぜ」

「お前、変なところだけ小学生っぽくないよね」

「変なところ以外も小学生っぽくない人に言われたくない」

 あの執事との邂逅から数日が経過し、今日は小等部に入学してから初の授業日である。

 俺は見事一組に入学することが出来た、いや、出来ていた。本当に、自然に、成るべきことが成ったかのように、事実は何者かの手によって改変され、代わりに嘘実が真となった。

 親には、あれから“学園の検査ミス”という知らせが届いたらしい、父は無言で俺を家に入れてくれた。認められたのかどうかは、実際よくわからない。皆、訝しげな、なんとも言えない表情で俺を見ていたから。もしかしたら、裏では俺と一二三 五六による学園との取り引きがバレているのかも知れない。

 色々定かではないし、俺が望んでいた家内達からの良好な認知は得られなかったけど、だけれど後悔は無い。正しくは、後悔は無かった……先程までは。

 俺は今、大いに後悔している。これからこのクラスでやっていけるのかどうか、全然自信が無い。ここでも誰にも認められなければ、自分でも自分の存在を認められなくなってしまいそうで怖い。

 ていうか何? 小学生ってどこもこんな感じなの? ぱっと見ただけでも、クラスメイト達は友好的な感じでないことが見て取れる。殺伐としている。誰もが誰も、雑談の一つもせず自習に専念している。いや、一応会話してる奴も居るにはいるが、それが何語なのか全く分からない。多分、俺みたいな凡人とは根本的に脳の作りが違うのだと思う。

 これが一組。

 過酷なクラスだとは予想していたけど、これは予想していた以上、いや予想出来る範疇を飛び抜けている。

 こいつら本当に小学生か? 今まで、外で小学生らしき子供を見掛けても“ガキっぽい”以上の印象は受けなかったが、何だこいつら。仲良くなれる気がしない。

「それにしても、深月と同じクラスになれるなんてね」

「何だよ、その含みのある言い方」

「ああ、ごめんごめん、別に嫌味で言ってるわけじゃなくて。深月、僕の見てないところでも頑張ってたんだなーって思ってさ。僕はてっきり、深月はもう少し下のクラスになるかと思ってたんだけど、これからは考えを改めないとね」

 一瞬、心臓の鼓動が早くなる。

 落ち着け俺、バレてない、バレるはずがない。今はまだ。

 だけれど、いつか兄には見抜かれてしまうかも知れない。いや、見抜かれるだろう、絶対。俺に、一組に在籍するだけの実力が伴っていないということに。

 これから、更に過酷な現実が俺を待ち受けているだろう。白令家の訓練よりも更に常識を外れた、学園による人体実験とやら。俺はそれにより、本物の実力をつけなければならない。

 実力のつく確証は無い。生存の保障も無い。だけれど、やらねばならない。

 それが一組に居場所を構築するための絶対条件であり、交換条件だから。俺が俺として認められるための必要条件だから。

 俺は俺の存在を確証するために、俺の安全を保証しない。


「降るねえ、雨」


 兄はその呟きに何を思ったのだろうか。


◆◇◆◇


 時は経ち、一年生の後期。

 俺はいじめを受けていた。

「もう嫌だ」

 何故こうなったのだろうか。俺に何の落ち度があったのか。

 いや、最初から落ち度しかなかったのか。九十度ぐらい落ち度があった。

 俺はあれから、何をやっても上手くいかなかった。

 俺が俺であれる友達を作ろうとしたけれど、誰も相手をしてくれなかった。

 俺が俺であれる居場所を作ろうとしたけれど、誰も相手をしてくれなかった。

 俺が俺であれる環境を作ろうとしたけれど、誰も相手をしてくれなかった。

 だから相手をしてくれるまで自身のアピールを続けた。

 そしたらいじめられた。なんかうざかったらしい。

 そこでようやく気付いたのだ、何故誰も俺の相手をしてくれなかったのか。

 簡単な話しだ。

 俺が俺であろうとしたことがいけなかったのだ。

 当たり前だ。

 自分が認められることしか考えず、他人を認めることを考えていなかったのだ。そんな人間が人から認められるはずがない。

 俺はいつもいつも、俺、俺、俺。一人称のオンパレード。確かに人間、大事なのは“俺”という自己なのだけども、でも俺を俺と認めてくれるのは俺ではないのだ。俺が俺を俺と認めても、それは簡潔な、ただの自己完結でしかない。人間関係は、まず相手を認めることで構築されていく。自分が相手をどう思い、その自分をどう相手に思わせるのか。自分が自分をどう思うかではなく、相手が自分をどう思うのか思うのでもない。

 その辺りの事情に、最近ようやく気付いた。原因は兄の一言。

『深月、人称を増やさなければ認証は得られない』

 言いたいことは分かるけど。おかげで色々気付けたけど。そのセンスの無い駄洒落はどうなのだろうか。

 といっても、今更、である。

 今更相手を気遣ったところで、現状を打破することは出来ない。ただでさえ自己意識過剰、自信過剰、排他的、高圧的、高慢ちきの集まりなのだ。そんなやつらに俺は今いじめられているのだ。その内容はなんとも筆舌し難い、なんかあらゆる方面でレベルの高いものばかり。

 例えば、あれだ。

 給食の時。口の字型に机を並べ、その中心に俺の席を起き、全員で無言の圧力を掛けながら黙々と食べる。影でひそひそ話ししたり、くすくす笑ったり。かなり大掛かりな割りに陰湿な、とてもシュールな情景が生まれる。つうか怖い。

 例えば、他にも。

 掃除の時。俺の席にインクをぶちまけ、そして洗い流す。でもってまたぶちまける。また洗い流す。これを延々と繰り返す。その席の持ち主を椅子に縛ったまま、である。で、最終的には新しい制服を用意してきて無理矢理着替えさせる。結果、なんか最終的にはさっぱりする。奴ら妙なところで律儀なんだよ、流石エリートども。

 そんな感じのいじめを四六時中仕掛けてくる。バリエーションは尽きない。ていうかあいつら、暇なのか忙しいのかよく分からない。基本的に自習で忙しそうにしてる癖に、いじめとなると一致団結して時間を作るのだ。うん、そこまで夢中になるほどうざかったかな、俺。それとも実は俺のこと好きなんじゃないのか? いやそれはないだろうけど。

 一年一組怖い。頭が異常に良い割りに、精神年齢や人生経験が半端で、子供として内情的なバランスが悪いのかも知れない、しばしば行動が間違った方向に偏ってたりする。

 諦めるしかないのか。

 結局、誰も俺を認めてくれないのかと。兄以外は。

 でもいくら兄に認められたところで嬉しくもなんともない。あれは俺に同情しているだけであり、対等な関係から認めているのではなく、あくまで上から、“駄目な深月”を“駄目な深月”として認めているのだ。ふざけるな。俺は“駄目な深月”としてではなく、“白令の深月”として認められたいのだ。

 だけれどもう、嫌だ。耐えられない。疲れたんだよ。

 俺の精神を蝕む日常は、何もクラスメイト達からのいじめだけではない。というより、そちらはどっちかというとオマケに近い。そんなことよりもっと常軌を逸した日常が俺にはある。

 そう、学園による人体実験だ。

 どうかしている。舐めていた。実験体に人権なんかありはしない。俺はやっぱりアホだった、どこまでも。何故簡単に、あの執事の提案を呑んだのか。もっと他に方法はあったはずなのに。なかったとしても、それは選ぶべき選択肢ではなかったのに、選んでしまった。

 今日も、放課後研究所に向かわなければならない。そこで始まるのだ、俺の精神を崩壊せしめようとする人体実験が。もう行きたくない。だけれど行かなければ俺の今後は保証されない。人生、という意味での今後だ。いや、もう既に人の生活ではないから人生とは呼べないのかも知れないが。

 もはや、何故俺の精神は今もってなお存在出来ているのか分からない。壊れてしかるべき精神が、今健常な状態でここにあるのだ。それこそが異常だ。学園は俺の脳で何をしでかしているのか。記憶を手繰り、人体実験中の詳細を思い出そうとしても、靄が掛かったように思考が疎外される。残るのは、着々と磨耗していく自我。

 抜け出したい、逃げ出したい。

 人生なんかろくでもない。

 人生に良い意味なんかあったけ?

 屋上。

 今日もここで、昼休みを無為に潰す。

 やることがないわけではないけど、特にやりたいことはないのだ。やりたいことがなく、やりたくないことしかなければ、やることがないのと同じだ。

 ぼーっとする。

 頭を空っぽにし、景色を俯瞰する。

 あの青い空に溶けて無くなりたい。

 あの翠の木々に紛れて無くなりたい。

 あの黒髪の少女のように世界から潜み無くなりたい。


 ……。


 今、変なの見えた。

 長い黒髪の少女だ。思わず風景の一部として見過ごすところだった。

 体育館裏。そこに、体育座りで顔を伏せている少女が居る。顔は見えない、伏せてるから。だけれど、どこかで見たことがあるような気がしなくもない。どこだったか? 分からない。分からないけど、多分、綺麗な子だ。あんな美しい黒髪を持っているのだ、きっと可愛い子に違いない。だからどうということもないのだけども。

「嫌なことでもあったの?」

 問いかける。ここから問いかけても届くものは何一つ無いのだが。

 だけれど、一瞬少女が何か気付いたように顔を上げかけたのは、気のせいかどうなのか。

 直感と客観が意見を出し合い、総合的な判断が脳内で下される。

 もしかしたら、あの少女は俺と似たような境遇なのかも知れない。

 だけれど直感が客観を蹴散らし、偏見的な判断が脳内で下される。

 例え同じような境遇だとしても、所詮境遇が同じだけで、あの少女と俺の本質は全く異なるものだと。

 少女のことが気にならないと言えば嘘になる。

 だけれど、なんかなぜだろう、気になってなんかいない、と妙な見栄を張りたがる自分が居ることに、奇妙な感慨を抱く。

 あの少女なら、俺を認めてくれるかな? 拒絶するかな?

 ……どっちでもいいか。

 だって他人だもの。


 ブブブブブブ、


 腰を抜かす。

 どっぷり思想に耽っていたため、完全に意表を突かれた。

 振動の発信源は携帯だ。メールが届いたことを知らせるバイブレーションというやつである。

 兄が俺の身の安全を考慮し、親に懇願して持たせてもらったものなのだけども、俺には友達が一人もいないため、ただの家族間通話機と成り果てている代物である。持ち腐れの宝だ。

 おそるおそる携帯を空ける。この携帯にメールを送る人間はおよそ二人。

 一人は兄。毎日のようにメールしてくる。ちょっとうざい。

 そしてもう一人。

 最悪の異能力者にして、最悪の医能力者。

 その名を見た瞬間、半ば条件反射のような酩酊感に襲われる。

 天才医幼女、


 異無 美唯(ことなし みい)


 それは、俺の人体実験の権限を握る頭のイカれた化物女の名である。


 メールの内容はこうだった。


『今日は換装実験。痛覚は忘れずに持ってきて下さい。沢山使うので』


◆◇◆◇



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